第二百四十四話・進退両難!百聞は一見にしかず!(これ、予想より酷くね?)
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妖魔特区内、菊水方面。
大通り一丁目から東、創成川を挟んだ向こう側から、豊平川を越えて菊水方面まで結界は広がっている。
直線距離にして1.5キロメートルまでの密林地域が、今日の調査区画。
「浩介が見たという、正体不明の魔族……妖魔が逃げ込んだ地域が、この先なんだが」
「ええ。羅睺さんたち三人で追い込んだとかいう話でしたよね」
空間収納から取り出した報告書では、そのように記されている。
しかし、俺でさえ逃げたアレを追い込んだとは、マジで元八魔将は凄いわ。
やっぱり魔将クラスになると、その辺の魔族とは何か違うんだろうなぁ。
白桃姫だって勝てる気がしないし、百道烈士なんて実質殺されたようなものだし。
クリムゾンは祐太郎やリナちゃん相手の手合わせをしているところを見たけど、子供相手に遊んでいるように感じたわ。
「計都姫の風の術式、チャンドラ師範の機甲拳、そしてマスター・羅睺の魔導体術。それで追い込んだものの、森と同化して消息不明って書いてありますよ」
「そのあと、第六課と特戦自衛隊で調査を行ったが、消息が掴めていない。少なくとも創成川から西の方での発見報告もなく、奴の発している魔力波長も確認できていないそうだ」
そうなると、奴の逃げた先は、川から東。
結界の残り半分の区画のどこか。
そして厄介なことに、川の向こうは大森林地帯となってしまっており、建物も廃墟のように崩れてしまっている。
いや、ちょっと待って、以前にもこの辺りには調査できたことがあったけど、ここまで酷くはなかったよ?
「……あの、忍冬師範。川の向こうって、こんなに酷かったですか?」
「いや、マスター・羅睺が活性転移門とやらを追い込んでから、一気に変容した。計都姫曰く、魔族固有の能力の一つで、テリトリーを作るものらしい」
「つまり、ここから先は奴の世界ということですか」
──ゴクッ
息を呑む。
ここから先は、慎重に行かないとならない。
俺たち以外にも特戦自衛隊のメンバーが四人、ヘキサグラムの戦闘員が二人、同行する。
ちなみにゴーグルは西側の詳細調査に駆り出されたらしく、特戦自衛隊と合同の調査を行なっているんだとさ。
日米安保理の範囲内とかなんとかかんとか、詳しいことは知らないけどね。
「まあ、それで早速だが、前方から走ってくる狼型魔獣8体、倒せるか?」
──グワウグオゥゥゥゥゥ
身体のあちこちが硬質化しし鎧を見に纏ったように変化したオオカミが8体、唸り声を上げてこちらに向かってくる。
「特戦自衛隊は戦えるのですか?」
「魔獣相手なら、実体化しているので武器が通用します」
「あまり、我々を舐めないでいただきたい」
──ガチャン
背中からグレネードランチャーを引き出すと、自衛隊員たちはそれを腰だめに構える。
そしてすぐさま狼たちに向かってランチャーを構えると、トリガーを引いた。
──ドゴッドゴッ!
打ち出された弾丸が十字架型に展開。
ゴムスタンガンのような作りになっているが、それが直撃した狼たちは後方に吹き飛び、そのまま意識を失った。
「へぇ……俺、見ているだけでいい?」
「左の二つを相手してくれたらな……機甲拳、一の型!」
え?
忍冬師範、いつのまに機甲拳を覚えたんだ?
そう思って見ていると、祐太郎よりも綺麗な動きで、狼たちの頭を殴り粉砕していた。
「……うわぁ。祐太郎ほどの破壊力はないけど、機甲拳を覚えたのですか?」
──キィィィィィン
そう問いかけつつ、右手で高速印を組み込み、二頭の狼めがけて無詠唱発動!!
「範囲拡大、効果四倍……オフリミッター・力の矢!」
──ドゴドゴドゴドゴォォォォッ
一頭あたり4本の力の矢。
しかも魔導紳士モードでの、対魔族用手加減なし。
二頭とも体があらぬ方向に捻じ曲がり後方に吹き飛んでいく。
残った二頭をヘキサグラムの戦闘員たちが対処して、ここの襲撃は完了。
二人の自衛官が狼のサンプルを後方に運ぶため、一旦ここで待機となる。
「……あの、サンプルって全て回収するのですか?」
「いや、既に回収済みの個体なら、穴を掘って埋めるか集めてから焼却する……のだが」
そう説明してくれている最中に、目の前で倒れた狼たちがス〜ッと消える。
そしてその場には、魔石が転がっているだけ。
『ピッ……創成川から東区画、菊水方面に至るまでは、未確認魔族のエリアとなっています。効果は、フィールドのダンジョン化』
「ダンジョン化? なんじゃそりゃ?」
「浩介、何か知っているのか?」
「い、いや、ちょっと俺にも判別がつかないもので……瀬川先輩!!」
何が起こったのか、俺にも理解できない。
そういう時は、我らがブレーン、先輩の出番です。
『ピッ……こんにちは。何かあったのかしら?』
「ええっとですね、今、妖魔特区東方面、バスセンターから菊水方面に調査を始めたところなのですが……」
淡々と、今起こったことをありのままに説明する。
それはもう、ジャン・ピエールさんのように。
そうすると、先輩が少し時間が欲しいと告げたので、しばし待つことにした。
幸い、自衛隊員が到着するまでは時間があるのでね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
乙葉くんから連絡が来ました。
なんでも、妖魔特区の中で異変が起きたそうです。
以前の、百道烈士が妖魔特区を作り出し、内部が鏡刻界のようになりつつあったのとは、様子が違うそうで。
とりあえずは、教えてもらった単語をもとに、深淵の書庫を発動して見ます。
