第百九十四話・虎視眈々、尾生の信じゃダメですか(選挙も終わって一段落?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
夏休み前の日曜日。
つまり今日は、衆議院選挙の投票日。
この結果によっては、今後の俺たちの立ち位置が大きく変化することになるんだけどさ。
「ふぅ。予想外ではあったが、とりあえずヨシ‼︎」
選挙速報を見て、俺は安堵のため息を一つ。
窓の外、祐太郎宅の庭ではおめでとうの宴会がスタート。
無事に衆議院選挙も終わり、自由国民党は圧勝ではないものの過半数は越えることができた。
これで政権与党は自由国民党になり、国権民進党や共進党は野党へ。
これから魔族を含めた法案の整備、そして異世界に対する政策などの協議も始まり、何よりも俺たち魔法使いがどういう立場になるのか。
「……まあ、難しいことは大人に任せて、俺たちは俺たちで盛り上がるとしますか‼︎」
「そうそう。親父たちに紛れていたら、余計な報道関係者が来るからな」
「改めて、おめでとうございます‼︎」
「フェルナンド聖王国の関係も一段落したようだから、これで本当に平和な日常が戻ってきますわね」
魔術研究部の部員たちは全員、俺のうちに集まって祐太郎の親父さんの当選おめでとうパーティ中。
ちなみにうちの両親は祐太郎宅中庭のパーティーに参加、そっちは町内会や古い知人が集まっているからだってさ。
「乙葉先輩‼︎ リナちゃんもラナパーナ王国に行きたいです‼︎」
「先輩、ワタシもぜひお願いします。夢に見た異世界に、どうか連れていってください」
「ま、まあ、いつでもいけるから、夏休みに入ったらみんなで行くっていうのはどう?」
あっちであんなことがあったから、今暫くは鏡刻界に行きたくはないんだけどさ。
まあ、みんなが希望するのなら、応えてあげないとなぁ。
「乙葉くん、それなら魔法研究部の夏合宿をラナパーナ王国でおこなうというのはどうかしら? 私も大学が夏季休講に入りますので、参加できますわ」
「それも良いなぁ。必要なものは大体買い込んで、各々ルーンブレスレットに入れていけば手ぶらだし」
「ルーンブレスレット……あの、私たちの分も作ってもらって、ありがとうございます」
「感謝‼︎」
こっちに戻ってきてから、沙那さんとリナちゃん、そして高遠先輩と美馬先輩にも正式なルーンブレスレットを作ってあげたよ。
魔法研究部の部員には、俺からプレゼントしてあげようってことで話がついたし、細かい使い方の説明は新山さんと祐太郎に任せたし。
お陰で、噂を聞きつけた生徒たちが魔導具欲しさに殺到したけど、ことごとく入部テストで全滅。
あの自称・勇者も納得がいかないと何度もテストを受けた挙句、魔導具がおかしいとかクレームを入れまくったので強制退場。
美馬先輩と高遠先輩も、自分用のルーンブレスレットに感無量状態。
しかも、高遠先輩は実費購入で俺から『魔導書作成キット』を購入、無事に魔導書を手に入れることができたんだけど。
「……水よ。我が体内より生まれて、静かに流れたまえ‼︎」
──チョロチョロ
隣の部屋の居間では、高遠先輩が魔導書片手に、秘薬を並べて魔法の訓練。
魔力回路が開いているし、魔力弁は小さく開いているので、少しだけ魔法が使えるようになっている。
なお、美馬先輩は闘気に偏ったらしく、祐太郎から闘気修練の手解きを受けているらしい。
今は、ソファーでグッスリと眠っているけど。
「でも、だんだんと魔法が使える人が増えてきましたわね。乙葉くん以外の魔法使いって、何人いるのかしら?」
「まず、普通の魔法使いなら、現代の魔術師代表の俺とヘキサグラムの二人、高遠先輩、織田、この五人ぐらいじゃないですかね。ユータロ、闘気関係は?」
「ん? 俺と忍冬師範、首相付SPの柳瀬さん、美馬先輩、あとはリナちゃんぐらいしかわからないなぁ」
「神聖魔法は私だけですね。もっと多くの人が使えるようになって欲しいですけど、こればかりは神様頼みの部分が多すぎます」
その一つ一つの報告を、瀬川先輩は深淵の書庫でチェックし、入力している。
「獣人は結構いるわよね? リナちゃんとチャンドラさん、あとは……龍造寺玄斎さん」
「リナちゃんの知り合いにいっぱいいます‼︎」
「それはまた今度ね。知り合い関係でまずは纏めてみますので」
これに初代十二魔将の羅睺さんや計都姫、こっちにもチャンドラさんは当てはまる。
「……ふぅ。意外と、知り合いに人間離れした人が多いのには驚きですわね」
「先輩、そうやって一人で安全な場所で納得しないでください。瀬川先輩も、こっちの仲間なんですからね」
「御安心を。一番最初に入力していますわ」
さすが先輩。
そこに痺れる憧れるだよ。
そんな話で盛り上がっていると、美馬先輩がやってきて一言。
「乙葉。高遠が気絶したんだが」
