第百六十五話・曲突徙薪も空念仏?(パワーアップしたのはいいけれど)
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俺たち魔法研究会メンバー一同は、白桃姫の元に集まって色々と論議を繰り返している。
そして、ある程度の情報のすり合わせも終わったので、此処からが本番。
「俺が覚えた『強制退場コマンド』、オトヤンの『単体強制転移術式』、そして新山さんの『神罰の枷』、これがどういう役割なのか、どんな効果なのか知りたいんだが」
祐太郎が話を切り出したので、俺たちは静かに頷く。
魔導書には、名前と発動方法とかしか書いていなかったんだよ。どんな効果なのか、そこについて記されてあるページが汚れて読めなかったり破れていたりしているからさ。
「強制退場コマンドとは……随分と面倒くさいものを」
「そうなのか?」
「まあ、対象者を一定の空間から排除するものでな、正確な術式名は『強制排除』という。妾たち魔族が使う『次元結界』などから逃げるための術式なのじゃが、『対象を別の場所に送り出す』という効果がある」
「異世界には?」
「それは無理じゃよ。ちなみに乙葉の『単体強制転移術式』は、強制排除の魔術版でな、効果はほぼ同じじゃが、物品にも作用する」
ふむふむ。
はい、解決策になっていないわ。
「それじゃあ、私の神罰の枷というのは?」
「それが、切り札でもある。小春の『神罰の枷』はな、対象者に神罰と同等の効果を付与し、相手を神界の枷に嵌めることができる」
「たとえば?」
「まあ、簡単にいうと、相手を神界に存在する『無限牢獄』に封じるのと『同じ効果を発する』のじゃが、世界法則が歪んでいるものを、その世界から取り除くという除外効果もある」
んんん?
まさかの合体技か?
「それって、新山さんが『神罰の枷』を対象に発動することで、そのものが世界法則から外される。その直後に、乙葉くんか築地くんの強制排除系術式で対象を転移させるのではないでしょうか?」
「「「やっぱり」」」
おや。
俺だけじゃなくて祐太郎も新山さんも、そんな予感がしていたのか。
「しかし、それだと実験のしようがないよなぁ」
「転送先って、どう考えても俺たちの知る場所じゃないと無理なんじゃないか?」
「神罰の枷の効果が、あまりにもふわっとし過ぎていて、扱いづらいのですよ」
「まあ、転移術式の大前提じゃなぁ。『知っている場所、もしくは指定座標』が転移先の選択肢じゃから、奴らをフェルディナント聖王国に送り出すには、乙葉か築地が一度、向こうに向かわなくてはならぬ」
「げっ、マジか」
それは予想外だわ。
「あとは……気が乗らないが、あいつらを弱らせて封印して運ぶとか? オトヤンならいけるんじゃないか?」
「サイクロプスのようにか?」
「生身の人間は、封印できぬぞ?」
「「マジ?」」
そうかぁ、生身の人間は無理かぁ。
それなら、サイクロプスはどうして封印できたんだ?
「ちなみに、サイクロプスたちは、精神生命体?」
「まさか。分類的には魔族の眷属じゃ、やつらは体内に魔人核を持ってあるから封印可能じゃよ。封印術式は、魔人核に作用するのじゃからな」
「はい、お手上げ‼︎」
「予想外に、使いずらいわ」
「でも、私の深淵の書庫では、あの騎士たちの対応策が一つですがでましたわよ?」
いつのまにか深淵の書庫を発動していた瀬川先輩が、深淵の書庫を平面展開してくれた。
「……ははぁ、なるほどなぁ」
「この手があったか。いや、しかし、これはどうよ?」
「問題があるように見えますが、どうなのでしょうか?」
俺たち三人が、同時に白桃姫を見る。
作戦は至極簡単で、あの騎士たちを、ここ妖魔特区に転送するっていう方法。
その上で、ここにある巨大ターミナルを経由して、フェルディナント聖王国に送り返すという作戦。
ここのターミナルを操作すれば、聖王国のターミナルと直結できるらしい。
「それなら、俺が国会議事堂前ターミナルを鑑定して、接続先座標を確認すれば」
「阿呆が、すでに書き換えてあるわ」
「アホでさーせん」
残念。
けれど、何もこの中に直接じゃなくても良いんだよな?
