第百五十三話・則天去私、柔能く剛を制するわ‼︎(第一戦、勝利‼︎)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
そして、本日で『ネット通販から始まる、現代の魔術師』の連載一周年です。
連載から一年経たずに書籍化できたのは、本当に感謝の極みです。
この場を借りて、いずみノベルズ関係者の皆さん、イラストレイターの柊セイジさん、そして読者の皆さんに厚く御礼申し上げます。
次はコミカライズだ‼︎
状況は、刻一刻と変化を続ける。
「幕僚本部から入電、即応機動連隊が水晶柱方面に展開しました。続いて後衛に第12ヘリコプター隊も待機‼︎」
「有楽町方面の自衛隊から連絡あり、敵ドラゴンは謎の機動兵器により沈黙。騎士三名を捕虜としたそうです」
「サイクロプスの消滅を確認。続いて、水晶柱が停止、内部から第六課の腕章をつけた妖魔が出現、騎士たちの制圧を始めました」
第六課指揮車両には、次々と連絡が届いてくる。
その連絡を受けつつも、瀬川は深淵の書庫で情報の精査を開始、現状でなすべき最適解を探していた。
「深淵の書庫、今、得られる全ての情報から、何をなすべきか教えてください」
『水晶柱の停止。破壊ではなく、魔力を回収すること……。ターミナルから出てきた人間たちは、地球の施設では管理できない。なんらかの枷を加えるべきである』
浮かび上がる文字列。
そこから判断するのは、瀬川の役目。
「……乙葉くん、ターミナルの魔力を全て回収できるかしら?」
『え? あ〜、なるほど、少し時間が掛かります。それと、周辺に人がいるとまずい、術式展開に時間が掛かるから』
「築地くんは何処?」
『俺は後衛。怪我人を救護施設まで移動中ですが』
「では、それは自衛隊の人に任せて、ターミナル周辺の騎士たちを戦闘不能にできるかしら?」
『あのごっついのが居ないのなら、なんとかできるしなんとかします』
「よろしくお願いします」
『『オーケィ‼︎』』
まるでアダンとサムソンのような返事を返してから、乙葉と築地はターミナルへと向かっていった。
………
……
…
──シュゥゥゥゥッ
俺ちゃんは、箒に乗って高速移動でターミナル前上空に到着。眼下では、腕に腕章をつけた妖魔と騎士が戦闘なう状態。
「ゴーグル・ゴー、戦え大戦隊‼︎ ターゲットロック。目標は、ターミナルから出てきた、聖王国の騎士っ‼︎ 広域魔法陣展開開始‼︎」
──キィィィィィン
合計十二の魔法陣が、彼らの上空に展開する。
まだ激しい戦いを繰り広げているものたちには、それがなんであるかわからないし、そもそも気が付いていないものが多いだろう。
だが、後方で指揮をしていた騎士は、俺が何かをしていることに気が付いたらしい。
「上だ、あの魔導師を殺せ‼︎」
「遅いよっ‼︎ 五式拘束の矢っっっ、拘束時間二倍強度三倍モード、いっけぇぇぇぇぇ」
──シュシュシュシュンッ‼︎
魔法陣に大量の拘束の矢が生み出され、雨のように一斉に降り注ぐ。
それは的確に『騎士たち』のみを穿つと、身体能力を拘束し、その場で身動きを取れなくしていった。
「妖魔の皆さん、騎士たちを拘束してください‼︎」
「オトヤン、後ろっ‼︎」
「え? ブファァ‼︎」
いきなり、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走る。魔法の箒には落下防止システムがあるので、転げ落ちることはなかったけれど、前のめりになってバランスを失いそうになった。
「い、一体何が‼︎」
「ちっ、まだ生きていやがったかよ‼︎」
聞こえてきたのは、斜め後ろ下から。
そこには、巨大なハンマーを受け止めた重装騎士が立っていた。
「き、貴様、何者だ‼︎」
「フェルナンド聖王国翡翠騎士団副隊長、ハンマーブロッサムと、人は俺をフバシッ‼︎」
──ドッゴォォォォォォン
俺が気を引いている最中に、祐太郎が神速で間合いを詰めると、ハンマーブロッサムとやらの背中、肝臓の裏あたりに掌底をぶちこんだ。
「勁砲っ‼︎」
──カッコォォォォォォン
激しい金属音が響く。
祐太郎の発した勁砲は、ハンマーブロッサムの体内を駆け巡り器官に衝撃を叩き込む。
「クブォブバァァ」
口からいろんなものを吐き出しながら、ハンマーブロッサムもその場に崩れ落ちる。
「くっそ、油断した……拘束の矢っ」
──ストストストン‼︎
おっかないから三本ほどぶっ刺しておくと、俺は急ぎ高度を下げる。
「危なかったわ。サンキュー」
「いや、あいつはいきなり姿を表したからな。しかも、拘束の矢をレジストして姿が現れたみたいだったぞ」
