第二百話・四鳥別離、竜虎も相搏ちそう(囚われの姫君)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
セレナさんが王印を求めている理由。
その本当の理由が、彼女の口から告げられた。
それが元十二魔将第一位、憤怒のマグナムの命令であることが、セレナさんの口から告げられて
激昂した白桃姫の演技により、ようやく真実が彼女の口から紡がれ始めた。
「私ハ。上級魔族の母と、人間の父の間に生まれマシタ……」
ようやく落ち着いたのか、セレナさんが話を始める。
今度は白桃姫もクリムゾンも椅子に座って、彼女の話に耳を傾けている。
「母親は、先程白桃姫さまが話していた『魅惑のフラット』と言う魔族です。前回の大氾濫の時に、母はアメリカのゲートからこの世界にやってきました……」
そのままアメリカで猛威を振るっていたところ、突然ゲートが消滅。
帰る術を失ったフラットは、人に紛れて生きる道を模索し始めた。
それから数百年のち、偶然、アメリカの妖魔研究家であるセレナの父親と出会ったらしい。
やがて二人は意気投合するが、人と魔族は共に生きるには時間が足りない。
到底受け入れられないのを覚悟で、フラットは自らが魔族であることを告白。
それを受け入れた彼女の父と結婚し、セレナが生まれたということらしい。
「……その後、父はヘキサグラムで、実体化した妖魔と人間の共存の道を探したのです。ですが、父の持つデータは兵器開発部に供与されてしまいました」
そしてある日。
アメリカに残っていた魔族の中でも、狂信者であるマグナム配下の妖魔が、ある小さな街を占拠。
それを鎮圧するために、ヘキサグラムが出動したのだが、未だ兵器としての想定を満たしていなかった為に、返り討ちに遭ってしまった。
やがて、街の人々が次々と殺され、食われ始めた時、まだ幼かったセレナも餌として狙われたらしい。
そしてセレナが攫われた時、フラットが単身でマグナム配下のアジトに殴り込みをかけたのだが、多勢に無勢、必死の抵抗の末に囚われてしまったらしい。
そのままフラットを人質に、マグナムの配下たちは逃走。
彼女の母親は、行方不明になってしまったという。
「ですが、つい最近……父の持つ古い鏡に、マグナムが姿を表したのデス」
鏡の向こうのマグナムは言う。
俺が魔人王になることを手伝えと。
儀式に必要な力が欲しい。
その為に、日本に住む乙葉浩介を連れてこいと。
あの白桃姫が一目置く相手なら、仲間として引き込むことができると。
そして、マグナムは王印についても話をしていたが、それは向こうの世界では見つかりにくいが不可能じゃない。だが、地球では不可能だから、余計なことはするなと。
マグナムの計画を無事に遂行し、彼が魔人王になった暁には、無事に母親を帰すことにしようと。
………
……
…
「……これが真実デス。父さんは、私ガ王印を探している事は知ってイマスガ、それは本来の計画のついでと思ってマス。デモ、私の本当の目的ハ、この世界の王印ヲ探す事デス‼︎」
涙を堪えつつ、セレナが拳を握って叫ぶ。
「……阿呆じゃなぁ」
セレナの話を聞いて、呆れたような声で呟く白桃姫。
「アホ……そうですネ。もっと他ニモ、方法はあったカモ知れません……でも、牢獄の中デ、囚われて衰弱する母を見て、じっとなんてしていられる筈がアリマセン‼︎」
力強く叫ぶセレナだが。
白桃姫は、ため息一つ吐いて一言。
「その理由、最初に話せば良かったものを」
スッ、と白桃姫が瀬川先輩を指さす。
すると、深淵の書庫の中には、瀬川先輩と新山さんが入って、細かく魔導モニターをチェックしている。
祐太郎は喫茶・九曜に電話して、マグナム関係の話をチャンドラ師匠から聞いているところだし、リナちゃんと沙那さんもアップを始めている。