「深淵の書庫。妖魔特区内部で発生した、一部区画のダンジョン化について検索……王印ともリンクしてください」
『王印とリンク……魔皇データベースより、ダンジョン化についてのデータを検索完了』
「了解。結果を教えて頂戴」
『ピッ……』
深淵の書庫内の魔導スクリーンに詳細データが表示される。
ダンジョン化とはつまり、特定空間がダンジョンに変化すること。
ダンジョンとは、瘴気を吸収する『ダンジョンコア』が作り出す『狩場』のようなもので、中に入り込んだ対象者の欲望を読み取り、その願いを叶える物質を魔力によって作り出すことができる。
それを求めて人間たちを集め、内部で殺すことでダンジョンコアの養分とする。
そうしてダンジョンコアは成長を続け、どんどんと大きく、危険で複雑なものに進化を続ける。
「……なるほどね。魔皇データによると、この現象は鏡刻界では突発的に発生することであり、自然災害の一種として認定されていると。それで、今回のケースも、恐らくは活性転移門が引き起こした災害程度の認識である……ふぅん。厄介なことこの上ないわね」
すぐに乙葉くんに連絡を入れると、彼はこれなりに何か対策を考えてみるそうです。
「ふぅ……それにしても、魔皇さんたちは、どうしても私を魔人王にしたいのですね?」
魔皇データベースにアクセスすると、定期的に魔人王継承の儀に参加しないかと、誘いの声が聞こえてくる。
鏡刻界で唯一、初代魔皇からの力を継承した王印。
それが宿るということは、私こそが次期魔人王であると伝えてくる。
「はぁ。私にはその気がないこと、鏡刻界にも行く気はないこと。それは以前からも説明しましたよね?」
王印に向かって諭すように説明する。
『活性転移門の対応方法を知る魔皇もいるぞ』
『妖魔特区の結界の解析も出来ている。今よりも強い力を得ることができるぞ?』
『なぁに、魔人王になったからといって、鏡刻界に行く必要はない……』
そんな誘い文句が頭の中に走るけれど、だからと言って私の精神を侵食したり、支配するということはないそうで。
あくまでも魔皇は、王印所有者に有益な力を与えるそうで、私の場合は『深淵の書庫』の追加データベースという立ち位置として役立ってくれているそうです。
ですが、先ほどのような重要な情報を得るには、魔人王として立つ必要があり、魔人王のみが知り得る伝承も存在するそうで。
「そうね。その伝承とかには興味がありますけれど、深淵の書庫で見ることは可能なのですか?」
『……』
「ふぅん。沈黙が解答、ですわね。まあ、私としてはサンフランシスコ結界と妖魔特区を解放する手段がわかれば構いませんけど」
『……結界魔を滅ぼせば可能。彼らは結界を作り出す特化能力魔族。だが、彼らを見つけることは不可能』
あら、私の深淵の書庫、乙葉くんのサーチ能力、築地くんの闘気感知。これだけの能力者がいても無理なのでしょうか?
そう問いかけると、深淵の書庫が一つの答えを弾きだした。
『妖魔特区は、以前、乙葉浩介によって開かれた転移門を通って鏡刻界に逃げた。サンフランシスコ結界は、活性転移門の解放時に、向こうの世界に送り出された。別空間ゆえ、向こうの世界で彼らが滅んでも、こっちの世界には干渉しない』
つまり、向こうの世界に逃げられた時点でおしまいって事なのね。
はぁ、これは諦めるしかないのですね。
『結界消去術式を、魔皇が所持している。使用許可は魔人王のみである』
はぁ。
どうしても私に、魔人王になれというのですか。
何も変わらない、私が私であり続けるのでしたら、まだ考えなくはないですが……その話はまた今度にしましょう。
乙葉くんから、また何か連絡が来るかもしれませんからね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……と言うことで、この辺り一帯が活性転移門のエリアで、生き物を殺して吸収して、力をつけているそうです」
先輩から教えてもらった情報を忍冬師範に伝える。
後方では、連絡を受けてやってきた特戦自衛隊の人たちが魔石を回収して、また戻っていく姿が見える。
ヘキサグラムや俺が倒した分の魔石も持って行こうとしたので、問答無用で取り返したよ。
「つまり、この付近で魔獣とかと戦闘した場合は、全てが活性転移門の成長に繋がる。可能なら、この場所以外での戦闘を行う必要があると」
「そんなバカな話があるか!! そんな不可解な情報を鵜呑みにするわけにはいかない」
「ミス・瀬川の深淵の書庫の回答がそれなら、我々としても今後の活動を再考する必要がある」
俺の話を真っ向から信用しない特戦自衛隊と、全て信用するヘキサグラム。
ええ、特戦自衛隊はそうでしょうよ。
不可解な情報といえば事実だし、死んだものが突然空間に吸収されるって信じるはずないよね。
でも、実際に戦闘した自衛官たちは、自分たちの見たことを必死に説明している。
百聞は一見にしかず、まさにそれ。
「まあ、第六課は瀬川女史のアドバイスを信じる。その上で、調査を続ける。不必要な戦闘は行わず、可能ならダンジョン化した区画の正確な広さを調べたいところだな」
「同感です。それに加えて、活性転移門の居場所も特定したいですね」
よくよく考えるとさ。
ここで起きたことは、そのままサンフランシスコ結界の中でも起きるんだわ。
それどころか、世界中に姿を表した活性転移門全てで発生する可能性もある。
それなら、今は少しでも有益な情報を入手した方がいいよね。
うん、死亡フラグ待ったなしに感じるのは、気のせいじゃないよなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




