第二百九十一話・前途多難。三遍回ってコーラでしょ(共闘作戦?いや各個撃破)
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──ドッゴォォォォォォン
壁に叩きつけられた車が、音を立てて崩れていく。
周囲では、突然車が浮かび上がり、壁にぶつけられたのを見て逃げ惑う人々が後を絶たない。
建物にめり込んだ車両からはガソリンが漏れ、いつ爆発するかもわからない事態である。
いったい何が起きたのか、それは少し前に遡る。
………
……
…
赤坂見附の割烹『華はじめ』、そこで打ち合わせをしていた築地晋太郎議員らの護衛のために、築地祐太郎は同席していた。
と言っても祐太郎は隣室で他の議員や重役の護衛たちと待機、万が一の時には動けるようにしているのだが。
「……まさか、今回の相談の相手がヘキサグラム関係とはなぁ。道理で、あんたらがここにいる訳か」
「イェース!! オトハコースケには以前、会って話をしたことがありますが、ツキージとは久しぶりデス」
「俺の命を助けてくれるように尽力してくれたのも、築地だったな、改めて礼を言う」
ヘキサグラムから派遣されてきた護衛は、セクション・シックス『対妖魔機動部隊・魔導チーム』のキャサリンとマックス、そして機械化兵士から『ハーリィ』と呼ばれている老齢の戦士。
築地晋太郎議員のSPは俺と第六課の退魔官の武田たまきさん、峰岸平助さんの二人。ちなみに平助さんは、忍冬師範の師匠にあたる方らしい。
他にも数名の議員の護衛が詰めているのだが、みな、周囲に気を配っているせいか、真剣な表情である。
「いや、俺は俺のできることをしただけだからな。まあ、無事で良かったとは思うし」
「お陰デ、今は魔導チームとしてヘキサグラムに所属していマス」
「まあ、そっか」
それは良かった。
闘気治療でできることの限界、それを越えたかった。
いろいろな出来事に巻き込まれ、魔障中毒を越えることもできた。
暗黒闘気を身につけたものの、まだ完璧なコントロールは難しい。
でも、少しずつ慣らしているから、こんなこともできるようになっている。
──ピン
この『華はじめ』を中心に、蜘蛛の巣状に闘気の糸を広げている。
そこに触れるものは自動的に、ルーンブレスレットの鑑定スキルで判別することができる。
そして今触れたものは、『アンノウン』という表示が出ている。
魔族なら魔族、人間なら人間。
しっかりと判別可能なのだが、今回は別。
「敵襲警戒。場所はこの割烹の裏、ビル群の路地。距離126m、数は二つ」
──ガタガタガタッ
護衛たちが同時に立ち上がり、警戒を始める。
キャサリンは右手で印を組みつつ、左手は鉄砲のような形をとって、俺の告げた方角を指している。
マックスは傍のアタッシュケースを開き、二本のミスリルショートソードを構える。
他の護衛たちも銃を構えたり、コンバットナイフを取り出している。
「一つは現状維持、もう一つは高速で接近中デス!!!!」
「確認している。築地祐太郎、出る」
──タン
襖を開き高速で走る。
廊下を駆け抜けて裏口へ。
飛び出すと同時に靴を換装し、前方から飛来する黒い異形の存在に向かって拳を構え。
「ブライガァァァァア」
──ガギィィィン
黒塗りのガーゴイル、巨大な一つ目と、ぬるりと黒い色の皮膚。
そして鋭く伸びた爪が腕ごと刃に変形し、俺を切り裂こうとしたが。
その一撃は左腕に生み出されたブライガーの籠手で弾き飛ばし、俺は右掌に闘気を集めてから。
「三の型・闘気疾走っ」
掌底を黒塗りガーゴイルの腹部に叩き込む。
だが、この一撃が体表面の黒い部分に触れた途端に弾かれ、周囲に拡散する。
「なっ、なんだフベシッ」
──ドゴッ
驚いた俺の顔面を、黒塗りガーゴイルの右裏拳が直撃。
瞬時に体を曝したものの、頬に直撃してしまう。
「ペッ……奥歯が一本持っていかれたかよ。魔法薬で治るかな、これは」
口の中が切れ、奥歯が折れた。
それだけの打撃を受けても致命傷にならないのは、普段から体表面に闘気の膜を形成しているから。
それでも衝撃が伝わってくるということは、こいつらの攻撃は今までの妖魔とは違うってことだろう。
「全く、厄介だ……って、待て待て!!」
俺の目の前の黒いガーゴイルではなく、奥の方にいるやつ。
いきなり近くに止まっているワゴン車の扉をぶち抜いたと思ったら、車体の下を掴んでゆっくりと持ち上げている。
──ミシッ、ミシミシッ
自重にフレームが曲がるかと思いきや、それよりも先に俺たちに向かって車を投げつけてきたぞ!!
