第百八十三話・言笑自若?? いや滄海の一粟(隠れ里。されど隠れることもなく)
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はぁはぁひぁふぁ。
あれからどれぐらい、飛んでいたんだろう。
魔力回路の損傷による出力低下、中位以上の魔法の行使困難、加えて俺が作った魔導具については、登録所有者としての認識阻害効果まで発生しているから、溜まったものじゃない。
どうにかドラゴンライダーを巻くというか、後ろに乗っているマイア・カナリ・ムリダーナさんが追跡してきたドラゴンライダーたちを退治してくれたんだけどさ。
弱肉強食を、あらためて思い知らされたよ。
魔族との戦闘では、それほどスプラッタな状態は見なかったし、そもそも彼らは霧散化してからのようになって消えていくからさ。
ガチで肉体構成している魔族とやり合ったのって、百道烈士ぐらいじゃないか?
フェルナンド騎士団との戦いはまあ、可能な限り殺傷力の高い魔法は使っていなかったんだけどさ。
ここは、そういう手加減をすると、自分の命が危険になるんだなぁと、あらためて痛感したよ。
「あ、この辺りで止まってくれる?」
「はあ、まだ目的の丘までかなり距離ありますよ? っていうか、ぜんぜん近づいた形跡がないんですが」
そうなんだよ。
エルフの隠れ里がある丘に向かっていたんだが、全く距離が縮まった形跡がない。
「そりゃそうよ。あの丘は目に見えても近寄れないからね。ちゃんと入り口から入らないと無理だし、そもそもエルフの結界があるから、只人や魔獣は侵入不可能なんだよ?」
トン、と魔法の絨毯から飛び降りて、マイアが右手を前に差し出し、何かを呟く。
『古代エルフ語による、精霊結界術式です』
(そっか。まあ、普通の魔法じゃないよなぁ)
まるで祈りを唱えるかのように、マイアは呪文を歌う。詠唱じゃない、本当に歌っている。
──ブゥン
すると、マイアの前の森の風景が、扉一枚分切り取られたかのように別の風景になる。
なるほど、ここが結界の接点で、マイアは扉を作り出したのか。
「ようこそムリダーナの里へ。早く中に入って‼︎」
「は、はい」
すぐさま結界の中に駆け込むと、マイアはすぐさま結界を閉じた。
先程とは違う、別世界のような光景。
巨大な木々によって構成された都市、それが、目の前の風景。
あちこちにエルフの姿があり、マイアを見て驚いた顔をしている。
「マイアじゃないか、どうしたんだ?」
「随分久しぶりだな。元気にしていたのか?」
「え、ええ……それよりも、何があったの?」
マイアがエルフたちと話をしていると、ふと、周りのエルフが俺の方をチラチラと見ている。
うん。
さっきのマイアさんとエルフの話を聞いていても、くるくると表情が変化するマイアさんに比べて、エルフたちは無表情に、まるで感情がないかのように話をしている。
「只人か。彼は誰だ?」
「コウスケ・オトハ。裏地球の魔術師よ」
「物語の中の世界かと思っていた。まさか存在するとはな」
いやいや待って、俺、地球から来たって話してないよね?
「あの、マイアさんも鑑定魔法が使えるのですか?」
「まさか? さっき貴方が、自己紹介した時に自分で話したじゃない。【こっちの世界では】って。この大陸でも、この国でもない。こっちの世界ってね」
「裏地球の民だとは』
「しかも魔術師かー」
「精霊の加護は持っているのか?」
お、おお?