「あ〜、魔力酔いかなぁ。ちょっとみてみますか」
天啓眼で確認すると、魔力酔いで確定。
テーブルの上には大量の秘薬と魔導書か。
もう少し魔力の消耗を抑えるための、魔力増幅の指輪でも作って渡してあげたいよなぁ。
「このまま放っておいて大丈夫ですよ。意識が戻ったら、この薬を飲ませてあげてくだい」
──ブゥン
空間収納から買い置きの魔力回復薬を取り出して、美馬先輩に手渡す。
「お、おう、自分でも使えるようになったけど、まだ馴染まないよなぁ」
「まあ、慣れですよ慣れ。手ぶらで学校に通えますけど、あまり人前で使うと色々と面倒なことになりますからね」
「そのぐらいは、この一年間ずっと乙葉たちを見ていたから分かっているって。サンキューな」
いえいえ、どういたしまして。
そんなこんなで未成年だけの宴会は日付が変わる前に完了。
当然アルコールが入っているわけではないので、皆さん自分の箒や絨毯で空を飛んで帰りましたとさ。
めでたしめでたし。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──鏡刻界
フェルナンド聖王国では、乙葉浩介によって焼失した王城謁見室の修復作業が進められていた。
怪我をした騎士たちは皆、太陽神神殿に運び込まれて手厚い看護を受け、オークたちは報酬を手渡されて街の治療院へと向かっていく。
太陽神神殿は亜人が踏み入ってはならない聖地であり、それを亜人たちは理解しているからこそ、神官たちが行なっている治療院へと向かうのである。
「それにしても……あの乙葉浩介とやらは、いつになったら捉えることができるのだ‼︎ 神官長を呼べ、神託を受けるように伝えてこい‼︎」
聖王エドワードが叫ぶと、すぐに側近たちが神殿に向かう。
それから半刻も立たずして、スカループ大司教が王城に姿を表した。
「これは聖王さまには、ご機嫌うるわしく」
「うるわしく見えるとは思えないがな。スカループ大司教、すぐに太陽神イグニートさまに伺って欲しいことがある」
生け贄である乙葉浩介の詳細。
そして今現在、どこに隠れているのか。
そこまでの細かな神託を得ることは不可能だが、おおよそのことはわかるかもしれないと、エドワードは考えた。
「はっ。それではすぐに祭壇に向かいます」
「俺も行く。もうじっとしていられぬわ」
荘厳な謁見室が燃やされ、大切な騎士たちが怪我を負った。
それだけでも乙葉浩介は大罪人であり、みすみす放置するなどということは許されるはずがない。
やがて祭壇でスカループ大司教が神託の儀式を行うと、汗を流しつつ、何度も何度も、同じ質問を繰り返していた。
この様子を見て、エドワードも尋常ならざることが起きたのかと理解し、すぐに儀式を止めてスカループを呼ぶ。
「……どうした? 何があったのだ?」
「……ご報告します。イグニートは申されました。『裏地球への侵攻は一時止めよ。贄として乙葉浩介は必要ではない。水晶柱を蘇らせる術を求めよ、全ては魔大陸にある』と」
──ギリッ
エドワードは、血が滲むほど拳を握りしめる。
「侵攻を止めよ? 柱を蘇らせる? 神はそう申したのか……」
「はい。贄としての必要はないと」
「それならそれで構わぬ。乙葉浩介を手配せよ、我がフェルナンド聖王国に楯突く大罪人だと‼︎」
「ですが、あの男はラナパーナ王国で『勇者認定』されております……その件はどうするのですか」
つまり。
乙葉浩介に手を出すということは、すなわち勇者と敵対するということ。
この世界での勇者の存在は絶対不変にして絶対無敵、いわばフェルナンド聖王国は勇者相手の戦争をおこなうと宣言するようなものである。
もしもそのようなことをしたならば、国民は隣国に避難し、商人たちも家財まとめて他国に移るだろう。
このフェルナンド聖王国には騎士や冒険者たちぐらいしか住み着かないだろうし、そもそもライフラインの大半を失ってしまうので、長い期間の永住もないだろう。
結論として、これ以上乙葉浩介に関与するという事は、国が滅ぶということに等しい。
たとえ、乙葉浩介が勇者三分の一であることをエドワードが知ったとしても。
「くそっ……全軍に通達。王城から逃走した乙葉浩介の捜索は断念。勇者認定された男に、これ以上の関与は危険であると‼︎」
まさに英断。
この判断により、フェルナンド聖王国の裏地球侵攻は完全に停止。
今は騎士の大半を失い、疲弊した国を立て直す時間が必要になった。
そしてエドワードは、あとを宰相に任せて自室に戻る。
「いつか……必ず貴様を殺す。乙葉浩介、それまでその命は貴様に預けておく……」
たとえ差し違えても。
エドワード個人の恨みが晴れるのは、いったいいつのことであろうか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




