第三百八十話・曲突徙薪? 虎口を逃れて竜穴に入りそうだよな(神の声と、フリューゲルの伝言)
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俺の知っている異世界・鏡刻界の国といえば。
ハイエルフのフリューゲルさんが宮廷魔導師として務めている『ラナパーナ王国』と、日本に侵略してきた『フェルデナント聖王国』の二つだけ。
時間があったら、ゆっくりと異世界探訪も楽しそうだなぁと思ったんだけど、そんな時間が作れるはずもなく、ゆっくりできない目的のために現在に至る。
「この国の名前はルフレイク王国で、フェルデナント聖王国とは『突風の渓谷』を挟んだ山側の国っていう話ですけれど、その渓谷を越えて侵略してくることはないのですか?」
「フェルデナントがこの国に来るためには、山向こうのラナパーナを経由しないと来ることはできないな。あの渓谷は風精霊の棲家とも言われていて、許可なく近寄るものを青空の彼方へと吹き飛ばしてしまうんだよ。それに、山側を遠回りしようにも、霊峰ストンウィルの守護竜が人の立ち入りを許さないからなぁ」
祐太郎が冒険者の人たちから情報を集めているようだから、俺も横で話を聞いている。ここはほら、話術巧みな祐太郎に任せるのが得策だと思うんだよね。
俺ってさ、中学校の時はアニオタでボッチ、友達は祐太郎ぐらいだったから、話し下手なんだよ。
まあ、何もかも任せるわけにはいかないから、ここは俺も会話に参加しようじゃないか。
高校生デビューのためにエレキギターが上手になったあの子のように、いつまでも後ろ向きではいかんのだよ。
まあ、あの子は友達と出会うことで……って、それは良いわ。
「その霊峰ストンウィルの守護竜って、世界を見通す目を持っていたりとか、異世界からの来訪者を監視しているとかそんな言い伝えはありますか?」
「そんなわけ無いなぁ。それにほら、転移とか異世界からの召喚云々とかは、『時と空間の神様』の管轄じゃないか? それなら街の中にある『十神教会』にいって、神託を受けてみればいいと思うがね」
「「え?」」
神託って、そんなに簡単に受けられるものなのか?
そう思って祐太郎を見ると、奴も驚いた顔でこっちを見ているし。
「ちょっと待ってください、神託ってそんなに簡単に受けられるものなのか?」「そういうのって、長年の辛い修行の結果、神に認められた聖女とか神官とか、そういう人が聞くことができるんじゃ無いのですか?」
祐太郎と俺の質問に、冒険者さんも腕を組んで考え込む。
「いや、神様は気まぐれだからさ。気さくに話しかけてくる神様もいれば、一言も返事を返さない神様だっているんじゃ無いのか? それにそこの教会なら、神託の聖女と呼ばれているシスター・リボンがいるからさ。気になるのなら、教会へ行ってみるといいよ」
「ありがとうございます!!」
「助かりました」
二人同時に深々と頭を下げる。
そして教会の場所を教えて貰うと、俺たちは大急ぎで『十神教会』へと向かうことにした。
………
……
…
「うわぁ……」
「うん、これはかなり大きいな。てっきり王城が何かと思った建物が、まさか教会だったとは」
冒険者そんから聞いた場所。
そこにあったのは、サグラダ・ファミリアぐらいの大きさの、巨大な聖堂。
遠目に見たら王城だと思っていた場所が、まさかの教会だったとは予想もしていませんよ。
しかも、扉は開け放たれたままで、大勢の人々が出入りしている様子も見えるし、あちこちに黒いロングコート? のようなものを着た司祭やら修道女さんの姿も見える。
なお、修道女=シスターと思っている人は多いと思うけど、実は別物だって知っていた? 俺も最近になって知った方でね。
「俺たちの世界でいうところの、カトリックに近い雰囲気があるか。それでいて、祀っている神は十神。なかなか凄いところだな。こういうのを見ると、異世界だよなぁってつくづく思うと思わないか?」
「祐太郎の言うとおりだよ。俺だって、空を見て月が三つもあるとは思わなかったし。しかもそれぞれの形が異なっているってどういうことだよ? 本来の月の満ち欠けの法則を無視しているんじゃ無いか?」
そんなことを話しながら、俺たちは堂々と教会の中へと入っていく。
そして中を見渡すと、正面の壁に縦長のステンドグラスが10枚。
一枚一枚に人の姿が写し出されているので、これが10神なのだろうと理解できたよ。
「右から3番目が、武神ブライガーだなぁと思う。ほら、この前見た結界の柱があったろ、あれと同じ姿をしているとは思わないか?」
「どれどれ……ははぁ、なるほどなぁ」
祐太郎に促されて、改めてステンドグラスを確認してみると。
確かに、武神ブライガーに間違いはない。
でも、真ん中右の一枚には、三人の女性が記されているのはどういうこと?