お願いたから、仏頂面のままで話を振ってくるのは勘弁してくれ。
喜怒哀楽ぐらいは見せて欲しいよ。
なんだが騒々しくなってきたので、ここはあらためて挨拶するしかないか。
「ではあらためて。皆さんから見て裏地球、俺の目から見て地球からやってきた乙葉浩介です。こっちの呼び方ではコウスケ・オトハ、ラナパーナ王国の身分証もあります」
空間収納からラナパーナ王国発行の身分証を取り出して見せると、その場の全員が絶句した。
「え、コウスケって勇者なの?」
「魔導の勇者って書いてありましたよね、あ〜そうです、書いてあるの忘れてました」
「でも、貴方の魔力回路がボロボロよね。そんなんじゃ魔法も満足に使えないんじゃない?」
「分かるのですか‼︎」
おおっと、これは予想外の展開だ。
この分だと、俺の魔力回路を整えてくれる人がいるかもしれない。
「私たちエルフは、相手の魔力を見て色々と判断することもできるからね。感情が魔力に表れるっていうのかな? それで貴方を見たら、魔力回路が途切れそうなところもあるし、薄くなって外部放出しているところもあるわよ?」
「治せますか‼︎ いや、治して欲しいのですが‼︎」
「ちょっと見せて……って、これ、あなたは神威を使えるの? そこに別の神威が逆流してきて、もう魔法使いとしての魔力回路は再生不可能に近いじゃない」
待て、ちょっと待って。
なにその、別の神威の逆流って。
誰かに外から神威を注ぎ込まれた記憶なんて。
そう考えた時、あのフェルデナント聖王国のクソ宰相の顔が浮かび上がった。
「あの宰相、神威使いかよ‼︎ それで、俺の魔力回路ってどうやったら治りますか?」
そう懇願してみたら、マイアも腕を組んで考え込む。いや、彼女だけでない、周りのエルフも腕を組んであちこち見渡している。
「う〜ん。長老じゃないと無理だし、今、ここに長老が居ないのよね?」
近くのエルフに問いかけるマイア。
「ああ。長老は……今は精霊樹活性の儀式のために動けない。でもそれが終わると、君の魔力回路は精霊樹の力で治るかもしれないな」
「そ、そうですか……」
よーし、よっし。
希望が見えた。
これで、地球に帰ることができる。
「それで、その、儀式はどれぐらいで終わるのですか?」
「それはマイア次第だな。彼女にとって必要な儀式だから、マイアの気持ち次第だ」
「……そうよね。私がしっかりしないとならないのよね」
少し悲しそうに、マイアが呟く。
はて、精霊樹の儀式で、長老が動けなくて、マイア次第……。
彼女に何があるのか?
ふとそんなことを考えた時、近くのエルフが俺の方を軽く掴む。
「この里では、身を守る為の魔術以外は発動しない。君の鑑定スキルも然り。マイアの儀式が早く終わるためにも、君はこの村では魔法を使ってはいけない」
「エルフ以外の魔力を、この里に流さないように。精霊樹は過敏に反応するからな」
「あ、それは大丈夫です。ここでは静かにしていますから」
あっぶね。
天啓眼って、発動宣言なく自動発動するからな。
ルーンブレスレットの魔導執事に天啓眼の自動使用中止をセットして、さて、これからどうするか。
「それじゃあ、私はすぐに長老の元に向かいます。コウスケは、適当な場所でキャンプしてて」
「キャンプ‼︎ あの、この里に宿屋ってありますか?」
思わず近くのエルフに問いかけたんだけど、頭を左右に振っているし。
「無い……はぁ。どこかキャンプして良い場所はあります?」
「交易のために訪れる商人たちの居住地がある。そこまで案内しよう」
「ホッ。よろしくお願いします」
もう歩くのは嫌なので、空間収納から魔法の絨毯を取り出して乗る。
あ、そういえば飛行魔法は失われたって……やっちまったか?
横で案内役のエルフが口をパクパクしているわ。
ここにきて初めて、感情らしい感情を示してくれたような気がする。
「そ、それはどこから出した? 魔力を感じなかったし、それに、飛行の術式だと?」
「あ〜。こっちの世界じゃ失われているんですよね? 俺、こういう魔導具を作ることができるのですよ」
「……裏地球には、この魔法が普通にあるのか。恐るべし」
「いやいや、地球では俺しか使えませんし、俺しか作れませんからね、こんな魔導具は」
「そうか。まあ、良いものを見せて貰ったよ」
そう告げると、またエルフさんは仏頂面に戻り、俺の斜め前を歩いていく。
そんなこんなで二十分もしたら、木々が丸く伐採された広場に出た。
焚き火の後、竈門のようなものがあるし、簡易的な雨除けの小屋もある。
まあ、壁がない屋根だけの建物だけどね。
「ここで待っていてくれ、数日は掛かると思う」
「ありがとうございます‼︎」
「食料はまあ、森の中に行けば食べられる植物はあるし、狩りをするのも好きにすればいい。結界からは出られないが、普通に動物は住んでいるから、必要な分だけ狩りをすることを許可する」
「ありがとうございます‼︎」
深々とお礼を告げると、エルフさんはきた道を引き返していった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
衣食住。
これを確保することが先決。
まずは衣。
カナン魔導商会経由ウォルトコで購入可能、はいクリア。
次に食料
カナン魔導商会経由ウォルトコで購入可能、はいクリア。
最後は住居。
「カナン魔導商会起動、ウォルトコメニューをオープン。からの、アウトドアコーナーにあったはず」
はい、俺が購入したのは小型ガレージ。
自分で組み立て式のものなんだけど、買ったのは現品限りの完成品。
少し安くて、それでいて完成品。
これって、店舗で購入したら分解して持ち帰るんだけど、カナン魔導商会経由だと、完成品がそのまま届くんだよ。
──シュンッ
それを適当な場所、いや、ちゃんと平な場所を選んで設置すると、次は内装。
今度はカナン魔導商会の木工品コーナーでベッドやテーブルを購入し、マットレスその他はウォルトコで。
異世界価格二割増しはキツいが、この背に腹は変えられない。
そんなこんなで二時間後には、しっかりとベースキャンプが完成したよ。
「食事は……ああ、面倒だからインスタントラーメンと……いや、ここは拠点完成記念で贅沢に行こうじゃないか‼︎」
ウォルトコって、食材も大量にあるけど、デイリー品も豊富なんだよね。
『ハイローラー』っていう、トルティーヤでベーコン、レタス、トマトをロールしたもので、サラダロールと言えば分かるかな?
