第二百三十八話・一蓮托生、狭き門より入るしかない(家宝は寝てまて)
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中間世界と、封印世界。
俺たちの地球が、白桃姫たちの住む鏡刻界と対の存在であるのは理解している。
二つで一つの、神々が作った世界だという話も聞いた。
それなら白桃姫の話していた封印世界と、冥王の話していた中間世界とはなんなのか?
この世界、まだいくつもの世界が存在するのか?
「う〜む。妾の話した封印世界とはな、魔族の神であるファザー・ダークの体が封じられた世界じゃな。一つの世界を丸々封印媒体とした、神威による多重積層封印。それが封印世界。封印大陸とも呼ばれておる」
「……吾輩、そのような存在は知らなかったのだが」
白桃姫の説明に、冥王が顎をカクーンと開いて呟く。
いや、口が無いというか骸骨で、声帯もないのに話ができているのだがら、顎が外れた程度では喋れなくなるはずはないんだけどさ。
「そりゃそうじゃよ。そもそも封印世界の話は、歴代の魔人王しか知らぬわ。王印に記された封印世界を開く鍵。それのありかも、それを解除する術式すら、王印には記されてあったらしいからな」
「それじゃあ、マグナムは王印を手に入れて魔族の神を復活させようとしているのですか!!」
沙那さんが問いかけるも、白桃姫は頭を振る。
「いや、それがなぁ……フォート・ノーマの所持していた王印は、いわば新しき王印。封印大陸の説明は記されていたらしいが、その場所や封印解除の鍵などは記されておらなかった」
「それらは歴代魔人王に語り継がれていたものであり、新しき王印には記されていない……というところか」
冥王が腕を組んで納得している。
なるほど、それって瀬川先輩の所持している王印に、全て記されているってことですよね?
危ねぇ。
「いかにも。妾がフォート・ノーマと指しで飲んでいた時に、奴が酒によって愚痴っていたからな。なんで封印世界の鍵も場所も知らされていないんだって……」
酒によって愚痴る魔人王。
なるほど、俗物過ぎで笑えてくる。
「つまりは先代魔人王亡き今、王印が失われてしまったのでマグナムがそれに気づくことはないと。奴が魔人王になっても、封印世界については白紙のままか。まあ、それなら安全だと考えよう」
「それでじゃ。プラティの言う中間世界とはなんぞよ?」
ここで冥王に問い返す白桃姫。
流石に会話のスケールが違いすぎるので、俺や沙那さん、リナちゃんは聞き手のままで何もできない。
「二つの世界に存在する、結界によって包まれた世界だな。どちらの世界にも存在し、どちらの世界からも行き来できる場所が『中間世界』。まあ、月齢や星辰の位置によって門が開いたり開かなかったりするのだが。この中間世界が二つの世界を繋ぐ鎖であり、鎖を通じて、文化や歴史、芸術などの一部が流失しているらしい」
淡々と説明するけど、それって凄いよな。
「ほう、それはどのような場所に存在するのか?」
「今の星辰だと、裏地球に出入り口がある。やがて星辰がずれることで、出入り口が鏡刻界に切り替わる……ちなみにだが、魔族の儀式転移門は、この中間世界の扉の術式をモチーフにして作られておる」
「「「「なん(だと? ですって? じゃと?)」」」」
四人同時ツッコミ。
そりゃそうだ、いきなり転移門についての正体が出たからな。
「なるほどな。聞けば聞くほど、その中間世界とやらに行きたくなったぞ」
「いくも何も、この霧の都も中間世界だが」
淡々と呟く冥王。
え、今、なんて言った?
聞き間違いじゃないよな?