「げ? レジストしたのか。まあ、それならそれで、本数を増やすか効果を高めるかするか……」
目の前の騎士と妖魔の群れは、妖魔さん御一行がロープで騎士たちを捕縛している最中。
それなら、ここから先は、俺の仕事だな。
「祐太郎、護衛を頼むわ」
「任せろ、ありの子一匹、近寄らせない」
素早く箒に跨ると、眼下の妖魔たちの上空を飛び抜いて、真っ直ぐに水晶柱へと向かっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……」
燐訪議員は絶句している。
臨時司令室に届く報告は、すべてが『高校生魔法使いチーム』と『第六課妖魔チーム』の状況、浜松町方面のドラゴンを退治した巨大な人型兵器、そして周辺の警備を始め、残存騎士団を捕縛する陸上自衛隊の活躍ばかり。
虎の子の特戦自衛隊はというと、後半は押されっぱなしで被害者が多数、半ば水晶柱を包囲している最終防衛ラインが突破されかかっていたのである。
そこに即応機動連隊が到着し包囲を固めると、騎士団に向かって一斉に発砲したのである。
実弾ではなくゴムスタンガンではあるものの、威力は十分。
騎士たちの鎧を貫通することはできないが、反動で後ろに吹き飛ばすぐらいは容易である。
あとはケプラー繊維のネットで身動きを奪い、スタンガンで戦意を奪う。
実戦経験ならば、まだ組織化して半年足らずの特戦自衛隊とは桁が二つも三つも違う。
「どうして、どうしてこうなったのよ? あの騎士たちは何者なのよ、なんでこう、計画がうまくいかないのよ」
「さぁ。それでは、私は幕僚本部に戻りますね。ここは空気が悪すぎますから」
北山防衛大臣は、それだけを告げて司令室を後にする。
「考えなさい……そうよ、私はこんな危機を幾度となく越えてきたじゃない。今やることは何……」
ブツブツと独りごちながら、燐訪は最善の一手を探す。
だが、今は何も思いつかない。
むしろ、何かしたら、確実に悪手になりそうである。
そのままブツブツと呟く燐訪の元から、一人、また一人と議員たちは離れ、部屋から出ていった。
………
……
…
──キィィィィィッ‼︎
第六課指揮車両外には、有馬祈念率いる機動兵器チームが到着した。
トレーラーの後ろには二体のドラゴンの死体、一体は頭部損傷のみで、もう一体は体半分が吹き飛んでいる。
「忍冬くん到着したぞ、どうだ、我が切り札の魔導機動甲冑を。これを動かすためには、本当に苦労したぞ」
「はいお父さんストーップ。忍冬警部補、浜松町方面のドラゴンは無事に撃退しました」
「しましたぁ‼︎」
トレーラーの運転席の上から、りな坊もくるっとバク宙しながら飛び降りる。
前に向かって飛んでいるのに、バク宙とはこれいかにとつっこみたくなるところではあるが、指揮車両から瀬川がら出てくると、慌ててドラゴンを収納バッグに納めてしまう。
──シュンッ
「報告は伺っていますわ。瀬川雅です、ドラゴンの死体は一時的にこちらで預かりますので」
「食べないの?」
「食べるの?」
りな坊が瞳をキラキラしながら問いかけるので、瀬川も逆に問い返す。
「美味しいよ?」
「そうなの。それじゃあ、すべてが終わったら、乙葉くんにドラゴンのステーキでも作ってもらいましょうね」
「ぐっ‼︎」
笑いながらサムズアップするりな坊。
だが、忍冬警部補以下、第六課のメンバーは、巨大人型兵器を見て唖然としている。
「これは、大谷地の倉庫にあったやつですよね? 飾りかと思っていました」
「いやいや。魔力増幅回路が完成したので、ようやく起動することができた。これが動かなくとも、沙那とりな坊だけでも連れてくる予定であったのだが、なんとかギリギリ間に合った‼︎」
「お父さま、『アイアンメイデン』は活動停止です。ターミナルコアが割れてしまいました」
「なんじゃと?」
忍冬との話も放っておいて、有馬はすぐさまトレーラーの上にある魔導機動甲冑のメンテナンスハッチを開き、作業を始める。
「はぁ……瀬川くん、彼らが、ドラゴン方面に向かうのを知っていたのか?」
「深淵の書庫が、都内に到着した有馬さんのトレーラーをキャッチしましたので」
「そういうことか。本当に、深淵の書庫は万能だな」
「ええ。情報さえあれば、日本が誇るスーパーコンピュータよりも高性能かもしれませんわ」
それだけを伝えて、瀬川は指揮車両に戻る。
まもなく、最後の仕事が始まるから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「到〜着っ‼︎」
ターミナル付近に残っていた残存騎士団を祐太郎と二人で片づけて、ようやく到着したよ。