この妖魔特区内に、さらに騎士たちを閉じ込められる空間を隔離すれば良いんだよ。
やり方は、学校に設置してある『結界装置』を改良して、大体一町分ぐらいの場所を騎士達用に展開すれば良いのか。
「……って感じは?」
「オトヤン、脳内思考で終わらせないで、説明を頼む」
「いくら私たちでも、流石にわからないですよ?」
「なるほどね。騎士たちを区別するための結界エリアの増設って、なかなか乙葉くんも考えましたわね?」
「「先輩、分かるの?」」
「深淵の書庫が算出しましたわ」
「おおう、俺の思考、読まれやすい。でも、良い作戦じゃないですか?」
「一時凌ぎとしてはな。その後の対応は、後から考えたほうがよさそうじゃな」
よし、この作戦で行くとしよう。
まずは、騎士たちを閉じ込める結界装置の作成。
生身の人間で、俺たちと騎士たちを区別するための法則を探すところからか。
でも、人間を区分する方法なんて、あるの?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
東京・永田町。
国会議事堂周辺は非常事態宣言により、関係者以外の立ち入りが禁止されている。
当然ながら、現状では国会など開くことはできず、議員たちは付近にある議員会館もしくは各党の建物での執務を行うことしかできなかった。
非常線の外にフェルディナント騎士団が移動しないようにと、特戦自衛隊による包囲網を幾重にも展開し、さらに離れた場所ではあるが、即応機動連隊と第六課指揮車両も待機している。
「動きはないか。しかし、あいつらは腹が減ってもなお、あの場を固め続けているのか?」
「いえ、どこからともなく食料を出しています。この映像で確認できますが」
指揮車両の中でモニターを監視していた忍冬警部補に、井川巡査長が別のモニターを見せていた。
そこでは、俗に言う『アイテムBOX』から食料を取り出し、交代で体を休めつつ食事を取っている騎士の姿があった。
当然ながら、忍冬たちには理解のできない光景であり、何もないところから物品を取り出すなど、常識では考えられなかった。
ただ井川だけは、以前、乙葉が何もないところから物を出していたのを見たことがあるため、あれもそのようなものだろうと理解している。
そして忍冬は、部下である要巡査が乙葉から貰った収納バッグを見たことがあるため、そのようなものを使っているのだろうと言う認識はできていた。
「確か、アイテムBOXとか言う能力だったか?」
「はい。詳しい名称は知りませんが、乙葉浩介もあの力を持っています」
「……反則じゃないか。そりゃあ、騎士団の能力を解析したいって言う話が出るのは、あたりまえか」
「そうですね……騎士団が動きました‼︎」
──ギリギリギリッ
水晶柱に近い位置に陣取っている、騎士団後方の部隊が、装備を盾と剣から弓に持ち替えた。
それもロングボウではなく、ヘビークロスボウである。
──ギリギリギリッ
クレンクインで強靭な弓を巻き上げて、巨大な弩をセットすると、正面の特戦自衛隊に向かって身構える。
『撃てぇぇぇ』
「セット‼︎」
騎士団長らしき男の叫び声と、特戦自衛隊の指揮隊長が叫ぶのは同時。
素早く盾を構えて身体を隠す特戦自衛隊と、その盾に目掛けてヘビークロスボウを射出する騎士。
──ガガガガガガッ
一部の弩は特戦自衛隊の構えるバリスティックシールドによって弾き飛ばせられたが、強化魔法により貫通力を高められた弩はバリスティックシールドを貫通、ボディーアーマーを貫いている。
「怪我人を下げろ、盾を下ろすな‼︎ 放水車準備‼︎」
特戦自衛隊後方の放水車が前に出るが、それと同じタイミングで騎士団の最前線部隊も、ランスを腰ダメに構えて詠唱を開始。
『イグニートよ、我らに加護を与えたまえ‼︎』
──ギィィィィィィン
騎士たちの全身が光り輝くと、一直線に走り出す。
あるものはシールドを構えた自衛隊員を貫き、何名かは一斉に放水車を貫いて、力任せにひっくり返している。
その光景で、特戦自衛隊は一歩、また一歩と後方に下がる。
──ガシュゥゥゥゥゥゥ
特戦自衛隊の後方からも、M79 擲弾発射器によるガス筒が打ち出され、騎士団は突然目と喉をやられ始めた。
「今だ、奴らは化学兵器に弱い‼︎」
指揮隊長が叫ぶのと、騎士団が術式により目と喉を癒すのはほぼ同じ。
初戦でも受けた攻撃を、二度も受けることはない。
躱しきれずにガスが噴き出しても、すぐに癒しの術式を発動させれば良い。
『同じ手が、効くと思うなぁぁぉぁ、魔法ハイドン準備‼︎』
