第百五十五話・世運隆替、一擲乾坤をトスッと(顛末と後始末?)
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水晶柱から発生した巨大な門。
それは、今まで魔族が作り出していた『越境大転移門』ではなく、純粋に太陽神イグニスの加護により生み出された。
時と空間を操る神ア・バオア・ゲー以外では不可能と言われている裏地球へと続く道。
それをイグニスは、奇跡の御技によりこじ開けた。
正確には、天啓としてスカループ大司教に術式を与え、新たる地を捧げるように伝えたのである。
「進め‼︎ かの地を我らが皇帝に納めよ‼︎ イグニスの威光を示すのだ‼︎」
スカループ大司祭の掛け声と同時に、巨大門の周りで魔術を唱えていたものたちが、最後の気力を振り絞る。
──ヴン‼︎
すると、巨大門全体が虹色に輝く。
本来は魔族の大転移門でなくては接続することなど不可能であった異世界への道。
それが今、しっかりと接続された。
以前、斥候として剛腕のマイオスを送り出した時とは、明らかに違う。
今回のターミナルは、ほぼ永続的に接続することが可能である。
「裏地球と接続を確認しました。進軍可能です」
「よし、全軍、進撃開始‼︎ まずはサイクロプス隊とドラゴンライダーが先鋒を務めよ、異世界の蛮人達を薙ぎ払い、燃やし尽くせ‼︎」
──グウォォォォォォ‼︎
怒号をあげながら、サイクロプスが進む。
そしてターミナルを越えると、次はドラゴンライダーが飛翔し、滑空するようにターミナルに突っ込み、そして消えていく。
これが合図となり、騎士団および傭兵師団も前進を開始するのだが、ここに来て大きな誤算があった。
『ターミナルは、選ばれたものしか通ることは許されていない』
魔力もしくは闘気が一定値以上なければ、ターミナルを越えることはできない。
魔族大転移門と違うのは、この一点。
結果として傭兵師団のほとんどが移動不可能となってしまったため、先に騎士団が突撃を開始した。
………
……
…
──ジャキーン‼︎
順調な進軍。
裏地球のターミナル前が詰まっているのか、途中からは進軍速度が低下した。
「どうした、何故遅々として進まなくなったのだ?」
「斥候によりますと、ターミナルの向こうが戦場となりました。サイクロプス隊は全滅ですが、ドラゴンライダーは包囲網を突破し、敵中枢を求めて遊撃に入っています」
フェルデナント聖王国の諺に、『戦は水物』というものがある。
戦争とは生き物であり、その都度状況が変化するという意味であるが、今がまさにその時であった。
「ええい、戦場となったのなら仕方あるまい。指揮官のニードックはどうしている?」
「ニードック卿は後方で指揮を取っています。ですが、なかなか戦局は変化しません」
そう斥候が返事を返すと、スカループ大司祭は頭を軽く抑える。
まだ始まって半日もたっていない。
その状況で、ターミナルの向こうがまさかの戦局となっているのは、理解し難い事実である。
「マイオスはいるか!!」
「はっ。剛腕のマイオス、ここに馳せ参じました」
新たな魔剣を腰に下げ、マイオスが大司祭の前に跪く。
「直ちに異世界へ向かえ‼︎ このままでは埒があかぬ。いいな、異世界の野蛮人の魂を、イグニス様に捧げるのだ‼︎」
「はっ‼︎」
「この前のような無様な姿を見せるでないぞ。良いな、貴様の装備、武器、生きるための糧、全てが太陽神様の贈り物であることを忘れるな‼︎」
「……畏まりました。今度こそ、あの男の心臓を抉り出し、イグニス様に捧げます!」
その場で片膝をついたまま、両手を組んでゆっくりと天に向かって上げる。
これは神への誓い。
もしも誓いを破るならば、『天罰』がマイオスに降り注ぐ。
それだけは避けなくてはならない。
「では、参ります‼︎」
「うむ。期待をしているぞ」
スカループはそれだけを告げて、マイオスを見送る。
フェルデナント聖王国屈指の強さを誇る、白竜騎士団。そのNo.2であり副長でもある剛腕のマイオス。
そのマイオスと五分に渡れる異世界人がいるとは、スカループも信じたくはない。
だが、この前とは違う。
此度の進軍においては、マイオスは油断なく準備を行ってきた。
それ故に、何故、マイオスが巨大門の前で立ち止まっているのか、理解できなかった。
………
……
…
血の惨劇。
突然、巨大門の輝きがスッと消えた。
ちょうど虹色の門を潜っていた最中の騎士達は、突然閉ざされた巨大門により、体の半分を切断され絶命した。
それも一人ではない。
移動中の四人が同時に、体を切断されたのである。
「こ、これはどうしたというのだ?」
次に巨大門を越えるはずであったマイオスは、目の前の惨劇に動揺を隠せない。
何故、突然虹の門が閉じたのか?