「……ほう。この霧の都が中間世界とは。そして冥王の話ぶりからすると、中間世界とはここだけではあるまい?」
「察しがいいな。吾輩の知る限りの中間世界は全部で四箇所。アヴァロン、レムリア、ムー、そしてここ。この四箇所が、中間世界と呼ばれている四つの鎖だな」
一つ一つを指折り数える俺たち。
そして沙那さんの顔色が青くなっていく。
「あ、あの、霧の都って、正式名称はなんと呼ばれているのですか?」
「奴の話では……確か、アトランティスとか話していたが?」
──ブッ
いや待って、そういうレベルの会話は俺じゃなく先輩やオトヤンのいる場所で頼む。
俺たちがいるここがアトランティスで、二つの世界を繋ぐ中間世界で。
そして星辰や様々な条件で入口が切り替わるってことだよな。
「アトランティスで、黄金のスケルトン……」
「リナちゃん、それ以上はいけないわよ」
「ラジャ!!」
何か危ないことを呟くリナちゃんを、沙那さんが静止する。
うん、そこは触れちゃいけない。
「のう冥王や。その星辰の変化じゃが、いつ頃始まるのじゃ?」
「先程終わった。数刻前までは裏地球と繋がっていたが、今は鏡刻界だな」
あ、あのなぁ。
そんなにあっさりと言われても、困るんだが。
それって、俺たちが日本に帰れなくなったってことだよな?
「冥王、次に霧の都が俺たちの世界に繋がるのはいつだ?」
「う〜む。それがよくわからんのだよ。長いときは十年単位で繋がっていたのだが、短いときは一週間ごとに変化する。条件がはっきりとしないので、吾輩としても迂闊に出入りできなくてなぁ」
「が、学校がぁぁぁぁ!!!」
「お父さんに何も話していないのに!!」
まあ、リナちゃんたちはそうなるよなぁ。
俺としては覚悟を決めたので、このまま修行に突入するしかない。
「よし、次に俺たちの世界に繋がるまでは最短で七日だったよな!! それまでに修行を終わらせる!!」
「まあ、今日はゆっくりと休んで……明日の朝からでも始めようではないか」
「あうあう……宿題が終わってない」
「大丈夫よ、一週間なら大丈夫。最悪でも二週間以内に戻れたら、夏休みの終わりギリギリだからね」
必死にリナちゃんを励ます沙那さん。
「まあ、七日で繋がったのは、今から30年ほど昔でなぁ。ここ最近は半年ごとにだったかな?」
「「うわぁ!!」」
もう、諦めて俺と一緒に修行しようじゃないか。
白桃姫もやる気になっているからな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──イギリス、ロンドン
エリザベス・タワーに備えられているビッグベンが、ゆっくりと鳴り始める。
ウェストミンスターの鐘の音が響くと同時に、バッキンガム宮殿に勤めている『宮廷魔導士』のマルジン・エムリスは女王陛下に頭を下げた。
「ご報告します。アヴァロンとの門が姿を現しました」
それは、イギリスの対妖魔機関にとってのトップシークレット。
対魔族戦に必要なミスリルの産出地であるアヴァロンは、この地球上には存在しない。
アヴァロンの管理者であるマルジン・エムリスのみが、彼の地へ向かうための鍵を所有している。
付け加えるならば、マルジンは地球人ではない。
アヴァロンに住むエルフ種であり、数少ない【ルミニース】の氏族。
精霊の加護を持つエルフであり、マルジンは四つの氏族の中でもアヴァロンに住む固有の種族。
遥か昔の盟約により、アヴァロンのエルフたちはイギリスを魔族から守ってきた。
「アヴァロンがやって来ましたか。もう何年ぶりになりますかねぇ」
「まだ四年です。あのときは十日ほど接続していましたが、今回はどれぐらい掛かるのかわかりません」
「我が国の対妖魔機関には、すでに連絡をしているのですか?」
アヴァロンが開くことで、ミスリルが手に入る。
そのため、英国対妖魔機関は、アヴァロンが開くのを心待ちしている。
ここ数年は、日本に出現した『現代の魔術師』たちにより、対妖魔機関としての存在意義が揺らいでいる。
妖魔と戦う力はイギリスこそが最強である。
対妖魔用魔法金属ミスリルを精錬できるのもイギリスのみ。
ヘキサグラムとは情報供与の返礼として、定量のミスリルを売り捌いているのだが、それも数が少ない。
だが、日本はどこからともなくミスリルを手に入れた。
