第三十三話・秋茄子は珍味佳肴(ご賞味ください異世界を‼︎)
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間も無く夏休みが終わる。
とは言っても、もう少しだけ、ほんの少しだけ余裕がある。
全てを忘れて夏を謳歌していた若者達は、宿題という現実のもとに土下座を強いられ、早々に宿題という名の枷を外した者たちは、残りわずかな時間を、まるで燃え尽きる前の蝉のように、若い情欲を発散すべく日々ナンパに明け暮れていた。
俺には関係ないんだけどね。
……
…
札幌駅前にそびえ立つタワーマンション、『ティロ・フィナーレ』
この最上階が俺の購入したマンション。
凄いよ、最上階って三軒しか無いんだよ?
そのうちの三軒目がうちさ。
しかも全て別のエレベーターで移動するんだよ?
大切なことだからまた説明したよ?
「という事で、今回は勉強会です」
「なあ、オトヤン、いつも思うのだが、誰に向かってナレーション?」
「様式美だねぇ。という事で、新山さんは早く宿題を終わらせてください」
「ふぁぁぁい」
因みにだが、現時点で俺と祐太郎、瀬川先輩は宿題をコンプリート。
いくら学業エキスパートでも、今時時代錯誤な読書感想文は難易度が高かったのだが、正直な感想を書いたのでよし。
『正直、この小説にはがっかりだった。前情報は評価が高かったものの、いざ読んでみたら俺の好みの作品ではない。時間の無駄であった』
これが、俺の読書感想文。
いやさ、どんな名作でも読む人が共感しなかったらその人にとっては駄作だし、それを褒めちぎるようなものは感想文ではない。
因みに俺は、現国の問題で『作者の気持ちを答えなさい』という問題にも『俺は作者じゃないから解りません』と書いて職員室に呼び出されたよ。
いくら現国教師が推しの作家であったとしても、俺は作者じゃないから無理。
結果、淡々と話し合いは続き、丸を貰ったけどね。
それ以降、現国の教師には目をつけられたのよ。
「….オトヤン、この感想文、真面目に提出するのか? 大丈夫か?」
「なんで? この作者、俺はよくわからないしさ」
「課題図書を変えるとか?」
「無理。ちゃんと一つ選んで書いたんだから、文句を言われる筋合いはない。俺は、心の赴くままに感想を書いた、それだけだ」
──クスッ
俺と祐太郎の話を聞いて、ソファーで小説を読んでいた瀬川先輩が笑っている。
「去年の高遠さんも、乙葉君と同じことをしていましたよ。現国の笹原先生も2年連続同じ思考の生徒に当たるとはね……」
「ほら、どうだユータロ。俺は間違いじゃなかった。それよりもユータロの感想文はどうなんだよ?」
思わず祐太郎の感想文を見て、俺は頬を引きつらせたね。
現代文学の一つ、小林多喜二の蟹工船。
それを『添削』して現代ラノベ風に描き直しやがったよ。しかも、表現や設定までラノベ調にしやがって。
カニアーマー着けて蟹光線叩き込むぞ‼︎
「ううう、みんなが楽しそうだよぉ。遊びたいよぉ」
「うわぁ、普段真面目な新山さんが壊れたぞ」
「よし新山さん、今日中に全て終わらせたら、明日はみんなでプールに行こう‼︎」
──ドドドドドドダダッ
あ、新山さんのエンジンに火がついた。
その調子で頑張ってくれ。
『おや、今日はお客さんが大勢いるねぇ』
何もないところから声。
それはつまり。
「綾女ねーさんですか。どうしてここに?」
『この前話していただろう? 何かあったらここに逃げろってね。だから下調べに来たのさ』
「理解。何かあったのかと思ってドッキリしたよ」
『まあ、何もないから安心おしよ。それじゃあね』
部屋の中から気配が消えた。
本当に顔を出しただけのようだから一安心だよ。
でも、今のやりとりで新山さんの顔が真っ青になっている。
綾女ねーさんは受肉できないから姿は見えないんだよね。そりゃあ声だけ聞こえてきたら怖いわ。
「乙葉君、今のって、話にあった妖魔なの?」
