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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第八部・狂乱のアメリカ

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第四百八十八話・画竜点睛、千里の道も一歩から(禁忌と決断と)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。

 妖魔特区内、ティロ・フィナーレ。

 最上階にある乙葉浩介宅の広間では、大規模錬成魔術式を組み込んだ魔法陣がゆっくりと回転を続けている。

 そこに納められていたマネキン型ゴーレム素材は、ゆっくりと周辺の魔素を取り込みつつ、魔法陣に書き記されている術式によりその外見をゆっくりと変化させていく。

 金属光沢に包まれた表皮は魔素形成により人工の皮膚を構築、内部まで金属で詰まっていた体躯の中では、あちこちに空洞が生まれると同時に、金属質の骨格を形成。

 そこに纏わりつくようにミスリル鋼糸が束ねられて筋肉と腱が生み出されると、今度は体型がゆっくりと変化していく。


 乙葉浩介の魔導書に記されたゴーレム生成術、ここに有馬式魔導機動甲冑の技術と聖徳王の天球儀に記された禁呪が組み合わされたのち、奇跡ともいえる成功率0.2547%が成しえた結果である。


――ドクン……

 聖徳王の秘術、大穴牟遅神(おおあなむじのかみ)の術式を施された魔導心臓が鳴動を開始。

 それと同時に、そこに封じられていたジェラールの魂が魔導心臓へと定着を始める。

 やがて全身の形成を終えたゴーレムボディは、主である己の魂が目覚めるのを、今か今かと待ち続けていた。


――そして朝

 ああ、まったくトンデモないぐらい快晴な朝だよ。

 昨日のうちに仕掛けてあったゴーレムボディ。計算では今日の夕方には完成するはずだったのに、何処にもない。

 そう、影も形も存在しない。

 そして窓ガラスがぶち割れていて、そこから侵入した誰かが持ち去ったという可能性が出てきたんだが。


「はぁ。あれ一つ作るのに、どれだけの時間と素材を消費したと思っているんだよ。さて、それじゃあ探すとするか。ゴーグル……ってああっ、そうだよゴーグルは壊れて今はないんだった……うぇあ!!」


 これはやばい。 

 とりあえず、サーチゴーグルに組み込まれていた術式を魔導書から呼び出し、『広範囲探知術式』を発動する。探知対象は俺の魔力、あのゴーレム素材には俺の魔力が浸透しているから。


――バッ!

 目を閉じて両手を左右に開く。

 そして体内の神威を波長に変換して周囲に放つ。

 サーチゴーグルの場合、目標を発見したら矢印で案内してくれたんだけれど、自分の術式だとそれは不可能。おおよその方角と距離だけは脳内に浮かび上がるので、あとは地図を頼りにそっちに向かうだけ。


「ん、発見……でも、これって札幌テレビ城跡だよなぁ。精霊樹にでも引き寄せられたのか? まあ、いっか」


 素早く魔法の絨毯に乗ったままベランダへ飛び出す。

 ああ、その前に壊された窓に修復術式(レストレーション)を施すのは忘れずに。

 さて、それじゃあどこの誰が盗んでいったのか、その面を拝ませてもらおうじゃないか。


 〇 〇 〇 〇 〇


――その頃の札幌テレビ城跡地

「オーライオーライ……そう、そのまままっすぐ」

「大丈夫大丈夫。その場所に素材を全て置いてくれれば、大丈夫ですから」

「おい、俺の図面はどこにいった? また誰か持って行ったのか!!」


 大勢の魔族が、失われた札幌テレビ城を再生すべく、あちこちから大量の材木や石を運び込んでいる。

 本来ならば乙葉浩介の修復術式(レストレーション)で再生するはずであったのだが、まず、破壊された素材がことごとく吹き飛んだり蒸発してしまったため不可能。

 そもそも、乙葉の術式は『壊れた部品などがあることが前提』であるため、ここまで完膚なきまでに破壊され素材すら失われてしまった状態では再生不可能。

 ということで、白桃姫が主導となり、一から札幌テレビ城を再建することになった。

 必要な図面などは北海道庁に向かい、北海道知事の土方裕三および札幌市長の佐竹信吉の二人からコピー版の図面を受け取っており、それを参考に『魔族式建築術』により再建設が始まっている。

 

