第二百三十三話・(目覚めた羅刹は、とんでもなかった)
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妖魔特区内、十三丁目フィールド。
妖魔特区外へと繋がるゲートを守るために、俺が作り出した対妖魔結界区画。
大通り十二、十三丁目の二つの区画を守るこのフィールドには、妖魔は絶対に立ち入ることができない。
ちなみにだけど、このルールには実は落とし所がある。
白桃姫が第六課と結んだらしい条約のようなものがあるらしく、妖魔特区内部の白桃姫配下の魔族は、第六課の要請に応じて協力体制を取る代わり、妖魔特区外部に出ることが許されているらしい。
まあ、その外に出る時は俺にも連絡が来るので、俺が水晶柱の外にゲートを開くことになっている。
いずれ、第六課でも使えるように十三丁目フィールドにもゲートを作りたいところだけど。
それはまあ、まだ先に置いておくとして、問題は目の前でワクワクしている綾女ねーさんの身体。
「それじゃあ、封印されている羅刹の本体を出しますか」
──シュンッ
空間収納から、封印呪符を貼り付けたダイヤモンドを取り出す。
これは俺と祐太郎の2人がかりで封印した羅刹の身体の部分が収められている。
「ほう……封印されていてもなお、わたしの魔力を感じられるとは……」
「そう、そこ、そこなんだよ。綾女ねーさんって、鑑定したら魔神って表示になっていたけど、魔族じゃないの?」
「魔族さね。まあ、人間でいうところの亜神、神に近い魔族が魔神って分類されているらしいからね」
「なるほどなぁ。それなら納得だわ」
そもそも、羅刹って毘沙門天の眷属だからね。
そう考えてみると、俺も祐太郎もよく勝てたものだよ。
「それじゃあ、解放しますから。すぐに身体と一つになってくださいね、暴れられると大変なもので」
俺の説明のすぐ後に、瀬川先輩とクロム大佐、ゴーグルの三人も妖魔特区ゲート近くまで避難する。
それぐらい離れていた方が、安全だと思うよ。、
そしてダイヤモンドから羅刹の本体を解放すると、目の前に巨大な岩ほどの大きさの魔族が姿を表した。
俺たちが倒した時と同じ、全身傷だらけの上に片手片足が吹き飛んだまま。
「はぁ……封印されていたとはいえ、多少は自己回復するはずなんどけどねぇ」
「あ、俺の能力でさ、封印中は時間の進行が止まっているんだわ」
「道理で。この傷、明らかについたばかりじゃないか……どれ」
そう告げてから、綾女ねーさんの体が霧のように散り、羅刹の中に吸い込まれていく。
そして少し経ったと思いきや、いきなり羅刹の体がミシミシミシイッと音を立てて縮まっていく。
──ミシッ……プシュゥゥゥゥゥ
10分ほど、俺たちは綾女ねーさんの様子を見ていた。
最悪、自我を失った場合は俺が止めなくちゃならないからね。
「ふぅむ。久しぶりじゃなあ」
その場には、ゴキゴキッと肩を鳴らしつつ、着物姿の綾女ねーさんが笑いながら立っていた。
黒い着物が良く似合う、和装女性。
でも、その体から滲み出るのは半端ない魔力。
抑えているらしいけど、俺にはわかる。
少なくとも白桃姫の保有魔力値よりも桁ひとつは大きい。
「気分は如何程に?」
「ん? まあまあじゃな。では戻るから、また開けてくれるか?」
「戻るのかーい。そもそも、綾女ねーさんは羅睺さんとこにいたんでしょうが。そっちに戻るのが普通じゃないか?」
「む、確かに。どれ、久しぶりに羅睺らの姿を見るとするかのう」
にっこりと笑いながら、ゲートに向かって歩き出す。
それじゃあ俺も、羅睺さんに聞きたいことがあったからさ。
「先輩、俺は羅睺さんのところに行ってきます」
「了解です。私たちはもう少し調査してから、新山さんと合流することにしますわ」
それじゃあ、急いで向かうとしますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
