第二百六十一話・吉凶禍福。有為転変は世の習い(そのころ、祐太郎は)
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──鏡刻界・アトランティス
築地祐太郎と有馬紗那、唐沢リナ、そして白桃姫の四人がアトランティスを訪れて、はや二月が過ぎている。
この間にも、祐太郎は己を蝕む魔障中毒と戦い、りなちゃんと紗那の二人は白桃姫との特訓により……幾度となく死地を超えていった。
そんな中、アトランティス大陸はゆっくりと鏡刻界の大海を流れるように移動している……。
アトランティスは元々が流浪の大陸であり、さらには古代遺跡によって島全体が船のように海の上に浮かんでいる。
それ故に、どこに流れて行くのかは出現した海域の潮の流れによって左右されている。
──アトランティス中央・光の塔
プラティ・パラティの居城でもある光の塔の地下には、巨大な研究施設が存在する。
その一角にある巨大な水晶の中で、有馬沙那は静かに眠りについている。
「沙那ちゃん……いつか、必ず起こしてあげるからね」
『あのねリナちゃん、私、死んだから封印されているのではないからね? オートマタの素体を強化するために、この中にいるんだからね?』
「ぶい!!」
目覚めた沙那に驚いたものの、すぐにリナちゃんは右腕に装着されているツァリプシュカ改2でVサインを送る。
「それで、いつ出てくるの?」
『わからない。毎日プラティさんが調整してくれているけれど、まだ時間がかかるみたい』
「へぇ。早く調節が終わるといいね」
『そうね。早く全て終わって、学校に帰りたいわよね……』
「そうそう。それじゃあ修行の時間だから、そろそろいくね!!」
『ありがとう。リナちゃんも気をつけてね』
心配そうに問いかける沙那に、リナちゃんも再びVサイン。
それと入れ違いに、築地祐太郎とプラティ・パラティがやってくる。
「ん? 元気そうだな、沙那ちゃん」
「お陰様で。築地先輩は、どのような感じですか?」
「まあ、仕上がり具合は秘密ということで。沙那の調整も、あと半月もすれば終わるから安心しなさい」
「はい。ちなみに、私の体はどう作り替えられるのですか?」
少し心配そうに問いかける沙那だが、プラティはあっけらかんと一言。
「生体金属によって体組織全てが書き換えられる。鏡刻界でも希少な生体金属『リビングメタル』、それとオリハルコンを合金化した生体魔導金属『オレイカルコス』により、君は黄金の戦士に生まれ変わるのだ!」
──ピシャーッ!!
部屋の窓の外をイナヅマが走る。
元々がオートマタである沙那の修行は、ハード面とソフト面の強化。そのうちのソフト面については、必要な情報を魔晶石に刻み込んで体内に組み込むだけ。
それ故に、今は最後の仕上げとしてハード面を強化してあるのである。
「あの、プラティ師匠、なんでここ地下室なのに窓があるんですか? しかも今、外をイナヅマが走ってましたよね?」
「ちっちっ。築地くん。物事には揺らぎというものが必要。遊び心を無くしては、マッド魔導士は務まらんよ?」
「プラティ師匠だけは、有馬父さんと合わせたらいけないことは理解した。それで、俺の仕上がり具合はどんな感じなんだ?」
そう問いかけつつ上着を脱いで、部屋の中のベッドに横たわる。
するとベッドを中心に魔法陣が展開し、祐太郎の体をサーチし始める。
「ふむふむ。魔障中毒については、体内の魔力回路からはほぼ剥がれたな。魂にまで定着していたから、剥がすのは大変であったが……あとは、一度死ぬだけだな」
「……はぁ?」
まさかの一言に、祐太郎は驚きを隠せない。
今、死ねといったのか?
「ちょ、ちょっと待った!! 死ぬだけってどういう事だよ?」
「いや、説明を省きまくって申し訳ないが。一度、仮死状態になって貰い、祐太郎の魂を取り出して術式を書き込む必要がある。それが成功した暁には、伯狼雹鬼の施した呪詛はそのままに、より効率良く魔力を、闘気を操ることができるようになる」
そのために書き込む術式こそが『暗黒闘気』。
それを使いこなすための肉体を作る修行はほぼ完了し、いよいよ最後の調整が待っている。
「仮死状態かよ。それで、成功率はどれぐらいなんだ?」
「……まあ、人の生き死になんて、長い魔族の人生に比べたら大したものではない。ほら、有名な医師の言葉にもあったであろう? 人間が生き物の生き死に『言わせねーよ!!』っと、それは失礼。とにかく、失敗率は九割程度、残りの1%に祈ってくれ」
「一割しか……って、ちょっと待て、今、1%ってフガバァ!!」
──ドッゴォォォォォォン
祐太郎が告げている最中に、プラティ・パラティが祐太郎の心臓に向かって貫手を撃ち込む。
それは背中まで貫通し心臓を掴み取ると、それを一気に引き抜いた。
──プシュッ
鮮血が傷口から噴き出すのと同時に、プラティは心臓の形をした魔晶石を祐太郎の体に組み込む。
やがてそれは静かに輝くと、体としっかりと定着して脈動を開始した。
「1%もあれば、わしにとっては瑣末な問題でしかないわ。では、暗黒闘気の術式を刻み込む術式を開始しようか」
抜き取った心臓に魔力を集める。
この中に祐太郎の魂が封じ込められており、今から暗黒闘気の術式を刻み込むのだろう。
なお、この一部始終を、沙那は水晶の中で見せつけられることになったのは、いうまでもない。
………
……
…
アトランティス、北部海岸。
白桃姫はそこに作られた東家で、のんびりと海の向こうを見ながらティータイム。
するとそこに、リナちゃんもやってきて椅子に座った。