──ドッゴォォォォォォン
そして冒頭に戻る。
この騒動で、大勢の人が逃げ惑い、大通りの方に向かって走って逃げていた。
俺たちの背後では、『華はじめ』から逃げる客や従業員、そして建物にめり込んだ車からガソリンが溢れてきて……。
「いや、まさかだろ?」
「ハイ築地。一人は抑えマス、一体は引き受けてくだサイ!!」
「ミスリルソード、展開!!」
キャサリンが印を組み韻を紡ぐ。
そしてマックスは両手のショートソードを空中に投げると、それをコントロールしてガーゴイルに向かって飛ばし始める。
「待てキャサリン!! ガソリンが漏れているから炎は使うな!! それよりも早くここから逃げるぞ」
「シット!! そこまでやりますか、この化け物は」
「築地。ここでは場所が悪すぎる、どこか広い場所はないか?」
「広い場所って、待て待て待ちやがれ!」
──ガギンガギン!!
一体が新たな間合いを詰めてきて、次々と腕の刃で切り掛かる。
それを籠手で弾くたびに、火花が飛び散るってやばすぎるわ。
「ハイ、二投目がきまシタ!!!!」
「レッツ、スライシング!!」
奥のガーゴイルが二台目の車を投げてくる。
それをマックスが飛んでいるショートソードで真っ二つにすると、そのままガーゴイルに向かって間合いを詰め、素早く乱撃を開始した。
そして左右に向かって飛んでいく車体は、キャサリンが魔法で空中に固定し、ゆっくりと降ろしていく。
これはまた、息のあったパートナーだことで。
──ピッピッ
ルーンブレスレットが反応する。
オトヤンからの念話が届いた。
『こちら乙葉。今、黒いあんちくしょうに襲撃を受けて迎撃、のち封印完了。新山さんと先輩は何もありませんか?』
『新山です。私は家の中にいたので、特に何も変化はありませんよ。外にも何もいませんね』
『私の方も、特に何もありませんわ。築地くんはどうなのかしら?』
「バトル、なう!!」
なんだよ、向こうもバトル中かよ。
『祐太郎、今どこだ?』
「赤坂だ。親父のSPで、何処かの派閥の会合だとよ。隣室で待機していたらいきなり襲われたわ」
『手がいるか? 二十分で到着するぞ』
「いや、幸いなことに強い味方? がいたからな。もう終わるが、封印なんてできないから処分する。そのまま第六課に回すのでよろしく」
さて。
今の話から察するに、オトヤンは終わらせたんだよな。
「ふぅ。こりゃあ本気でいくしかないよな……ブライガー・神威モード」
──ヴン!