「そうだよ。俺たちの理解者で協力者の妖魔さ。さて、真面目に勉強している新山さんのために、昼飯でも作りますか」
「私も手伝いますか?」
おおっと、優しい先輩。
でもさ、今日はちょいと裏技なのよ。
「いや、ここは俺に任せてよ。カナン魔導商会で食材を購入して、こっちの世界では食べられないものを作ってみるからさ」
「それじゃあ、俺は新山さんの宿題の手伝いでもするか。分からないところがあったら聞いてくれ」
「は、はいっ‼︎」
部員同士の交流は大切だよね。
そのうち美馬先輩や高遠先輩たちも、一緒に笑える日が来るといいなぁ。
そうニコニコしながら、俺はキッチンへと向かう。
……
…
さて、開きましたるはカナン魔導商会、食材コーナー。先に予備のダイヤモンドを一つ査定に出してチャージ。これは完全に錬金術だよね。
鉛筆がダイヤモンドに変化して、それが億単位で取引される。
まあ、今日のやつは小さめなので、この査定金額を上限として食材を集めようそうしよう。
あら、こんなところにワイバーンの腿肉が。
異世界のスパイスもあったから纏めて購入して、国産ヨーグルトと混ぜてから一口大の腿肉を漬け込む。
今日はスパイシーザンギと洒落込みましょう。
両親が単身赴任の一人暮らし生活者ゆえ、料理の腕は上がるのだよ。宅配食材業者のレシピでは、とっくに満足していないので俺流にアレンジしているのだよ。
でもさ、スキルにならないんだよね。
なんでだろ〜なんでだろ〜、なんで〜だなんでだろ〜。
「腿肉は漬け込んだ。ご飯は炊いた。付け合わせのキャベツの千切りも作った。これじゃあ足りないよな…」
再び食材コーナーを開いて、何か面白いものを探す。
あ、シーサーペントみっけ。
これを購入して……おお、ちゃんと捌いてあるのもあるのか、面倒だから切身になったシーサーペントを買ってさ、そのままフードプロセッサーにドボン。擦り下ろした生姜と酒、みりん少々、塩も少し入れました。
──キュルルル
どんどんミンチになっていく。
これを繋ぎで卵と片栗粉、よーく混ぜます。
出来上がりを丸めて、中華スープに落としてつみれ汁の出来上がりでござい。
窓全開だから、とんでもなく美味しそうな香りが外にまで流れていく。
いや、この匂い、今まで嗅いだこともないぞ?
ワイバーンのザンギを揚げているだけで、涎が落ちそうになるぞ?
こんなの体に悪いわ、味見しなくては。
──サクッ、ジュワァァァォ
濃厚な肉の味。
そうか、ワイバーンってこういう味なんだ。
旨味のギュッと詰まった、歯応えがあって、それでいて一定方向にはサクサクと簡単に噛みちぎれる繊維、その隙間から流れてくる肉汁、スパイスとヨーグルトが臭みを消して、旨味だけが口の中に広がる。
「いかん‼︎ 一つで我慢だ、こんなのいくらでも食べられるわ」
ここは心を鬼にして、急いでランチを仕上げましょうそうしましょう。
………
……
…
ティロフィナーレ札幌、4102号室。
私たち親子は、この最上階に住んでいます。
最近、隣に学生さんが引っ越してきました。
親子で見にきていたので、家族で引っ越しなのかなぁと思いましたけど、引っ越し後に一階ロビーのインターホン越しにご挨拶にいらっしゃったときには、息子さんが一人で住むと聞いて驚きでした。
まあ、親御さんがお金持ちで、投資目的で購入して子供に住ませているのかなぁと思います。
ん?
この匂いは何かしら?
唐揚げ? それもスパイシーな香り。
ジャークチキンでもないわね?
やっぱり唐揚げかしら?
「お母さん、今日のお昼はザンギ?」
「今日はお母さん特製のオムライスよ。待っていてね」
「は〜い」
優しい夫、可愛い息子。
私は今、幸せ絶頂期です。
あら? 今度はなんの香りかしら?
魚? つみれ汁?
まさか、ここまで香りが来るなんて信じられないわ。
それに唐揚げの香りが、さっきよりも強いわ。
これ、本当に鶏肉なの?
