第二百六十六話・吉凶禍福、一気呵成に行ってみよう(混迷はさらに動乱を引き起こす)
『ネット通販で始まる、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──魔大陸中央王都・魔人王の居城
アークパレスと呼ばれている魔人王の居城。
その離れにある魔族収監所には、犯罪を犯した魔族から力を奪うための研究設備がある。
その一角では、頭だけとなっているブルーナが虚ろな目で天井を眺めていた。
「全ては……あああ……全ては……ああううう……」
何を問われても、同じフレーズのみを続けるブルーナ。
マグナムが何を企んでいるのか?
その問いかけについてはベラベラと話していたブルーナであるが、その返答に何か違和感を感じたタイニーダイナーが、裏で何者かと弛んでいるのかという問いかけを行った。
そこから、ブルーナは変調をきたし、同じフレーズのみを続け始めている。
「……マグナムが何を企んでいるのか。それは全てわかったけど、これこらどうするべきかなんですよねぇ」
傲慢のタイニーダイナーが、目の前に立つアンバランスにそう告げる。
タイニーダイナーの能力は『精神支配と感情コントロール』。
これで人々の感情を操作し、手駒のように自在に操ることができる。
洗脳や思考誘導ではなく、完全なる『隷属』を得意とするため、ブルーナの精神を支配し、マグナムの企みを聞き出していたのである。
ちなみに、同じく捉えているマグナムからも同じように情報を聞き出そうとしていたのだが、腐ってもマグナムは元十二魔将第一位。
タイニーダイナーの術的処置全てにレジストしたので、今は拘束術式によって身動きが取れなくなっている。
「マグナムの奴が魔人王になるためにフォート・ノーマを殺害した。だが、王印を手に入れることができなかったので、継承の儀を宣言。だが、それが始まるよりも早く、新たな魔人王が生まれた」
「ええ。そして、マグナムは新たな魔人王を見つけ出して殺害し、王印を奪おうとしていたところまでは、ブルーナの頭の中から引き出したのよ。あっちの世界の不死王も、マグナムのために橋頭堡を築いていたっていうこともね」
「そして、ブルーナは裏地球に向かうための神託を受け、フェルデナント聖王国に向かおうとした。そのために禁忌を犯してまで浮遊大陸に乗り込み、そこにいたピク・ラティエにやられた……」
聞き出した情報を、一つずつ確認するように話し始める二人。
その表情は、何処となく嬉しそうに見える。
「問題なのは、ピク・ラティエがあらたな十二魔将だということね。しかも、第八位って……あの子が、そんなところにいるなんて、今代の魔人王さまは、どれだけの化け物を飼っているのよ」
「それを踏まえて。我々はピク・ラティエから情報を聞き出したいところなのだが。残念なことに、浮遊大陸は消えちまったからなぁ」
ボリボリと頭を掻くアンバランス。
「ブルーナの見たらしい神託はどうかしら? 確か、フェルデナント聖王国に裏地球と繋がる転移門があるのよね?」
「違う、水晶柱があるという話だったろ? それを使って転移門をひらけば、俺たちでも向こうに向かうことはできる。問題は、今代の魔人王さまが、どのような方針を持っているのか……」
「わからぬな。裏地球に残っている眷属たちと連絡がつけられるのなら、あるいはなんとかなったかもしれぬが」
突然、ゼロが話に参加する。
それまでそこには誰もいなかったのに、まるで、そこに最初からいたかのように姿を表し、話し始める。
「飛行船は使えないから、絶海を越えることはできない。それに、フェルデナント聖王国までの距離を考えると、かなり大掛かりな準備が必要となる。大陸間転移能力保持魔族はいるのか?」
「ピク・ラティエの氏族が、時間と空間を支配している。それ以外は不可能だな」
「しゃーねぇか。霊峰の飛龍を使って、フェルデナント聖王国に乗り込む。事の真意を確認する必要はあるからな」
そう告げて、アンバランスは立ち上がって部屋から出ていく。
「それにしても。ブルーナのこの様子、奴を裏から操っていた存在とは、何者なのだろうか?」
「さあ? 思考が術的に支配されている部分があるのよ。まあ、少なくとも今の状態なら、ブルーナは何もできないわよ……霧散化を止める術針も頭の中に打ち込んであるから」
「禁忌に手を出さなければ、このようなことにはならなかったはず。浮遊大陸には手を出すなと、歴代魔皇すら言葉として残してあるのに……愚かな」
頭を振りつつ、ゼロが呟く。
ローブのフードを深々と被っているので、その表情は見て取ることはできないのだが、明らかに残念そうな口調と雰囲気を醸していることはタイニーダイナーにも理解できている。
「マグナムから情報が得られなかったのは残念ですけれど、ブルーナの様子から察するに、魔人王を狙っていたというのは事実よね。それで、ゼロはどうするの? アンバランスのように動くの?」
「いや。私は動けない。調停家としての役割がある。私が魔人王になることはないからな」
その言葉に、タイニーダイナーも呆れてしまう。
「歴代魔皇に支えている調停家。本当に、ゼロって不思議な存在よね。なにか、色々と知っているんじゃないの?」
「知っていることもある。だが、調停家としては、表に出してはいけないルールがある。だからこそ、わたしは歴代魔皇に仕えている」
どの時代でも、魔将の最下位には『虚無のゼロ』が存在する。