両手のブライガーの籠手が青く輝く。
なんのことはない、闘気を弾くのなら、それ以上の攻撃を繰り出せばいい。
ブライガーの籠手は、神の加護の塊。
つまり、神器。
そこに闘気を流し込み、ブライガーの籠手自体を強化する。
あとは、全身の神経節を闘気によってブースト、肉体の限界点を一気に超える。
「闘気加速」
──カチッ、カチッ、カチッ
左右の籠手に数値が浮かび上がり、カウントダウンが始まる。
そしてガーゴイルの動きがスローモーションに変化するので、俺は籠手で力一杯、ガーゴイルをぶん殴る。
闘気技はこいつの体表面で弾くことが分かったので、とにかく物理的にぶん殴るだけ。
神より授かった武具だ、効かないわけがないよな。
──ドゴッドゴッ
右へ左へ。
とにかく逃げる余裕もないぐらい、全力で。
カウントダウンは残り九十六秒、これがゼロになる前にガーゴイルを破壊する。
──ミシッ
黒い体表面に亀裂が走る。
そこ目掛けて抜き手を叩き込むと、奴の体内に埋まっている腕から、今度こそ全力の闘気疾走を流し込んだ。
すると。
──フラフラ……ドサッ
口から鼻から耳から、大量の黒い体液を噴き出して、ガーゴイルが停止する。
そして俺もタイムアウト、時間の流れが元に戻った。
「あ、築地、今、何をしたのでスカ?」
「見えなかった……」
「まあ、切り札みたいなものだよ。それよりもそっちを早く始末できるか?」
「大丈夫デス!!」
マックスの飛ぶショートソードに翻弄されてまともに身動きが取れないガーゴイル。
しかし、先ほどの闘気攻撃の時とは違い、必死に攻撃を避けようとしているじゃないか。
「ははぁ。物理攻撃に、それもミスリルなどの特殊金属は防げないのか」
「なるほど。デハ、マックスが頑張って下サイ」
「俺だけかよ……」
「大丈夫だ、心配するな」
応援モードに入ったキャサリンの横をすり抜けて、機械化兵士が前に出る。
そして左右の腕から細いワイヤーを射出してガーゴイルを絡めとると、その首筋目掛けてショートソードが突き刺さる。
──ゴギッ
それはガーゴイルの黒い表面装甲のようなものを僅かに傷つけて突き刺さっているだけだが、そのショートソードの柄尻目掛けて、マックスが素早く左後ろ回し蹴り!!
──ドゴッ
ショートソードが蹴り押されて深々と首を貫通し、喉から延髄あたりまでを貫いた。
さらに右回し蹴りでグラグラの頭を蹴り飛ばすと、ガーゴイルは首から上がちぎれ飛び沈黙した。
「……築地、この一体はヘキサグラムが回収する。そっちの一体は、日本国で回収してくれ」
ハーリィがそう告げてから、何処かに連絡を入れている。
まあ、そういうことならそっちはよろしく。
「俺の一存ではどうとも言えないが、そっちは好きにしてくれ。こっちは……奴らが回収するから」
遠くから、第六課の退魔官たちが走ってくる姿が見える。
それなら後始末はそっちに任せて……やべ、親父たち無事か?
峰岸さんたちがついているから問題はないか。
「はぁ。そろそろ副作用……って来たぁ……」
闘気加速の弊害、体に強烈な負荷と激痛。
そりゃそうだよな、闘気で無理やり神経の伝達速度を加速させた挙句、それに対応できるように筋組織から何から強化したんだからさ。
──コン
ルーンブレスレットから中回復薬を取り出して飲む。
これで痛みは多少は治るが、闘気の流れが乱れているから、少し休まないとまともに戦えないんだよなぁ。
──ピッピッ
スマホが点滅。
退魔官の宮岸さんからの連絡が入った。
親父たちは全員無事で、俺たちが戦闘中に逃げ延びたらしい。
そして遠くからは消防車や救急車、パトカーが走ってくる音も聞こえてくる。
まだこの辺りはガソリン臭いから、早いところ処理してくれることを祈るか。
………
……
…
「……って感じだな」
「はぁ、こっちは二体も出ていたのか。俺のところは一体だけで、新山さんと先輩のところには出没していない。共通点は?」
無事新山東京に到着した俺ちゃんだよ〜。
という事で祐太郎とも赤坂見附近くの病院で合流。
怪我はないんだけど、体内の魔力含有量が急速低下したらしく、つまりは魔障酔いナウらしい。
白桃姫から聞いた悪魔の話のすり合わせも兼ねて情報を交換した結果は、こんな感じ。
「分からんが、俺とオトヤンの魔力含有量が関与しているんじゃないか?」
「俺もそう思う。先輩はまあ、あの魔力だけど普段は表に出ていないし、新山さんの魔力は神聖魔法寄りだから、奴らにとっては天敵。トップツーの俺と祐太郎が狙われているのも理解できると思わんか?」
「魔力含有量か、もしくは『ガーゴイルの範囲内で最も高い魔力』とかじゃないか? そんな感じにも思える」
まだまだデータが足りない。
俺たちのように高魔力保持者にしか実体が見えていないとか、魔法を体表で弾くのに物理攻撃に弱いとか。
マックスの攻撃が普通に通用したところを考えると、今回は特戦自衛隊に任せてもいいケースじゃないか?
さて、もう夜が遅いから、後の話は明日にしよう。
どうせ祐太郎も呼び出しを受けるだろうからさ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