「お母さ〜ん。今日のお昼はザンギじゃないの?」
「お母さん特製のオムライスよ。それともザンギが良いの?」
「ザンギが良い‼︎」
「わかったわ、それじゃあ少しだけ待っていてね」
はぁ。
私特製のオムライスが、お隣のザンギの香りに負けたわ。
まあ良いわ、私もオリジナルのレシピがあるから。
すぐに作るから待っていてね。
ほら完成。
さぁ、お昼にしましょう。
「わーい、ザンギだ‼︎ いただきまーす、パクッ」
「どう!美味しい?」
「……美味しい」
あら、返事の前の間はなんでしょう。
でも、私も思うわ、隣のザンギは香りがおかしいもの。
あら? 息子が鼻をひくひくしているわ。
まさか、隣のザンギの香りで、私のザンギを食べているの?
は、敗北……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「よし、ランチ完成。さぁ、みなさんダイニングに集まって……」
「待ってました‼︎ もう、ずっと匂いだけで死にそうになったわ、ようやく食べられるぞ‼︎」
「乙葉君の手作り……乙葉君の手作り……」
「うん。うちのメイドが作ってくれるザンギよりも、香りが高いわね。それに……なんでしょう? 海の香り?」
「まあまあ、まずは食べてみて。感想はいらない、美味しいの一言だけで良いから‼︎」
ダイニングに移動して、さあ、みんなで食べよう。
「「「「 いただきまーす 」」」」
──パクッ
はい、皆さん時間が止まりました。
一口齧っただけで、目を丸くしております。
そりゃそうだ、おれもそうなったからなぁ。
「飲み干して、そしてつみれ汁を一口……」
俺の言葉に促されて、皆がつみれ汁を飲む。
浮いているつみれを齧り、口の中に広がる味わいを堪能する。
はい、言葉がなくなったわ。
そこから先は修羅の世界。
門でも刻でもどっちでも良いぐらいに修羅の世界が広がった。
皆さん黙々とザンギを頬張り、つみれ汁をお代わりし、ご飯も追加する。
ただただ、食べるという本能に己の身を任せた若者の姿が、そこにはあった。
──カチャン
「ふぅ……こんな旨いもの初めて食べたわ、ご馳走さま」
「わ、私もです、乙葉君、レシピを教えてください」
「私も是非、この味をご教授頂きたいですわ。うちのメイドにお願いして再現してもらいたいので」
あ、そうなるか。
それじゃあということで、一通りのレシピを教えてあげたよ。
「え? ワイバーンの腿肉?」
「つみれはシーサーペント?」
「それって、オトヤン、まさかカナン魔導商会で買ったのか?」
「いえーす、どうだまいったか。逆ム○ーダさんだぜ、俺にはフ○ルやド○ちゃんやス○はいない。だから、食材を買ったのだよ、ネットスーパーで‼︎」
三人の茫然とした顔。
これだ、これこそがネットスーパースキルの真骨頂だよ。
「な、なあ、オトヤン、ム○ーダさんの場合はな、異世界の食材を食べたらステータスが向上したよな? そこは考えていたのか?」
「あ……」
沈黙。
「「「 そこまで考えてなかったのか!!」」」」
慌ててステータスを確認する祐太郎。
俺も自分のものを確認してから、すぐに瀬川先輩と新山さんのステータスを確認したよ。
結果としては、何も変わっていなかったんだけれど、午後の勉強会では、みんなが昼に食べたワイバーンのザンギとシーサーペントつみれ汁を思い出してはニヘラッと笑っていたよ。
新山さんに至っては、宿題が何一つ進まず、ボーッとランチを思い出してはヘラヘラと笑っていたからなぁ。
こりゃあ、異世界の食材はしばらく禁止したほうが良いのかなあ。
「あ……匂いが外に流れていたけれど、まあ、匂い程度なら大丈夫だよな、セーフセーフ」
そう考えていたのは俺だけだったかもしれない。
なお、時同じく、札幌駅前周辺では、謎のザンギを求めて大勢の市民や観光客が地下歩行空間やエキチカ商店街を徘徊していたことは、いうまでもない。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りづらいネタ
魔法少女ま○か・マギカ
蟹工船 /小林多喜二
セブン・フォ○トレスリプレイ集 /キ○タケ氏