これとブラッドオレンジジュース、丸鷄のグリルをテーブルに並べて、さて、頂くとしますか‼︎
──パクッ
うん、美味い。
これ以上の言葉はいらないでしょ?
俺はグルメ解説者でも美食家でも無いんだよ。
美味い、おかわり、これで十分。
──ジーッ
うん、視線を感じるなぁ。
──パクッ、モグッ
ナイフで鷄のグリルを捌いて、熱々を口にほうばる。
ジュワーってジューシー。
──ジーッ×5
いきなり増えたぞ、謎の視線‼︎
その方角を見ると、子供のエルフがこっちを見ている。
「え? 君たちはあれだよね? ルミニースの民だよね? 野菜しか食べられないよね?」
そう問いかけると、お互いの顔を見合わせてから、全員が同時にコクコクと頷く。
はぁ。
子供なのに、この子達も仏頂面か。
さて、ハイローラーは肉が入っているから、野菜だけの……サラダはあるか。これを少し多めに買って、あとはカナン魔導商会の方から、向こうの世界の美味しそうな野菜を幾つか購入、ポチッとな。
──ドサドサッ
テーブルの上に大量に現れた食材。
それを適当に並べてから、エルフたちをコイコイと呼んでみる。
「これなら食べられるか?」
──ノテノテノテテテ
一人、また一人とエルフの子供たちがテーブルまでやってくる。
「お兄さんは、聖王国のひと?」
「いや、むしろ敵対しているからなぁ」
「じゃあ安心。聖王国のひとは、この里を襲うから」
「襲う……あ〜」
あれか。
水晶柱を裏地球に接続する為に必要な魔力を集める為だよな。
そっか、ここまで来ていたのかよ。
「お兄さんは、聖王国ぶっ飛ばすマンだ。だからこれは食べられるなら食べても良いよ」
「はい‼︎ ありがとう」
全員が椅子に座って、両手を合わせて祈りを唱えている。
まあ、俺たちが食事の時に『頂きます』『ごちそうさまでした』をいうのと同じだよな。
近年は、給食を食べる時に『頂きます』をいうと、金を払ってあるんだから言わなくて良しとかいう変な親もいるけど。
金を払って云々じゃなく、食材に、それを作ってくれた人々に、調理した人に対しての敬意でもあるんだから、そんなめくじらを立てなくて良いじゃ無いかよって思うよ。
自分たちの親を思い出せと。
そして、ここに来て子供たちの仏頂面が剥がれ落ちた。
さっきまでとは違い、表情が豊かに変化を示してくれた。
何だろう、さっきまでは感情をどこかにしまってあったかのような、それでいて今は、引き出しから感情を持ってきたような。
「美味しい‼︎」
「この果実水も美味しいです‼︎」
「そっかそっか……ってあれ? マイアは俺からチョコバーを奪って食べていたよな? あれってセーフなのか?」
「マイアは大人だから。大人は、植物以外も食べられるけど、栄養にならないって言ってた」
「あ〜、フリューゲルもそんな感じだったよな。魔力以外は受け付けないけど食べられるって言っていたかもな」
俺がそんなことを話していると、遠くから子供達の親らしいエルフが姿を表す。
やっぱり感情をどっかに置いてきたかのような無表情で、こっちをチラッとみているので、手招きして近くまで来ても大丈夫ですよって説明したよ。
なお、十分後には追加の食材を購入したことは、いうまでも無い。
その代わり、お礼として森の果実を大量に貰っちゃったけどね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




