第五十三話・疾風迅雷、田作の歯軋り(焼き鳥って止まらなくなるよね)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
さてさて。
かなりの情報を第六課にもぶっちゃけたし、十二魔将にも繋ぎができた。
今後の展開として懸念事項であった妖魔からの襲撃、これに対してもターゲットが俺や祐太郎になるように切り替え始めたところで、今日はみんなの英気を養うために『料理パーティー』と洒落込みましょうか。
「……まあ、オトヤンの言わんとする事はわかる。それで、どうして町内会のお祭り会場で露店を開くことになったんだ?」
ここはマンション近くの公園。
そして今日は土曜日、年に一度の町内会のお祭りである。
毎年恒例で有志による露店がいくつも準備されているのだが、今年は一組の露店が都合により土曜日は露店が出せないらしく、急遽一日だけの代役がはいることになった。
それで何故か知らんが、俺に白羽の矢が立ったのである。
「ええっと。うちのマンションに町内会の会長さんが住んでいてね、時折うちから流れてくる美味しそうな匂いに誘われてさ、どうだやってみないかって」
「はぁ。それで文学部全員揃っての露店でしたか」
ため息を吐きながら、瀬川先輩と新山さんが後ろで鶏肉を一口大に切っている。
俺と祐太郎は炭火熾し、そう、焼き鳥の屋台を任されたのである。
「まあね。ほら、焼き鳥なら焼くだけだしさ、学生がやるからって食材も少なめだよ?」
「まあな。それで、この焼き鳥のタレは一体何だ? とんでもなく良い香りがするんだが?」
焼き台の横に用意してある壺が二つ。
一つは塩ダレ、もう一つは醤油ダレ。
どちらも昨日、俺が用意した。
まあ、普通に材料を揃えるのは面白くないので、カナン魔導商会経由で『あっち』の調味料やらモンスターの骨やらを購入し、旨味をギュッと濃縮した特製タレではあるけど。
やがてあちこちの露店でも販売が開始された。
俺たちはおまけ程度の存在なので、客の入りについては殆どいない。
お情けだったり、学生さん頑張れよっていう感じで買ってくれるお客しかいない。
「‥‥まあ、そうなるよなぁ。オトヤン、のんびりと焼いていていいのか?」
「別にいいんじゃね? 儲ける気なんてないし、そもそもオマケなんだからさ」
そう説明しつつ焼き鳥を焼き続ける。
注文されてからたれに付けてもう一度温めるのだけど、特製タレって書いてもみんな塩コショウを求めているのは、学生だからなんだろうなぁ。
というよりも、隣やその隣は、焼き鳥チェーンの出店だから仕方ない。
同じ町内に店があるからこそできる、裏技のような出店である。
当然ながら、お客はそっちに集中する。
「あらら、ここは学生さんかい。塩とタレ二つずつ貰おうかな?」
「まいどあり!! ユータロ塩頼む、俺はタレを焼くから」
「応さ!!」
――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
初めてのタレ。
炭の上に肉汁と一緒に滴り落ちて、煙と香りが立ち上る。
今までの嗅いだ事のある焼き鳥の匂いとは一味も二味も違う、とても芳醇な香り。
――ゴクッ
目の前のおじさんものどを鳴らすと、焼き鳥を受け取って目の前で頬張った。
――ハグッ‥‥ムシャムシャ
まず一口。
そして目を大きく見開いて一気にかじりつく。
塩とたれを交互にかじりつき、そして一気に四本全て平らげてしまった。
「ど、どうですか‥‥」
「坊主!! 塩とたれを10本ずつだ!! 持ち帰りで頼む!!」
「「「「 よろこんで!! 」」」」
このおじさんが引き金となり、そこから怒涛の焼き鳥ラッシュが始まった。
ちなみに塩たれについても、実は隠し味が入っているのよ。
ワイバーンの骨、その骨髄を乾燥させて作ったらしい調味料が向こうの世界にはあってだね、それがほどよく塩と混ざり合い、濃厚なうま味を引き出しているのだよ。
万が一があっては大変と、昨晩塩たれも醤油たれもちゃんと味見してある。
その結果生まれたのが、この特製タレっていうわけ。
決して瓶の蓋に残っていたタレを、こそいでこそいで集めたタレじゃないよ。
そんなこんなで、わずか30分で下焼きしてあった焼き鳥は全てなくなってしまった。
それでもお客はやってくる。
「うわわわわ、先輩!! 追加の鳥をお願いします!!」
「もうないわよ!! 100本ずつで間に合うでしょうって町内会の人が置いていったんですから」
なんですと!!
