第558話・奇々怪々、爾に出ずるものは爾に反る(伝承の箱舟と、思念の創造球)
ラナパーナ王家に伝わる、勇者の残した遺産。
それは、地下に眠っていた勇者の理武具だけではない事が、フリューゲルの口から伝えられた。
そしてそれを見るために、俺と新山さんは王城の謁見の間にやって来た。
「ようこそ、勇者・乙葉と勇者・新山……って、こういうの、私の柄じゃないのですけれどね。お久しぶりね、元気にしていましたか?」
玉座に座ったまま、ラナパーナ王国女王のマリナ・カムラ・ラナパーナが俺達を歓迎してくれる。
その玉座の近くには初老の男性と、鎧を身に纏った騎士も待機し、俺たちをじっと見つめている。
「はい、ご無沙汰しています。実は、フリューゲルさんから、勇者の残した遺産を見せて頂けるという話になりまして。それで許可を得るべく、ラナパーナ女王に謁見を求めたのですが」
「それはなりませぬ。あれはこのラナパーナに残されし遺産、そのように大切なものを、異世界から来たものに見せるなど言語道断ですぞ」
「ふぅ……確かに、ドルフ宰相の言葉もごもっとも。ですが、彼らは今代の勇者、それを知るというのは当然のことなのでは?」
「そ、そうですが……」
何やら、目の前で揉めているようです。
とはいえ、俺達はよそ様、話し合いがつくまでは黙っていた方がいいでしょう。
「ラナパーナ女王。是非とも、箱舟の眠る地への立ち入り許可をお願いします」
「うむ。ではフリューゲル、そなたの権限で、勇者二名を聖域へと案内するがよい。ドルフ宰相、それで構いませんね?」
「は……はぁ。陛下が許可するのであれば、我らは反対する事はありませぬが」
「ではフリューゲルよ、彼らを聖域へと案内して差し上げなさい。私はこの後、執務がある故、手伝うことは出来ませんので」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ……」
そう告げるフリューゲルの後ろについて、俺と新山さんは謁見室を後にする。
それからずっと、沈黙が保たれたまま俺たちは地下へと続く回廊を進み、巨大な螺旋階段をゅっくりと降りていった。
その回廊は外よりも一層涼しく、むしろ寒いといっても過言ではない。
そして真っ暗な階段を下り進むたびに、ボウッと壁に掲げられているたいまつが自動的に灯されていく。
そうして30分程降りた先、そこは巨大な空間が広がっている。
「……ここが、ラナパーナ王国王家に伝えられる聖域の一つ。聖なる泉と対を成す、勇者が残した遺跡が眠る霊廟。そして、これが勇者達が乗っていたと伝えられている、箱舟と呼ばれているもの」
そう告げながら、フリューゲルが両手を天井に向けて掲げる。
すると彼女の魔力に呼応したかのように、空間全体の壁がボウッと緑色に輝いた。
そして俺たちの目の前には、巨大な宇宙船のようなものが安置されている。
「……いや、ちょっと待って、これが勇者の残した遺産っていうことですか? いやいや、それはないっしょ? どうみても宇宙船ですよ、これって。ほら、俺の天啓眼を使って鑑定してみてもさ」
『ピッ……解析不能』
「ほらね、解析不能って……うっそだろ?」
いやいや、ちょっと待って。
これは事細かく調べさせて欲しい所だよ、俺達の人類史にも大きく関わって来る案件だよ?