「師匠、今日は修行はしないの?」
「うむ。潮流の関係でな、今日は珍しいものが見えているのじゃよ……ほれ、あそこじゃ」
白桃姫が指差した先。
そこには、リナちゃんも知っている島陰が見えてきた。
「魔大陸?」
「うむ。しかも妾の国じゃな……立ち寄る必要もないから、敢えて大陸に向かうようなことはせぬ。それに、今行ったら、面倒臭いことになるでの」
心底嫌そうな顔の白桃姫。
あの魔人王即位の鐘を、白桃姫はアトランティスで聞いている。
そして空を見上げても新しき魔人王の姿が見えないことから、彼女もまた【魔人王・瀬川雅】が生まれたのだと理解したのである。
それ故に、魔人王がいない王城に向かったとすると、残務処理や姿を見せない次代王を探す旅に出されたり、最悪は魔人王となるべく暗躍しているマグナム派と事を構える必要も出てくる。
それならば、あえて何もしないで流れに身を任せるのが一番。
「ふうん」
──ゴトッ
右手に装着したツァリプシュカ改2を外して、のんびりとお茶を飲むリナちゃん。
「それで、特訓の成果はどうなのじゃ?」
「う〜ん。まだこれを使いこなせていない。山猫族の戦闘パターンとは相反する戦闘技術だから」
速度を高め、手数を増やす。
闘気によって鋭角化した爪を武器とする戦闘が主流の山猫族であるにも関わらず、リナちゃんは足を止めた状態からの、ツァリプシュカによる重い乱撃による戦闘スタイルを身につけ始めている。
しかも、動きを高めるために両手両足には白桃姫による『過重の術式』が刻み込まれていた。
「まあ、まだ修行の半分も終えておらぬからなぁ。焦ることはない、ゆっくりと強くなるが良いぞ」
「さっつおーらい!!」
そう呟くと同時に、リナちゃんは素早くツァリプシュカ改2を装着すると、『砲撃モード』に切り替えて空高く闘気砲を撃ち放った!!
──ドッゴォォォォォォン……カシュッ
ツァリプシュカ改2から空薬莢が放出する。
そして上空からは、粉々になった魔獣の死骸が落ちてくる。
「盗視蝙蝠か。どうやら、何者かがアトランティスに気がついたようじゃな。まあ、わかったところで、このアトランティスを包む光の結界を越えることはできまいて」
「穴、開けちゃったけど大丈夫?」
「すぐに修復するじゃろ。さ、妾に紅茶の追加をたもれ。その後で、修行を再開するとしようぞ」
「あいあいさ!!」
何事もなかったかのように、お茶会は再開される。
何者がアトランティスを監視しようとしたのか? その真意を探ることなく。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──魔大陸・中央王都。
魔人王の居城では、先代十二魔将が残務処理に追われている真っ最中。
そんな中でも、ブルーナ・デュラッヘはマグナム派として暗躍を続けている。
どこかに水晶柱はないか?
新たな魔人王の手がかりはないのか?
それらを探しているにも関わらず、なにも手がかりがない。
「くそっ!! また500年も転移門が開くのを待たねばならないのか!!」
資料室で机に向かって拳をぶつける。
マグナム派として暗躍はしているものの、その正体はファザー・ダーク派。
やがて訪れるであろうファザー・ダーク降臨のためにも、魔人王にしか知らされていない『封印の大地』についての情報を得なくてはならない。
何故、ファザー・ダークはその事実を告げないのか?
それはブルーナたちにもわからない。
だが、語られないのにも訳がある。
それをファザー・ダーク本人から告げることも、神託として語ることも、本体が封じられている現在は『禁じられている』から。
「お、ブルーナ、ここに居たのか」
資料室にやってきたアンバランスが、ブルーナの近くの椅子に座る。
「こ、これはアンバランスさま。お見苦しいところを見られたようで、申し訳ございません」
「まあ、マグナムを魔人王にしたいっていう事で動いているんだろうからなぁ。気持ちは理解できるが、俺としてはマグナムには魔人王について欲しくない。奴はフォート・ノーマを殺したからな」
やや殺気を孕む声に、ブルーナの身がすくむ。
魔族としての格が違いすぎる、そうブルーナは本能で悟ったものの、どうにか表に出さないように努めている。
「それは承知しています。ですが、私自身、マグナム様に忠誠を誓う者。この立場もご理解いただきたく思います」
「まあ、そういうだろうとは思っていた。それよりも別件なんだが、魔大陸の近くに浮遊大陸が一瞬だけ見えた。大陸周辺を警戒している
盗視蝙蝠の一体が消滅したんだが、最後の念が届いてな」
「浮遊大陸……噂では聞いたことがありますが。それは危険なのですか?」
「分からん。我ら魔族にとっては禁忌でもある大陸故に、警戒だけはしておいてくれ。それだけを告げにきただけだ」
魔族にとっての禁忌。
それがなにを示しているのか、ブルーナは知らない。
それは、魔人王とその側近にのみ齎されている真実の一つだから。
そして、それを告げるべく魔皇は、先代のフォート・ノーマには存在しない。
故に、代々伝えられている『魔族にとっては禁忌』という部分しか、先代の十二魔将は知らなかった。
「気になりますが、禁忌ゆえに……監視程度にとどめるとしますか」
ブルーナもまた、アンバランスと同じような失敗をする。
けれど、そのおかげである情報を手に入れることができるのだが、それは少し先の話である。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




