第百八十九話・平穏無事? 虎の威を借る狐だらけ?(世界の動き、騎士団の動き)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──キィィィィィン
札幌市・妖魔特区内に生み出された巨大な門。
その映像がテレビニュースに流れた時、日本国民の大勢の人たちは、いよいよ異世界への道が開けたのかと、心を躍らせ始めていた。
この映像がインターネットを通じて世界中に広がった時、各国の首脳陣および対妖魔組織は、異世界の資源や領土を日本に占有されるのではないかと懸念を始めていた。
何しろ、今の日本は異世界ブームの渦中にある。
現代の魔術師・乙葉浩介が異世界への門を開けたということで、あちこちの企業の株価が上昇したのである。
特に上がったのは、医薬品メーカーおよび金属・重工業関係。
先物ではないが、すでに異世界から金属やら、魔法の薬品の材料やらが手に入るのではないかという噂が後をたたない。
その原因の一端には、国会議事堂前攻防戦において後方で医療行為をしていた新山小春の件もある。
彼女の魔法は特殊なため、他人がおいそれと使えるものではないということは、第六課広報を通じて広まりつつある。
だが、彼女が治療中に用いた魔法薬、この効果は絶大なものであった。
偶然、患者の一人が受け取った薬が少量だけ残っていたため、それを医薬品メーカーが科学的に分析。
結果としては地球上に存在しない成分が含まれていることが分かった。
さらに残った試薬でマウス実験などを行い、そのうちの数体は切断した四肢が完全再生するという結果までもたらしたのである。
これが学会に発表された時、古くからの医師や重鎮たちは一様に笑い飛ばしていたのだが、次々と提示される関係資料および質疑応答でのやりとりに顔面が蒼白になっているものもいた。
もしも、この薬品が正式なルートにて製造、販売されたとしたら。
これまでは治療不可能であった難病すら、一本の魔法薬と一晩の安静程度で全快してしまう。
つまり、この魔法薬が存在するだけで、医者は廃業を余儀なくされる可能性がある。
世界中の医師を守るという観点から、医薬品情報学会および医学学会は魔法薬を承認しない方向性で全会一致。
無許可での魔法薬の流通を認めない旨を発表した。
その上で、彼らにも手がつけられない患者を相手にする場合のみ、『医者が投与する』という条件で魔法薬の使用を許可する方向性で話が進みはじめている。
………
……
…
「と、言うことなので、君が作った魔法薬のレシピを提出して欲しいのだが」
久しぶりの休日。
午後からは妖魔特区内のフェルナンド聖王国騎士団の転送作業があるので、朝から色々と魔導具を作ろうとしていたんだけど。
なんで朝っぱらから、医薬品メーカーの人が来るんだろう?
それも、俺がカナン魔導商会から購入した回復薬のレシピを渡して欲しいとか、どう言うこと?
「話が全く見えないのですけど?」
「もう一度、端的に説明するとですね。君が国会議事堂前攻防戦の時に、後方支援部隊に配布した奇跡の魔法薬がありますよね? あれが薬機法違反ではないかという指摘がありましてですね」
つまり、俺が配った『無許可の魔法薬』が治療行為に使用されたので、このままでは薬機法違反にあたるのだそうだ。
まあ、俺はその辺りの法律なんて詳しくないけど、簡単に説明を受けただけでは、まだ法律違反として取り締まることはできないようだ。
「……ということですので、今のうちに君の作った魔法薬を正式に認可してもらい、一般販売用の医薬品として登録すれば、問題ないのですよ。それを我が社が代行して行いましょうという提案なのですよ」
「……つまり、俺の魔法薬の利権が欲しいと?」
「ぐっ……いえ、そうではなくてですね……」
まあ、言葉に詰まって別の方向から俺を丸め込もうとするのが見えたので、ここは一言。
「そちらの会社では、ドラゴンの血液って手に入りますか?」
「え? それはどういうことです?」
──コトン
空間収納から軽回復薬を取り出してテーブルの上に置く。
すると担当の人がゴクッと息を飲んでから、俺を見る。
「この軽回復薬には、ドラゴンの血を使っています。中回復薬は竜種の肝と、1000年葛の花弁も。そして強回復薬には、不死鳥の尾羽が必要なのですが、それってそちらで販売していますか?」
「い、いえ……ですが、君はそれを手に入れる術があるということですよね? そのルートも含めて、我が社と契約しませんか?」
「お断りします。それでは、俺はこのあと用事がありますので」
席を立って居間からでる。
同席してくれた親父には悪いが、後は頼むよ。
そして五分後には、俺の部屋の窓から、がっくりと肩を落として帰る担当の人の背中が見えた。
そもそも、俺が魔法薬を作るときの材料には、さっきの話に出ていた材料が必要なんだよ?
