第三百七十五話・果報は寝て待て?(次はどうするか)
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はい、よく見慣れた天井です。
札幌医科大学附属総合病院の個室です。
もうね、魔障酔いやらなんやらかんやらと、俺が倒れるたびに運び込まれている病院だから見慣れたものだよ。
噂では、俺専用の病室があるとかないとか、胡散臭い噂まであるのだけどね。
「あ、乙葉くん気がついた?」
「んん、新山さん……今は何時?」
「午後二時だよ。まるまる一日眠っていたから、そのまま起きなくなるんじゃないかって心配していたんだよ?」
「魔障酔いなだけだから、特に問題はないよ。その辺りは鑑定して調べたんだよな?」
「診断で確認はしていたけど。でも、原因不明の病とかだったら、大変だなぁと思って」
少しだけ涙目の新山さん、可愛い。
このままキスしようかなって思ったけど、扉のところに祐太郎が立っているのでそんなことはしないよ?
ガッデム。
「それで祐太郎、王健祐さんの容態は?」
「ここの病院の別室で眠っている。よほど酷いことがあったんだろう、精神が不安定で幻覚まで見ている。まあ、新山さんの魔法で、その原因は麻薬のようなものを飲まされたからだろうって結論は出ているんだけど、その薬の成分がわからなくて解毒剤というか、中和剤が作れないらしい」
「新山さんの魔法は?」
「魔法等関連法案の、ほら、神聖魔法の行使の条項に引っ掛かって使えないのよ。診断は使えたのでそれで状況などを説明してからは、検査で詳しい情報をある必要があるって」
つまりは、魔法でパパッと回復させられたら、今後の治療についても魔法頼りになる。だから、診断で状態を確認したあとは、検査漬けにして詳しいことを調べたいってところだろう。
魔法が医療を圧迫しないように、医学の進歩を阻害しないようにと言う部分で、新山さんの魔法治療が止められたらしい。
「はぁ、それはまた、面妖な……」
「それと、大きな問題が一つ。あと数日で夏休みだ」
「……待ってくれ、祐太郎がなにを話しているのか理解できないんだが」
慌ててスマホを取り出して日付を確認する。
すると、今日は七月十五日。
修学旅行から戻ってきて、俺たちが調査に向かったのが六月の終わりの……ええっと、計算するのが面倒くさい。
でも、明らかに時間の流れがおかしい。
「向こうの世界の一日は、大体俺たちの世界の十四日程度だったってこと。鏡刻界では時差なんてほとんど無かったのに、あの世界はかなり時差のある世界だったって言うことさ。事実、王健祐議員は向こうの世界で一ヶ月間も、薬漬けで搾られたらしい。たまに正気に戻ったときに状況を説明してくれるらしいが、すぐに当時の記憶を思い出して暴れている」
「うわぁ……ってあれ? 俺たち、休み多すぎで卒業できないとか?」
成績については問題はない。
ただ、休みが多すぎると単位が取れない。
出席日数、授業単位、この二つがクリアされていないと卒業できないんだが。
二週間は学校で公欠にしてくれるはず……だよな? 人助けで国の依頼だぞ?
「いや、そこはまだ問題はないって、要先生が話していた」
「とりあえず、あと二人を探してこないとかなり気まずいことになりそうだって、忍冬さんが話していたよ? 私と瀬川先輩は退魔機関第二課のサーバールームに篭って、深淵の書庫で地球全域のサーチをしているのだけど、やっぱり地球上には天羽総理とアメリカの人が攫われたような場所はないのよ」
「そうなると、あとは鏡刻界だけか。今度は座標を間違えないようにしないとならないよなぁ」
そもそも、なんで鏡刻界に向かったはずなのに、あの異世界に辿り着いたのか理解不能。まるで、先にあっちけら助けろっていう指針でもあったような……。
「そうか、ひょっとしたら、次の調査場所が分かるかもしれない」
「待った!! オトヤン、まさかとは思うが、天球儀の事か?」
「俺たちは鏡刻界に向かったはずなのに、何故かあの世界に辿り着いていた。そして、行方不明から一ヶ月も経過した王さんを助け出すことができたんだ。こいつは、王さんが限界なのをなんらかの方法で理解して、俺たちに先に向かわせたんじゃないか?」
──シュンッ
空間収納から『聖徳王の天球儀』を取り出し、ベッドの上の簡易テーブルに乗せる。
「問題なのは、こいつは出しておくだけで莫大な魔力を発散するんだよ。それも神威やらなんやらかんやら、とかく膨大な力の塊だから、妖魔を引き寄せるんだよなぁ」
素早くゴーグルを装着して、周囲に集まりつつある下級魔族やら魔獣を探して……って待て!
