第四百九十二話・泰然自若、病膏肓に入る……ほどでも。(さあ、出発だ、今、日が昇る!)
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謹賀新年!
今日は一月四日、親戚が集まり我が家で正月の大宴会をした翌日。
そしていとこや甥っ子たちが一堂に集まり、俺にお年玉をせびっていった翌日……全く解せぬ。
親戚筋の言い分では、俺は魔術師としてかなりの年収を稼いでいるらしく、稼いでいるのなら甥っ子にはお年玉をあげるのが常識だそうで。
まあ、100歩譲って可愛い甥っ子にはあげよう、だがいとこ連中、お前たちは絶対に許さん。
なして俺と同年代や、少し年上のいとこに、俺がお年玉をあげる必要がある?
まあ、来年は俺が貰う約束をして、お年玉を渡したけれどな。
ついでに親戚の叔父さんとおばさん、農作業に便利な魔法を教えてくれって言われても困る。
魔法の箒と絨毯については、免許が取れたら渡す約束はした、材料費だけ貰うけどな。
ただ、野菜の出荷に使いたいから大きな魔法の絨毯が欲しいと言われても、そのサイズの免許規定がよく分からないので、勘弁してください。
『魔法の絨毯・大型特殊』って、そんな免許ないはずだよなぁ。
そう思って免許を確認したけれど、魔導具は一律『小型特殊免許』、条件等に『魔法の箒、魔法の絨毯に限る』って表記されている。
うん、つまりは大型の絨毯については、規定がないので無理である。
ということなので、次にあったら普通のサイズだけ渡すことにしよう。
「けどさ、小型特殊免許って、車両の長さが4.7m以下、車両の幅は1.7m以下、車両の高さ2.8m以下という基準があるんだよなぁ。でも魔導具なので、最高速度は普通自動車に準ずる、飛行時の速度はドローンに倣って高度149m以下での飛行のみ許可。あとは航空法の範囲になるので、どうせ教習所で学んでくるでしょう……と、このサイズって、結構大きいなぁ」
規格最大に作った魔法の絨毯。そいつを俺の部屋の中で測ってみたけれど、普通の小型トラックの大きさなんだよなぁ。さっき説明した小型特殊の最大サイズと、ほぼ同じ。最大積載量が3000kgなので、まあ……飛べるのか?
そこまで重いものを乗せたことが無いから、飛べるかどうか不安だわ。
「こりゃあ、一度荷重テストをしたほうがいいか。このあと、魔法の絨毯や魔法の箒の販売も始める可能性を考えると、個人用と営業用の二種類は作った方がいいかもしれないなぁ……あと、タクシーのように人を乗せて……あ、二種免許か。ナンバーの発行は運輸局だから、そっちで処理してもらうから俺には関係ないけれど……タクシーのメーターは作った方がいいよなぁ」
そんなことをノンビリと考えていると。
──コンコン
窓を叩く音。
そして窓の向こうには、瀬川先輩と新山さん。
うん、ここ2階だよ?