阿鼻叫喚って、こういうことを言うんだなぁ。
魔法の絨毯で綾女ねーさんとタンデム。
やってきたのは喫茶・七曜なんだけどさ、俺が入った後で綾女ねーさんが店内に入った瞬間、羅睺さんとチャンドラ師匠が戦闘態勢に入るし、計都姫は裏口に向かって逃げようとするし。
そんな姿を見て、蔵王さんが笑っているのは凄いと思ったけどさ。
「久しぶりじゃないか。そんなに慌てるなんて、何かあったのかい?」
「な、な、何かも何も、羅刹の封印が解けているではないか!!」
「羅睺、俺が奴を止めるから、俺ごと封印しろ!!」
「もうダメ……調伏刀もない……羅刹を止められない……」
うわぁ。
ここまで動揺するレベルなのかよ。
「ちょっと、マスター。よく見て綾女よ、羅刹じゃないわよ」
蔵王さんがそう笑いながら呟くと、恐慌状態の三人も恐る恐る綾女ねーさんを見る。
「た、確かに頭は綾女だが、その体から発する魔力波長は羅刹そのものじゃ!!」
「はぁ、ちゃんと話を聞いておくれよ……」
やれやれと頭を抱えつつ、綾女ねーさんがカウンター席に座る。
俺もその隣に座ると、一人だけ冷静だったハルフェ・ライネン店長が俺の前にコーヒーを置いてくれた。
「乙葉くんが、綾女の身体を返してあげたの?」
「ええ。いつまでも封印されていたら可哀想ですし、今の綾女ねーさんなら、悪用しないよなって思ったまでです」
「ど、どこをどうしたらそのような判断になるんだ。浩介は知らないかも知れぬが、羅刹はそもそも、二代目魔人王の側近。我ら初代八魔将と剣を交えた存在なのだぞ!!」
「体が封じられてからは、頭だけの状態でここにいたのにねぇ。体が付くと、そんなに怖いのかい」
「当たり前じゃろ!! 羅刹は三獣鬼と並び、少なくとも歴代魔人王側近の中でも最強と呼ばれていた存在なのじゃぞ!!」
へぇ。
三獣鬼って、ひょっとしてあいつら?
「綾女ねーさん、三獣鬼って、伯狼雹鬼とその兄弟?」
「まあ、そんな時代もあったわねぇ。今はほら、乙葉くんによって身体も戻ってきたし、昔のことはキッパリと忘れようじゃないかえ」
「ま、まあ、敵対しなければ……なぁ」
「うむ。チャンドラの言う通りじゃ」
「それで、確か私が使っていた部屋があったろう? そこをまた貸して欲しいのだけど、ダメかえ?」
──ブンブンブン
羅睺、チャンドラ、計都姫の三人が高速で頭を左右に振る。
「それなら決まりだねぇ。ハルフェや、流石にタダで借りるわけにはいかないから、仕事をくれればなんでもするぞよ」
「う〜ん。では、和菓子を作ってもらえますか?」
「懐かしいの。では、今後も頼むぞ」
あっさりと話が終わったので、ここからは俺のターン。
「羅睺さん、活性転移門って分かりますか?」
「活性転移門? いや、わからぬが。それはどのようなものだ?」
「実はですね、最初から説明しますけど……」
俺たちがニューヨークのリバティアイランドで見た活性転移門、そして妖魔特区内部を徘徊する謎の魔族について説明したんだけど、羅刹さんたちは腕を組んで唸ってばかり。
「いや、長年生きていたが、そのような魔族は知らぬし、転移門が生きているということもわからぬ」
「そもそも、転移門は高度な術式により生み出されるものであり、生きていて、しかも獲物を求めるなど考えられないな」
「しかも。正体不明の魔族。特徴を聞いた時点で、私はそんなの知らない」
それならばと綾女ねーさんのほうを向いたんだけど。
「推測じゃが。【古き魔族】の力によるものかも知れぬ。私がまだ、魔神化するまえに聞いたことがある……魔皇が魔人王を名乗るよりも昔、ファザーダークの眷属と呼ばれていた魔族がおったが……その辺りやも知れぬな」
「それだ!! そのあたりの情報をプリーズ!!」
──ブゥン
新型魔力玉・神威ミックス。