それはまいった。
「お、オトヤン、これで一度締めたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。という事で、午前の部はこれでおしまいです。また仕込みをしてから午後という事で!!」
俺が叫ぶと、お客さんも納得して離れていく。
「さて、そんじゃ肉屋さん行って鶏肉買ってきますか‥‥って待て待て、ちょっと待ってて」
「ん? 急いで買ってこないと時間が足りないぞ?」
――ドサッ
それならばと、カナン魔導商会の食材メニューから『ノッキングバード』という大きな鶏肉を仕入れる。
昨日の晩に、この鶏肉も焼いてタレの味見に使っていたからうま味はちゃんと保証できる。
なによりも、よくある異世界ファンタジ―お約束の『異世界の料理を食べたらチート能力に目覚めました』とか『ステータスがブーストされました』っていう事もなかった。
なによりも、この鶏肉、安い。
「うわぁ。オトヤン、これはなんなんだ? ダチョウ?」
「それにしては鶏肉っぽいダチョウですよ? 先輩、見たことありますか?」
「‥‥空間収納から出したというよりも、カナン魔導商会から購入した感じですわね?」
「先輩あたり。これはノッキングバードっていうあっちの世界の鶏肉ね。それでこっちがスプリンターオニオン。あっちの世界の長ネギだって。どっちも昨日試食したから大丈夫だよ」
淡々と説明すると、皆納得して調理を開始してくれる。
しかし‥‥。
「あ、あの、乙葉君。この長ネギ、小さく手足みたいのが生えているような気がするのですけれど」
「ええっと‥‥カナン魔導商会の説明では、スプリントオニオンって熟しておいしくなったら、畑から走って逃げるらしいよ。なので、収穫時期になったら冒険者を雇って畑から逃げないように監視するらしいからね」
そう説明している間にも、二、三本の長ネギがそーっと段ボールから出て逃げる準備を始めていたのだけれど。
――スパァァァッ
一瞬で先っぽの青いところを先輩が切断して、長ネギは何も告げずにその場に倒れていった。
「あらら、危なく逃げるところでしたわ」
「先輩こわっ!! 長ネギを一瞬で仕留めるなんて‥‥恐ろしい子」
「この青いところは、刻んで薬味とかにも使えるのですか?」
「そうらしいよ。さて、俺と祐太郎は焼き始めますか」
「そうだな。それじゃああとはよろしく」
――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
再び焼き始めると、先ほどまでの鶏肉とは違い香ばしい香りが広がってきた。
うん、まあ、大丈夫大丈夫。
これは鶏肉、こっちの世界の鶏肉と同じ味。
そう自分に言い聞かせて、俺たちはひたすら焼き鳥を焼いていた。
‥‥‥
‥‥
‥
今日は町内会のお祭りだそうで。
主人も休みを取ってくれたので、家族揃って楽しませてもらうことにしましたわ。
あら、ステージでは有名なお笑い芸人が楽しそうに芸を披露しているし、露店も同じ町内の高級店が並んでいるわね‥‥。
「お母さん、焼き鳥食べたい」
「はいはい。それじゃあ買いに行きましょうね、そこの焼き鳥屋さんは有名チェーンなのよ?」
フフフ。
全国チェーン展開している有名焼き鳥屋さんが、わざわざ露店を出してくれているなんて。
うちの町内会長さんは、かなりの実力派のようですわ。
あら?
その隣では、学生さんが焼き鳥を焼いているわね。
フフフ、頑張ってね。私たちは有名チェーンの焼き鳥を買うのでね。
――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
「お母さん、隣の焼き鳥がいい」
「え? こっちの焼き鳥屋さんはテレビでもやっている有名チェーンよ? こっちのほうがおいしいに決まっているじゃない」
「そっか、分かった!!」
フフフ。子供は無邪気ね。
焼きたての鳥串から落ちるタレ。
それが焦げた香りでお客を誘おうとしても無駄よ。
肉質はこっちの専門店が上よ、ちゃんと地鶏を使っているのですから。
フフフ、学生さん、今日は勝たせてもらったわよ。
そのまま焼きたての焼き鳥を持って席に戻ると、主人が大量の焼き鳥を食べようとしていましたわ。
「あら? あなたも焼き鳥を買ってきたの?」
「ああ。そこの学生さんたちの焼いている焼き鳥なんだけどな、凄くうまいんだよ」
「こっちはあの専門店のよ。じゃあ食べ比べしましょうか?」
まあ、うちの主人はタレの焦げた匂いが好きですから。 では、まずは専門店のを一口。
――ハムッ
うん。食べなれた味ね。弾力のある鶏肉、そこからあふれる肉汁。
タレの甘しょっぱさがバランスよく絡んでいる。
では、次は高校生さんのを。
――ハグッ
‥‥。
‥‥。
‥‥。
あら? いつのまにか焼き鳥がなくなっているわ。
誰が食べたのかしら?