ということで、新兵器である『空飛ぶ座椅子』に座ったまま、窓辺に移動。
「あれ、二人ともどうしたの?」
「どうしたもこうしたも、もう、みなさん準備が出来て待っていますわよ!!」
「築地君のうちの簡易ヘリポートで、みんな待ってますよ? って、なんで魔法の絨毯を広げているの?」
「いや、さっき完成した新作の大きさをね。ほら、野菜の出荷に使うから、どれだけの積載量かなぁってさ」
「「なんで野菜なの?」」
あ、すっかり忘れていた。
今日はこれから、魔法の絨毯と魔法の箒でアメリカに向かうのです。
しかも今回は、祐太郎の家に設置されていてる小型ヘリポートからの発着、この日のために晋太郎おじさん経由で、国土交通省に申請していたらしいからね。
祐太郎曰く、『卒業後に、魔法の絨毯や魔法の箒を使った旅客サービスもできれば面白いよな』ということで、申請して貰ったんだよ。
ちなみに発着時も全て、千歳空港の管制塔に連絡が必要。
先に高度150メートル以上の上空を飛ぶための申請と、海外へ行くための税関での手続きのために千歳空港へと向かわなくてはならない。
そして千歳空港から正式に、魔導具を使って海外へと旅立つ。
よくもここまでの許可が取れたものだと思うけれど、そこはそれ、晋太郎おじさんが正式に書類を用意して通したので問題はなし。
ただ、この一部始終を記録に収めるために、国土交通省の役員さんも千歳までご一緒。一通りのテストも兼ねて飛行試験を行わないとならないんだよ。
「そんじゃ、いきますか」
荷物は全て空間収納の中。今回は俺も魔法の絨毯を……と、こいつを使えばいいか。今行くわ、先にいって待っていて」
「はいはい、お早めに」
「乙葉君、なにか手伝うことがあったら、いつでも言ってね」
「おっけー。そんじゃのちほど」
ということで、急いで着替えてから、戸締りをしっかりとして、ついでに魔導結界装置を起動して家全体を結界で包み込む。
これで俺たちが留守中の警備も完璧。
そのまま祐太郎のうちに向かうと、うちの家族と祐太郎と晋太郎おじさん、そして新山さんと瀬川先輩、役員さん二人が待機していました。
ええ、今回はうちと祐太郎の家族もアメリカ旅行、先輩の家族は……今は、鏡刻界だそうです、意味がわからん。
そして新山さんの家族は仕事で都合が付かなかったらしく今回はパス、りなちゃんと紗那さんは、有馬博士と一緒にくるかもしれないということで、のちほど合流。
「全く……なんでこんなに時間がかかっているのやら」
「オトヤン、急がないと千歳に間に合わないぞ」
はいはい、親父と祐太郎に突っ込まれつつ、俺たちは急いで千歳空港へ。
なお、何処をどうしたものか、うちの両親と晋太郎おじさんも『魔導飛行免許』を取ったらしく、おじさんとうちの親父には魔法の絨毯を、母さんには魔法の箒をプレゼントしましたが。
しっかりとナンバーも取って来たそうで、ウキウキしながらそれを吊り下げていましたよ。
役員さんは親父達の魔法の絨毯で移動ということで、やっぱり初めての空飛ぶ絨毯でワクワクが抑えきれていない模様。
はあ、平和っていいなぁ。
〇 〇 〇 〇 〇
千歳空港で一通りの手続きを取り、パスポートも確認。
普通に飛行機で移動するのなら、羽田に移動してそこからアメリカへ。
でも、今回は魔導具による日本→アメリカという移動なので、千歳空港から直接アメリカへ正式な手続きを行って向かうことになりましたよ。
ちなみに移動時間は、ざっと計算して18時間。
なお、うちの家族と晋太郎おじさんは、初フライトが海外というのは流石に無理らしく、羽田から飛行機に乗って移動。俺たち現代の魔術師チームだけが、魔導具での完全フライトとなりました。
「……しっかし、結界があるから会話が可能なだけで、この速度で単独で空を飛んでいると、会話もなにもできないよなぁ」
「まったくだよ」
今回は俺の絨毯一枚に、3人が同乗。
いや、眠くなって仮眠を取るときにもさ、4人一緒なら安心でしょう?
