第二百四十五話・博施済衆。月に叢雲、花に風(ハードすぎるわ、ガチすぎるわ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──ドッゴォォォォォォン
妖魔特区・東エリア。
豊平川を越えた先、菊水方面に到達した時。
俺たちは、信じられないものを見た。
河川敷の菊水側から100mほど先に、巨大な城壁が完成している。
高さ20mほどの城壁の上では、オオカミの頭をした魔族が歩いており、俺たちを見た瞬間に巨大な砲丸を投げつけてきた。
「下がれ! 一旦川の向こうまで戻るぞ!!」
「なんだなんだ、この先で何が起きているんだよ!!」
「乙葉ぁ、貴様は魔術師だろうが、あの程度の魔族、貴様の魔法で吹き飛ばさんかぁ!!」
「いきなりそんなことできるわけないじゃないですか、特戦自衛隊こそ国民を守る義務があるんでしょうが、先陣を切って話し合いなり交渉なりしてきてくださいよ!!」
──ドッゴォォォォォォン、ドゴォォォォォッ
飛んでくる砲丸を躱しながら、半ば喧嘩のような状態で叫びつつ川を越えて中央区へ戻る。
どうやらここまでは飛んでこないらしく、一旦体勢を整え直すことにしたんだけど。
「浩介、鑑定はできたか?」
「いや、無理っす。止まって集中しないと。チラ見での鑑定は安定しないんですよ」
「そうか。せめて白桃姫が居てくれたなら、何か話を聞けたかもしれないが……」
「それなら一旦、テレビ城まで戻りますか。留守を預かっている配下の魔族がいるはずですから」
「ここで撤退するのか!!!! ちょっと待て、はい、荻原です」
そう叫ぶ特戦自衛隊の隊長。
だけど、すぐに通信が入って話を始めた。
ついでに現状の報告をしているようだけど、どうなることやら。
──カチッ
「一時、十三丁目セーフティーエリアまで撤退する」
「だよなぁ。さすがにこの人数で、あの規模の魔族相手に戦闘なんてしたくないわ」
「それで浩介、お前が全力でやったらどうなる?」
「正直いって、わからないですね。相手のデータも何もない状態で、全力で突っ込むほどアホじゃありませんから」
俺の場合。
感情が限界を越えると、攻撃的になってしまう節がある。
新山さんの救出の時といい、この前の……あ、マグナムか。あいつを全力でぶん殴った時のように。
魔力が枯渇寸前になるまで魔法をぶっ放すから、制御する術を覚えるか心を鍛えないとさ。
感情に任せて爆発するなんてこと、そんなにやりたくないから。
「正しい判断だな。それじゃあ、一旦戻ることにするか」
「了解です……しっかし、なんだろ、あの砦は」
菊水方面っていうのが嫌なんだよ。
あの砦の向こう、地下鉄・菊水駅の向こうが結界の最東端で、そこから数百メートル先が俺や祐太郎の家だからなぁ。
こうして近くまで来てみると、改めて結界が邪魔なことに気がつくわ。
………
……
…
大学での用事を済ませて、校舎から出る。
少し離れた場所、クラーク像の手前まで妖魔特区の結界が来ているけど、観光客は結界のこちらからクラーク像を眺めようとしたり、近くまで寄って写真を撮っている。
札幌市中央区にある妖魔特区は、北大の南方にも少しだけ掛かっている。そのためか、大学構内の植生も少しずつ変化を始めています。
「さて。どうしましょうか」
自分が何をするべきか。
改めて考えてみる。
王印の正式所有者で契約者。
この時点で次代魔人王としての条件をクリアしているそうで。
あとは魔人王継承の儀で、魔人王となることを宣言するだけ。
おそらく今現在は、鏡刻界の魔大陸では魔人王となるべく野心を抱いた魔族が暗躍していると思われます。
事実、憤怒のマグナムを筆頭に、元十二魔将が次代王となるために勢力争いをしているようです。
そして少なくとも、マグナムのような野心を持つものが魔人王となったら、再び私たちの世界を脅かすでしょう。
