第百三十七話・進退両難、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(作られた自爆特攻)
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平和な午後の、妖魔特区にて。
水晶柱の前でビーチベッドを広げ、妾は怠惰を満喫しているのじゃ。
妾にとって、この時間が一番大切じゃ。
『札幌テレビ城』と名付けた我が居城の手入れを行い、夕方には、誰かが遊びに来ないかと水晶柱の前でだらけている。
ここ最近は、妖魔特区内部の調査とかいって、大勢の人たちが結界内部を訪れておる。
まあ、大抵のものたちは絶望して、外に戻っていくのじゃがな。
この妖魔特区内部は、以前は転移門から発する魔力により、その環境を鏡刻界と同じように作り替えていた。
転移門が消滅した現在では、水晶柱がその代わりに膨大な魔力を放出しておる。これにより、やっぱり結界内部の環境は鏡刻界と同じように作り替えられているからなぁ。
そりゃあ、結界内部の再開発とか話している国土交通省の役人どもは、頭を抱えるのは当たり前じゃな。
鏡刻界と同じということは、その大気中にも僅かながら魔力が含まれておる。
それは人体に対しては無害じゃが、建造物に対しては『対魔力構造処理』を施さないと無理じゃよ。
鏡刻界では、その構造素材自体にも魔力が含まれているから、侵食や腐敗はすることはないが、こっちの世界の構造物や素材には魔力が通っておらぬからな。
「忍冬や、構造物の自然崩壊現象の原因はこういう感じなのじゃが。どうして、この妖魔特区内部の建物が腐食し朽ちていったか理解できたか?」
「ありがたい。これは、言い方を変えると、現代世界の構造物を建築する際、魔力を含んだ素材を使うと、強度や寿命が長持ちするということでいいのか?」
ふむ。
さすがは忍冬じゃな。内部調査団に護衛として同伴したのは良いが、原因がまったく分からなくて不貞腐れている調査団とは大違いじゃよ。
「それはちがう。魔力を含んでいる素材は、周囲の魔力を吸収して自動修復する力がある。これは、鏡刻界では当たり前の、自然界の摂理じゃ」
「それなら、この結界内に、鏡刻界の素材で建築をした場合は、強度も寿命も伸びるということか?」
「すでに、それらについては妾たちが実践しておる。みよ、我が居城『札幌テレビ城』を。この鉄骨にも魔力を浸透させ、魔導素材として組み替えておる」
そう説明すると、調査団は目の色を変えて札幌テレビ城へ向かっていく。
「こらこら、見るのは構わぬが、調査用素材として破壊するなよ?」
「え? でも、ここは元々は札幌市の所有物ですが」
「今、ここに住んでおるのは妾じゃ。調べたいなら、そこに転がっておる朽ちた鉄骨を調べるが良いぞ。それが、元々のテレビ城だった塔の残骸じゃからな」
ふん。
すでに必要分以外は素材は入れ替えておるわ。
それに、この状況でまだ、我が城を札幌市とやらの所有物だと抜かすのか?
それなら、元の鉄屑にして返すぞ?
別に、妾たちは何処にでも居城程度は作れるからな?
「……まあ、今日は御協力感謝します。では、また来るかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「土産も忘れるでないぞ? 其方の闘気玉は臭くて堪らん。タバコとやらの匂いがするのじゃ」
「はっはっはっ。その時は、うちの要も同行させますから。では」
そう告げて、忍冬たちは帰っていった。
ふう、今日はよく働いたわ。
あとは、のんびりと過ごすことにしよう。
妾は怠惰な氏族ぞよ?
怠惰こそマイライフじゃ。
──キィィィィィン
ん?
なんで水晶柱が反応しておるのじゃ?