そういう理由で、使っている絨毯も最大のものを用意した。
5畳程度のサイズに加工した絨毯をベースに、魔法の絨毯を作成したんだよ。
おかげでゆったりとしたスペースも確保できたし、疲れたら布団を敷いて寝ることもできる。
実際、みんなも交代で仮眠を取っていたからね。
安全のためにも、飛行時には絨毯全体を結界で包んだので、落下防止も完璧。
ということで、西海岸ポートランドからアメリカ上空に到着、そこから連邦航空局に連絡を入れたのち、一路ワシントンのロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナルエアポートへ。
あとは空港の管制室からの連絡を受けて、指定通りの位置に着陸。
なお、ワシントンに入ってからは高度を一気に下げて、150メートル以下での飛行。
一般旅客機の航路を阻害しないようにって、空港管制から指示があったのでね。
「……うん、凄いですわね。最初から最後まで、ずっと魔法の絨毯。しかも法に則った正式な手続き。これでテストケースも終わり、次からは堂々と空を飛んでこれますわね」
「まあ、俺はこれで二度目だけれどね……」
一度目はほら、ファーストクラスの席で長閑な空の旅をしていた時、使徒の襲撃を受けて急遽、魔法の絨毯での移動となったからさ。
だから、正式な空の旅としてアメリカに来たのは初めて。
管制塔から指示されていた場所にゆっくりと着地すると、空港担当官が俺たちを迎えに来る。
あとは税関へと移動、パスポートなどのチェックも終えて、俺たちは晴れて空港施設の外へと出ることが出来ましたよ。
「うっわ、寒いっ……というほどでもないか」
「あのね、私たちは『レジスト・コールド』の指輪を使っているから、この程度の寒さは平気なだけですよ。それに、普通に考えても、札幌よりも暖かいですからね」
「新山さんのいうとおりだな。それで先輩、ここからの移動方法は? まさかレンタカーじゃないよな」
新しいルーンブレスレットに、耐冷処理の指輪ははめ込んである。
ということで、全員同時に指輪の効果を起動。
そして祐太郎の問いかけに、先輩は眼鏡の淵をクイッと持ち上げる。
──キラーン
「ご安心を。今回もボルチモア行のシャトルバスで向かいます。ぶっちゃけますと、ここからレンタカーを借りるよりも格安ですから」
すでに時刻表深淵の書庫で確認済みらしい。
ということで一路、大型シャトルバスでボルチモアのヘキサグラム研究施設『ノーブルワン』へレッツ、ゴー!
〇 〇 〇 〇 〇
──ボルチモア・ノーブルワン
まあ、シャトルバスってさ、30分ぐらいで着くんだよね。
そして正門横の警備室に向かい手続きを終え、俺たちは久しぶりにノーブルワンへとやって来た。
「お、ようやく来たわね。皆さんお久しぶり。元気だったかしら?」
「はい。クリスティン研究施設長もお元気そうで。すでに親父の方から連絡は届いていると思いますけれど、今日から10日間、よろしくお願いします」
白衣を着た研究員、クリスティン・ルモール施設長が俺たちを出迎えてくれた。ついでに、その後ろからクリムゾン・ヴェーラもやって来る。
「よう、久しぶりだな。今日は、白桃姫は一緒じゃないのか?」
「お陰様でね。クリムゾンさんもお元気そうで……と、セレナとフラットさんは?」
「二人はニューヨークに引っ越しした。そこで家族三人、研究員として正式に雇われることになったからな。俺もお役目ごめんということで日本に戻りたかったのだが、ここから日本に戻るすべを知らなかったから、ここでノンビリとしていたところだ」
「あ〜。そういうことかぁ。帰るなら水晶柱経由で、転移門は出せる……かな?」
そういえば、精霊樹が生まれてからは、転移門は不安定な状態のまま。白桃姫ですら開けないのだから、俺じゃあむーりー。
「なあ、クリムゾンさん。こっちでは魔族の狂化は発生しなかったのか?」
「発生したが。それについては、ちょっと場所を変えよう。立ち話もなんだからな」
祐太郎の問いかけにそう告げると、クリムゾンが踵を返して歩き始める。
そして暫くして俺の家に到着すると、俺たちも部屋に荷物を置いてからリビングへ。
「あれ、そういえばミラージュは?」
「今日は定期調整日で、朝から治療棟だ」
「ええ、そういうことですので、お嬢様が帰ってくるのはあと1時間後です。今、お飲み物をご用意しますので、少々お待ちください」
「そうですか、ええっと……」
