第二百九十四話・重見天日?禍福は糾える縄の如し(当事者は、語る。語らせてお願い)
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乙葉浩介と築地祐太郎の二人が東京で話し合いをしていた時間。
同じように札幌では、新たなる使徒が猛威を払い始めている。
──シュタタタタッ!!
札幌市中央区。
中島公園内をススキノに向かって疾走する女性が一人。
「うわうわうわぁぁぉぁ。何よこいつら、私の巫術が全く効かないじゃない!」
主人であるマグナムの魔人王即位。
そのために暗躍していた黒龍会幹部の一人、藍明鈴は、見たことのない漆黒の魔族に襲われていたのである。
これがオールディニックの使徒である事など、明鈴は把握していない。
ただ、この前の魔人王による魔将お披露目の儀を見て、あわよくば自分も魔将になれたらと札幌市内を徘徊していたのである。
この地には、乙葉浩介がいる。
奴ならば、新たな魔人王の正体ぐらいは知っているのではないかと学校に張り込んでいたのだが、あいにくの冬休み。
彼の出入りしそうな場所を探し、ひょっとしたら妖魔特区に顔を出すのではないかと周辺で待ち伏せしていたところを、突然の襲撃である。
「グゲグキョグゴガガゴガゴゴ!!」
到底、言語とは思えない声を発しつつ、使徒が飛んでくる。
黒く塗りつぶされた、一つ目のガーゴイル。
そう形容するにふさわしい使徒は、さらに加速して明鈴へと間合いを詰めると。
──ジャキン!
その腕を刃のように変形させて、明鈴を切り刻もうとしたが。
「火相剋!!」
何処からともなく声が聞こえてくると、使徒の体の真下から火柱が生み出され、使徒を上空へと吹き飛ばす。
「な、この技は馬導師! だれが助けてって言ったのよ!」
「相変わらず口の汚い小姐だな。礼の一つも言えないとは」
近くの木陰から姿を表す馬導師。
そしてコートの裾から大量の呪符を放出すると、右手で印を組み呪符を操作する。
「あれが発するは金の気。故に火の気により封じれば、脅威ではない……フン!」
人差し指と中指を束ね、下を指差す。
そしてくるりと回して空に向かって指を突き上げると、呪符は次々と下に飛んで行き、張り付き、動きを封じ始める。
──ミシッ、ミシミシッ
全身を呪符だらけにされた使徒。
だが、貼り付けられた呪符もミシミシと音を出し、所々が千切れ始めている。
「やったわね!! あんたはいけすかないけどやるじゃないのよ」
「……話には聞いていたが。ここまで頑強だとは思わなかったな」
明鈴が褒め言葉にもならない世辞を告げるが、馬導師は帽子を深々と被り、使徒に向けて背中を見せる。
「小姐……走るぞ」
「え、嘘、どういう事?」
──ブッチィィイィィィン
使徒の体を締め上げていた呪符が、突然弾け飛んだ。
千切れた呪符が燃え焦げ落ち、使徒本体は頭をコキコキと左右に動かしつつ、馬導師たちを睨み上げる。
──ニィッ
ひとつ目が笑みを浮かべ、口角が吊り上がる。
「ちょっと!! あれはなんなのよ! 早くなんとかしなさいよ」
「小姐の呪符でどうにかできないのか?」
「私の呪符は式鬼術。といっても僵尸ぐらいしか使えないけど。貴方こそ、その巫術でどうにかしなさいよ」
二人並んで走りながら叫ぶ。
最も、ドタドタと慌てながら走っている明鈴にたいして、馬導師は走っておるそぶりはなく、普通に歩いているように見える。
それが仙術や闘気法の縮地に似た効果であるなど、明鈴には知るそぶりもないが。
「あいにくと、札は使い切った。それよりも援軍だな」
「援軍?」
中島公園のススキノ寄り。
人形劇場の向こうは妖魔特区の結界壁。
その手前に、着物姿の女性が一人。
「力を借りたくない相手ではあるが、仕方あるまい」
「え、ちょっと待って!! あれって」
そう叫ぶ明鈴の横を、着物姿の女性が通り過ぎる。
「ほう。マグナムの手下ではないかえ。良くもまあ、あやつ相手に無事とは。さて、詳しい話を聞きたいから、後ろに下がっておるが良いぞ」
すれ違いさまに二人に話しかけてから、着物姿の女性……綾女が使徒と邂逅する。
「物語でしか聞いたことのない、歪なる神の眷属か。よもや、この時代にこの地にて会おうとは思わなんだ……」
綾女が右手を横に伸ばす。
その無防備に見える綾女目掛けて、使徒が襲い掛かるのだが。