この水晶柱は、妾たちの世界とは繋がっておらぬはずじゃぞ? そもそも、こっちの人間で、これを起動することができるのは、『乙葉浩介と愉快な仲間たち』だけなはずじゃ。
どれ、とりあえず確認してみるとするか。
妾ほどの魔族ならば、この手の現象ごとき、すぐに理解できるわ。
こうやって、手を添えて..…。
「鑑定。ふむ、鏡刻界に、向こうとこちらを繋ぐための柱が生まれたか……あっちの座標から察するに..…げっ、面倒くさい奴らがくるのか」
水晶柱の接続先は、妾たちの世界にある、『フェルディナント聖王国』の大聖堂ではないか。
ということは、あの七面倒くさい腐れ教皇が、こっちの世界に目をつけたのか。
「ううむ。どうしたものか。とりあえず、こっちの世界にある、全ての水晶柱と鏡刻界との接続を切っておくか……」
──キィィィィィン
妾の得意術式は『時と空間』の操作。
これがあれば、接続されている空間接続術式など、チョチョイのチョイと書き換えるだけじゃ。
まあ、今後増えるものについては責任は持てぬが、あちらの世界の魔術師程度では、自分たちの世界に水晶柱を作り出すことはできても、こちらにまで遠隔創造することなどできぬからのう。
──ピュッンッ
よし、書き換え完了じゃな。
これで、あの国の狂信者集団も、聖戦大好き騎士団も、この世界にはこれまい。
さて、今日は、乙葉浩介たちはこないのか。
しばらく、あの甘露を食べておらぬから、ひさしぶりに食べてみたいと思ったのじゃが。
そんなことを考えていると、森を伐採して作った小道から、知った顔がやってきたではないか。
「……今日は、誰も来ていないのかしら?」
「おお、雅ではないか。すまぬが、プレーンな魔力玉をくれてたもれ」
大学生とやらになった、瀬川雅が遊びにきたか。
北海道大学とやらに通っているそうでな、この妖魔特区のギリギリ外に大学があるそうじゃったな。
そのためか、頻繁に妾の元に遊びにきてくれるのじゃ。
「プレーンねぇ。これでいいかしら?」
──ブゥン
雅が右手を差し出して、魔力玉を作ってくれた。
彼女の本気の魔力玉は、貴腐神ムーンライトの加護が強くてのう。妾たち魔族には媚薬効果が発生するのじゃよ。
「構わぬ構わぬ。それで、今日も暇潰しか?」
「ええ。何か、面白いことはないかしら?」
「ん〜あるぞ? まだ確定ではないが、近いうちに、鏡刻界から使者が来るやも知れぬ」
「それって、なんのこと? 詳しく教えてくれる?」
──ブゥン。
お、深淵の書庫を発動したか。
良い良い、今日の妾は機嫌が良い。
妾がみたことを全て教えてあげようぞ。
まあ、柱が産まれなくては来ることなどできぬが、可能性として話はしてやろうぞ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「平和だなぁ。今年の頭の動乱が夢のようだよ」
「オトヤン、それダメだから、フラグだからな?」
「大丈夫だって。それよりもさ、来月中旬にあるイベント、あれの打ち合わせっていつやるんだろうなぁ」
このイベントとは、二年生にしか行われない、特別なイベント。
これから二年間は、余程のことがない限りは、同じメンツで卒業を迎える。
そのため、少しでも生徒間の親睦を高めようと行われる『炊事遠足』が、五月にある。
五人一組でチームを作り、札幌市南区にある『十五島公園』という場所で行われるんだよ。
まあ、うちらは祐太郎と俺と新山さんまでは確定。
ここにあと二人加えるんだけど、もうね、今の時点で祐太郎と一緒の組に入りたい女子たちの争奪戦が、水面下で行われているらしい。
「織田は、いつものメンツだろ?」
「当然。我ら魔術研究クラブは六人だからな。それよりも、乙葉たちのところは、何を作るんだ?」
「さぁ? メンバーが足りないから、何をするかわからんわ」
「そっか、じゃあ、頑張れよ‼︎」
おやぁ?
いつもなら、魔法を教えろとか弟子にしろとかいってくるはずなのに、今日はそのカケラもない。
なんでだろ?
「おう、じゃあな」
軽く挨拶しておしまい。
でも、どう考えても、織田のところは一人余るよな? まあ、いいか。
このあとは、何事もなく部活タイム。
妖魔絡みの時間がないことを祈るよ。
………
……
…
「はぁ?」
「え?」
「どうして、こうなったのですか?」
部室に行った俺たちだけど、カナン魔導商会に何か面白いものがないかとウインドウを開いたんだよ。
その時、LINESに瀬川先輩から連絡が来て、添付されていたURLを確認したら、とんでもないことになっていた。
『衆議院、解散する‼︎ 解散総選挙は通例通りに四十日後。大波乱を含んだ解散に、各方面から非難の嵐‼︎』
URLを開いた先は、ニュース速報系のまとめページ。今日の午後三時、衆議院議会の最中に、天羽総理が衆議院の解散を宣言した。
突然のことに、動揺する与党議員もいたところを見ると、与党内部にもこの件について予め知っていた議員と、何も知らされていない議員がいたようである。
「待て待て、なんで解散総選挙になったんだ?」
「分からんわ、ユータロ、親父さんに連絡つくか?」
「さっきから電話しているんだけど、話し中だ、オトヤン、天羽さんの連絡先知っているか?」
「知ってる‼︎ よし、話し中だわ、そうだよなぁ」