 そんな混沌とした現場の近くを、全裸の男がゆっくりと歩いている。

 白髪にザンバラ髪、そして虚ろな瞳を浮かべたまま、大通り北方面からてくてくと歩いてきた。

 周囲は鬱蒼と茂った森、その隙間に見え隠れしている文明の跡。

 男はそんなところから姿を現すと、工事現場の片隅に腰を下ろしていた。


「……んんん、なんじゃ? 生命体ではない、異様な存在がやってきたのう……」


 『安全第一』と記されたヘルメットを被り、赤い作業服に身を包んだ白桃姫が、男の存在を捕らえる。

 ちなみに彼女は頭部に角があるため、それが干渉しないようにヘルメットを加工している。

 本来ならば安全基準的に一発アウトであるが、今のこの現場では日本式法的制限はない。

 そして白桃姫は、男の近くへと歩み寄る。


「そこの……ふむ、ゴーレムの出来損ないか。しかし乙葉の残留魔素も感じる。乙葉が作った自立式ゴーレムが暴走、ここまで逃げてきたっていうところかや?」


 腕を組み、顎に手を当てて白桃姫が呟く。

 すると、ゴーレムと呼ばれた男は頭を上げ、白桃姫を見て……。


「……」


 それまで虚ろであった瞳に生気が戻る。


「……げ、げぇっ!! 白桃姫!!」

「おお、その声、その反応は……おぬし、蛞蝓大公に溶かされたジェラール・浪川というやつではないか? ああ、そういうことか」

「そういうことかって、どういう事なんだ、いや、なんですか? 俺は確か、サンフランシスコ・ゲートで蛞蝓大公に取り込まれ、脳からなにから全てを溶かされて吸収され……ああ、そうか、並列思考で意識体と魂の半分を分離して、魔力世界に映したんだったよな」


 一つ一つ、記憶を取り戻すジェラール。

 その様子を見て、白桃姫も納得すると、アイテムボックスから作業着の予備をひっびり出して、ジェラールに投げつける。


「そこでかってに納得している分には構わぬが、そんな姿では淫魔(サキュバス)を誘い込んでしまうぞ。まあ、それほどたいしたモノではないし、なによりも人間ではないので精気を得ることが出来ずやきもきしてしまうだろうがなぁ」

「はぁ? 人間ではないって、え、俺、人間じゃないのか?」


 白桃姫の言葉に呆然としつつ、ジェラールは自分を指さしてそう問いかけるが。


――ヒュゥゥゥゥゥゥゥッ

 その瞬間、上空から乙葉浩介の乗った魔法の絨毯が高速で着地し、白桃姫とジェラールの間に立った。


………

……


 広範囲探知の反応を頼りにジェラールを探していたら、偶然、白桃姫となにやら話し合いをしている素体を発見。

 すぐさま着地してその反応に向かって身構えたんだが、そこには瓦礫に座っている全裸のジェラールがいた。これで青いつなぎ服で身来て、胸元のチャックを下ろし始めたらそれこそやらないかっていう感じになるんだが。


「ふぅ。白桃姫、この素体って誰がここまで持ってきたんだ? まだ未調整どころか魔導化処理すら終わっていないんだけれど」

「誰がといわれても、そやつは自分でここまで歩いた来たのじゃが?」

「へ? 歩いて?」


 その白桃姫の言葉に頭を傾げつつ、振り向くとつなぎ服を着こんで、頭を抱えて考え込んでいるジェラールの姿があった。うん、今、自分で動いていたよな?


「ふぅ、乙葉か。約束通りに俺を復活してくれてありがとうな……ついでといっちゃあなんだけれど、奴らに取られた鞄類一式、取り返してくれると助かるんだけれど」

「……うわぁ、マジかよ。計算では、完成まであと11時間は必要だったんだけれど、本当にジェラールだよな? 奴の記憶を写し取ったディラックの残滓とか、そういう輩じゃないよな?」


 一瞬だけど、俺は疑った。

 だって、まさかここまで事細かく再生するなんて予想もしていなかったから。

 でも、これで大穴牟遅神(おおあなむじのかみ)で神の器の中に眠っている人たちを助けることができるっていうことだけど……それって、素材が足りなすぎないか? 最低でも、120万個の『魔導結晶体』が必要で、それでいてやはりレア素材が足りなくて。


