第569話・切歯扼腕? 禍福は糾える縄の如し(あっちもこっちも忙しい)
――喫茶・九曜
という事で、丸山公園表参道から歩いて20分。
ちょちょいと裏道に入った場所にある喫茶・九曜へとやって来まして。
「たのもーう」
「おや、誰かと思ったら乙葉くんじゃない。久しぶりだねぇ」
「相変わらず、とんでもなく神威を駄々洩れさせておるな。もう少し、体内循環なりどこかに留めるなりの修業をせんといかんな」
「まったく。祐太郎はしっかりと、週に二度、ここに通って修業をしているというのに……」
ああっ、蔵王さんの優しい言葉の後に羅睺さんと戦捺羅 師匠の冷たい突っ込みが入りましたよ。
いや、それはわかっているのですよ、そもそも俺がこっちの世界の時間軸に戻って来てから、まだそんなに経っていませんからね。
「ああっ、ちゃんと時間を作ってまた修業を再開しますから、今日の所は許してください。それと、今日はちょっと聞きたい事があったのですけれど」
「聞きたいこと? ふむ……乙葉が聞きたい事というのは、また珍しいな。どれ、何が聞きたいのか話してみるとよいぞ」
「それは助かります。実はですね……」
ということで、『遺跡発掘型魔導具【支配のメダリオン】』と宝楼嶺魔っていう魔族について聞いてみる事にしたんだけれど。戦捺羅 師匠は腕を組んだまま考え込んでしまった。
「いや、そういう専門知識を必要とするものは、俺じゃなく羅睺か計都姫に任せるに限るんだが」
「その計都姫は、綾女さんと一緒に本州に旅行中ですからね。となると、ここは羅睺さんが適任じゃないかしら?」
蔵王さんがそう告げているんだけれど、その羅睺さんは腕を組んで脂汗を流している真っ最中。
「支配のメダリオンについては知らんとしか言いようがない。が、宝楼嶺魔については……心当たりはある」
「それって、どういう魔族なんですか?」
「そうじゃな……乙葉は、魔族の階級については知っているじゃろ?」
魔族の階級は、貴族階級とランク分けで成立しているはずだよなぁ。
つまり無爵・騎士爵・男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵・王爵の貴族階級と、下級・中級・上級・魔皇の四つのランクの組み合わせ……だったかな。
「……っていう感じですよね」
「うむ。それで正解じゃな。では、それとは異なる魔族の階級については?」
「それとは異なる……魔神とか?」
「いや、何と説明したらよいか……うーむ。我ら魔族の始祖についての話となるのじゃが」
「ああ、それって封印大陸に住んでいる神人と一緒に住んでいた原初の魔族の事ですか?」
そう問い返すと、羅睺さんが目を丸くしているんだが。
「何じゃ、乙葉も随分と詳しくなったものじゃな。その原初の魔族が、最上位魔族に分類される。我々は魔神ダークさまについて神々と戦った魔族の子孫に当たるのじゃが、神魔戦争当時、神人側についた魔族がいてな。それが原初の魔族と呼ばれており、現在の七大罪の名を持つ魔族と対極に存在する。とはいえ、その殆どは直接会う事など不可能じゃが……数名の七徳の魔族については、心当たりがある」
「え、それってまさか」
さすがは羅睺さん。
知識の宝庫と言われているだけのことはある。
「うむ。確か以前、百道烈士を封じるためにいくつかの魔導具を探していたことがあったじゃろう? その時、大雪山系の金庫岩というところで、とある魔族から魔導具を譲り受けた事があった筈」
「ああ……やっぱりかぁ。あのカエル侍が、七徳の魔族の一人、宝楼嶺魔っていう事か」
そう告げると、羅睺さんも静かに頷いている。
となると、後は宝楼嶺魔に会いに行って、支配のメダリオンについて知っているかどうか確認するだけ。
知っていれば、その出所とかも聞く事が出来るし、知らなかった場合はまた振り出しに戻るっていう事になるけれど、その頃には多分、大隅純也の件も一段落はしていると思う。
それなら後は、直接聞き出すだけ。
まあ、現行の法律で考えてみると、無罪放免っていう事にはならないだろうさ。