──シュンッ
右手を左に向けて振り抜き一閃。
その刹那、使徒の体が五つに刻まれた。
振り抜いた綾女の右腕は巨大な筋肉質の腕に変化しており、さらに爪が刃のように伸びている。
綾女ではなく、羅刹。
その姿を後ろから見て、明鈴は意識を失いそうになる。
「は、ははぁ……魔神・羅刹がこんなところに……ガクッ」
あ、落ちた。
口から泡を吐き、明鈴がその場に力無く崩れ落ちる。
「羅刹大姐。窮地を救い頂き、ありがとうございます。ひとつ、教えて欲しいのですが」
明鈴などその場に放っておいて、馬導師が綾女に頭を下げつつ話しかけると。
「そうさねぇ。こいつらの正体に詳しいのは、こいつの主人を封じた魔皇の一人。神楽さまじゃないかねぇ。わたしも、神楽さまに仕えていた時代、酒宴で聞いた話しか知らないからさ」
「御神楽さま……ですか」
「ええ。こいつらの力を欲していたディラックといつも意見が対立していたらしくてね。遥か昔に異界放逐したこいつらの主人の事でも話が合わなかったらしい。まあ、結果としてディラックの手で神楽さまもこっちの世界に封印されちまったからさ」
──ゴクッ
魔大陸でも伝説でしかない存在。
そのオールディニックについては、綾女ですら口伝にしか知らない。
「いずれにしても、オールディニックとやらの眷属が蠢いているっていうことは、本格的にこっちの世界もヤバくなってきたってことだねぇ。本当に、タイミングが悪すぎるよ、あの子たちは」
「あの子?」
「こっちの話さ。さて、こいつらの死体は放っておいても邪魔になるからね。私の方で処理しておくから、その子を連れて離れた方がいいよ」
「谢谢啦。では、私はこれで失礼」
転がっている明鈴を担ぎ上げて、馬導師は公園から離れる。
そして綾女はバラバラになった使徒の死体を空間結界の中に放り込むと、その場を離れていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──札幌・妖魔特区
東京での話し合いも終わり。
俺は札幌に帰ってきた。
その翌日、小澤から聞いた話を皆に伝えるために札幌テレビ城までやってきたのはいいんだけど。
「随分とゲストがお集まりのようで。ひょっとして、みんなも黒ガーゴイルに襲われた口か?」
朝イチで集まったら、すでに白桃姫と綾女ねーさん、リナ坊と沙那さんが集まって話をしておりましたが。
「乙葉先輩! ちーっす」
「おはようございます、乙葉先輩。もう少しで新山先輩と瀬川先輩もいらっしゃいますよ」
「そかそか。ちょうど連絡しようと思っていたからナイスタイミングだ。それで今はなんの話?」
腕を組んで空を見上げている白桃姫に問いかける。
まあ、大方の予想は付くんだけどさ。
「オールディニックの使徒について。綾女殿も偶然じゃが、使徒に襲われていた魔族を助けたらしくてな。それで話を聞こうかと思ったときに、リナ坊らもきたのじゃよ」
「リナ坊……うーん。白桃姫師匠は許す」
「なんの話?」
まあ、リナちゃん呼びの拘りだろうけど、今は保留。
「私の家にも使徒が来ました。目的はメフィストフェレスの魔人核かと思ったのですが」
「それか、二人の持つ魔将紋のどちらか。まあ、一箇所に魔人核クラスのものが三つもあれば、そりゃあ襲いにくるわ。話ってこの関係なのか?」
「さすが乙葉は察しがいい。と、小春たちも来たぞよ」
ふと見ると、手を振って飛んでくる新山さんと瀬川先輩の姿もある。
「乙葉くんも来ていたのですね」
「連絡を入れようかと思っていたところでしたから、ちょうど良かったです」
「俺も来たばっかりだからさ。それじゃあ、お互いの情報から擦り合わせていこうか」
ここから先は説明タイム。
使徒に襲われた話などを次々と聞き、先輩は深淵の書庫で全てを処理。
新山さんと先輩が襲われなかったのは、おそらくは偶然なのだろう。
なんといっても、この札幌市には巨大な対魔族障壁結界がある。
こいつが発する魔力量だけでも、膨大すぎるのだろう。
その魔力に当てられて、新山さんや先輩の魔力が霞んでいたのかもしれない。
「なにがディラックは心を痛めていただ。オールディニックの力を欲していただけじゃないか」
はい、小澤の嘘を発見。
でも、それ以外の部分は真実だったらしい。
