三百三十一話・衣錦之栄? 枕を高くして寝ていいよね?(これでフィニーッシュ!! な訳ないよなぁ?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
眷属級使徒にして、オールディニックの側近であるアザゼルの死。
その情報は、感覚として世界中に散った使徒たちにも伝えられる。
統率する頭脳が存在しなくなった結果、世界にわずかに残った残党は本能の赴くままに魔力の高いものを餌として認識し、それを求めてさらに殺戮を開始。
わずかながら知性があるものは、オールディニックの復活を目指して魔力を求めるものと、この世界に隠れ住むことを選択し、ゆっくりと証拠を残さないように人を捉えようと考え始める。
殊更、魔人核を多めに回収していたものは知性を持ち、深淵の書庫の目の届かないところを探し出し、ほとぼりが冷めるまで隠れ始める。
………
……
…
──富士裾野・永宝山地下大空洞
上空でアザゼルを殲滅した俺は、火口へと落下。
まあ、魔法の箒に飛び乗って地下大空洞まで到着したら、白桃姫や祐太郎、そして新山さんもムギュゥ!!
「乙葉くん!!」
いきなり新山さんに抱きしめられましたが。
心なしか震えているのもわかるし、本当に怖かったろうなぁ。
だから、俺もそっとね、優しく抱きしめ返して。
「おつかれさま。ムー大陸の調査、怖かったんだね」
「そうじゃない……そうじゃないよ……」
あ、あれ?
俺、何か間違えた?
三人がここにいて、ムー大陸の超兵器の術式が俺に届けられたっていうことは、三人もかなり苦戦したんじゃないの?
俺、どうしたらいいかわからなくて、新山さんを抱きしめたまま奥でニヤニヤと笑っている白桃姫と祐太郎に視線を合わせると。
(オトヤン、そこは、ごめんね。だぞ?)
口パクで祐太郎が教えてくれた。
あ、そうか、そういうことか。
「ごめんね、新山さん……」
「もういい。無事だったから、もう良い。でも、もう、こんな無茶なことをしないでね」
「うん。本当に、心配をかけたね」
このままいい雰囲気でキスシーンまで持っていくと思うだろう?
だが、ここには瀬川先輩も、白桃姫も祐太郎もいるんだわ。
そんな衆目あるところで、キスシーンまで持って行くはずないだろうが。
と、いう俺の気持ちを察したのか、祐太郎が先輩に話しかけた。
「瀬川先輩、使徒の状況はどうですか?」
「各国の、軍隊が出るレベルの場所については遠隔浄化術式で消滅させたわ。あとは細々とした部分が残っているのと、乙葉くんがアザゼルを殲滅した直後から、まるでカメラから逃げるように隠れ始めた使徒もいるわね」
「つまり、かなり前の魔族とのイタチごっこのようなことが、これからも始まるっていうことですか」
祐太郎の問いかけに、先輩も頷いている。
しかし、そうなると各国の連携とか、神器クラスの退魔法具の調達やらで忙しくなりそうだよなぁ。
まあ、俺には関係ないけどさ。
「それよりも雅よ、オールディニックの封印状況はどうなっておる? 使徒のような雑魚よりも、そっちの方が重大じゃぞ?」
「それについては、別のモニターでずっと監視してもらっていますわ。特に問題もなく、ご覧のように封印術式が開封された形跡もありませんので」
──ブゥン
衛星軌道上からの、監視衛星の映像。
ウルルの上空から映し出された画面を見て、俺たちはほっと一安心。
だが、白桃姫だけは、腕を組んで何かを考えている。
「……白桃姫、なにか心配事でもあるのか?」
「いや、そうではないのだが。どうも嫌な予感しかしないのじゃよ。ここまでトントン拍子に話が進みすぎておる」
「……と言うと?」
トントン拍子、特に問題があるのか?
