第五百三十七話・虚心坦懐 、疾風に勁草を知る(地球と破壊神、滅ぶのは誰か)
地球が大規模転移に晒され、各地が転移現象により消失している現在。
聖徳王の天球儀の力を持ってしても、転移した土地を再び入れ替えるのは不可能。
ゆえに、今の地球が元に戻ることは不可能であり、消失した北海道が再び鏡刻界の海底より地表に転移することなど不可能。
ゆえに、現在取ることができる最善策は、『龍脈の活性化に伴う、精霊樹を用いた転移現象の阻止』と『災禍の暁にて回収される、破壊神の肉体の一部の消滅』。
この前者が新山小春、築地祐太郎、瀬川雅らの協力のもと、神楽によって行われている真っ最中。
そして後者は現在、乙葉浩介による封印の強化および『魔神ダークの中に眠る、破壊神の肉体の一部』の消滅作戦が行われていた。
――富士山麓・龍脈洞
深淵の書庫にて破壊神の残滓を捉えていた雅は、ここで世界各地の損耗状況をチェック。
人魔モードで魔皇紋を可能な限り発動すると、急ぎ転移現象を阻止すべく各地の精霊樹とのアクセスを開始する。
「小春さんは、神楽さまに神威を注ぎ続けてください。築地君は龍脈から現れる使徒及び魔族の迎撃を。私は世界各地の情報収集と、協力者への指揮を開始します」
雅の持つ貴腐神ムーンライトの加護は、神威を外部へと差し出すことは出来ない。
それならば、魔人モードとなり、バックアップに努めた方がいいと判断した。
「了解。それじゃあ、こっちは俺に任せて貰うとするか。ブライガァァァァァァァァァ」
築地もまた一瞬で勇者装備を身に纏うと、そのまま全身に暗黒闘気を纏い物質化する。
その姿はまるで悪のラスボス状態。
浩介がいたのなら、目をキラキラと輝かせていたに違いはない。
「勇者装備が三つに分散されている。そしてミーディアの楯は新山さんと神楽さまを守るために稼働、剣は杖となりオトヤンの力となる。それならは、勇者装備の、この鎧の意味は……」
守りでもなく、攻めでもない。
鎧の持つ意味は、『生きる事』、すなわち『生命』。
闘気使いである祐太郎にとって、実に都合のいい武具である。
――シュンッ
一瞬で豪爆棍を空間よりら引き抜くと、そこに漆黒の炎を纏わせる。
「それじゃあ、ここは引き受けさせてもらう……」
素早く出現する敵の中に躍り込むと、次々と使徒や魔人たちを消滅させていく。
そして破壊神の残滓とカグラの魔術による攻防が拮抗状態よりわずかずつ、カグラ側へと傾き始める。
その様子を深淵の書庫ないの別モニターで確認しつつも、雅は『認めたくない光景』を前に、表情が表に出ないように努める。
(世界各地の転移現象……収まりつつあるものの、やはり各国の大都市圏が消滅しているのは痛いわ)
地球上に存在する国、その全てにおいて一か所から、最大70か所以上の転移現象が確認されている。
小さいものなら公園規模、最大は北海道と同等の面積を持つ都市部や山岳地域が、転移現象により消滅している。
もしも衛星軌道上から今の地球を撮影したとしたら、大陸のあちこちに小さな点が無数に広がっているだろう。そこは湖であり、海であり、森林であり、そして異国の都市である。
先日まで道路を挟んだ向こうにショッピング―ルがあった場所が、突然二階建ての建物が乱立し、獣人が歩き回る街並みに変化していたとしたら。
双方の住民は混乱をきたすことである。
地球側はこのま緊急事態に対処すべく、刻々で転移現象により出現した異世界の住民や建物には危害を加えないようにと伝えていても、相手側はそのような情報は知らない。
当然ながら暴力的に接してくるものもあり、それを制圧するために警察や軍隊までもが派遣されている国も少なくはない。
(龍脈内部の力のバランスは……うん、破壊神側もそろそろ限界が近いのかも……)
精霊樹の活性が弱まったことに続き、ジェラールの齎した大規模転移術式がヘキサグラム本部にも伝わっている。それを機械化兵士が術式展開し、精霊樹の活性を止めているというのも勝因の一つであろう。
また、ヘキサグラムは世界各地に存在する退魔機関にもこの件を通達。
わずかでも魔術素養を持つもの、協力的な魔族たちが術式をどうにか制御し、一つでも多くの精霊樹の活性を止めている。
だが、それは全地球規模ではわずか1パーセントにも満たない。
それでもやらないよりはましと、一つでも多くの精霊樹の活性化を阻止すべく、地球規模での協力体制が整いつつあった……。
〇 〇 〇 〇 〇
――封印大陸・中央大神殿
十柱の神による、魔神ダークの封印の中心。
それが、大陸中心に位置する巨大な山脈の中腹に作られた、大神殿。
その最奥に位置する『封印の間』へ向かう通路には、幾重もの結界により封じられた扉が存在する。
扉の数は全部で10、それぞれが十柱の神の加護により維持されていたのであるが、そのうちの第六層扉までが崩壊している……。