それが通例であるため、どの魔人王も疑うことなく彼を登用している。
「まあ、貴方がそこまでいうのなら、これ以上は詮索しないわ。さて、アンバランスがどんな答えを持って帰ってきてくれるのか、少し楽しみじゃない?」
「ブルーナが受けたという神託。かのフェルデナント聖王国にとっては、不幸でしかないのかもしれない。もしもブルーナであったなら、まだ話し合いに持っていけたかもしれないからな」
「アンバランスだからねぇ……最悪、国が滅ぶんじゃない?」
「そこまで知らぬ。それこそ、勝手にやってくれというところだ」
そこから先は、ブルーナの発した言葉の裏を確認すべく、二人とも動き始める。
そしてアンバランスは、配下の者たちと共に飛龍に乗り、一路フェルデナント聖王国へと飛び立っていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──地球
十二月に入ってから、一部妖魔たちの活動も活発になっている。
世界各地の水晶柱についても、あちこちで活性転移門が生まれ始めているのだが、日本国内については全ての水晶柱が封印され、沈黙している。
これに伴い、国内の『新魔人王派』を唱える魔族が動き始め、己が力を誇示するべくさまざまな事件を引き起こし始める。
魔族同士の派閥抗争はもとより、対人犯罪、殺人事件なども引き起こし始め、各国の対妖魔機関も対応に手が足りず、頭を悩ませていたある日。
──ブゥン
突然、空に魔族の姿が浮かび上がる。
魔人王即位の儀のように、魔族にしか見えない巨大な姿。
全身を純白の鎧に身を包んだ、まるで機械仕掛けのように見える騎士が浮かび上がると、構えた盾の表面に『魔人王側近』を示す紋章が浮かび上がる。
『聞け、この裏地球に住む魔族よ。我は新たなる魔人王の側近、ワイルドカードである。すでに魔人王さまは新たなる十二魔将を従えており、これ以上の側近を必要としない!!』
ワイルドカードの声を聞いた魔族たちは、体内の魔人核が震えていることに気がつく。
それが、今浮かび上がっているワイルドカードが本物の側近であることを証明していた。
『これ以上、同族同士の争いを行う必要はない!! また、新たな魔人王さまは、人間と共に歩むことを求めている……ゆえに、人を害する魔族は、我が主人の敵であることを知れ!!』
魔人王の敵と認知される。
それはすなわち、問答無用の隷属化の可能性がある。
魔人王の持つ能力『百鬼夜行』に従えないものはすなわち、魔族の敵であると認識され、魔人核を破壊されるか、体内から引き摺り出されて封印される。
それが、古き魔皇の時代の常識。
魔人王が誕生してからも、その恐怖は未だ拭い去ることはできない。
──ゴクリ
誰となく喉を鳴らす。
この光景を見ていた魔族は。争いを収め、空に向かって跪くことしかできない。
『いずれ、魔人王さまからもお声をいただける日が来るであろう。それまでは、今の我の言葉を忘れるな‼︎』
──スッ
そしてワイルドカードの姿が消える。
この日を境に魔族の抗争も減少化してくれることを、願って。
………
……
…
──バシュゥゥゥゥゥ
魔導鎧クリムゾン・ルージュのコクピットハッチを開き、俺は外に顔を出す。
魔導鎧の周囲には、単管パイプとブルーシートで覆いを作り、外から中が見えないような作りにしてある。
ちなみに、つい先程まで魔皇の力を借りて、地球の空に特殊な映像を送り出していたのは俺ちゃんたち。
新魔人王の側近ワイルドカードの正体が、外装甲を人間の着る騎士のような姿に換装したクリムゾン・ルージュ。
どうせ空に浮かぶ映像なんだから、大きさなんて気にならないよねってことで、急遽、魔法鎧を側近仕様に改装したんだよ。
さらに、俺の魔力と先輩の深淵の書庫を魔皇の紋章を通じてコネクト。側近映像を魔族にのみ見えるように浮かび上がらせた。
「も。もうむり。魔力尽きる……」
ズルズルとコクピットから降りて地面に降りる。
妖魔特区の中でも、人間の住んでいない菊水エリアで行った『側近放送』は完了し、これで地球での魔族の動きを牽制できればと思ったんだけどね。
「私ももう無理です……ガクッ」
「先輩!! 診断!!」
クリムゾン・ルージュの前で展開している深淵の書庫から、瀬川先輩も姿を表す。
その直後に魔力枯渇で深淵の書庫が強制解除、待機していた新山さんが先輩に魔力を送り込んでいる最中である。
──ゴクッゴクッゴクッ
「ぷは〜。魔力回復薬が美味い!美味い!美味い!」
「乙葉くんも無理しすぎ!! 早く魔導鎧を仕舞わないと、忍冬さんが飛んでくるわよ?」
「おっと。それはやばいから収納……と」
急いで魔導鎧を空間収納に納めると、俺も草むらに大の字になって転がる。
魔導鎧は、乗っているだけで俺の魔力をごっそりと持っていくんだよ。連続稼働はキツイんだよ。
「これで、世界中の魔族の動きが抑えられたらいいよね」
「まあ、全ては無理だろうからなぁ。サンフランシスコゲートの黒龍会とかは、明らかに新魔人王とは敵対するだろうからさ」
「確か、先輩の能力の『百鬼夜行』があれば、敵対する魔族も抑えられるんだよね?」
「そそ。確か魔力の関係で、全てを抑えられることはできないらしいけれど……ってあれ?」
ん、何か引っかかる。
なんだろ、魔人王と魔族の関係じゃないけど、なにか、心の中に引っかかるものがある。
これはなんだろうか?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