すでにマグナムの派閥はサンフランシスコを手中に収めるだけでなく、世界の各地の水晶柱を活性化させ、転移門を再構築し始めました。
永田町で見た活性転移門、近くを通る高魔力所有者を無差別に襲う存在。
あのようなものが出現したというのなら、本格的に私たちの世界も危険であるといえるでしょう。
『覚悟を決めるか?』
『ユー、魔人王になっちゃいなヨ!!』
『我ら魔皇としても、貴殿が魔人王となるのなら全てを託す所存』
『っていうか、ほとんど深淵の書庫に持っていかれたけどね。さすがはムーンライトの巫女だけあるわ』
「また、魔皇の皆さんは勝手なことを……」
結界を眺めつつ、ため息一つ。
私が踏ん切りをつければ、答えはすぐなのでしょう。
『それなら、魔人王になって解決するべきことを終わらせたら、引退して誰かに引き継げばいいじゃん』
『そうそう。それなら全ての憂いも一瞬で解決』
「そんなに簡単に引き継げるものなのですか?」
『まぁね。我ら魔皇が認めるものならば』
『高濃度の魔力を持つ、魔族の血を引くものなら』
『普通の魔族じゃダメだからな。あんたみたいに伯爵級以上の魔力保持者でないと』
なんでしょうか?
今、聞き捨てならない言葉が聞こえましたけど?
「私が伯爵級以上の魔力を持っているのですか?」
『まあ、ムーンライトの加護で人間並に抑えられていますけどね』
「……」
私の中には、王印があります。
父である銀狼嵐鬼、その力が私にも宿っている。
そう考えると、いつも父に守られているような感覚が溢れてきます。
ムーンライトは、私にも伝えましたわ。
世界に魔法を広めるようにと。
でも、私の魔法は特殊すぎて、基礎しか伝えることができない。
それならば、私のできることをやるだけ。
乙葉くんや築地くんは、いつも正面から戦いに向かう。
世界で唯一の癒しの魔術を使える新山さんは、常日頃から傷つき倒れている人たちに癒しを与えます。
私の力は?
完全情報処理能力。
でも、それだけじゃダメ。
もっと、みんなのために、大勢の人を救う力を。
──カチッ
『深淵の書庫より通達。システムのアップデートが始まります……』
「え、なに? どういうこと?」
『王印契約者の意思により、深淵の書庫は魔人王モードに移行。以後、魔人王のみが使用可能なコマンドラインの75%が解放されます』
『魔皇より、継承者瀬川雅に通達。全魔皇のうち八割が瀬川雅を魔人王と認めます。これにより、簡易的ではありますが、魔人王継承の儀を開始します』
「ちょ、ちょっと待って!!」
私が叫ぶと同時に、深淵の書庫が虹色に輝来ます。
おそらく周囲の人たちは、何が起きたのか理解していないでしょう。
私にも何が起きたのか理解できませんけれど。
『まあ、なるようになるわよ。貴方には、私の加護があることを忘れないでね……貴方は変わらない。貴方自身である限り……』
その声は、私に神託をくれた貴腐神ムーンライト。
ええ、わかりました。
これが運命というのでしたら、私は全てを受け入れましょう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──鏡刻界・魔大陸中央王都
魔人王の居城、その一角にある十二魔将の執務室。
次代王が決まるまでは、現行の十二魔将は暫定処置として執務に当たらなくてはならない。
だが、そのほとんどが裏地球に封じられているか、もしくは次代王となるために城から出て行ってしまった。
国の政が停滞しないよう、大勢の事務官に指示を出しているのは、元十二魔将第十二位・虚無のゼロ。
白いローブに身を包み、牛の骸骨のような仮面をつけた男。
「……書類が溜まっている」
昨日の夜。
仕事を終えて帰宅したゼロだが、今朝方登城し執務室にやってきた時、すでに大量の書類が積み上げられていた。
「さて、割り振りをして……待て待て待て待て!!」
書類の束の向こう。
魔人王継承の儀を宣言した際に姿を現した【儀式の羽根】と呼ばれる魔導具が、赤く染まっている。