「ということで、残る扉の数は四枚、その四柱の神の加護が消滅すれば、この扉は全て消滅するんだよね?」
急ぎ魔法の絨毯を展開し、待てる限りの魔力を注いでぶっ飛んで来た。
一人じゃわからないこともあるので、トゥルーソン伯爵にも同行を要請、そしてつい先ほどようやくここまでやって来た。
そして説明を聞いた限りでは、この扉の数が結界強度の指標であるという説明もラ介したし、今、目の前の扉にも亀裂が入り崩壊を始めているのも理解している。
「さよう……この扉もまもなく消滅する。扉を守護する神の力は、同時にこの世界の神の力でもある。それすら、災禍の赤月は中和し、神の力を削り取っているというのか……」
驚愕し、その場に膝から崩れていくトゥルーソン伯爵。
だけど、このあたりまでは俺の方でも予想済み。
災禍の赤月が魔力を奪っていくという理屈なら、結界の力を弱めるというのなら、その力であるべき神の力が削られていても、なんら不思議でもないということ。
そしてそんなことを考えているうちに、目の前の扉が轟音と共に吹っ飛んで来た。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
うん、扉が爆裂して、俺たちに向かって吹っ飛んで来たんだよ。
「ちっ……力の楯っ」
高速詠唱で術式展開。
人の耳には届かない超高音域での、僅か一ミリ秒での発動。
これでトゥルーソン伯爵と俺に向かって飛んでくる瓦礫を全て受け止める。
「あああああ、また扉が力を失い、崩れていったのか……」
「いや、違うよ。ちょっとここでじっとしていてね」
急ぎ力の楯を固定して前に飛び出す。
それと同時に根俺に向かって無数の触手が飛来してくるので、セフィロトの杖に魔力を込めて巨大な死神の鎌を形成すると、ことごとく切断していく。
「ん、やっぱり。神の加護が消えて扉が込み割れたんじゃない。てめぇ、内側から破壊してきやがったな……そうだろう? 破壊神よ」
濛々と漂っていた瓦礫の灰燼。
そう、破壊された扉が細かい灰となり、降り積もっていく。
その魯甲から姿を現わしたのは、黒いローブを着た一人の老人。
そのローブの下から無数の触手が伸びているところを考えると、こいつが先ほどの攻撃を仕掛けてきた存在であり、そして災禍の赤月を発生させた張本人。
『……うん、随分と懐かしい力を感じるな。破壊神から創造神へと成り果てた、あの女神の加護を持つものか……うん、死ね』
そう呟くや否や、俺に向かって右手を向けたかと思うと、指先から一条のレーザーを発射して来た。
「魔鏡っ」
――キン
だが、その攻撃を聖徳王の秘儀の一つで反射すると、老人はニイッと笑いだした。
『やはりはじくか。面白い、貴様は最高に面白いぞ……と、普通の雑魚ならば、貴様の力をもらい受けるなどという奇行に走るであろうが……あの糞女神の加護・力などいらぬ、むしろその力を得てしまった自身を呪って、死ね』
糞女神……ねぇ。
「その糞女神に負けた挙句、肉体も精神も散り散りにされて多次元世界に放逐された挙句、それを集めて再生しようとしている再生怪人程度に、くそめ……女神の力を持つ俺を倒せるはずはない。所詮貴様は、劇場版の雑魚いチンピラ程度だ、そもそも完全再生していない、肉体の一つが残滓を宿しているような老人相手に、こっちが負ける要素なんてない……」
まずは煽るスタイル。
それと同時に並列思考で天啓眼を発動しつつ、相手の出方に対してのカウンター術式を開き始める。
聖徳王の天球儀、ここに隠されていた『対神戦闘』の極意を一つ一つ紐解きつつ、相手の出鼻をくじいていく作戦だ。
ということで作戦のその一。
――パチン
指を鳴らして転移術式を発動。
それで後方にいるトゥルーソン伯爵を城塞都市アウズンフラへと強制転移。
その瞬間に目の前から触手が大量に飛んでくるが、これは囮で俺の足元に魔法陣が広がっていった。
『終わりだ』
「そうだな」
足元の魔法陣に中和術式を展開して消去。
さらに飛んでくる触手は死神の鎌で切断……と、その切り落とされた触手が地面に落ちた瞬間、懐かしい黒の人型使徒に変化するところは予想外だったなぁ。
『……さて。次の手を見せて貰いたいところだが』
「ちょっと待っていろって、切り札は最後まで取っておくものだろう?」
さて。もう少しで反転大規模転移術式、つまり『神々の送還術式』が完成する。
え、切り札は最後まで取って置けっていったよなって?
まさか、魔神威が最高潮に高まっている今だからこそ、最強の必殺技を叩き込むんでしょ?
己の命がぎりぎりまで削られて発動できる切り札なんて、失敗したらおしまいいじゃん。
だから今でしょ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




