第二百七十四話・寸草春暉、血は水よりも濃いめでお願い(早とちり? いや、あの時は無我夢中)
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──札幌妖魔特区
乙葉くんから連絡をもらって、私は妖魔特区にやって来ました。
魔人王になったことを白桃姫さんに報告し、今後どうしたら良いか相談するためです。
「……さて。雅や、妾はそなたの十二魔将に連なってしまったのじゃが?」
「はぁ……って、えええ? どうしてそうなったのですか?」
「如何にもこうにも。恐らくは魔皇の輩が企んだのでは無いかと推測される。そなたの心を読み取り、味方となってくれるものを選別し、そして十二魔将とすることで抑止力を強くする。そうでは無いのか?」
白桃姫さんが私の胸元に問いかけると、ほんのりと胸元が輝く。
え、まって、この波長は魔人化の兆候ですよね?
ここって外なので、今、魔人化するとあちこちで隠れているマスコミのカメラに晒されるのですけれど。
「雅や、こちらに来るが良いぞ!!!!」
──シュンッ
私の手を引いた瞬間、目の前の空間が切断された感覚を感じました。
これは白桃姫さんの『時空結界』で、外からは見ることも聞くこともできない絶対空間ですよね?
──シュゥゥゥゥ
そして間一髪。
私は魔人化し、魔人王ミヤビに変化しました。
一瞬で神装白衣を身にまとって、全裸になるのは防げました。
「サービスカットが足りないのう」
「そんなの必要ありませんから!!」
「何かアイテムを使って魔人化して、虹色の光に包まれて変身すると良いのでは? ほれ、ニチアサの……『二人はマスキュラーHMB』のように」
「そもそも変身を見られたらまずいのですって。それよりも、白桃姫さんが私の十二魔将になったのですか?」
「嘘では無いな。ほれ、これを見てみよ」
スッ、と私に向かって右手を開く。
そこには確かに、魔将を示す魔法印が浮かび上がっています。
「あああ……誠に申し訳なく」
「いやいや、これは構わん。それよりも、雅は今後はどうするつもりなのじゃ?」
「そうですね。まず、私は父の仇である伯狼雹鬼を探し出したいのです。どうして父は殺されたのか、何故殺したのか。その真意をはっきりと知りたいと思っています」
「ふむ。それを知って、復讐するのか?」
──ギリッ
力強く拳を握る。
復讐は何も生まない、そんなことは理解しています。
けれど、それまであった日常がいきなり壊され、母も意識不明の状態になりました。
新山さんがいてくれなかったら、まだ母は病院で入院生活を送っていたと思います。
私は、普通の幸せが欲しかった。
それを根底から破壊した、伯狼雹鬼を許せるはずがありません。
「……はい。それが何も生まないのは理解しています。けれど、私は伯狼雹鬼を許すことはできません」
「ふむふむ。さて、雅や。そなたが銀狼嵐鬼の娘であるというのは、魔力波長からも間違いでないと思う。妾には鑑定眼は無いが、乙葉浩介ならその血縁まで見ることぐらいは容易いじゃろう。それで、何か忘れてはおらぬか?」
忘れて?
私が何かを忘れているというの?
「忘れて……何がですか?」
「ふむ。では尋ねよう。以前聞いた時、そなたたちが乗っていた飛行機は伯狼雹鬼の爪によって破壊された。父は無惨にも切り裂かれ即死、幸いなことに雅と母は重体であったが一命を取り戻すことができた。ここまでは真実じゃな?」
その言葉に、私はコクリと頷く。
私たち家族は飛行機に乗っていて、あの爪で引き裂かれて父が殺され……え?
「気がついたな。其方の父は侯爵級魔族。さらにその上である可能性もある。爪で傷つくのは同じ魔族同士の抗争だから当たり前じゃが、其方の父は、霧散化したのか? 蒸散したのか?」
「い、いえ、遺体が残っていて……私と母は、父の葬儀には出られなかったのですが、火葬されて……」
「おそらくは、幻影じゃな。其方の父は、死を偽装した。それが何のためかはわからぬが、少なくとも其方と母を守る為ではなかったのか? 伯狼雹鬼の爪で傷ついたものは、魔瘴中毒の呪詛を植え付けられる。雅もかすり傷ぐらいは受けたのじゃろ?」
そ、その通りです。
母は父と反対側に座っていたので、爪で直接傷つくことはありませんでしたけど。
私は父の横に座っていたので、多少は傷がついていたかもしれません。
「え、でも、私は魔瘴中毒には掛かっていませんけど」
そう告げると、白桃姫さんが自分の胸元をトントンと叩く。
「王印が、そなたの魔障中毒を浄化したのかも知れぬな。と言うことで、結論から申すぞ。雅、其方の父は生きている!!」
──ブワッ
涙が溢れ出ます。
死んだと思っていた父が、実は生きている。
何故、私たちの前に姿を現さないのか、それは分かりません。
けれど、白桃姫さんの説明には説得力がありすぎるのです。
乙葉くんと出会って、魔法を知って。
貴腐神ムーンライトの加護を受けて、妖魔を知って。
大勢の魔族と出会い、魔族とは何かを知って。
私が魔人王になって、父が魔族であったことを知った。
それなら。
爪の一撃を魔人核に受けていたのなら、その場で蒸散してしまう。
けれど、父の遺体は残っていた。
魔族が死ぬときは、魔人核が破壊されて蒸散するとき。
つまり。
「父が……生きている……」
「うむ。確証では無い。じゃが、雅と共にいた魔皇たちは、それを知っている筈。違うか魔皇よ!!」
白桃姫が凛とした声で問いかける。
すると、私の胸元の王印が輝いた。
『我はビブ・エル。魔皇の一人にして、秩序を司る魔族。白桃姫よ、其方の慧眼には驚かされる』
「なにが秩序じゃ。ビブエル・ラティエ、我がひいじいさまではないか。それでどうなのじゃ? 雅の父は生きているのか? それとも死んでいるのか?」
『これは、本来ならば魔人王にしか告げられない事実。ミヤビよ、銀狼嵐鬼は生きている。来る時まで、傷ついたその体を癒すために、あるところで眠っている』
魔皇が教えてくれた。
父は生きていると。
「そ、その場所はどこなのですか? 会えますか?」
『それはならぬ。今はまだ、銀狼嵐鬼は力を蓄えなくてはならないから』
「ふむ。その来る時とやらは、魔人王にしか告げられていない『封印の大地』に関することなのか?」
『白桃姫……ピク・ラティエよ、貴様は魔人王では無い。よって、貴様の質問には答えることはできない』
「ぐぬぬ……」
封印の大地?