 そう思って、腕を組んで考えていると。


「まあ、俺に違いはないんだが。しっかし、この体ってゴーレムだよな? 自己診断してみたが、基本フレームは『ミスリルと鋼の複合素材』をハニカム構造上に積層した中空骨格。心臓というか脳というか、俺個人の魂を保護しているのは魔導心臓、そして内臓の代わりに……なんでクッション素材を詰め込んで居るかなぁ」

「安心しろ、魔力を伝達することで自在に形状を変化できる。実質、人間と同じ動きは全て可能であり、さらに基本スペックは1.25倍に上昇させてある。リミッターを搭載しているので、万が一の暴走にも対処可能……か。はぁ。ここまではいいんだよなぁ」


 そう説明したのはいいんだけれど、正直いって、ジェラールを復活させたこのゴーレムボディを大量生産していいものかどうか、ずっと心に引っかかっている。


「ふむ、乙葉や、また例の事を考えているのかや?」

「ああ、やっぱり白桃姫……さまには分かりますか。こいつは不器用すぎる上に、なんでもかんでも助けようとするのでなぁ。あ、です」

「もういい。わざわざ丁寧な言葉遣いをするでない」

「そ、それじゃあ……」


 そんなやりとりをしている白桃姫とジェラール。

 それよりも、先にジェラールの身体をもっと細かく調べさせてほしいんだが。


「ちょいとジェラールさん、もう少し細かいところまで体を調べさせてもらいたいのだが。いや、予定よりも早く完成しているからさ、今、瀬川先輩の深淵の書庫(アーカイブ)でスキャンしてもらいたいんだけれど、同意してくれるよね?」

「まあ、その程度なら構わんが。しっかし、お前ってまさか、神の器の中の人間たちの魂まで、これと同じ素体を作り出して移そうとか考えていないよな?」

「へ? 考えていたけれど……でも、違うんだよ」


 そう返事をすると、ジェラールが自分の頭を押さえてハァァァァァァァッ、とため息を吐く。

 俺、なにかおかしいことでも話したか?


「あのなぁ。一度でも肉体から離れた魂は、どれだけ再生術式や反魂の秘術を使っても、普通は元には戻らない。それを成しえるためには多大なる代償が伴う。これは俺から購入した巫術の書にも記されていただろうが? 忘れたのか?」

「その程度は理解している。事実、俺は一度、それを味わっているからな!!」

「だったら、お前がやろうとしていることの成功率なんて、ほぼ存在しないっていうことぐらいは理解しているのか? そもそもだ、この体は成長しない、人間じゃない。そんな体に人間の魂を入れてみろ、拒絶反応が出て最悪は死亡、もしくは自害するぞ」


 ぐっ。

 判っているさ。

 死者蘇生、魂を肉体に移す秘術の成功率は、基本的にはゼロ。

 それは自然の摂理に反している。

 それを成功させるために、反魂法があるが、それだって代償を必要としている。

 俺の魂と同化した『魂の器』の中にある、大勢の人たちの魂。俺はこの人たちのことは 何も知らないから、普通に反魂法を唱えたとしても成功はしない。

 だからこそ大穴牟遅神(おおあなむじのかみ)に望みを賭けたんだよ。

 本当なら俺だって、元の身体を作ってあげたいとは思っている。でも、どうしてもできないんだよ。目の前にこう、壁があって、それを越えられないんだよ……。


「わかっている。だから、俺は聖徳王の秘術に賭けたんだよ。そしてホムンクルスの身体ならって思って……でも、俺じゃあ無理なんだよ」

「ばぁぁぁぁぁか。もう一度、お前の魂の器の中を確認しろ。そこにある魂には、もう『人核』は存在していないだろうが。俺のように並列思考で自ら分離させない限り、人は肉体の死と同時に『人核』も消滅を始める。それぐらいは理解しろ」


 人核。

 魔族の体内にある魂が魔人核であるように、人間の魂にも『人核』と呼ばれるものが存在する。

 これは個としての人間のすべてが詰まっている存在であり、肉体に浸透している。

 魔族はそれが水晶体のように形成されているのだが、人間はそれが『幽体』という形を取り、全身に浸透している。

 俺の動かない下半身、その原因も肉体から魂、すなわち幽体が分離しているから。

 この人核という概念が曲者であり、魂というエネルギーに包まれた『個人の精神と意識』の部分が人核であると、巫術の書には記載されている。

 だから、ジェラールの話の通り、魂はあってもその中に『人核』が備わっていなければ、蘇生は不可能だっていうこと。

 

