第530話・有為転変……(最後の戦いが、はじまる……)
瀬川先輩と新山さんが、東京へ向かった。
うん、その報告を受けたのは夜の事で、既に青森上空だったんだよ。
先に俺に連絡すると、心配してついてくるって思っていたらしい。
だから、電話の向こうの新山さんの『私を信じて、待っていてね』っていう言葉に頷いて、見送ることにした。過保護すぎるって言われそうだけれどさ、うん、過保護だわ。
翌日の学校から、新山さんは公欠扱いで休みになっていたし、クラスメイトからは『奥さん、仕事かぁ』とかからかわれたりで、もう大変だったよ。
でも、そんな状況もその日だけ。
翌日からは、いよいよ本格的に俺と祐太郎が動かないとならない案件が次々と発生していったんだよ。
………
……
…
──静岡県・静岡県・永宝山火口地下
御神楽の言葉を聞き、雅と小春の二人は急ぎ東京都へ向かう。
そして国会議事堂地下を通じて皇居地下神域を訪れると、翌日には御神楽の手により結界中和術式を施される。
つまり、これから向かう先は、かつてオールデニック侵攻の際、乱れた龍脈を整えるために向かった場所。
急ぎ永宝山火口付近へとやってくると、そこから地下へと下る空洞を抜ける。
そして途中に幾つもある結界を潜り抜けると、ようやく目的地である神域・龍脈洞の吹き出し地点、『龍脈穴』へとたどり着いた。
金色に輝く巨大な湖。
そのほとりに立つ雅は、魔皇の力を開放し、魔人モードに姿を変化させる。
「……このような姿で、申し訳ありません」
「いえ、それでいいと思います。それが貴方であり、自然の姿であるのなら。では、私も……」
白装束を脱ぎ、肌を露出する御神楽。
そして両手を広げ静かに祝詞を唱える。
「……神代に、奉りしは、祈りの言葉……赤き憤怒を封じしは、常世の神の力なりや。白き狼、赤き眼の悪神よ、いま、その清き流れより退き、あるべき所へ帰るがよい……」
──ブゥン
御神楽の全身に紋様が浮かびあがる。
それと呼応するかのように、金色の湖が漣みはじめる。
そして雅もまた、御神楽の横に立ち大空洞を包む規模の深淵の書庫を展開する。
「では、始めましょう……小春さん、あなたの役割はひとつ……」
「はい。それでは」
小春も身に纏っていた白装束を脱ぎ、両手を広げる。
「治癒神シャルディさま……今、私の身体を使い、御神楽さまに神威を届けたまえ……」
──ブゥン
小春の身体が緑色に輝く。
雅の成すべきことは、この金色の湖と繋がる龍脈に深淵の書庫でアクセスし、龍脈の中に流れる『よどみ』を発見し、そこから繋がる新たな霊脈を探し出すこと。
御神楽の成すべきことは、雅の見つけ出した『よどみ』と『悪しき霊脈』を浄化・消滅させること。
そして小春の成すべきことは、御神楽に神威を注ぐこと。
今現在、御神楽の神威はすでに残り一割を切っている。
その中に眠る力の大半もとうに枯れ果て、今は外から神威を借り術式を発動させることしかできない。
ゆえに、彼女にとっても、これが本当に最後の勝負。
力を使い果たした亜神の行く末、それはただ消滅するだけ。
だから、小春はそうはさせないと、絶えず神威を御神楽に注ぐ。
だから、雅は余計な力を使わせまいと、的確に『よどみ』を見つけ出し指示する。
だから、御神楽は可能な限りぎりぎりの力で『よどみ』を排除し続けなくてはならない。
「……深淵の書庫、地球全域に広がりました……。よどみの強い部分は122か所、すでに転移現象を引き起こし固化したよどみは225か所です」
「予想以上でしたか……では、一つ一つ、慎重にいきます。小春さん、もう少しだけ神威の出力を下げてください。今の量では過剰すぎて、溢れてしまいますので」
「はいっ!!」
まずは、一番手近な『よどみ』に神楽の神威を伸ばす。
そしてよどみに触れると、そこから御神楽の浄化術式が注ぎ込まれ、よどみが正常化していく。
小さなものならば、ほんの数分程度であるが、大きなものとなると、一時間、それ以上の時間が必要となっていく。
だから、三人は可能な限り体に負荷のかからないように注意しつつ、ただひたすらに『よどみ』を取り外していかなくてはならなかった。
〇 〇 〇 〇 〇
御神楽たち3人が龍脈とアクセスしてから。
それまでは世界各地で次々と発生していた転移現象も、報告件数が少なくなっていく。
だが、それに伴い大規模転移現象が幾つも報告され始める。
御神楽がよどみを打ち消すように、龍脈を流れる破壊神もまた、新たな霊脈を水晶柱から精霊樹へと変化したものに繋げ、世界を入れ替えていく。
世界の混乱はすなわち、破壊神の覚醒。
そしてそれにともない、災禍の赤月あかつきは一つに重なりつつある。
『くっ……御神楽の力が強まったか。だが、いい。ちょっと遅かったな……』
龍脈を揺蕩う破壊神。
肉体は朽ちて消滅し、今は『聖徳王の天球儀』が、彼の仮初めの肉体である。
そこに注がれているオールデニックの力を使い、破壊神は次のステージへと駒を進めた。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
アメリカ・カリフォルニア州・サンフランシスコに大爆発音が響く。
結界外にて待機していたアメリカ軍、ヘキサグラムの特殊部隊も、突然発生した爆発音に耳をふさぎしゃがみこんでしまう。
時間は深夜、まさかの爆発に誰しもが警戒するものの爆風も光も何も発せず、やがて爆発音が消滅したとき。
そこに存在していたサンフランシスコ・ゲートが突如して消滅していた。
巨大なクレーターがそこに存在するほか、そこには何も存在しない。
地下を走っていたであろうケーブルやライフラインも
建物や人の姿も
何もかもが消滅している。
そのような状況を見てもなお、軍人は職務を全うする。
本部への連絡、次の指示待ち、可能ならば周辺の警戒を開始するが、本部からの指示は調査のみ。
専門の部隊を送り出すまでは、周辺警戒を続けるようにとの連絡だけが届いていた。
一体何があったのか、それは誰にも判らない。
ただ、龍脈を流れる天球儀、その中で破壊神は、高らかに笑っていた。
『二つの世界、その片方のみの転移現象……異なる時空の存在が重なる……完成したよ、これぞ私が求めていたもの……この力で、世界を綺麗にしようじゃないか……』
すなわち、【対消滅】。
今、この瞬間、鏡刻界のとある町とサンフランシスコは、その存在が世界から消滅した……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