どうして彼らは死んだのか。
そして、もしも、先に自分が通っていたなら、死んだのはマイオス自身である。
「裏地球との接続が途切れました⁉︎」
「異世界人の仕業か?」
「い、いえ、全く別の場所からの干渉です……この波長は、魔族のものかと思われます」
「魔族だと? どうして魔族が我々に干渉してくるのだ? 奴らは、自分たちの転移門があるだろうが‼︎」
「分かりません……ですが、明らかに空間座標との繋がりを切断されています。ア・バオア・ゲーの力の残滓も確認できます」
そこまでの説明で、マイオスは理解した。
魔族でア・バオア・ゲーと関わりを持つ魔族など、一人しかいない。
「怠惰のピグ・ラティエが‼︎ あの女は何故、我々に敵対するのだ‼︎ ふざけおって‼︎」
──ガン‼︎
怒りに任せて巨大門を殴りつける。
だが、その瞬間に巨大門すら消滅し、一本の水晶柱へと姿を戻してしまった。
「まあいい、もう一度開け‼︎」
「む、無理です。一度でも繋がりが断たれてしまったターミナルは、新たに路を探さなくてはなりません」
「このターミナルで路が繋げられるのは、次に鏡刻界と裏地球が最も近づいた時でなくてはなりません」
「それはいつだ! いつ開けるのだ‼︎」
必死に説明する魔導師の胸ぐらを掴んで振り回すと、マイオスは魔導師を投げ捨てた。
「最低でも半月は必要です。次の再接近は十四日後で、その日に合わせて儀式を行わなくてはなりませんので」
「糞っ‼︎ ふざけやがって‼︎ ほかに裏地球に向かう方法はないのか‼︎」
「今はありません。この大陸にも、水晶柱が残っているのは我が国だけです‼︎」
そうなると、マイオスはあと二週間は出撃することができないことになる。
それだけは避けたい。
──シュゥゥゥゥ
すると、マイオスの首の周りに黒い霧が集まってくる。
「ま、待ってください、太陽神イグニスさま、これは何かの間違いです。裏地球との路が繋がった時こそ、誓いを果たして見せましょう‼︎」
天に向かって両拳を伸ばして宣誓する。
すると、霧は細い筋となり、マイオスの首に刺青のように浮かび上がった。
「……誓いの首輪……必ずや、誓いは果たして見せましょう‼︎」
太陽神イグニスは、マイオスに猶予を与えた。
残り十五日以内に誓いを果たせと。
そして、その一連の出来事を見ていたスカループ大司教は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「魔導師たちよ、急ぎ次の儀式の準備を行え‼︎ マイオス、次はないからな‼︎」
それだけを告げて、大司教は王城へと戻っていく。
そしてその場に残された騎士団や傭兵部隊も、皆、膝をついて頭を下げた。
第一次裏地球侵攻は、フェルデナント聖王国の敗北で終わりを告げた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
爆睡‼︎
朝起きたら十時‼︎
学校遅刻‼︎
以上、スリーコンボでした。
「くぅわぁぁぁぁあ、なんで起こしてくれなかったんだよ‼︎」
着替えて居間まで走っていくと、相変わらず親父もお袋もいない。
ちなみに朝食は、テーブルの上に置かれている。
ちゃんとラップを優しく被せてあるよ。
いや、そこでほっこりしない、俺。
冷蔵庫に貼ってあるメモを取って確認。
『仕事で、ヘキサグラム千歳基地に行ってくる。遅刻しないように』
遅刻したわ。
まあ、こうなったら開き直ってLINEの確認。
ほら、やっぱり祐太郎と新山さんからメッセージが届いていたよ。
『オトヤン、爆睡か?』
『乙葉くん、授業が始まるよ?』
『あと五分だ、最速で飛んできたら間に合うぞ?』
『乙葉くん、二時間目に間に合う?』
うん、みなさんお元気で何よりです。
俺は最悪だ。
「こうなったら、開き直ってゆっくりするかぁ」
オカズをチンしてトーストを焼いて。
昼下がりの長閑な朝食タイムを堪能してから、慌てて学校に突撃だともさ‼︎
………
……
…
到着したのは、三時間目ギリ手前でした。
真っ直ぐに職員室に向かい、遅刻届けを提出。
軽く説教されたけれど、昨日の国会での騒動は編集されて夜のニュースでも流れていたので、その場に俺たちがいたことも分かってもらえた。
ということで情状酌量の余地有りで、許して貰いました。
「ハアハアハアハア……ナイス説教を貰ってきたわ」
「オトヤン、見事な遅刻だな。まあ、無理もないか」
「乙葉くん大丈夫? まだ疲れているみたいだけど……診断」
心配そうな新山さんと祐太郎。
すぐさま神聖魔法で俺を診断してくれたけど、今は疲れているだけだから問題なし。
「ただの疲労だから大丈夫だよ。ありがとう」
「そうだね、あまり無理しないでね」
「応さ」
人の優しさがみに沁みるのだけど、なんでそこで織田がドヤ顔しているんだ?