綾女ねーさんの話と白桃姫の話から、オールディニックを封じた魔皇の一人が御神楽さまってことも分かった。
そして問題なのは、小澤の提案だった魔族の避難について。
「オールディニックは人間の魂を糧とするが、その前に魔族を喰らう。魔族を助けて欲しい……小澤はそう話していた。まあ、そこから嘘は感じなかったけど、何処まで信用して良いのかわからない」
「ディラック派の魔族は厄介じゃからな。未だにディラックの復活を目論んでおる……そのためなら、オールディニックの使徒すら利用しかねないぞ?」
「でも、結界内部に避難させることについては賛成ですわね。この結界を破壊できる存在なんて、深淵の書庫でも導き出すことができませんでしたから」
一つ一つの話を纏めていく。
そこで気になったのが、悪魔について。
「オールディニックは悪魔なんだよな? でも、俺たちの世界じゃメフィストフェレスは悪魔なんだよ。その違いってなんだ?」
「簡単じゃよ。乙葉ら裏地球の人間の指す悪魔とは、妾たち魔族を言う。そして妾たち鏡刻界の人間のさす悪魔とは、封印大陸の使徒を指す。そもそもの前提条件が違うぞよ」
この説明には、先輩たちも頷いている。
どうやらその辺りの説明は白桃姫に聞いたらしい。
「サタンやら、ルシファーやら。魔皇に同じ名前のものが存在するわ。もっとも、奴らは『原初の魔族』であり伝説の魔皇。そのようなものたちだからこそ、偶然発見された召喚陣でこちらの世界に呼び出されたりしたのであろうなぁ」
「うわ、悪魔の正体見たり魔族。あっちも悪魔ってややこしい」
「リナちゃんから提案。封印大陸の使徒は『イヴィル』って呼ぶのはどうでしょうか?」
リナちゃんの提案のイヴィル。
邪悪なるものっていう意味なので、この場合は適切な表現であるといえよう。
「そうね。総称としてイヴィル。その使い魔は使徒。そして対応策については、物理的な攻撃力、神威を伴う武具が必要。でも、それは私たちの世界には少ない」
先輩が一つは立つを確認するように説明してくれる。
「乙葉くんの生み出すミスリルでは、意識を乗せることができないので効果的ではない。そして使徒の総数は少なく、常に襲われるような緊急性はない。この日本で確認できたものは、現時点で五体。警戒しつつも、今後の対応策を考えるしかありませんか」
そう、すぐにどうこうすることができない。
ただ、日本だけでなく世界各地でも同じように魔族の消滅事件は発生している。
そうなると、いつかオールディニックの封印が解かれてしまう恐れがある。
「リナちゃん提案。対オールディニック兵器のムー大陸を動かして、先に封印が解ける前の弱っているオールディニックを滅するというのは?」
「ふぅむ。ムー大陸の兵器がなんであるのか、それすらわからん。場所ぐらいならミヤビは調べたのであろう?」
そう白桃姫が問いかけると、先輩が苦笑している。
「はい。太平洋上の島々にある中規模水晶柱。あれがムー大陸を示す道標のようなものなのですが、ここ数日、そのあたりで中国の特殊部隊の姿が見え隠れしているようでして……正確には、中国の特殊部隊・蛟龍をはじめ、各国の特殊部隊が、ですけれど」
「え? なんで?」
「わかりません。流石にそこまでは調べられず、怪しいと思った中国については深淵の書庫に対する術的プロテクトが施されていて確認できないのです」
え?
世界最強の情報収集術式・深淵の書庫をはじく防壁?
それって怪しくない?
「そっち方面については、こちらでもさらに調査を続けますけれど。使徒の対応については、未だ確定事項は出ていませんので調査をお願いしてよろしいですか?」
「そうじゃな。まあ、少し警戒しつつ、使徒が出たら連絡する。小春とミヤビ以外はは単独撃破可能じゃが、無理をしないように」
「了解」
この場の話し合いとしても、これが精一杯。
魔族の避難については、綾女ねーさんが主導で喫茶・九曜の蔵王さんとかも手伝ってくれることになった。
それでも、全ての魔族を結界内部に匿うことなど不可能だし、そうなったら使徒はどうするのか、そこまで考えて対処する必要もあるよなぁ。
明日から三学期、バレンタインデーも来るっていうのに、殺伐としすぎているよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