それを作り出して綾女ねーさんの食べている宇治抹茶かき氷の上にトッピングする。
「これはまた。しばらく見ないうちに、随分と魔力コントロールがうまくなったのう。ほれ、普段はそんな様子を見せない輩たちも、本能には逆らえぬようじゃぞ」
そう綾女ねーさんにいわれて周りを見渡すと、計都姫が口から涎をこぼしそうになっているし、チャンドラ師匠は耳が実体化しているし、羅睺さんは冷静にお茶を飲んでいるが、手がガタガタと震えている。
しかし、蔵王さんとハルフェさんは変わってないから、この辺りに違いがあるのかなぁ。
「こ、浩介……我々は普段は、そのような高濃度魔力を口にすることはないからな。務めて節制を行なってあるゆえ、あまり我らの前ではそれを出すな」
「あ、ああ、羅睺の言う通りだ。わかったな!!」
「一つ、欲しい」
「ほい、計都姫にはあげよう」
ヒョイと手の中につくりどすと、それを計都姫に手渡す。
それをすぐに口に頬張ると、飴玉を舐めるかのように口の中でコロコロと転がしている。
──ゴクリ
その姿を見て、羅睺さんとチャンドラ師匠も喉を鳴らすが、あくまでも必要以外の魔力は摂取しないと言う矜持があるらしく、ねだって来ることはなかった。
「さて、話を戻すが。綾女殿、先程の話ではファザーダークの眷属という話が出ていたが、我らもそれについては知らぬのだが」
「まあ、そうじゃろ。私のように魔神化した魔族ぐらいでないと、その呼び名は知らないからのう。今は存在しない、絶滅した魔族。血脈も残っておらず、彼らにしか使えない秘技も失われておる」
淡々と説明してくれるのだけど、その失われた秘技の中に、【鏡刻界と裏地球を繋ぐ門を作る植物の育成】というのが存在したらしい。
魔素を取り込み成長し、蔦を伸ばして転移門を作り出す。
よくいう『神隠し』の元凶のようなものであるが、最悪なのは、その転移門が『どこに繋がるのかわからない』ということ。
一度入ると、元の世界には戻れないと言うのも凶悪さを表しているらしいんだけど、その植物の門と活性転移門の特徴が似ているらしい。
「まあ、失われてからかなりの時間が経っている。それを解析したのものが、新たな調整を施したのかも知れぬ。そしておそらくは、妖魔特区の中にいた未確認の魔族も、そういったものかもな」
「た、対処方法は?」
「ふぅむ。失われた秘技ゆえに、わたしにもわからない。それに、私は知性派というよりも肉体派でな」
まあ、羅刹ですからね〜。
「わかりました。色々と情報をありがとうございます」
「いやいや。この程度で良ければ」
「それよりも、今日は稽古の日なんだが。祐太郎はまだ来ないのか?」
あ〜、チャンドラ師匠。
そのことも説明しますよ。
と言うことなので、祐太郎の魔障中毒についで説明したんだよ。
今はそれを解除するために、冥王の元に向かったこともね。
「冥王……死を操る魔族。殺した相手を眷属とする。有望な魔術師も、彼の元にアンデットとして使えている」
「冥王かぁ。久しく会っていなかったな……奴の元に祐太郎が向かったか」
「「「はぁ……」」」
深いため息をする三人。
え、なんで? 三人とも冥王を知っているの?
「な、なんで溜息?」
「冥王。死を操る魔族。そしてもう一つ、別名もある」
「己の元に、自らの意思でやってきたものを拒むことはない。そのものに力を与えるためなら、やつはまさしく冥府魔道の鬼となる」
「一言でいうぞ、冥王は修行バカだ!!」
「チャンドラ師匠よりも?」
思わず問い返したけど、全員が頷いている。
蔵王さんもハルフェさんも、しかも綾女ねーさんまで。
そこまですごいのかよ、冥王って。
そして、活性転移門についてのヒントはあったけど、対処方法は未だ闇の中だよ。
こりゃあ、八方手詰まりに近くないか?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




