第550話・一筆啓上余り茶に福ありですぜ(また、そんな無茶なことを)
地球に戻って来て一週間。
この間、魔術研究部のメンバーと卒業生チームは、妖魔特区の札幌テレビ城に集まっては俺がいなかった約半年間に起きた出来事の擦り合わせを行っていた。
時間経過と巻き戻しについては、俺が最終的にこっちの世界から消えたのが2月17日という事に書き換えられている他、災禍の暁によって発生した異世界転移現象は一部残っているものの、元陰陽府の責任者及び新山さんと先輩の手によりそれ以上の崩壊は起こらなかったという事になっているらしい。
「それってつまり、昨年末の転移現象開始時点まで遡って無かったことになっているってことか。でも、俺が消滅したのが2月17日ということは、それ以前と以降の間の出来事ってどういう感じになっているんだ?」
そう問いかけてみると、瀬川先輩が深淵の書庫を展開してモニターアップしてくれた。
「これが、乙葉君によるボルチモア連邦捜査局襲撃事件の記事です。ニセ乙葉事件は実在し、乙葉君アメリカ大統領のジョージ・パワード氏とヘキサクラムの責任者であるアナスタシア・モーガンさんと会談を行っています。その際に災禍の暁についての情報開示及びアメリカ合衆国の要人三名を鏡刻界へと視察という名目で連れていくことに同意していますわ」
「ああ、そこはまだ、消されていない時間帯なのか」
つまり、この時の約束は生きているため、俺はジョージ・パワード大統領および補佐官を連れて行かないとならないと……うん、スマホのメモ機能で書いておこう。
「あと、ボルチモアで確保した【幼女化したクローン体】の件についてはノーブル・ワンからヘキサグラム本部に移管されたのよ。それについてはニューヨーク支部のマクレーン主任が主導として動いてくれたらしく、【人道的見地に則って、慎重に取り扱う】ということで話がついたらしいのよ」
「んんん、新山さん、それっていつの話なの?」
「ボルチモア事件から一週間ほど経過してから……だったかな? 乙葉君がいなくなってからの話しだから」
「ああ、そのタイミングか。つまり俺の知らない真実っていうところかな?」
「そういうことになるのかな?」
まあ、時系列的にも俺のところにそういう情報が届いていなかっただけっていう可能性も十分にありえるのか。
「そのあとは……世界各地に存在していた水晶柱が精霊樹に変化したが、それ以上は何も起こっていない……確か、この辺りで鏡刻界と俺たちの世界が入れ替わり始めた……ほら、えぇっと、2月15日、俺たちの学校の前の住宅街が消失した事件はオトヤンも知っているだろう? あれは発生していたんだよ」
「ふむふむ。確かそのあとで、新山さん達は……えぇっと、誰かに呼ばれて出かけたんだよね?」
あれ、このあたりの……記憶……がモヤッとしている。
「御神楽さまですよ。私たちが御神楽さまの元を訪れ、そして三人で儀式を執り行ったことにより、災禍の暁が消失したのです……」
「っていうことに、世界が書き換えられているんだ」
「……あれ、その後の俺って?」
「正しい時間軸ならば、妾の元でジェラールを再生したのち積層型転移術式とやら? を完成させたのち、神域回廊を通ってて破壊神の残滓とけりをつけに行っておる。このタイミングで、おぬしはこの地球上の時間軸から消失している……事になっておる」
ふむ。
その御神楽っていう人の記憶が、ものすごくあやふやであいまいなことになっているのは何か事情があるのだろう。こういった事が、以前もあったような気がするし。
「それで、俺がけりをつけに行ったということは、ここのメンバーは理解しているんだよね?」