そう考えて深淵の書庫の中の先輩を見ると、やはり白桃姫のような顔でモニターを確認している。
「ここまでの大規模な侵攻、そして使徒の行動。ひょっとしたら、すでに結界が綻んでいるのかもしれませんわね」
「雅はそう考えるか。まあ、直接いってみてから、改めて調べた方が良いな……乙葉はまだ、動けるかや?」
「え? 俺?」
そう問われて、改めてステータスを確認。
すでに魔力は全快だし、問題があるとしたら破損した魔導強化外骨格かなぁ。
空間収納を確認しても、魔導強化外骨格は『全損』って表示だし。
プロトンセイバーは問題ないけど、鎧がない。
フィフスガントレットは損傷ないから、若干の不安はあるんだが。
「そっか。今の俺、私服にペストマスクか」
「戦闘を見ていたけど、まさか零式が壊されるとは思ってなかったぞ。それよりも、そのあとの、死神装束はなんなんだ?」
「死神?」
祐太郎の言葉に問い返すと、その場の全員が頷いている。
そしてモニターに先ほどの戦闘シーンが再現された時、俺は顎が外れそうなぐらい驚いたわ。
「うーわー。本当に死神じゃん。ペストマスクまで変化して、何この骸骨のマスクは」
気分は骸骨姿に黒ローブの死神。
魔導師の服装からアインズ様だし、聖騎士の鎧ならアークですって一発ギャグを噛ませるんだけど、これは無理。
むしろ、黒い霧のようなものを周囲に纏っていて、本当に死神そのものだわ。
「知らん。それが、対使徒破壊術式の影響なのかなんなのか、妾にもわからんわ。それで、いけるのか?」
「俺は大丈夫だが?」
そう呟いて祐太郎と新山さんを見るけど。
すでに祐太郎は満身創痍。
怪我はそれほどじゃないようだけど、なんやら動きが鈍いように感じる。
そして新山さんも、元気そうに見えるけど疲労困憊なのが雰囲気で分かる。
「うん、新山さんと祐太郎は、ここで待機してくれるか? 俺の代わりに、先輩のガードをお願いしたいんだけど」
ただ待っていてくれって言っても、無茶するのがわかっているからさ。
だから、ここの守りをお願いしたんだけど。
「そうさせてもらうわ。まあ、使徒の様子から察するに、これ以上は大きな戦闘はなさそうなんだろ?」
「わ、私は……はい、ここで待機します」
「うん、助かるわ」
なにせ、これから向かう場所はオールディニックの封印場所だし、状況を確認次第、再封印を施さないとならないからさ。
そんな危険な場所に新山さんを連れて行くなんて、おっそろしくて出来ないわ。
「そんじゃ、行くのは俺一人?」
「妾も同行しようぞ。何せ相手が相手じゃから、妾の知識を必要とすることもあろう」
「では、二人をオーストラリアのウルル手前に転移させますよ。よろしいですね?」
先輩、何をいきなり、そんな事を。
いや、その、強制転移の術式を教えてください。
そうすれば、今後も移動時間が短縮されるからさ。
「まあ、ここからなら可能か、頼むぞよ」
「はい。では、転送を開始します」
その言葉の直後、俺と白桃姫の周囲に魔法陣が展開し、俺たちは一瞬でオーストラリアに転移した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──オーストラリア・ウルル麓
白桃姫と俺は、一瞬でウルルの手前に転送された。
さて、ここからが正念場だよなぁ。
「まずは、封印状況を確認しよう。イオの杖を生み出せるかや?」
「イオの杖? あ、この術式か」
右手から圧縮された魔術式の鎖を取り出す。
それを杖の状態になるようにイメージすると、一瞬で鎖が杖に変化した。
「おおお!!」
「では、その杖に魔術を通して、そこから肉体に魔力を循環。その状態で、鑑定眼を使ってみるが良い」
「お、おおっと、こうか?」
杖も体の延長として捉え、魔力を静かに循環させる。
その状態で天啓眼を発動したら。
『ピッ……超神封印術式、稼働率47.5%。封印破損率52.5%。内部封印対象・オールディニックを確認。かのものの損耗率99.856%、意識混濁、強制仮眠状態……』
うん。
俺の目には、ウルルではなく巨大な黒い悪魔のような女性が倒れているように映っている。
そこに幾重もの鎖が絡みつき、彼女を中心とした結界の中に引き込まれている。
あの鎖で結界に固定され、身動きが取れないんだろうなぁと理解できたし、ほぼ死亡フラグ満載なまでに衰弱している。
「なあ、白桃姫。実は……」
淡々と、俺が見たものを説明すると。
白桃姫が腕を組んで空を見上げる。
「な〜んで、そんなに損耗しとるのじゃ?」
「封印するときに弱らせたんじゃないのか?」
「戯け。ここまで損耗してあれば、妾の魔術でトドメが刺さるわ。まあ、神威を伴わせればの話じゃが。それで、どうするのじゃ?」
どうする?