「よっし、それじゃあこれから向かう事にしますか」
「はぁ。こんな時間から大雪山まで飛んで行くとは、おぬしも暇人じゃなぁ」
「まあ、時間はいくらでもある浪人生だからね。後さ、その宝楼嶺魔っていうやつ、パールヴァディさんの眷属らしいんだけれど、そういう事ってあるの?」
「ん、宝楼嶺魔がパールヴァディを認め、眷属としての儀式を行ったのなら普通にありえる話だな。ほら、新山小春も確か、眷属を一人持っているじゃろう?」
「……あ~、話には聞いていたような。そかそか、そういう事なのですね、了解です」
羅睺さん曰く、力ある者の眷属になれば、お互いに利があるという事らしい。
とはいえ、今の俺に付き従いたいっていうような魔族はいないだろうから、当面はソロプレイで大丈夫。という事で、コーヒー代を払って九曜の外に出ると、まずは魔法の箒を取り出していざ、大雪山へ。
〇 〇 〇 〇 〇
――同時刻・妖魔特区内札幌テレビ城下
「……はぁ、これはまた、難易度が高いですわね」
瀬川雅は札幌テレビ城下の広場の一角で、深淵の書庫を展開して調査を行っている最中。
現在の調査対象は『悪しき存在をこの世界で再生しようとする者』と『何も知らずに力を得ようとする者』の二つ。
このキーワードに該当するものがないか、もしくはそれに近しい単語を羅列して検索を行っているものの、該当するのは数あれど、目的の者とは余りにもかけ離れているものばかり。
「ふぅむ。さすがの深淵の書庫でも、ここまで調査対象があやふやじゃと調べようもないということか」
「ええ、白桃姫さんのおっしゃる通りです。『悪しき存在をこの世界で再生しようとするもの』については、あの災禍の赤月事件関係の情報が次々と出て来るのですけれど、それは全て終わった事で今回の件で該当するものはありません。また、『何も知らずに力を得ようとするもの』についても同様でして。一つだけ、これかなというものはあったのですけれど」
「ほほう、それはなんじゃ?」
そう白桃姫が問いかけたので、雅は深淵の書庫のモニターの一つをクルリと外に回し、該当データを白桃姫に見せた。
「はぁ、ここに記されている大隅純也とやら、どうやら普通の人間ではないようじゃな」
「ここに記されている事が真実であるのでしたら。彼の父親は養父であり、6歳の時に引き取られて育てられたという事です……彼の本当の父ですが、伯狼雹鬼の可能性があります。体内をめぐる魔力波長の一部が、伯狼雹鬼と一致していましたから。ゆえに、大隅純也は、伯狼雹鬼と私たちの世界の女性との間に生まれた『半魔人血種』という可能性が出て来ました。故に、最悪のケースも考える必要があります」
雅のいう最悪のケース。
それは、あの災禍の赤月事件にて消滅した伯狼雹鬼の精神体が僅かの確率でこの世界に残り、彼の肉体もしくは魂に定着してしまうという事。
遺跡発掘型魔導具【支配のメダリオン】の出どころについては、リアルタイムで浩介が調査中であるが、あの魔導具が並の人間では使えないということは雅も理解している。
ただ、その条件が『優秀な魔術師の血』と思っていた所で、『半魔人血種』という条件も加えられたのである。
「もしも最悪のケースを考えるとするのでしたら。伯狼雹鬼は、魔神ダークの眷属である『プラグマティス』と接触、更に『創世のオーブ』を手に入れて世界を作り替える……という所でしょうか」
「そんな所じゃな。まあ、その大隅純也とやらの取り調べの結果次第という所じゃな。素八の魔術強度は?」
「250マギカスパルだそうです。普通に考えても、魔術が一般に広まるようになってまだ二年もたっていません。その間、ただひたすらに自己修練していた程度で、ここまで高まるとは思えないのです」
雅の疑問には、白桃姫もうなずく。ゆえに、大隅純也という人物との正体が何者であるのか、そこを詳しく調べる必要が出て来たのである。
いずれにしても、まだ調査は始まったばかり。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