でもおいしいわね。まあ、専門店さんには‥‥。
「おかあさん、もっと食べたい」
「これ以上食べると、晩御飯が食べられなくなるわよ」
「それなら、持って帰って晩御飯にしようか」
「そうね。ちょっと下品ですけれど、焼鳥丼っていうのもたまにはいいわね。それじゃあ買ってきましょうか」
私は子供を連れて、高級店に向かったのですけれど、子供は隣の高校生のほうに向かいました。
ええ? そっちを食べるの?
振り向いて主人のほうを見ると、高校生のを買ってこいって合図していますわ。
ふぅ、仕方ありませんわ。
こっちのほうが明らかにおいしいのは、さっき食べて判ったのですから。
「すみません。たれと塩を20本ずつ頂けるかしら?」
「はい、ありがとうございます!!」
目の前で焼き上げられる焼き鳥。
――クンクン
あら? どこからともなくカレーの香り。
よく見ると、店の奥で店員さんたちがカレーライスを食べているわね。
「あの、そのカレーは売っていないのかしら?」
「ああ、あれは賄でして、非売品なんですよ」
「へえ、そ、そうなの‥‥」
くっ、この香りは以前隣から匂ってきたあのカレーよね。
ほら、周囲の人たちもカレーを眺めてつばを飲み込んでいるじゃない。
「はい、お待たせしました、焼き鳥40本です!!」
「ありがとう。さ、行きましょう」
努めて平然と、そしてエレガントに。
くっ、いつかあのカレーを食べる日が来ることを、楽しみに待っていますわ‥‥。
〇 〇 〇 〇 〇
夕方。
総て売り切った。
仕入れたノッキングバードのもも肉30kg、全て売り切った。
「はぁ、燃え尽きたぜ」
「もう、しばらくは露店はやりたくありませんわね」
「お腹すきましたよ~。昼に食べたカレーじゃ足りないですよー」
「という事だオトヤン。打ち上げに行かないか?」
うむ。
売上から原価を引いた残りは、全て俺たちの売り上げ。
トータルで売った本数1200本、一本200円だからトータル24万円のうりあげナリー。
へっへっへっと思わず笑いたくけれど、本職の人って毎日これをやっているのだから感心するよね。
そのまま片づけをして町内会長さんに挨拶して帰ることにしましょうそうしましょう。
「‥‥築地君、このケースにあった、残った長ネギは知りませんか?」
「え? 残っていたのか?」
「ええ。乙葉君に空間収納に収めてもらおうと頼んだのですけれど、生き物は駄目というかスプリントオニオンは入らなかったのですよ。ですので、あとでとどめを刺して入れてもらおうと束ねてあったのですけれど」
‥‥‥
‥‥
‥
思わず沈黙する俺たち。
「先輩、それって何本?」
「3本ですわ」
「私も確認したよ。ちゃんと逃げないように結束バンドでまとめて縛ったから」
「それじゃあ、あの長ネギは結束バンドで縛られたまま、逃亡したというのですか?」
ふむ。
それってかなり拙いよなぁ。
でも、長ネギだし、何処か彼らの理想郷まで逃げて根付いて子孫を残して‥‥って、ここは都会だからどこかで疲れ果てて朽ちていくだろうなぁ。
うん、何もなかった、いいね。
「それじゃあ片付けて帰りますか!!」
「「「 マジ(か? ですか? なの?) 」」」
「所詮は野菜。何もなかった、いいね?」
そのまま後片付けをして、俺たちは周囲の露店に挨拶をして帰ることにした。
明日は日曜日なので、反省会を兼ねた打ち上げパーティーは明日にしようそうしよう。
なお、お祭り二日目の露店では、乙葉達の露店がなくなり本来はいるお好み焼き屋が営業していたのだが、閑古鳥が鳴きまくっていたのはいうまでもない。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りづらいネタ
お宝〇鑑定団ポーンスターズ / ヒストリーチャンネルより
アメリカンピッ〇カーズ / ヒストリーチャンネルより
あと二つはアニメネタ。どこにあるかなw