俺たちがリビングに降りてきてソファーに座ったとき。
執事の……えぇっと、なんていったっけ? その人がやってきて説明してくれた。
「あはは。私の名前はトニーです。ちなみに今日は、フライディと呼ばれていますので」
「ああ、そうでした、申し訳ありません」
「それじゃあ、お茶の準備をお手伝いしますね。新山さんも、お願いできるかしら?」
「はいっ!!」
トニーさんについて、新山さんと先輩もキッチンへ。
そして俺たち男性陣はソファーに座ると、クリムゾンから『魔族の狂化』についての報告を聞くことにした。
「それで、アメリカではどんな感じだった?」
「まず、簡潔に言うが。水晶柱の出現した地域では、それなりに暴走した魔族の被害が出ていた。だが、水晶柱のある場所にはヘキサグラムと海兵隊の隊員が派遣されていて、しっかりと監視していたから被害は抑えられている。まあ、ワシントンとニューヨークを始めとする東海岸地帯では被害は最小限だが、中部および西部では、都市一つが蒸発したとかいうところもある。ちなみにだが、ここノーブルワンは、ミラージュの生み出した結界により安全だった。付近の住民も避難してきたので、多少の混乱はあったが」
「そうか……よかった」
俺は、ほっと一安心。
祐太郎も安心したのか、さっきまでのやや険しい表情が穏やかになった。
「しかし、こう、見事に魂が抜けているとは、ものすごい状況だな」
「はぁ? 俺の下半身の魂って、クリムゾンには見えるのかよ」
「まあな、俺の左目が魔眼なものでな。それに、築地の経絡もズタズタだな、恐らくだが、新山の魔力回路も変調をきたしているんだろう? あとは元魔人王の、瀬川さんか。魔皇紋のバランスが著しく狂っている。そもそも、どうして彼女の体内に魔皇紋が残っているのか、理解できん」
なんとまあ、そこまでお見通しかよ。
さすがに心の中までは見過ごせないらしいけれど、身体的な部分、特に霊的なものについては見ることができるらしい。
「俺の場合は、暗黒闘気の使い過ぎっていうところだ。以前、プラティ師匠にも注意されていたから」
「ははぁ、それでか。築地、お前のここ、魔石が結晶化し始めているぞ」
自分の心臓辺りを親指でトントンと叩きつつ、クリムゾンが祐太郎に告げる。
いや、ちょっと待って、魔石ってどういうこと?
「はぁ、マジか……」
「ちょ、ちょっとストップ。クリムゾンさん、祐太郎の体内に魔石があるってどういうこと?」
「ああ、簡単に言うとだな、暗黒闘気の搾りかすが体内に沈殿し結晶化した。それが魔石っていうことだ。そもそも、鏡刻界のモンスター分類でも、通常の生物が体内に魔石を保有した時点で魔物に分類されるからな」
「……は? そういうものなの?」
そこからの説明は至極簡単。
鏡刻界の生態系でいうと、地球と同じように動物も存在する。
そういった動物が長時間、魔素にさらされることにより体内に魔素が蓄積。
それが結晶化し、魔力回路が発生し体内に浸透していくと、魔物になる。
この時、体内に蓄積し結晶化したものが『魔石』。
おなじように、魔素が自然界で鉱物のように結晶化したものが『魔晶石』。
この魔晶石の中でも、魔素噴出地点で長い年月を掛けて結晶化したものが『純魔晶石』。
魔物でも上位種の体内で、何百年と蓄積され純度が高まったものが、『純魔石』。ちなみに『魔導結晶体』というものについては、クリムゾンも知らなかった。
「……ああ、これで俺の中でも納得がいったわ。しかし、祐太郎の体内に魔石が生まれたとして、このあと、祐太郎はどうなる?」
「うーん。コモンの体内に魔石が生まれたという実例がない。だからわからん。まあ、魔族化はしないから大丈夫だ、後天的に魔族を生み出すことなど、不可能だからな」
「あ、そうなの?」
そう問い返して、ふとクリムゾンは腕を組んで考える。
そしてでた結論が一つ。
「訂正、人造魔族の例があるか。でも肉体を持っているし精神体にはなれないから、人間という区分でいいのではないか?」
「俺は俺、そういうことで問題はないし……そもそも人間だからな」
とりあえず、祐太郎の件はこれでおしまい。
ちなみに明日からは、俺たち4人は別々に治療棟にて検査を受けて、適切な治療を受けることになっている。
はたして、どうなることやら。
正直言って、不安だらけだよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