「あれはなんだろ?」
「あの三人の女神は、愛を司る三女神です。真ん中が聖愛神ノクターン、右が深愛神ミッドナイト、そして左が貴腐神ムーンライト。愛の形はさまざまであり、それを司る神もまた、三人の女神であらせられるのです……はじめまして、私はこの十神教会の守護聖女を務めるポリン・シュライフです。お二人は、この国には初めていらしたのですか?」
俺と祐太郎が話をしていると、後ろから一人の修道女が声を掛けてきた。
なるほど、瀬川先輩に加護を与えた女神は、実は三人で一つの愛の神なのですか。
「ええ。この国には人を探しにきたのです。つかぬことをお尋ねしますが、異世界からの来訪者などがあった場合、それを監視している神からの神託などはあるのでしょうか?」
祐太郎が具体的すぎる質問をぶつけているのだが。
ポリンさんは口元に手を当てて、何かを考えているようで。
「なるほど、貴方が築地祐太郎さん、そのお隣の方が乙葉浩介さんですね」
「「え?」」
いきなり名前を当てられましたが。
いや、それってどういうことなんだ?
まさか、神託?
「どうして俺たちのことがわかったのですか? まさか、鑑定とか?」
「いえいえ。つい今しがた、神託が降りたのです」
「「いきなりかよ!!」」
なんというかこう、神託って身を清めた聖女が満月の夜に、聖堂で祈りを捧げたら降りるとかそういうものなんじゃ無いの?
「はい、神は気まぐれですから。問いかけても何も返ってこないこともあれば、いきなり甘味を奉納しろとか言い始める方もいますので。それはそうと、時空神の眷属である星狼さまのお告げです」
いきなり声のトーンが変わり、神々しさを感じさせてきた。
これは素直に聞くべきだと、背筋を伸ばして頷いてみると。
「フリューゲルに会いなさい。貴方たちの探しているものは、彼女の元にいると……そして魔神ダークに気をつけなさい……と」
おおっと。
まさかのフリューゲルさんの名前。
つまり、アメリカのマッカーサー大佐はラナパーナ王国に降り立ったのか。
やっぱり座標軸がずれているなぁ。
ここまでら大きくずれ始めているとは、予想もしていなかったよ。
「フリューゲルさんはラナパーナ王国の宮廷魔導師だよな? そこに迎えっていうことか?」
「はい。星狼さまの元にも、フリューゲルさんからの問い合わせがあったそうです。それで、星狼さま曰く、連絡手段をしっかりと持つように、神様を中継地点に使うなとお怒りです……まあ、後ほど、星狼さまに供物を捧げて怒りを鎮めてください」
「うわ!! それは申し訳ないんだが……それって、フリューゲルさんが勝手にやらかしていることであって、俺たちは神託を聞くまでは彼女からの連絡があっただなんて知らなかったんだが」
「同感だ。支払い請求はフリューゲルに回してくれ」
祐太郎、鬼か?
まあ、彼女が勝手に星狼様とやらに問いかけて、それが偶然、俺たちに届いたっていうことなんだろう。
つまり、フリューゲルの払い一択。
「ああわかった、彼女に請求するとのことです……神託はこれで終わりです」
「神託というか、伝言ゲームというか、なんというか」
「オトヤン、恐らくだが星狼様とやらが緩いんじゃないか? 他の神々なら、ここまでフレンドリーな反応はしないと思うが」
祐太郎がそう問いかけると、ポリンさんも笑顔で頷いているよ。
「そうですね。星狼さまは気さく過ぎます。本来の神託というのは、三つの月が一つに重なった日の夜、定められた魔術紋様の中で儀式舞を行う必要がありますから」
「やっぱりそうだよ。三つの月が一つ……って、あの、月って三つありますよね? あれが一つに重なるっていうのはつまり、天文学的に宇宙という外観はあるということですよね?」
思わず突っ込んだ質問をしてしまったが。
「ええ、宇宙はあります。私たちの世界は、宇宙の中に浮かぶ星の一つでしかありません。ちなみに、あの三つの月のうち私たちの世界の月は一つ。残りの二つは、異世界が月のように浮かび上がっているそうです。その一つは、お二人の住む世界、すなわち裏地球。もう一つは知りません」
「知らないのかーい!!」
思わず突っ込んだけど、本当に知らないらしい。
空に浮かんだ俺たちの世界と、もう一つの世界。
それが月という言葉で表されているらしい。
「さて、オトヤン、これで目的地はハッキリした。マッカーサー大佐もフリューゲルさんが保護していると思われる。あとは、この霊峰を越える必要があるっていうことだよな?」
「……まじかぁ」
そう、ラナパーナ王国へ向かうためには、この霊峰を越えなくてはならない。
フェルデナント聖王国でさえも寄せ付けなかったという山脈を。
「あの、ポリンさん……俺たちが山を越える場合、やっぱり守護竜さんとやらが来ますよね?」
「来ますね。彼の方は、霊峰を守る竜ですから」
「話し合いで解決させることは可能か?」
「通行証を発行しますので、万が一に遭遇した場合、そちらを提示するとよろしいかと思います」
「通行証?」
なにそれ?
そんな便利なものがあるの?
「あの、その通行証って、とても貴重で入手が困難だとか?」
「いえ、十神教会の私が発行するものではありますけれど、そんなに貴重ではありませんよ。許可者である私と、許可を受けるものの二人の魔力を練り合わせて護符を作り出すだけ。それ故に譲渡も不可能ですから。それで、どうします?」
どうもこうもないよ、よろしくお願いしますの一言だけだよ。
「では、俺とオトヤン二人分の護符をお願いできますか?」
「かしこまりました。少しお時間を頂きます」
こうして俺と祐太郎は、霊峰を越えるための許可証である護符を授かることになった。
さあ、とっととフリューゲルさんのところに行って、大佐を連れ帰るぞ。
長引くと面倒なことになりそうだから、ミッションクリアを最優先!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




