第五百十五話・虎視眈々、虎穴に入らずんば虎子を得ず(いや、これって罠だろう!!)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日を目安に頑張っています。
今、俺の目の前にはインテリヤクザのようなニセ乙葉浩介と、その補佐官の金髪お姉さんが立っています。
うん、こいつって、新山さんと瀬川先輩に、薄い本のような仕打ちをしようって考えていたやつだよな。よし、ギルティ、魔族なら問答無用でぶっ潰す。
本当なら、数時間前にあったときに潰しておきたかったけれど、その分の怒りも上乗せ倍プッシュで往ってもらうか。
「ん、どうしたんだい? この僕の強さに怖気ついて、命乞いでもしようって考えているとか?」
「あ~わかったわかった、この乙葉ウラタロスめ。その鼻持ちならない優男風の話し方を辞めてくれないか? 口チャックだ」
「……ふむ。その言葉の意味が解らないけれど、僕を侮辱しているっていう事は理解したよ。それじゃあ、何もできない無力な人間のまま、死んでもらうとしようか?」
――シュシュシュッ
両手で高速印を組み、さらに口からは二つの言語で術式を唱え始める。
へぇ、口の中にもう一つの声帯が組み込まれていて、それで複数言語による同時詠唱が出来るのか。
いやぁ、大したものだわ。
「燃え尽きろ、灼熱大焦炎っっっっっ」
「あっちの世界の元素魔術か。ほい、却下っと」
──パチィン
イエムセティとかいうニセモノが発動した魔術を、いつも通り指パッチンで消滅させる。
奴が使った簡易詠唱は呪文名を唱えるだけで発動するけれど、魔力が術に変換されるまではタイムラグが発生するんだよ。
そのタイミングに割り込んで、術式そのものを破壊するのが、却下。
まあ、この消滅術式も万能ではないんだけれどさ。
俺の潜在魔力より小さい魔力程度なら、簡単に消滅させることはできるし……なによりも、俺の知っている魔術だからなぁ。
そして目の前で自分が唱えた魔術が消滅したことに納得できないのか、イエムセティはきょとんとした顔で俺を見ている。
「……イシス。このオリジナルの魔力と闘気は、あの手錠で封じているんだよな?」
ほら、自分のキャパシティを越えた現象が発生したせいか、口汚くなってきた。こいつはプライドをへし折られたら、激昂してバーサークするタイプだよなぁ。
「ええ。あれはヘキサグラムが開発した、犯罪魔族を封じるものです。だから、イエムセティの魔術が消滅させられるだなんてあり得ない……そうよ、きっとあなたの魔術が不発になるのを見切って、あのような演技をして見せたに違いないわね」
「なるほど……流石オリジナル、なんて卑怯でなんて意地汚いんだ。まあ、次は確実に仕留めて……って、あれ?」
──シュンッ……カチャン
せっかくなので、俺の腕に嵌っている手錠を、一瞬でイエムセティの腕に填めてあげましたが。
うん、祐太郎の闘気加速ほどではないけれど、近距離転移についてはこいつらから見て修得していたからさ。
なお、内部に組み込まれている術式については、俺には効果が無いように書き換えてあったけれど、それ以外には有効なので。
──ヘナヘナヘナッ
「な、なんだこれは、貴様、一体なにをしたっっっっ」
「いや、手錠の効果を体感してもらおうかなって。ちなみに鍵は潰してあるので、一度でも付けたら壊さない限りは外れないので、悪しからず」
手をヒラヒラと振って見せると、イエムセティが膝から崩れ、その場に横たわった。
心なしか呼吸も荒くなっているけれど……ああ、衰弱っていう効果もあったっけ。
「こ……この……イシス、とっととこれを外せ……何をしている……んだ……」
「ち、ちょっと待っていなさい、今、鍵を貰ってくるわ!!」
そう告げて、イシスが部屋から飛び出していった。
うん、戻ってくるのかどうかは定かではないけれど、今のうちに情報をこいつから聞き出すことにしようかな。
「さてと。どうせ素直に白状はしないと思うけれどさ……一体、何を企んでいる?」
「……さあな……」
「まあ、そういうと思ったよ」
ということで、こいつはお仕置き決定。
だってさ、俺の知っている方法で、この手の奴から『安全に』情報を聞き出すことって皆無なんだよ。
魔法でどうにかできるのかって考えてみると……うん、洗脳とか意識支配とか、記憶簒奪とか……あるわ。でも、これって人間に使っていいものじゃないよなぁ。
そんなことを考えつつ、魔導書を開いて一番優しいやつを探して……。
「我、乙葉浩介の名に於いて……かの者の魂を封じ、精神を支配したまえ……意識支配っ!!」
「ぐっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
イエムセティの意識を支配し、情報を引き出すだけ。
これだと痛みはない筈……なんだけれど、めっちゃ苦しんでいるんだけれど。
「ちょ、そんなに苦しいのかよ」
「くっそぉぉぉぉぉ、この手錠のおかげて、俺の中に侵入する魔力が茨のように突き刺さって来るぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「あ、手錠の副次作用か。まあ、それはいいや。それで、お前たちはなにを企んでいる? どうして生まれてきたんだ?」
そんじゃ、聞き取り調査を再開しますかね。
「誰が言うかぁぁぁぁ」
「あっそ、魔力注入……と」
──キィィィン
右手をイエムセティの額に当てて、魔力をちょっとだけ注ぐ。
すると、ほら。
「グビャアババババババババババハバ!!」
「副次作用って、怖いよなぁ。で、何を企んでいるんだ?」
「し……知るかぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「そっか、ほい、魔力の追加……と」
「アパビャボァブバァァァァァァァ」
うん、悪いけれどさ、俺、怒っているんだよね。
突然、大統領暗殺っていう冤罪を押し付けられただけじゃなく、小春や瀬川先輩、祐太郎を巻き込んで。それに、わざわざノーブル・ワンまで襲撃をした挙句、小春と先輩を攫って薄い本のようにエッチなことをしようとしたっていうそのやり口がさ、許せないのよ。
わかる?