「でも、どうして解散したのでしょう? なにか致命的な問題でもありましたか?」
不安な顔をしている新山さん。
まあ、今の与党に落ち度はない……筈。
妖魔特措法、妖魔対策関連法案、国連妖魔対策評議会などなど、今期の与党は妖魔対策に全力だったよ。
転移門と、そこから発生する大氾濫についても関係各省での対策を話し合っていたけど、それについては、俺が封印したから問題なし。
うん、わかんないわぁ。
祐太郎と新山さんも、必死にスマホやタブレットで情報収集をしているし、恐らくは瀬川先輩も深淵の書庫で情報吸収をしているはず。
これで、野党が政権を取った日には、何が起こるか分かったもんじゃないぞ。
………
……
…
北海道大学、情報処理センター。
その一角で、瀬川は深淵の書庫の放つ、眩い光に包まれていた。
午後三時のニュース速報で、衆議院が解散したというニュースが流れたため、急ぎ、その真意を確認するべく深淵の書庫を発動したのである。
「うわぁ、これが噂の深淵の書庫ですか……動画で見るのと、本物を見るのとでは、まったく違いますね」
「お、俺、あとでサインもらうおかな」
「それよりもさ、瀬川さんって彼氏いないんだよな? 俺、立候補しようかな‼︎」
などなど、彼女が何をしているか理解していないギャラリーは、ただ面白そうに騒いでいるだけ。
そんな喧騒も気にすることなく、瀬川はじっと、流れていく魔法文字をずっと眺めている。
「解散の理由は、自国の繁栄を無視した、他国に対しての妖魔関連の外交優先な方策に対する責任、あとは天羽総理の体調不良による辞任。対妖魔政策のあり方について、国民に対して信を問うと……おかしいところがありすぎですわね」
一つ一つを確認してみると、どうにもおかしいところしかない。
画像では、対象者の鑑定が行えないため、妖魔能力による『思考誘導』や『洗脳』などがあったかどうかは確認できない。
だが、そんな常識を覆すのが深淵の書庫である。
『……データ解析……解散宣言時、壇上にいた天羽太郎が偽物である確率は86.3%。過去データから基づく、相対的な相違点あり』
「深淵の書庫、インターネットにアップされている解散宣言時の画像データと、天羽太郎総理の過去データ全てをピックアップ‼︎ コンマ何ミリでも構わないわ、相違点を弾き出して」
『……北海道大学データベースにアクセス。および、各専門機関のデータベースのサーチを開始します』
深淵の書庫の声と同時に、北大が誇るスーパーコンピューター『Grand Chariot』および『Polaire』が悲鳴をあげるような音を発し、一斉に演算処理を開始する。
こここらさらに各都道府県の主要情報システムにアクセスし解析を開始。
わずか数分で、日本国内のコンピューターシステムの76%を深淵の書庫が掌握した。
『データベース、富嶽百景と接続。解散宣言時の天羽太郎に、妖魔の特徴を発見。同時に、監視カメラの映像から、天羽太郎の消失ポイント、および再出現ポイントの確認完了。84.6%の確率で、天羽太郎は誘拐され、妖魔が入れ替わった可能性があります』
「了解。引き続き、天羽太郎本人の捜索をお願い。空間結界に閉じ込められたのなら、最悪のケースも考えないと……乙葉くん聴こえるかしら?」
………
……
…
『ピッ……乙葉くん、聴こえるかしら?』
お、瀬川先輩から念話きました。
LINESじゃないということは緊急事態だね。
「ルーンブレスレットの念話機能、パーティチャットに切り替え……聞こえますよ、どうぞ」
「こちら築地。同じく聞こえます」
「新山です、聞こえますよ」
『あのね、声も聞こえているわよ。かなり不味い話なので念話でお願いね』
『了解。なにがわかったのですか?』
『天羽総理が妖魔に攫われた可能性が高いです。同時に、今日の解散宣言を行った天羽太郎はニセモノで、妖魔がすり替わっていた可能性を深淵の書庫が弾き出しました』
ん〜。
動く。
っていうか、体が勝手に動いていたわ。
『瀬川先輩、天羽総理が捕らわれている場所ってわかりますか?』
『……国会議事堂2階の大臣室付近。空間に引き込まれた画像がさっきまであったわ。現在は消失、向こうも必死に証拠を消しに走っているわね』
そこまでわかったなら、突入してでも助けてくる……待て待て、俺、未だに妖魔の結界内部に入るための術式を知らないんだが。
そもそも、誰も教えてくれないし、妖魔能力は妖魔固有なので、それ以外の種族ではどうしようもないって、白桃姫にも聞いたことがあるぞ?
『落ち着いて乙葉くん。これから対策を考えることにしましょう? 今、貴方が国会議事堂に無理やり入ったら、不法侵入罪で捕まるわよ?』
『そうなると、野党としても堂々とオトヤンを捕まえられるだろうし、魔術師は、魔法を使って犯罪まがいのことをするって報道するだろうから』
『よし、冷静になろう。こうなると、議員関係で力を貸してくれる人にコンタクトするしかないか』
『でも、天羽太郎総理もいませんし、築地くんのお父さんにお願いするしかないですよね?』
新山さんの言う通り。
さて、どうしたものか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