「さて、それじゃあ始めるから。ユータロ、あとは頼む」
「任せろ‼︎」
──ガギィィィィーン
ブライガーの籠手を打ち鳴らして、祐太郎は周辺警戒を始める。
さて、俺はというと、水晶柱に手を添えて、ゆっくりと解析を始める。
「……魔力回路の解析……流れはこことここ、回路のパスが一部変更……って、これは、白桃姫か」
うん、白桃姫がターミナルの接続先を切断して、妖魔特区に繋いだんだな。
それなら話は早い。
──ガチャッ
転移鍵を取り出して水晶柱に突き刺すと、そのまま鍵を開けて扉を開く。
──パチクリ
ほら、目の前に白桃姫がいた。
「なんじゃ、もう終わったのかえ?」
「あとは、この柱の処分だけ。ということなので、妖魔の御一行さんには、お帰り願いたいのだけど」
「よかろう‼︎ 皆のもの、撤収じゃ‼︎ 残りたいやつは腕章を返してから現地解散。ただし、乙葉印の魔力玉は無しじゃ‼︎」
そう叫ぶ白桃姫。
すると、妖魔の御一行さんは素直に妖魔特区に戻っていく。
「いやぁ、久しぶりに暴れたなぁ」
「そうそう、前はほら、転移門を封じようとした乙葉のダチと戦った時だよなぁ」
「やっぱり、体を動かさないとダメだわ」
「仕事後の一杯と、洒落込みたいよなぁ」
なんだろう。
運動不足のお父さんたちが、久しぶりに草野球でひと汗流して帰るって感じの状態なんだが。
そうこうしているうちに、妖魔たちは全員帰還。
残った騎士団は自衛隊に引き渡されたので、まずは一安心。
「さてと、破壊方法は分かったのか?」
「わからないから、魔力放出結界で包み込みますよ。そのための解析もしましたから」
「なるほどのう。いくら向こうで開こうとしても、こっちの水晶柱に魔力を送った瞬間に、自然放出して回路を動かさないのか」
キッパリと言われました。
まあ、その通りなんだけどね。
「そんな感じです」
「うむ、85点じゃな。では閉めるぞ」
「え、待って、あと15点は?」
──ガチャン
あ、閉められた。
まあ、あとは帰ってからでも考えるとしますか。
「それじゃあ、練金魔法陣展開……ミスリル、魔晶石、ワイバーンの皮膜、リヴァイアサンの鱗、魔力蓄積回路を用いて、ターミナルの魔力自動放出装置を……」
──ガシュゥゥゥゥ
時間も時間なので、魔導紳士スーツの魔力カートリッジからも魔力を流し込む。
そして5分ほどで完成した、バスケットボール大の魔力放出装置を、さらに水晶柱に融合する。
「さて……ナムさん、アブさん、ノムさん……うまくいってくれ」
ゆっくりと柱の表面に装置を繋ぐ。
そして内部の魔力回路にうまく接続するように、ゆっくりと、融合を行う。
──キィィィィィン
そして十分後。
魔力放出回路は接続し、水晶柱の頂点から、空に向かって青い光が伸びていった。
「よし、完成……祐太郎、戻るぞ」
「あ、終わったか、それじゃあ、新山さんも回収しないとな」
「それそれ。一番大変なのは新山さんだろうからね」
──ブワサッ
取り出しましたる魔法の絨毯。
そこにうんしょとよじ登ると、あとは祐太郎に任せる。
「そろそろか?」
「まあ、そんなところ。魔力切れたから、あとは頼むわ」
とりあえず魔力回復薬を一ビン飲み干すと、少しだけ仮眠を取る。
一本じゃ、ほとんど気休め程度だけどさ。
祐太郎の運転に任せて、あとは帰るだけだからね。
………
……
…
このままでは、特戦自衛隊は無能扱いだわ。
何か、手を考えないと……。
ふとモニターを見ると、騎士団はすでに囚われ、妖魔たちは水晶柱からどこかに戻っていくじゃない。
「そうよ、あの水晶柱の向こうの世界、そこを調べて日本国の領土にすればいいのよ。私たちは異世界からの侵略を阻止し、異世界に新たな領土を広げることができる」
そうよ、これよ。
起死回生の一手じゃない。
「誰かいないの? すぐにあの転移門を調査して、向こうの世界に調査班を送る準備をしなさい。私たちは、異世界の調査をするための法案を提案しますから」
「はい、了解しました」
数名の議員が走っていく。
まあ、向こうの世界の調査なんて、特戦自衛隊にやらせればいいわよね。
今すぐは無理でしょうけれど、騎士団に負けて私のメンツを潰した責任は、取ってもらうわよ……。
そう笑いながら、燐訪はモニターを睨みつけている。
その様子を、遥か後ろで、人魔・陣内が困り果てた顔で眺めていた。
「……妖魔よりも怖いわ、あのおばさんは」
ボソッと呟く声は、誰にも届かなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
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