「うんうん、痛いよなぁ。多分、俺じゃあ耐えられないと思うから。それで、そろそろ話してくれるか……はぁ?」
俺の問いかけの直後。
イエムセティの身体がメキョメキョと膨れ上がった。
いや、これは予定外なんだけれど……。
「まあ、その忠誠心は見事だな、ゆっくり眠れ」
俺の背後、扉の向こうから聞こえてきた声。
その瞬間、イエムセティの身体が爆発し、室内に大量の血と肉辺をぶちまけやがった。
「……ふぅ。予想外というか、なんというか……」
背後の気配に意識を集中。
そのままゆっくりと立ち上がって振り向いた時。
「久しいな、乙葉浩介。そして、さようなら」
──シュンッ
その言葉と同時に、俺は振り向きざまに右手を振っていた。
いや、どうしてそんなことが出来たのか分からないが、目に見えない三本の衝撃破に向かって、俺も同じ技を作り出して弾き飛ばしていたんだよ。
「……ちっ。やはりお前が、オリジナルの天球儀を所持しているのだな」
「ああ、なんとな~くだけど、今の状況が理解できたわ……ということで、悪いがあんたにも、色々と話を聞かせてもらうさ」
その俺の言葉と同時に、また勝手に体が動いた。
一瞬で俺の右手に二十四枚の呪符が生み出されると、見たことも聞いたこともない詠唱を始めている……って、おい、誰が俺の身体を使っているんだよっ!!。
『……辰意来光神威招来、御霊の二十四卦八門遁甲、魔を滅する神世の術なれど‼︎ 今こそ貴様を滅してくれるわ!!』
「ちぃっ、器の中の残留思念かっ。鬼門遁甲、二十四卦返し、なれど我が御身は、神の器なりやっ!!」
俺の中の、もう一人の俺が放った摩訶不思議な術式。
だが、伯狼雹鬼はそれに対してカウンターで消滅魔術を叩き込んできた。
目の前で二つの術式が激突し、空間が切り裂かれ衝撃波が室内に響き渡った。
そして俺と伯狼雹鬼、共に後方へと吹き飛ばされてしまったよ。
「くっそ……俺の中のもう一人の俺っ、勝手に動くなよっ」
たった一撃で、俺の身体のあちこちが裂け、血が噴き出している。
動脈は傷ついていないらしいけれど、全身傷だらけな上に大量の失血、これはやばすぎる。
だが、フッ飛ばされた伯狼雹鬼も無事じゃない。
着ていた衣服は破れ、毛むくじゃらの身体が見えている。
そして、奴の左胸に埋め込まれている物体。
「それはまさか、聖徳王の天球儀かよ」
「不完全なれど、オリジナルに近い器の力は持っている。だが、それでは足りぬ、足りないのだ……」
立ち上がり、右手の爪を伸ばす伯狼雹鬼。
まだ、この程度では奴の闘争本能は消えることは無いらしい。
それじゃあ、俺だって相手してやるしかないじゃないかよ。
さっき持っていた呪符は床に零れ落ちちまったけれど、まだまだ俺だって本気じゃない。
「貴様をぶっ飛ばして、全て話して貰うぞ!!」
「貴様をぶっ殺して、魂の器を頂く!!」
一触即発。
もう、お互いに引けるような状況ではないようだよ。
ああ、こうなったらリミッターをカットして、相手をさせてもらうしかないじゃないか。
まだ、修行も終わっていないっていうのに……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