 だから、慌てて器の中の魂を見る。

 けれど俺には、魂の見分け方なんて判っていない。


「だ、だけどさ、ジェラールは復活したよな?」

「だ、か、ら、落ち着いて話を聞け。お前は神にでもなる気か? 器の中に魂を留めておくには構わない、輪廻転生のタイミングが少しだけずれる程度だからな。だが、それを人として再生するなんて、不可能だと理解しろ。お前、俺のこの体を作るのに、どれだけ貴重な素材を使った? それをどこで、どうやって手に入れた? 俺のこの身体を、すべての被害者の分も作る気か? それはすぐにできるのか? いつまでかかる? いや、乙葉が死ぬまでにすべてが終わるのか?」


 一気にまくしたてられて、俺は言葉を失う。

 判っているよ、ただ、何かしないと落ち着かないんだよ。

 

「乙葉、お前は人間であって神じゃない。いや、神だって死者の蘇生については慎重だ。世界の摂理、運命、それらのすべてを考えなくてはならない。俺は世界各地で、幾つもの遺跡を巡った。それらの中で、神に至れなかった人々の苦悩を記してあった石碑を何度も見ている。大切な人を蘇らせるために、神に至ろうとした奴の無念も見てきた……流行り病で全滅した都市、そこに住む人々を助けようとした奴のこともな。だが、それは叶わなかった。なぜかわかるか?」


――ゴクッ

 ジェラールの迫力に、俺は息を飲む。

 判っている、だけど、そんな言葉で終わらせたくはない。


「……運命……だから」

「ああ、そうとも、人の生き死に、それは全て運命だ。死んだ者は冥府に向かい、そこで新たな命として生まれるまで長い時を待つ。魔族の狂化により殺された犠牲者たち、水晶柱に魂を吸い取られた奴らは、本来ならばあの畜生破壊神の再生のために、エネルギーとして消費されるはずだった……それを、お前は助けたんだ。死という運命は乗り越えられなかったけれど、彼らは、もう一度、輪廻転生できる。そうするために、お前は助けたんだよ……」


――ポタッ……ポタッ……

 頬を、涙が伝っていく。

 判っているよ、その通りだよ。

 ふう、俺はまだガキなんだなぁって、今更ながら理解したよ。

 強大な力を持っているから、なんでも助ける、なんでも助けられる。

 それが烏滸がましいことだって、理解したよ。


「ふぅ。それじゃあ、俺は、この器の魂たちを、輪廻の環へと戻す必要があるのか」

「ああ。だが、それは今じゃない。全てが終わってからだ」


 淡々と告げるジェラール。

 さすが、チベットの秘術商人は違う。


「……のう、ジェラールや、その知識、お前ひとりのものではあるまいて。災禍の赤月のことといい、輪廻転生のこととい。貴様、それをどこで手に入れたのじゃ?」

「ん? ああ、あの蛞蝓野郎に取り込まれた時、逆にあいつの中にあった知識の奔流をかすめ取ってきた。というか、全て俺の知識と同化させただけだ。そうでないと、災禍の赤月の事なんて、俺は知らなかったんだからな。世界の番人のことも、導き手のことも」

「それはなんだ」

「世界の番人、導き手……初めてきくのう」


 あ、ジェラールのやつ、まずいって言う顔をした。

 まあ、それについては、改めて教えて貰おうじゃないか。 


「ふぅ。少しだけさっぽりした。ジェラールさん、ありがとう」

「全く、この貸しは高いからな」

「その素体の代金で相殺してくれ……と、もう少しで瀬川先輩がくるから、その時には深淵の書庫(アーカイブ)で調査させてくれ。今後の参考にもしたいから……って逃げるなぁぁぁぁぁぁ」


 俺の言葉を聞いて、ジェラールが全力で走り出そうとするが、あっさりと白桃姫に捕らえられる。

 うん、まだ体が馴染んでいないんだろうなぁ。

 さて、もう一度、なにもかも考え直す必要があるか。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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