え、どういう事??
それよりもさ、白桃姫がなんで驚いているの?
魔族を封印するときって、弱らせて封印するよね?
「……これ、今なら倒せるから、杖の力で破壊する……っていう選択をすると、間違いだよな?」
「擬態か。倒すには封印を外さねばならぬからなぁ。そこで封印から解放されたときに、妾たちを食らって完全回復、ありそうじゃな」
「それじゃあ、再封印するよ?」
俺の言葉で、白桃姫が頷く。
ゆっくりと神威を練り込み、そらを杖に送り出す。
この時点で、結界の向こうのオールディニックがピクリと動いたところを見ると、本当に俺たちを騙す気満々だったようだな。
「我、神々の力を以て、かのものを封じる。遥かなるとき、光の彼方。星の力と古の契約に基づき、オールディニックよ、未来永劫、封印の中で眠るがよい!!」
『くそぅ!! この雑魚どもがぁぁ。もう少しで、貴様らを騙し切れたのに。力を奪ぬぉぉぉぁぉぉぁ』
オールディニックの絶叫。
ガシッガシッと封印の鎖を引きちぎろうとするが、俺の唱えた術式によりさらに鎖が生えていく。
口元も封じられ、何言葉を紡がなくなると、オールディニックの姿が魔法陣の中へと引き摺り込まれ始めた。
「何やら、不穏当な話をしていたようじゃが?」
「力を奪……ってやろうとしたのに、ってところか? 封印されたものが、俺たちから力を奪うことなんてできるの?」
そう問いかけても、白桃姫は頭を左右に振るだけ。
「封印された対象が外部に干渉することなど、妾が知る限りでは誰にも出来ぬわ。あやつが妾たちを謀ろうとしたのかも知れぬな」
「そうだよなぁ。そんなことができる奴がいたとしたら? それこそ神様くらいだよなぁ」
さらに意識を集中して。
オールディニックが魔法陣の中に完全に引き込まれるまで、神威を注ぎ続ける。
そして姿が消えた直後、魔法陣にさらに別の魔法陣が浮かび上がり、全ての術式を完全にロックしてスッと消えた。
目の前には、夕日に染まるオーストラリアの風景。
広大な大地が、果てしなく広がっていた。
「……ええっと。白桃姫さんや? ウルルは、エアーズロックはどこに?」
「どこにも何も、ウルルとやら自体がオールディニックの本体であり封印術式ではないか。それを、お前が新しく作り出した封印術式に飲み込ませたのだから、消えるのは道理ではないか?」
うん。
俺、ウルルを、エアーズロックを消したらしい。
「あ、あは、あはは……撤収!!」
──ヴン
俺の叫びと同時に、足元に魔法陣が展開。
一瞬で永宝山地下空洞まで帰還すると、先輩と新山さん、祐太郎もモニターを見て呆然としていた。
「これより、全ての監視映像から乙葉君の痕跡を消去します!! 我が魔力と龍脈よ、私に力を貸してください!!」
これまでにない速度での、証拠隠滅。
そして俺も体力と神威が限界まで削げたので、その場で大の字になり、やがて眠ってしまった……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