前にも白桃姫さんから聞いたことがあるような気がします。
「ビブ・エルさん。封印の大地とは何なのですか?」
『鏡刻界を統べる神々の眠る大地。目に見えず、手に届かず、声も聞こえず、触れることもできない。今はまだ、これしか告げられない。まだミヤビの魔人王としての格が足りない故に』
「まさか、そこに父は眠っているのですか!!」
『否!! 彼の地に向かうには、ある儀式が必要。されど、それを行うことはできない。よって、その地では無い』
「うう〜む、このクソジジイ共が。何を勿体つけておるのじゃ?」
『あのなぁ。仮にもワシ、ピク・ラティエのご先祖じゃよ? 敬うと言うことができぬのか?』
「な〜にがご先祖じゃ!! 妾は知っておるぞ、爺様が其方のやらかした事でどれだけ迷惑を被っておったか!!」
ああっ、ビフ・エルさんと白桃姫さんが喧嘩を始めました。
ここに口を挟むのは危険です。
でも、父が生きていること、どこかに眠っていることは理解できました。
「そうか。魔皇さん、ありがとうございます!!」
『う、うむ、それはまあ、ワシらは魔皇故に、魔人王の味方をするのは当然じゃからな』
『ワシは、まだ小娘を魔人王とは認めていないからな!!』
「まだおったのか、先代魔人王は……もういいからお主は眠っておれ」
魔皇さん、ありがとう。
そして
「白桃姫さん、ありがとうございます」
私は丁寧に頭を下げる。
もしも今日、ここでこのような話をしていなかったら、私は伯狼雹鬼を憎み続けていたかもしれない。
でも父が生きているのなら、その憎しみは少しは薄れていく。
もう少し冷静になれば、私はいつもの調子でこれらの話を解析できるはず。
そして、封印の大地のことも、なにか知らなくてはならないような気がします。
「いやいや、妾はミヤビの配下故に。というのは嫌いじゃと思うから、いつも通りにさせてもらうぞ」
「それで構いませんわ。みなさん、私にとって大切な人たちですから」
「う、ううむ、それはそれでむず痒いのう……なあミヤビや、もしも其方が魔人王を続けて辛くなったら、妾にいうが良い」
「変わってくれるのですか?」
「いや、適任者を紹介するから、其奴に押し付けるが良い。妾は魔人王など面倒臭いものは好かぬが……もしも、どうしてもという時が来たら、そのときは代理として一次的に変わるぐらいは吝かではないぞ」
怠惰の氏族は面倒くさがり。
でも、白桃姫さんは私のために親身になってくれています。
「それに、其方らに嫌われでもしたら、甘露を味わうことができなくなってしまうからなぁ!! 魔人王となって、其方らを魔将にして。執務は全て投げてから、甘露を収めてもらうのも一興……じゃな」
「はいはい。今日は一つでよろしいのですか?」
「二つじゃな!! 相談料も込みじゃ」
そういえば、魔人王モードでの魔力玉って作ったことがありませんでしたわね。
こんな感じかしら?
──ブゥン
両手を合わせて魔力玉を形成すると、目の前の白桃姫さんの口から涎がダラダラと溢れ出しました。
「こ、これはまた芳醇な。以前のミヤビのものとは違う、精錬された魔力じゃが……うーむ」
腕を組む白桃姫さん。
そして受け取った魔力玉を齧るが、一口も齧りとることができない。
「やはりか。魔族固有の抵抗を感じる。同族喰らいに似た抵抗を感じるから、これは魔族を誘き寄せる餌としてしか使えないのう」
「あ……ちょっと待ってくださいね」
──シュンッ
急いで魔人王モードを解除する。
かなり慣れてきましたので、5分もあれば元の人間の姿に戻れますね。
そして普通に魔力玉を作って手渡すと、白桃姫さんは美味しそうに食べ始めました。
「うむ、この状態は人間の魔力だけじゃから、いける!!」
「ほっ。では、こっちの特濃魔力玉は閉まっておいてくれますか?」
「よかろう。ストッカーにしまっておくとしよう。では、そろそろ戻るとするか」
──パチン
白桃姫さんが指を鳴らします。
それで、空間結界は解除され、元の風景に戻りました。
そして向こうから、乙葉くんと新山さんがやってくるのが見えます。
「大切な人が増えましたから……この力は、正しく使っていこうと思います」
「そうじゃな。では……乙葉や、魔力玉をくれ給れ!!」
ようやく、日常が戻ってきたようで。
この時間を、今は少しでも大切に過ごしたいと思います。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