そう思って宇宙船に近寄ってみる。
すでに新山さんが、両手の指を使って箱のようなものを作り出し、そこから覗き込んでいる。
「……う~ん。全長は大体、50mっていうところですか。先端が細く後方に向かって大きく広がっている形で……あれ、ほら、あの宇宙船、アニメで見た事ありますよね、あれを小さくした感じでしょうか」
「エクセリオン……っていう所だよなぁ」
アニメ・ガンバスターに登場するエクセリオン級宇宙戦艦、あれをスケールダウンした感じだよね。
そして左右には搭乗用ハッチもついているけれど、艦橋部分は見当たらない。
つまり、こいつは密閉型で、内部に艦橋部分が搭載されているっていう事だろう。
「さて。これで分かったことは一つ。初代勇者は、俺たちの住んでいる地球から来たわけではない。そもそも、こんなスケールの宇宙船なんて、どの国で開発出来るっていう感じだよ」
「んんん? これは勇者達が使っていたものだけれど、勇者が乗って来たものではない」
「……それって、どういうこと?」
そう問いかけてみると、フリューゲルは淡々と説明を始めてくれた。
初代勇者は、俺たちの住んでいる地球、つまり裏地球から来た事に間違いはない。
だが、これはその時に勇者の一人が召喚したものであるらしく、勇者たちも当初はどう使うのか分からなかったらしい。
「……それって、カナン魔導商会で購入したみたいだよね……初代勇者も、乙葉くんと同じ能力を持っていたっていう事なのかな?」
「可能性はある。しっかし、壊れているっていう話だったけれど、何処にも傷なんてないよなぁ。フリューゲルさん、これは本当に損傷しているの?」
「口伝では、そう伝えられている。私たちが解析しようとしても、どうしてもできなかった。それに勇者のように乗り込むことも出来ず、ピクリとも動いていない。何より、これからは精霊の力を感じない」
「ゆえに、壊れている……か」
可能性としては、エネルギー切れ。
そして科学兵器であるがゆえに、精霊は干渉出来ないっていう所だろう。
うん、カナン魔導商会で同じようなものがないかちょいと調べる必要があるよなぁ。
「新山さん、ちょいとメニューで確認してみるわ。もしも俺の予想が当たっていたら……こいつは、あの『機動戦艦シリーズ』の一つ、もしくは搭載艦船の可能性がある」
「うん、それじゃあ私は、もう少し色々と調べてみるわね。フリューゲルさん、私達はもう少し調べさせていただきたいのですけれど、お時間は大丈夫でしょうか?」
「それは別に構わない。私としても、伝説の勇者の遺産について色々と知る事が出来るなら嬉しい」
ということで、俺ちゃんは空間収納から折り畳み椅子を取り出し、フリューゲルに手渡す。ついでにテーブルとウォルトコのスイーツも取り出してあげたけれど、そもそも彼女にとってはこれらはただの嗜好品でしかないんだよなぁ。
まあ、嬉しそうに食べているので、よしとしておこう。
「それじゃあ……カナン魔導商会、オープン……っと」
目の前にメニュー画面を展開し、以前『機動戦艦シリーズ』が販売されていたページを確認してみる。
だが、今の俺ではアクセス禁止項目に該当するらしく、メニュー画面から先に進むことは出来るけれど、機動戦艦シリーズの掲載されていたページに進むことが出来ない。
「う~む。こいつは参ったなぁ。これじゃあ、取り扱いされているのかすら不明っていう事じゃないか。他に何か調べられる方法は……」
「乙葉くん!! ここ、ハッチが開いたんだけれど!!」
「なんだって?」
思わず立ち上がり、新山さんの声がする方向に走っていく。
ちょうど船体部分の左舷、ちょうど中心あたりに位置する場所にあったハッチが開いているじゃないか。こいつは予想外なんだけれど。
「ハッチらしい部分に触れて見たら、いきなりギュンッつて体内から魔力が引き抜かれたようになって。そうしたら、ゆっくりとハッチが左右に開いたのだけれど」
「ほほう、魔力反応型か。もう少し後で確認しようとは思っていたんだけれど、逆に都合がいいか。カナン魔導商会では確認出来なかったからさ」
そう告げて、新山さんと入れ替わりでハッチに近寄っていく。
そこから内部をのぞき込んでみると、すぐ目の前、距離にして3メートルほどの位置にまたハッチが備え付けられている。
「エア・ロックのような感じか。宇宙船っていうのも、なんとなく理解出来てきたよなぁ」
『乙葉、こいつは宇宙船ではない……思念の創造球と同じ波長を感じる』
「え、マジで?」
ヘルメスさんが俺に語り掛けてくれた。
それならばさ、思念の創造球を使ったら反応するんじゃないかと考え、両腕に装着されている思念の創造球を起動させる。
すると。
――ヒュンヒュンヒュンヒュン
宇宙船の内部に金属音が響き渡る。
これはあれだ、エンジン音だ。
何でそんな事が判るのかって、思念の創造球を通じて聞こえてきたんだよ。
『魔導機関・アイドリングに入ります』
ってね。
その声って誰なんだよ、ちょいと俺にも説明してくれよぉぉぉ。
そんな俺の心の叫びを無視するかのように、目の前のエア・ロックの電源らしきものが入り、青いランプが点灯した。
「……ねぇ、これって大丈夫なのかなぁ?」
「さすがに、分からないんだよなぁ……でも、このハッチの大きさから推測するに、この宇宙船らしきものを作り出したのは人間サイズの知性体っていう事は理解出来た。そして、この腕輪と連動して稼働する事も確認出来た。つまり」
「つまり?」
「俺なら、動かせるんじゃね?」
そうニイッと笑って呟くと、新山さんが呆れたような顔で頭を抱えていた。
うん、そういう反応になることも予想していたさ、今はツッコミ担当の祐太郎がいないからね。
冗談はこれぐらいにして、そろそろ本気で確認作業を始めるとしますか。