英国対妖魔機関が日本に打診しても、その産出地などは一切聞き出すことはできなかった。
アヴァロンの門が閉じてから数年、対妖魔機関は新たな脅威との戦いのために、ミスリルを欲していたのである。
「すでに、アヴァロンへ向かうための十二名については、報告書が届けられています。今回も送り出すための人員を増やしてほしいという嘆願書と、魔術の継承についての嘆願書もきていますよ」
「御言葉ですが。魔術の継承については、我々はこちらの世界に対しての干渉は行わないということで決着がついていたはずです」
アヴァロンは精霊魔術の秘技の眠る地。
常日頃から妖魔との戦いを強いられてきたイギリスにとっては、喉から手が出るほど欲しい知識である。
だが、アヴァロンの門が開かれた遥かな昔、この地の王との盟約により、一人の魔術師をブリタニアに派遣すること、選ばれし騎士たちにミスリルを与えることと引き換えにアヴァロンへの侵略を行わない事となっている。
「ええ。そうなのですけど。日本に現れた魔術師がいるのはご存知でしょう? 彼が東方の地にミスリルを齎したことで、英国対妖魔機関も遅れを取りたくないと必死なのですよ」
「関係ない話ですね。そもそも、アヴァロンの秘技は精霊魔術、精霊力の希薄なこの世界では顕現することは不可能です。では、話を戻すことにしましょう」
その一言で話は終わる。
あとは淡々と、ミスリルの採掘についての説明、派遣される者たちのリストなどの確認と、事務的な部分を進めていく。
「これで結構です。この人数ですと、一日に持ち出せるミスリル鉱石は12キロ。そこから精製して手に入るミスリル銀は、この世界での精製技術なら600グラム程度でしょう」
イギリス式ミスリルソードは、刃の部分にミスリルを術式付与することで完成する。
この術式付与が曲者であり、具体的にはマルジンがミスリルを刃に蒸着することにより完成する。
その際に必要なミスリルは、一本につき12グラム。
600グラムだと五十本分の材料でしかなく、さらに全てがミスリルソードに使われるのではないため、最終的には十五本程度の数しか作られない。
なお、乙葉浩介式と呼ばれたいるものは、そもそも刀身全てがミスリルであり、日本刀のように研ぎ込むことで完成している。
「ミスリルの精製についても、アヴァロンの技術が使えると良いのですけどって、話が来ていましてよ?」
「精錬術式は教えたことがあります。けど、誰もできなかったのは資質の問題。それに、ミスリルの精製はエルフではなくドワーフの仕事です」
「ドワーフさんがいたらよかったのですけどね。まあ、これ以上の無い物ねだりはしないように釘を刺しておきましょう」
「よろしくお願いします。では、私はアヴァロンへ向かうための扉の準備をしてきますので」
軽く一礼してから、マルジンがその場を後にする。
それを見送ってから、クィーンは頬に手を当てて困った顔をしていた。
「本当に……どうしましょうかねぇ」
………
……
…
そして、困った顔をしていたのはこちらでも。
霧の都が地球から鏡刻界に門を切り替えたため、沙那とリナちゃんの二人は、夏休みが終わるまでに帰れるかどうか、かなり危険な状況にあった。
基本的に有馬祈念は沙那については放任主義であるので、多少帰宅が遅れた程度では心配はない。
山猫族は14歳で成人なので、リナちゃんが何かをしても自己責任なので、これもまた問題はないかと思われるのだが。
「うわぁぁぁぁ!!」
王宮の一角、二人にあてがわれた部屋の中では、リナちゃんが机の前のテキストを見て絶叫していた。
「まあ、時間のある時に宿題をしておこうと思って、ルーンブレスレットに纏めて入れておいたのは正解でしたね」
「沙那ちゃんにいわれて私も入れておいたけど、ここで勉強するとは思わなかったぁ」
午前中は宿題、午後からは自由。
そう帰還までのスケジュールを組み立てたものの、午後も白桃姫との訓練が詰め込まれている。
体が休まるのは夕方から、まるで学校に通っているのと変わらないスケジュールに、リナちゃんは崩壊寸前であった。
「あーそーばーせーろぉぉぉ!!」
今日はリナちゃんに、合掌。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