極たまにカナン魔導商会に入荷があるから、それを纏め買いして空間収納にストックしているから俺は作れるけれど、この地球ではそんなことは不可能だよ。
さあ、新作の魔導具でも作るとしますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「日本が、異世界の門を手に入れた……か」
中国・北京市の天安門西側にある人民大会堂では、
劉坤明国家主席が主要幹部らを交えて話をしている。
彼らの今の話題の中心は、日本にいる現代の魔術師について。
「ええ。こちらの記事をご覧ください。彼は、単独で異世界へ行き来するための門を作り出すことができます。このまま彼を放置していると、いずれは日本が異世界の恩恵を手に入れるのではないかと」
「劉主席、今の我が国の立場はあまりにもあやふやすぎます。増え続ける国民にたいして必要な国土と資源があまりにも不足しています」
「我が国に対して敵対意識を示すもの、勝手に独立を宣言した地域、そして国境沿いでの民族紛争。全てを解決するためにも、我が中国こそが異世界の恩恵を手に入れる必要があります」
熱い話し合いは続いているものの、やはり結論を導くことができない。
「問題なのは、彼の存在です。日本人だからという理由だけで、彼は我が国にたいして協力的な態度を示してくれるとは思えません。それならば、蛟龍を差し向けてでも、彼を捕獲する必要があるのではないですか?」
「それよりも異世界の門の話だ。次に彼が門を作り出したときには、われわれは日本に対して侵攻してでも、手に入れるべきでは?」
「いや、世界的情勢を鑑みるに、それはあまりに無策。政治的な揺さぶりを行うのが一番です」
「そんな弱腰でどうするというのだ!! 我が国にもあの『水晶柱』はある。すでに四箇所、それを発見して人民解放軍がその土地を管理しているのだよ? あとは彼さえ手に入れば、我が国にも門を開くことができるじゃないか!」
喧喧囂囂と話は終わらない。
あくまでも日本に対して強気に行くべきだという派閥と、国連を通じて世界が管理すべきだという派閥、そして特殊部隊を派遣して乙葉浩介を攫うべきだという強硬派まであり、話は平行線になるかと予想をしていたのだが。
「強硬策は禁止する」
劉坤明が幹部たちに告げる。
それまで沈黙を保っていた国家主席の一言、それは彼らに取っては予想を覆すものである。
所詮は弱小国家の日本、アメリカに頼らなくては自国を守ることなどできない国を相手に、どうしてここで引き気味な対応を行う必要があるのか。
「劉主席、それではどのような手段で異世界を手に入れるのですか?」
「そうだなぁ。柔和策で構わないだろう……そもそも、我が国が強硬策など取った場合、我々に敵対する存在があることを忘れたのか?」
「いや、確かにそうですが。特殊部隊・蛟龍ならばアメリカのSEALDs相手に引くこともありません。寧ろ、彼らの加勢を潰すことも可能かと」
「私も同意見です。アメリカやロシアが干渉する前に、我々が先手を打つ必要があります」
反対意見多数。
それでも劉主席は眉一つ動かさずに、その場の全員を見据える。
「以前、日本の妖魔特区内に巨大転移門が発生したとき。世界各地にも同じような門が姿を表した……。そして乙葉浩介が門を封じたとき、それらは全て消滅し、代わりにあの柱が姿を表したな?」
劉主席が説明を行いつつ、窓の外を見る。
天安門広場の中央にも、あの水晶柱が聳え立っていた。
「これが、我が国の対妖魔組織から送られてきた報告書だ」
モニターに映し出されたのは、中国屈指の対妖魔機関『崑崙八仙』から送られてきた映像。
そこには、世界各地の水晶柱が次々と映し出され、横に映っている3D画像の地球儀に当て嵌められていく。
そして全てが収まったとき、全ての水晶柱が淡く輝き、光の線を生み出す。
いくつもの水晶柱が光で結ばれ、やがて巨大な球形立体魔法陣を作り上げた。
「こ、これは?」
「異世界と現世界を接続するためのターミナルゲートの術式。すでに魔法陣は完成しており、あとは鍵を用いることで、自由に異世界へ向かうことができる」
そう劉主席が説明すると、モニターには『鏡刻界の鍵』を手にした乙葉浩介の映像が映し出される。
「では、この鍵を手に入れたら‼︎」
──スッ
そう幹部の一人が立ち上がって叫ぶと、劉主席は右手を軽く差し出し、その中に『鍵』を作り出した。
どことなく乙葉浩介の手にした鍵と酷似している。
まさか、すでに特殊部隊が動いた?