「当然じゃな」
「俺たちが、オトヤンの事を忘れるはずがない」
「必ず帰って来るって信じていましたから」
「まあ、現代の魔術師ですからね」
「乙葉先輩、りなちゃんはお土産が欲しいです」
「うちのお父さんも、しっかりと理解していましたから大丈夫ですよ」
「よし、グッジョブ」
とはいえ。
忍冬師範や要先生とかは、この事を知らないらしい。
新山さんたちが儀式により災禍の暁を消失させたという事は理解しているが、その後で『そういえば、浩介はどこで何をしているんだ?』という感じになっているらしい。
だから、鏡刻界で更なる修行という事になっていて、今現在に至ると。
そして俺のいなかった時間軸については、卒業前に異世界に修行に向かったという事で休学扱い。
年度が替わった時点で、俺以外は皆卒業していること、単位や出席日数などの問題もあったものの、そこは退魔機関経由で休学からの本人不在の卒業として処理されたらしい。
「はぁ、なるほどねぇ。それじゃあ、今の説明を正しい歴史として認識し、そう動けばいいのか」
「まあ、いなかったことは事実じゃからなぁ。だから、こっちで経過した時間については『知らない』の一点で問題はない」
「ま、それでいいなら……いいか」
うん、あまり考えていても何も始まらん。
という事で、この件についてはこれで全て完了。
これからの話をしようじゃないか。
「というところで、りなちゃんと紗那ちゃんは門限があるので帰ります!!」
「ああ、俺もそろそろだな……オトヤン、乗っていくか……って」
「乙葉君でしたら、私が魔法の絨毯で送っていきますよ」
「そうね、新山さんにお任せするわ。乙葉君に任せたら……って、何をしているの?」
――ゴゴゴゴゴ
そろそろ帰る話になって来たので、召喚魔法陣でクリムゾン・ルージュを召喚。
しかも高速起動タイプに可変させている真っ最中だけれど?
「……あ、これじゃあまずいか? 祐太郎のうちの庭に、こいつをおけない?」
「多分だが……飛行用魔導具の免許で飛ばせるとは思えないから、やめておけ」
「ですよねぇ……じゃあ、新山さん、乗せてってくれるか?」
「うん、大丈夫だよ」
よっし、それじゃあこれで本日は解散。
何か状況が変化したら連絡を取ってまた集まるということで、話し合いは終わった。
そのあとは……まあ、新山さんと短時間だけと空のデート。
明日は一日暇なので、昼にでもデートにいこうかっていう話になりました。
〇 〇 〇 〇 〇
――翌日・朝9時
「……それで、なんでうちに、忍冬師範が来ているのかなぁ」
親父と母さんは仕事……っていうか、親父はヘキサグラム・札幌支部に出勤、母さんは陰陽府所属魔術師として、ヘキサグラムで打ち合わせ。
そしてノンビリと朝食を取っている最中にやって来たのが、忍冬師範と川端政務次官、そして北海道議会の上瀬戸議員。
まあ、来客なので応接間に案内し、お茶を入れて話を聞くことにしたのだけれど。
「まずは、日本政府防衛省から。先日、乙葉君が起動していた巨大兵器についてだが、違法性が高いため防衛省で接収することになる。これは構わないね?」
「お断りしますが? そもそも兵器じゃないですからね。あと、俺以外では使えない魔導具ですから、接収する意味はありません。装甲素材その他についても錬金術により一体成型にしてありますから解体も不可能。そんなものを、どうするおつもりで?」
そう丁寧に説明すると、川端政務次官がグヌヌという表情を見せる。
だってさ、扱えない、解体できない解析不可能。
そんなものを持って行って、何をするっていうの?