ターミナル付近で待機していた魔法兵団が詠唱を開始すると、隊員たち目掛けて魔力の矢が次々と飛んでいった。
「だ、だめです隊長‼︎ 我々の攻撃に対して、彼らはカウンターを仕掛けてきます」
「そんなバカなことがあるか、相手は未開の地の蛮族だぞ‼︎」
指揮隊長は、フェルディナントの騎士たちを侮っていた。
前回は、なんだかんだと手こずったものの圧勝だった、それなら、今回は負ける道理が思いつかない。
全力で制圧しろと叫ぶものの、騎士たちは基本に忠実に攻撃を続け、三時間後には特戦自衛隊を完全制圧してしまった。
「そ、そんなバカなことがあるか、下がれ、体制を整える‼︎」
特戦自衛隊指揮隊長の神島隆介二佐は、負けるとは思っていなかった。
だから、完全回復し魔力が全開な彼らの実力を、見事なまでに見誤っていたのである。
この日、特戦自衛隊員のうち四十名余りが鹵獲され、水晶柱付近の彼らの勢力図が、少しだけ大きくなった。
………
……
…
「特戦自衛隊、下がってきます‼︎」
「追撃は?」
「四人の騎士が、後方にいる隊員たちに向かって攻撃を開始!!!!」
「回せ、どうにか止められないか?」
忍冬は井川に問いかける。
お前の呪符で、どうにかできないのかと。
だが、井川も頭を振ることしかできない。
呪符では無理だと。
──ガチャッ
傍に置いてあるのを見て『拘束の杖』を握りしめると、車両が止まるのと同時に、目の前の騎士目掛けて拘束術式を展開した。
──キィィィィン
井川が杖を振ると、そこから幾重もの鎖が飛び出し、騎士たちを次々と拘束していく。
この光景を見て、騎士たちが一旦後方に撤退をした。
「い、いまだ、敵を拘束しろ‼︎」
指揮隊長が叫ぶと、残った自衛官たちが騎士たちを捕縛する。
そしてどうにかメンツを保てたものだとホッとすると、井川たちの元に歩み寄る。
「特戦自衛隊の神島隆介二佐です。第六課の協力に感謝します」
「内閣府特殊捜査部第六課退魔官の、井川綾子巡査長です。ご苦労様でした」
敬礼する二人だが、神島の視線の先は、井川の持つ杖。
先程、目の前で騎士たちを拘束したのを、しっかりと見ていたから。
「失礼ですが、その退魔法具はどちらの備品ですか?」
「これは私物です。入手経路については、お答えできませんので」
「それを特戦自衛隊に貸与していただけませんか?」
「お断りします。第六課の活動としても必要なものですので」
「そうですか、いや、残念です。それでは失礼します」
再度、敬礼をして立ち去る神島二佐。
そして入れ替わりに、指揮車両から忍冬警部補も出てくると、タバコを取り出して一服する。
「……まあ、神島さんなら、俺もよく知っている人だからな。仕事上、彼から上に報告はいくことがあるが、うまく説明してくれるだろうさ」
「対妖魔特措法による、退魔法具の徴収行為にも触れかねませんからね」
対妖魔特措法には、『退魔法具の違法徴収禁止』という項目がある。
これは、個人が持つ『妖魔に有益な退魔法具』を、国及び関係機関が強制的に徴収することを禁じるために設けられた部分であり、妖魔の存在を公にする際に、全会一致で決定した追加条項でもある。
つまり、今の報告を聞いても、国が井川から『拘束の杖』を回収することはできない。
同様に全国各地の『第六課』の所持する、乙葉から購入したミスリルの剣と盾を奪うこともできないのである。
あれは、各支部が予算枠で正式に購入したものではなく、退魔官が個人で購入したものになっているから。
備品として購入したものなら、管理のためにも購入履歴や購入先を公開する必要があるのだが、個人の所有物だというのなら、誰も文句は言えない。
しっかりと『銃砲刀剣類登録証』も発行してあり、さらに退魔官としての所持許可も出ている。
築地晋太郎と天羽元総理によって提案されたこの部分は、当然あとから公になるだろう乙葉浩介ら高校生たちを守るために設定されだのであることは、いうまでもない。
「さて、捕縛した騎士団員よりも、あちらに囚われてしまった自衛官の方が、数が多い。どう動くのか見ものではあるな」
「他人事ですね。まあ、私たちは内閣府直轄ですから、上の指示を待つしかありませんけどね」
「直轄が臨時総理代理だからなぁ……あちらとしても、毛嫌いしているうちらに動くなと命じることはあるだろうから、特段の指示があるまでは、待機で構わない」
それだけを告げて、忍冬はタバコを消して指揮車両に戻る。
そして井川もまた、体を伸ばしてストレッチしてから、指揮車両へと戻っていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