そう幹部たちが考えたとき、扉が静かに開いた。
「その鍵はな、俺が北海道のとある地で手に入れた鍵だ。誰にでも手に入れられるものじゃなく、チャンスは一人一回のみだ」
笑いながら室内に入ってきたのは、魔導商人のジェラール…浪川。
相変わらずのオンボロなジャケット姿で手近な椅子にどっかりと座る。
「な、なんだ貴様は‼︎ ここをどこだと思っている」
「私が呼んだのだよ。彼はチベットの魔導商人だ。ここにいる君たちなら、そういう存在を聞いたことはあるだろう?」
劉主席の言葉に、数人の幹部は頷いている。
「その鍵の出所については一切聞かないっていう約束で、劉主席に買ってもらった。まあ、ここにいる奴らの魔力韻度が150以上あるなら、その場所に触れることぐらいはできるだろうがなぁ」
「そ、そんなもの、崑崙八仙の導師を派遣すれば良いだけだ‼︎」
「阿呆が。あの王導師の所の組織のメンバーなど、魔力韻度50もない雑魚ばっかりやないか‼︎ 呪符帯や呪簡がないと魔法も使えない、そんな奴らに回収など不可能やな」
そもそも、同じものなど二つも存在しないと補足を告げてから、ジェラールは腰の袋からお茶のペットポトル取り出して一息つけた。
「そ、それなら君は取ってこれるのだろう?」
「だから言ったじゃないですか。あそこから物を持ってかれるのは、一生につき一人一度のみ。つい最近、もう一回行ってきた時にそう言われたわ」
アメリカで詐欺罪で投獄されてから。
わずか一週間で、ジェラールは脱獄した。
地元の華僑を頼りに香港経由で北京に戻ってきたのは三日前。
移動中に劉主席のエージェントの接触があり、彼に高額で『鍵』を買い取ってもらったのである。
「まあ、話が逸れてしまったが。私はこの鍵を使うことで、異世界への門を開くことができる。ただし、今は開けるのは本当に一瞬、一秒も維持することができない……だが、それを解消する方策を、彼が教えてくれた」
「それは?」
「それはまだ、誰にも教えることはできない。だが、そのためにも乙葉浩介には『日本にいてもらわなくては』ならないのだよ。巨大な魔法陣の中心である、妖魔特区のある札幌市にね……これで全てを理解しろとはいないが、我が中国は近い将来、異世界への門を作り出すことができる」
──スッ
一人、また一人と幹部が立ち上がり拍手を始める。
数人の幹部は、これで話の全容を理解した。
魔法陣の中心に必要なものは、膨大な魔力を持った生贄。それは乙葉浩介であり、そこにいるだけで構わない。
寧ろ、天安門前に転移門を開くためにも、彼には札幌にいてもらわなくてはならないのだから。
「まあ、あとは劉主席の魔力韻度をどうするかだけどなぁ……どうしようかなぁ」
個人の魔力を上げるためには、長い年月をかけた修行が必要。
そのためにもジェラールは協力するように頼まれたが、それは別料金だとやんわりと固辞。
ジェラールの欲しかったものはすでに手に入れているので、ここからは彼の気持ちが動くかどうかである。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