「この乙葉の仲間たちは、良い意味で阿呆揃いじゃよ。最初から今の話をしていたのならば、妾たちも含めてお前の母親の救出に助力していたところじゃ」
ニイッと笑いながら、白桃姫が告げる。
そしてセレナさんの瞳からは、涙が溢れてきた。
「お願い……デス。母を助けて……ください」
「まだ二日しか経っていませんけど、友達が本気でお願いをしているのです。助けない道理はありません‼︎」
「オトヤン‼︎ マグナムの能力は不明だが、魔眼使いらしい。それとかなり強力な魔術師だ、反射術式の使い手でもあるってよ‼︎」
「オーケーオーケー。対反射術式用の戦術を組み上げるわ‼︎」
「セレナさんのお母様の囚われている可能性がある場所は、アメリカのメリーランド州に集中しています。現時点では六箇所まで絞れました。あとはここから条件を絞って、監視カメラを捕まえますわ‼︎」
新山さんが、祐太郎が、瀬川先輩が本気で動く。
そして俺も動かないはずがないし、リナちゃんも沙那さんも、俺の方を見て頷いている。
「魔術研究部の夏合宿の場所を変更する。目的地はアメリカの……メリーランド州。テーマは『セレナさんのお母さん奪回作戦‼︎』。異存はないよな?」
「ええ。大丈夫よ」
「問題ありませんわ」
「パスポートは用意してある‼︎」
「「え、パスポート?」」
おっと、リナちゃんと沙那さんは持ってないのか。
「二人は急いでパスポートの申請‼︎ 最速一週間掛からないから、まだ八月には間に合う‼︎」
「帰って申請します‼︎」
「リナちゃんも、申請してきます‼︎」
大慌てで帰るリナちゃんと沙那さん。
うん。
魔術研究部としては初めての、団体行動になる。
その内容が内容だけに、両手を上げて喜べないけれど、確実に成功させて見せるよ。
新しい友達のためにも。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
先輩の深淵の書庫でも、すぐに調べ終わるものではない。
問題なのは、絞った後に、そこを監視するカメラを掌握できるか。
世界的にも、俺たちの魔法については知れ渡りすぎている。
いくら日本政府が秘匿しようとも、人の噂は百里を走る。
「……最近は、私の深淵の書庫対策に各国も乗り出しているようですわね」
時間が遅くなりそうだったので、新山さんにお願いしてセレナさんを自宅まで送ってもらった。
リナちゃんと沙那さんからは、パスポートの申請が終わったので、届き次第、動けるように手筈は整えると言う連絡が来た。
ということなので、今は夜の七時。
そろそろ俺たちも戻ろうかと、祐太郎と瀬川先輩と話をしていた時、白桃姫が魔力玉を舐めながらやってきたんだが。
「……ん? ここにいるのは、この三人だけかや?」
「そうだけど。俺たちもそろそろ帰ろうかなと話していたところなんだが」
「ふむ。そうか、セレナはおらんのじゃな? それなら都合がいい……ちょいと集まるが良い」
いつになく、というか今日はガチ真面目な顔の白桃姫しか見ていない。
それで、一体何の用事なのやら。
「この三人にしか話せなくて、セレナさんに聞かせたくない話か。かなり気まずい話だな」
「築地の言う通り。この話は、ここだけのことにしておいてくれ……今回のセレナの母君、フラットの救助作戦なのじゃが、かなり本気でいかぬと不味いやも知れぬ」
「それはまた、何がどう気まずいんだ?」
そこを説明して欲しい。
その結果如何では、こちらの対応も考えなくてはならないからな。
「魅惑のフラット。彼女は、先代魔人王フォート・ノーマの腹違いの姉に当たるのじゃよ」
「「「……はぁ!!!!」」」
いや、待って。
普通は遠回りな説明をしてから、ゆっくりと解きほぐすように本題が来るよね?