ゆっくりと俺に近寄ってくると、織田は俺に向かって右手を突き出した。
「我が手に集まれ、光の加護よ。汝、鳩となりて青空へ羽ばたけ‼︎」
──キィィィィィン
なんだと?
織田の手があわく光った。
これは間違いなく魔術の発動光じゃないか?
「織田、おまえはいつのまに魔法を覚えたんだ?」
「異世界にいって、俺は魔術に目覚めた。しかも、異邦人という称号も貰ってきた‼︎ 見よ、俺の大魔術を‼︎」
──バサバサバサバサッ‼︎
織田の手が広げられると、そこに一羽の鳩が生まれた。
そして軽く羽ばたくと、天井に向かって飛び立って、やがてスッと消えていった。
「……光系魔術の応用か。いや、大したものなんだが……って、織田、どうした‼︎」
──ガクッ
突然、織田が膝から崩れて倒れる。
「オトヤン、魔力欠乏症だ。織田の自然回復力だと、今日一日は何もできないぞ」
「はぁ、保健委員、織田を保健室にゴーしてくれ」
「ま、待て乙葉……おまえの持っている魔力回復薬をくれ……それで、俺は元気を取り戻せる」
「誰がやるか‼︎ 自分の魔力量ぐらい把握しろ、どうせアレだろ、身につけたのはいいけれど、一日一回しか使えないとかだろ?」
──ギクッ‼︎
織田が、気まずそうなると顔でソッポを向く。
「あ、ああ、そうだ。だが、魔力量は、限界まで使って回復したら底上げされるだろうが」
「そんな筈あるかよ。レベルを上げるか、もしくは魔導具で引き上げるだけだ。使って回復してを繰り返して上がるのなら、俺の魔力は今頃は一億超えるわ」
「お、俺の魔力は……40マギカスパルって言われたぞ」
なに、その単位。
思わず織田のステータスを確認すると、魔力40のMP40じゃないか。
それで40マギカスパルということは。
「あ〜、なるほど。レベルを上げろ、魔法を使いまくって上がるのは修練度だけだ。魔力制御もなにも覚えていないおまえじゃ、いつか倒れまくって病気になるぞ」
「お、俺は……早く強くなって、あの人たちに……ガクッ」
「「「「「織田ぁぁぁぁぁぁ」」」」」
トリマキーズに担がれて、織田は保健委員と共に保健室へゴー。
これでようやく、静かな時間が帰ってきたよ。
………
……
…
そして、あっという間に放課後。
今日は、祐太郎と新山さん以外にもリナちゃんと沙那さんも出席。
「昨日は、ありがとうございました」
「ございましたっ‼︎」
深々と頭を下げるリナちゃんと沙那さん。
まあ、俺たちって、頭を下げられるようなことはしたかなぁ?
「オトヤン、俺たちは何かしたか?」
「いや、覚えがないんだが。新山さんが治療してあげたとか?」
「いえ、お二人は怪我ひとつなく元気でしたよ?」
ふむ?