最初は白。それが時間が経過するにつれて色が赤く染まり、最後の継承の儀式が始まる時に真紅に染まる。
まだ三分の一も染まっていなかった先日とは異なり、今は真っ赤に染まっていた。
「ば、馬鹿な、継承の儀が始まっただと? それはつまり王印所持者が魔人王を宣言したということか!!」
──ブゥン
ゼロの叫びと同じタイミングで、彼の目の前に王印が姿を表す。
「何故王印がここに? 儀式が始まっているのに……まさか!」
『然様。今代の魔人王は、裏地球にて儀式を行った。故に、我は無用となり、消滅する』
──プシュゥゥゥゥゥ
ゼロの目の前の王印が消滅する。
本来ならば、魔人王の継承が終わると同時に、魔大陸の空に魔人王の姿が映し出される。
だが、裏地球で魔人王が生まれた故に、鏡刻界まではその姿を映し出すことも、声が届けられることはない。
──カラーン、カラーン……
ただ、大陸全土に、新しい魔人王が生まれたことを告げる『新王即位の鐘』が鳴り響いていた。
………
……
…
──魔大陸・マグナムの居城
サンフランシスコで乙葉浩介にフルボッコにされたマグナムは、ブルーナ・デュラッヘの手により一旦、鏡刻界に帰還していた。
その怪我はひどく、あと数ミリ程度で彼の魔人核が傷ついていたレベルである。
また、普通の打撃ではなく、無意識に【神威】を纏っていた打撃であった為、彼が普段から纏っていた【魔力反射の衣】すら無力化されていた。
未だ骨が接合することはなく、さらに霧散化する力すら失われている。
もしも霧散化できたなら、適当に魔力の高い相手に憑依して生気を奪うことで、回復度合いは飛躍的に高まっていたであろう。
だが、それすらままならない為、自然治癒を待つしかない。
「…… ブルーナよ。早く治癒師を探してこい」
「今、配下のものに手配しております。ですが、魔族の体を癒せる治癒師の存在は希少であり、そのほとんどが前回の大侵攻時に消滅しております」
「……糞っ、あの忌々しい魔術師め。我が魔人王となった暁には、あやつの生肝を抉り取って祭壇に捧げてやる……って、なんだこの音は?」
──カラーン、カラーン、カラーンカラーン
室内にいるにも関わらず、ベッドで横たわっているマグナムにも、その傍にいたブルーナの耳にも鐘の音が聞こえて来る。
「……まさか!!」
ブルーナは悟った。
慌ててベランダに飛び出して空を見上げる。
もしも魔人王が生まれたのなら、その姿が空全体に浮かび上がっているはず。
だが、その姿はどこにも見えない。
透明な魔族か?
いや、それとも姿を見せたくないのか。
いずれにしても、魔人王が生まれたのは事実。
そしてマグナムも思い出した。
先代魔人王であるフォート・ノーマが生まれた時の鐘の音と同じもの、それが頭の中にも届いたのである。
「ま、まて、まだ私はここにいる。継承の儀は、禊は始まっていない!! なぜ魔人王が生まれた!!」
マグナムは体を起こして叫び、その激痛にまたベッドに崩れる。
その姿を見て、ブルーナとマグナムの側近が彼に近寄る。
「ブルーナ、誰が魔人王になった!! この私を差し置いて!!」
「わかりません。ですが、先ほどの鐘は間違いなく『新王即位の鐘』です。新たな魔人王が生まれたのは事実、問題はその姿が見えないことです」
「探せ!! なんとしても探し出し、王印を奪え!!」
「了解です、では、失礼します」
丁寧に頭を下げると、ブルーナは部屋から出ていく。
そして急ぎマグナムの居城から出ていくと、今一度、空を見上げていた。
「何故、姿が見えない? 虚無のゼロさまなら、何かを知っているかもしれないか」
魔人王継承の儀を審判する立場にある【虚無のゼロ】。
彼なら何かを知っているかと思い、ブルーナは中央王都へと向かうことにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