いきなりぶっちゃけたよ、この魔族。
「そ、それって、マグナムは知っているのですよね?」
「いや、かなり昔に王家の中では緘口令が出ていた。そもそもフォート・ノーマの父はな、魔人王になるべく資質を持っていながらも、それを拒否して息子に譲ったのじゃ」
「はぁ、それはまた、どうして?」
「それは分からぬ。フォート・ノーマは父親を遥かに上わまる魔力を持っておったからなぁ。結果的には父親は隠居して、今はどこかの遠い領地でのんびりとしているのじゃが、やつが若かった時代、侍女に手を出してなぁ……」
うわ、貴族よくあるアルアル話か。
「それで、生まれたのがフラットさんか。その事は、フォート・ノーマは?」
「知る筈がないじゃろ? この件は妾とフォート・ノーマの執事ぐらいしか知らぬわ。妾も、偶然耳にしたていどじゃから、細かい話など知らぬ」
「それを、マグナムは何処かで聞き出して、フラットさんを拉致した。それはかなり昔の話のようだから、今回の件とは関係ないか」
セレナさんが攫われたのは五歳だったらしいから、今から12年前。
最近亡くなったフォート・ノーマの件とは関係がない。
「うむ。その通りなのじゃが、最悪のケースを想定する必要もある」
「……あの、王印がフラットさんに渡る可能性があると?」
「そうじゃな。可能性的には、それが一番濃厚じゃよ。そうなると……マグナムはフラットを殺してすぐに、継承の儀をおこなうじゃろ。そうなると最悪じゃ」
全ての魔族を率いて、裏地球侵攻のための贄を集める侵略戦争を始めかねないらしい。
そうなると、鏡刻界全土を巻き込む世界大戦が始まる。
「……そうなる前に、王印を探して誰かに魔人王になってもらうか、もしくはその、修練?」
「魔人王継承の儀、じゃ。それを邪魔するのは簡単じゃ。他の候補者が立ち、正々堂々と継承の儀に参加すれば良い」
「そっちの線が濃厚か。まずはフラットさんを救出して何処かに保護してもらい、その後で継承の儀を邪魔する」
「築地や、邪魔は不味い。流石に妾でも、それは止めるぞ‼︎ 魔人王継承の儀は神聖なるもの。誰でも参加する事は可能じゃが……それを邪魔するものは、全ての魔族の敵対心を受けると知れ」
お、おおう。
その白桃姫の言葉には、俺も祐太郎もビビったわ。
さて、先ほどから瀬川先輩が静かなのですが。
腕を組んで何かを思案中。
深淵の書庫を発動していないところから、個人的な何かだとは思うけどね。
「白桃姫さん、ひとつお伺いしても構いませんか?」
「うむ。何じゃ?」
「今朝方、気になったので深淵の書庫で調べていたのですが。継承の儀と王印、どちらが正当な王の証となりますか?」
あ、なるほど理解。
「王印じゃな。但し、継承の儀が終わって戴冠式が終わるまでに王印を手に、魔人王としての名乗りを上げねばならぬ」
「ふむ。それでは二つ目の質問ですけれど、魔皇の時代から受け継がれた王印と、フォート・ノーマが魔族の神から授かった王印、どちらが正統ですか?」
あ、瀬川先輩も、魔皇の話を聞いたのか。
さすが深淵の書庫、何でも知っているんだなぁ。
「……魔皇か。随分と懐かしい呼び名じゃな。それを授けたのも深淵の書庫かや?」
「はい。深淵の書庫が、ある文献から見つけましたわ」
「ふむ。それなら簡単に答えるとするか。魔皇が作りし王印は、全ての王印を凌駕する。それを持つものに対しては魔族は絶対服従でな。古き盟約のアビリティ『百鬼夜行』というのじゃが、魔皇の王印を持つものにしか顕現しないと言われておる」
「それじゃあ、魔皇の王印を探し出して……紛失したのはいつ?」
そこから考えてみようと思ったんだけど、こっちの世界で二代目魔人王が浄化された際、やつの副官がそれを持って消息を絶ったらしい。
「……そこで情報が切れたかぁ」
「うむ。二代目魔人王の副官は三名。黒狼焔鬼、銀狼嵐鬼、伯狼雹鬼の三人じゃよ。ほら、探すのは不可能じゃろ?」
うーん。
伯狼雹鬼ってあれだよね?
井川巡査長の家族を殺害した奴。
そして黒狼焔鬼って、総理大臣秘書官だよね? あの鷹川元総理の秘書官。
そして、最後に銀狼嵐鬼。
以前、白桃姫から聞いた話では、もっとも魔人王に近い魔族。
消息は不明らしいけれど、雰囲気的にはこいつが王印を持って逃走した可能性があるか。
しかも魔族だから、まだ生きているよなぁ。
「流石に今日は、深淵の書庫をフル回転したので無理ですわね。もう少し回復してから、そちらも調べて見ますわ」
「よろしくお願いします。俺はチャンドラ師匠に話を聞いてきます」
「俺は母さんに聞いてみるわ」
「なんじゃ、チャンドラが師匠って本当とはなぁ」
「「「あ」」」
やっべ、バレた。
「まあ、今の妾はただの上級妖魔じゃから、関係ないわ。そのうちここに顔を出すように伝えるが良い。チャンドラのライバルじゃったクリムゾンもおるからなぁ」
最後の言葉は小声であったが。
脳筋が二人揃ったら、化学反応起こすじゃないかよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