「あ、あの、今のお礼は、昨日、東京から送ってくれたことでして」
「はい。とってもフカフカで、気持ちが良かったです‼︎」
リナちゃんは、元気やなぁ。
「あ、そういう事か。別に、帰りの方角が一緒だから、送ってあげただけだよ?」
「東京から北海道に帰ってくるのに、方角が一緒という理由で魔法の絨毯で送ってくれる人はいません」
「まあな。俺たちが勝手に送っただけだ。気にすることはない」
うん、祐太郎の言う通りだよ。
「それでですね、乙葉先輩の魔法の絨毯ですが、お父さんがどうしても内部構造を知りたいと言うのですが、作って貰えるものですか?」
「はぁ……」
思わず祐太郎と新山さんの顔を見合ってしまったよ。そうだ、この二人には、【ネット通販】のスキルについては説明していなかったよ。
まあ、教える必要もないけどね。
「材料が足りないので、入手できたら作ってあげますよ。因みに予算は、おいくら億円?」
「あ、あの……お父さんが、これで支払いをって」
鞄から賞状をしまう丸い筒を取り出した。
あれって、正式な名前ってなんで言うんだろう。
それをポンって開けて、中から大量の紙を引っ張り出して広げてくれた。
「魔導機動甲冑『アイアンメイデン』の図面です。秘匿データの『魔導集積回路』と『擬似魂』、それと『魔導頭脳』の術式図面も収めてあります」
「ありがとう、明日までに用意します」
ガシッと握手する俺と沙那さん。
あっという間に契約が成立したので、祐太郎も新山さんも呆れ返っている。
「あの、乙葉くん? それって乙葉くんでも作れるの? いや、何日で作れるの?」
「作れることは前提なんだね。まあ、どのみち材料が足りないんだよ。魔導錬金術については、俺よりも有馬おじさんの方が上なんだよなぁ……」
「マジか? オトヤンよりも上ってことは、ダイヤモンドも作り放題じゃないか?」
「ユータロ、それ禁句‼︎」
思わず祐太郎に突っ込むと、沙那さんがアッ、て驚いた顔をしている。
「確かに、理論的には不可能ではないと思いますが……お父さんの魔力だと、多分無理ではないですか?」
「「「あ〜」」」
俺たち三人は納得。
確かに、無理だわ。
スキルレベル的には、俺よりもずっと上なんだけど、魔力値が桁違いに低いからなぁ。
「まあ、ここで聞いたことについては、まあ、有馬おじさんにはどっちでもいいか。魔力欠乏症でぶっ倒れるのは慣れているでしょ?」
「ええ。昔から、よく見ていましたから」
「……ちなみに、ここまでの会話で、リナちゃんはどこまで理解できている?」
「ケーキが美味しいです‼︎」
「聞いてもいないのかよ」
まあ、天然ほど怖いものはないか。
「それじゃあ、今日はいつも通りに魔力循環から始めましょう。沙那さんとリナちゃんも参加しますか?」
「オッケー‼︎」
「私も、成長できるのですか?」
「乙葉くん、沙那さんはどうなの?」
「内部構造を俺は知らないからなぁ。まあ、方法だけでも覚えておくといいと思うよ」
と言うことで、この後はみんなで魔力循環の訓練を行う。
俺はというと、カナン魔導商会を開いてウォルトコから『業務用180リットル冷凍庫』を買ってから部室の隅に取り出し、内部の改造を始める。
「オトヤン、何を作っている?」
「魔力玉ストッカー。悪いが、その修行が終わったら、無理のない範囲で魔力玉をこの中に放り込んでくれるか?」
「分かりました。チーム第六課の報酬なのですね?」
「ナイス新山さん、正解なので、ハートマークをあげよう」
名物のハートチョコを取り出して、新山さんに渡す。
──ジーッ
あ、リナちゃんの視線が痛い。
「獣人・山猫族は、チョコレート食べても問題ないのか?」
「動物じゃないから、もーめんたい」
「無問題だな。まあ、ハートマークチョコはナイス回答の報酬だから、このライスチョコをあげよう」
それを受け取って、嬉しそうに食べるリナちゃん。
はぁ、わかったわかった。
全員の視線が一斉に俺を見たら、わかるよ。
「はい、ライスチョコレート。新山さん、コーヒーを人数分お願い」
「わかりました」
まあ、これがいつもの日常だよ。
ようやく、一仕事終わったなぁって、ホッとしてきたよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