──シュンッ
素早く天球儀を空間収納に収めると、窓の外にいた魔獣を睨みつける。
「どうしたオトヤン」
「窓の外の魔獣、あれはジェラールの使い魔だ……なんで俺たちを監視しているんだ? ジェラールさん、聞こえてますよね?」
そう窓の外に向かって話しかけると、ジェラールの使い魔はゆっくりと羽ばたいてどこかへ飛んで行った。
くっそ、油断した。
天球儀に惹かれる下級魔族については経験済みなので問題ないと油断した。
「逃げたか。いや、なぜこのタイミングで、ジェラールが俺たちを監視しているんだ? 今回の要人誘拐事件の影に、あいつが干渉しているのか?」
「分からないけど、ここで黙って待っているわけにはいかないからさ。どこか安全な場所で天球儀について調べてみて、すぐにでも天羽総理たちを探しに行かないと」
「誰にも知られない場所……作ろうか?」
え?
新山さん、いきなりなにを……って思った瞬間、周りの風景が一瞬だけブレた。
この感触は、魔族の中級空間結界だよな?
部屋全体が虹色の壁に囲まれているから、紛れもなく魔族の固有能力だよ。
「え、新山さん、これって君が作ったの?」
「そうだよ。私はね、白桃姫さんの立ち会いのもとで、タケもっこす先生と眷属契約したの。だから、タケもっこす先生の魔族能力は全て使えるようになったんだよ、ほら!!」
──ニョキッ
頭の左右に白桃姫のような小さなツノ、背中には蝙蝠の羽、そしてスカートの中から尻尾まで生えてきたんだが。
いや待って、その羽とか尻尾とかツノとか、どう見てもサキュバスじゃないか、最高ですいや待て俺、そんなことを本能のままに受け入れてどうする。
「へぇ。オトヤン、ここなら天球儀を出してもバレないだろう?」
「おおう、祐太郎はこの状況をあっさり受け入れたな……まあ、新山さんが小悪魔小春ちゃんに変わっただけだから、良いのか?」
「そもそも、タケもっこす先生と白桃姫さんが神聖魔法を使えるようにするために、眷属契約しただけなんだから。だから、この能力は自分の満足のために使うことはありませんよ」
「よっし、それなら」
──シュンッ
再び天球儀を取り出して、テーブルの上に置く。
そして両手をかざして、ゆっくりと神威を練りつつ念じる。
「聖徳王の天球儀よ、俺たちの次の道標を示したまえ……」
そう祝詞を紡ぐようにつぶやくと、天球儀の真ん中に鍵穴が生まれる。
なるほど、この鍵穴の意味はそういう事か。
「ほう、これってあの鍵だよな?」
「多分な。この鍵を差して、ゆっくりと回すと……」
銀の鍵を取り出して差し込み、ゆっくりと回す。
やがてガチャンと何かを回す感触に触れると、俺は鍵を引き抜いた。
──ヴヴヴヴヴン
銀の鍵の先が術式によって変形し、薄く透き通った金属のようなもので覆われている。
「さて、天球儀と鍵は戻して……新山さん、結界を解除して良いよ?」
「了解です。そーれっ!」
──パチン
新山さんが指を鳴らすと、俺たちは元の世界に戻った。
ちなみに新山さんの姿も元に戻っているし、部屋の中には忍冬師範たちがやって来たらしくて部屋の中で周りを見渡していた。
「……浩介、祐太郎。またお前たち、何かやらかしたな?」
「へ? ちょいと魔法で別空間を作って、打ち合わせをしていただけですよ。壁に耳あり障子に目あり、どこで魔族に監視されているか分かりませんから」
「オトヤンの言うとおり。実は、ついさっきもジェラール・浪川っていう露天商の放った従魔に見られていたんです」
嘘は言ってない。
別空間を作ったのが新山さんだったりするのは、あえて説明しないけどね。
俺の横で忍冬さんにコクコクと頭を縦に振っている新山さんの姿を見て、忍冬師範も納得したらしい。
「しかし、どうしてジェラールさんがここを監視するんだ?」
「……あ、井川さんから以前、報告は受けていたのか。その、ジェラールが魔導具商人だったってご存知ですよね?」
「まあな。今は、異世界渡航計画の中国側アドバイザーという立場になっているが」
はい、繋がったぁ。
いつのまにかそんな地位に就いているなんて、恐るべしジェラール。
「うわぁ」
「なんで監視しているかなんて、俺たちが知りたいです。まあ、ジェラールの事だから、俺たちが異世界に行くための手段を見ようとしているんでしょうね」
「だろうな。という事で忍冬師父、俺たちは次の行方不明者を探しに行きますので、留守をよろしくお願いします」
「新山さんも、引き続き調査をよろしく)
そう告げてから、彼女の耳元で。
「ジェラールの動向についても、気をつけてね。先輩と白桃姫にもそう伝えておいて」
「おまかせください」
お互いにサムズアップして、これで打ち合わせは終わり。
「では、俺たちは行ってきます」
「失礼します」
まだ忍冬師範が何か言いたそうだったけど、速攻で鍵を突き刺して扉を開く。
うん、見た事ない森が広がっているけど、高度は地面と同じ。
これが天球儀の力なんだなぁと思いつつ、俺と祐太郎は森の中へ飛び込んでいったよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