「そのようなことは、検査してからでないと結論は出せないだろうが」
「まあ、そういうことなら一か月ほど貸し出しますから、好きにしてください。あと、俺が使う場合は召喚しますので、それは構いませんよね?」
「それは構わん。まあ、召喚した結果が部品の山だったとしても、それは構わないね?」
「ええ、ばらせるものならね……」
――バチバチバチバチ
おおう、火花散る視線というのはこういうことをいうのか。
まあ、あとで妖魔特区の大通12丁目外正門ゲートにでも取りに来てもらいますか。
「それで、忍冬師範はどのようなご用件で?」
「鏡刻界で修行して来たと話していたが。なにか新しい能力に目覚めたとか、そういった情報があるのかと思ってな」
「ああ、逆ですね。俺、魔力を全て失いましたから」
「「「……はぁ?」」」
ま、そういう反応だろうねぇ。
「待て、浩介、魔力を全て失ったというが、それは本当なのか?」
「ええ、俺、今は賢者でもなんでもありません、只の民間人ですよ」
「では、あの起動兵器はどうやって扱ったというのかね?」
川端政務次官としては、そこは気になるだろうね。
だから腕輪をちらっとだけ見せた。
「これが、俺の魔術装備ですね。これを装着することで、多少ですが魔術を使えます。でも、以前のように空間収納スキルも、翻訳スキルも何も使えません。ちょっとだけ魔術が使える程度で、ここから回復するにはかなり時間がかかるんじゃないですか?」
「そうか。それはまた、とんでもないことになっているな。不便じゃないか?」
まあ、そりゃあ不便だよねぇ。
それまで使えた能力が、ほとんど使えていないんだからさ。
「まあ、不便かどうかといわれると、不便。でも、これが普通だろうなぁと考えればそれまで。この腕輪があれば、少しずつ力を取り戻せると思いますので」
「では、その腕輪も解析に回すから寄越したまえ」
「 お 断 り し ま す。そもそも、こいつは俺と一体化していますので、外れませんから。それとも、腕を切断して持っていきます?」
ほら、またグヌヌって顔になっている。
「まあ、そういうことなら仕方がない。外務省経由で、アメリカ政府から『鏡刻界へ向かうのはいつ頃になるか』っていう問い合わせもあったのだが」
「俺の能力が回復するまでは無理っすね」
「そうだよなぁ」
これで忍冬師範の話も終わり。
そして北海道議会の上瀬戸議員の番になったのだが、顔色がちょいとよろしくない。
「お、乙葉くん……魔術が使えないというのは本当かね?」
「まあ、以前ほどは自在に操れませんし、今は二つの術式しか無理ですが」
「そうか……これは参ったなぁ」
詳しい話を聞いてみると、札幌市を走る三つの地下鉄の復旧工事を頼みたいという事らしい。
以前、祐太郎と大通公園地下鉄駅の調査を行ったことがあったけど、今回はその延長。
分断されている地下鉄を結界によって包み込み接続、札幌市の東西南北へ伸びる交通網を復旧させたかったらしい。
さらに、JR札幌駅自体を魔術により修復、これも結界に包みこみ商業施設として再開させたかったらしい。それらの計画書を受け取って確認してみたけれど、予想よりもしっかりとした内容に驚かされた。
「へぇ、これはまた、随分と事細かに書かれていますねぇ。俺の魔力が消失する前だったら、この計画は不可能じゃなかったですよ、ちょいと特戦自衛隊にも仕事を依頼したい所でしたけれど」
「それじゃあ……といきたいが、能力を失っている今の乙葉君では不可能、ということだね?」
「申し訳ありませんが、そういうことです」
「わかった。この件については保留としておく、いろいろと時間を取らせてしまってすまなかったね」
さすがは北海道議会の優しさ担当。
人の扱い方についてはピカイチである。
これで話し合いは全て終わり、俺は忍冬師範と共に大通公園へ。
そこでクリムゾン・ルージュを引き渡して任務は完了。
今の俺じゃあまともに使うのは難しいし、預けたという実績を作っておきたいからさ。
さて、この後は札幌テレビ城で修行でも始めますかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・乙葉浩介によって消失した時間軸は、【第五百三十二話~第五百四十話】にあたる、世界崩壊の時間軸です。ここが全て、『何もなかった、災禍の暁も儀式に縒り消滅した』ということに書き換えられていると思ってください。




