第百三十五話・雨過天晴、目には目を歯には歯を(悪霊退治の専門家)
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青葉町に住んでいる綾町舞子さんの依頼で、悪霊退治にやってきました。
何故かしらんが、今日のサポートは織田。
ぶっちゃけると、こいつはいらない。
──ヒュゥゥゥゥ
ゆっくりと綾町さんの家の玄関先に降下すると、玄関から女の子が走ってきた。
「空飛ぶ絨毯だ‼︎ うわぁ、お姉ちゃんが魔法使いになってる‼︎ 私も乗りたい‼︎」
「ナルちゃん、これは私のじゃないの、お友達のだから駄目だよ?」
「あ、構わんよ。ここに浮かべてロックするから……『乙葉浩介の名で命ずる、魔法の絨毯よ、ここに留まれ‼︎』……はい、土足禁止だからねぇ」
しっかりと位置固定でじゅうたんをその場に留ると、妹さんが頭を下げてから、よじ登っていく。
「ああ……本当にもう。ごめんなさいね乙葉くん。ナルちゃん、汚したら怒るからね?」
「大丈夫‼︎」
「だってさ。さて、そんじゃあ悪霊退治に行きますか、案内してくれるかな?」
「ええ、こっちの部屋だけど……」
「乙葉ぁ、俺を置いていくなよ」
両親共働きらしく、この時間はまだ帰ってきていないらしい。
それじゃあ悪霊退治といきますかということで、問題の部屋に案内してもらったよ。
その部屋は仏間で、普段は使われていないらしい。
そこにある和箪笥の上にある市松人形……え? これが市松人形?
──デ〜ン‼︎
高さは30センチぐらいの市松人形なんだけどさ、右手には槍、左手に盾を構えているんだよ。
頭には古代ギリシアのスパルタのヘルメットって言ったらわかる? あんな感じのヘルメット被っているんだよ。
「……あの、市松人形に何を守らせるわけ? ペルシア王クセルクセスの人形でもあるの?」
「ちっがうから。お父さんのコレクションのフィギュアの装備を、勝手に付けているだけだから」
──キーキー‼︎
あ、市松人形が槍を振り回して抗議しているわ。
悪霊退治って、これのことか?
それよりもさ、俺って、この程度じゃ動じなくなったよなぁ。
「まあ、こいつが悪霊かどうか調べてから……あれ? 織田は?」
「走って逃げたけど?」
「そっか、まあ、予想通りに使えなかったか。まあいいわ、この悪霊の被害って何?」
「夜中に家中を徘徊するのよ。お父さんもお母さんも気味悪がって、この仏間には近寄らなくなったし、近々、有名な除霊師にお祓いしてもらうって話していたのよ」
深夜に家中を徘徊する、スパルタンな市松人形。
オカルト要素よりも、ツッコミどころしかないわ。
「それじゃあ、始めるか……よう、俺の言葉は理解できるよな? 君は何者なんだ?」
とりあえず話しかけてみるか。
俺の自動翻訳機能よ、働いてくれますように。
『貴様、妾の言葉が理解できるのか?』
「あ、接続したか。そりゃあ、俺、魔術師だからね。それよりも、なんでそんな装備で家の中を徘徊していたの?」
『家人を守るため。この家のものを怪異が狙っているからな。じゃから、妾がこう武装して毎晩、見張っておるのじゃよ』
そうかそうか、あんたは正義の味方か。
それなら、この件は解決だよね。
「綾町さん、この市松人形はさ、家の人を狙っている妖魔から、みんなを守るために武装して見回りしてくれているんだって。これで解決でいい?」
「いい……訳ないじゃない、この市松人形が私たちを守ってくれているの? それはなんとか理解してもいいけど、妖魔に狙われているってどういうこと?」
「さぁ? いちまっちゃんや、なんで家の人が狙われているんだ?」
気軽に問いかけたら、槍を振り回して抗議していたよ。
『いちまっちゃんとはなんじゃ‼︎ この家の中に、妖魔の伴侶が封じてある巻物があるのじゃ。全く、ここの主人は、そんなことを知らずに買い付けてきおって……』
「いやいや、普通はさ、妖魔が封印されている巻物なんてわからないから。それを取り返すために、妖魔が狙っているの?」
『うむ。早く、その巻物を家の外に出して、然るべき処置をしないと。最悪は、妖魔の発する瘴気で家人は皆死んでしまうぞ? じゃから、はようせい』
予想外にヘビーだわ。
「ということです」
「そう言われても、私は市松人形の言葉なんてわからないわよ」
「綾町さんのお父さんが買ってきた巻物に、妖魔が封印されているんだってさ。その伴侶を取り返すために、妖魔が狙っているんだと」
「え? お父さんが巻物を? うちのお父さんにそんな趣味はないわよ? 骨董品なんて興味ないで、フィギュアとか集めるのが好きなのよ」
お父さんとは、俺は分かり合えそうである。
そうかそうか、市松人形の装備ってあれか、週刊スパルタスのおまけか。全三百号集めると、屈強無比なスパルタの戦士が揃うやつか。
マニアックすぎるわ‼︎
「はて、市松人形は、それが目的だって話していたけど?」
「そうなの? もう少ししたらお父さんが帰ってくるから、そうしたら聞いてみるわね」
「そうなさいませ。それで、俺はどうしたらいいんだ? 結果報告するとだね、あの市松人形はこの家の守護霊だよ?」
──ウェーイ‼︎
そこの市松人形、褒められたからって槍を掲げて雄叫びをあげない。
「……あれは、喜んでいるの?」
「そ。だから安心していいよ。妖魔の件については、親父さんと話をして、もしも巻物を持っているのなら手放しなさいと。それで妖魔は来なくなるから」
「そっか、わかったわ、ありがとうね。それじゃあ、この市松人形は、私たちには悪さをしないのよね?」
どれ、天啓眼発動‼︎
『ピッ……中級怪異・守護霊。市松人形に憑依しフルアーマー状態の『戦う守護霊』となっている。古くは、綾町家の先祖である……』
あ、もういいっす。
他人の過去まで知りたくないし、そうか、ご先祖さまが守護霊でしたか。もしも綾町さんの恋人が守護霊だとゲフンゲフン。
それはいいや。
「しません。というか、常に見張ります。某警備会社レベルで護ります」
「そうなのね、ありがとう……それじゃあ、今日、お父さんが帰ってきたら、そう伝えてみるね」
「うむ。そんじゃ、俺は織田を連れて帰るわ……」
という事で、絨毯の上でおままごとの相手をさせられている織田を救助して、俺たちは一路、帰宅モード。
なんで俺が、織田を送らないとならないのか、本当に解せぬわ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
意気揚々と登校しましたら、腕に包帯を巻いた綾町さんがいらっしゃいました。
「ちょ、何があったの?」
「昨日ね、晩御飯の時にお父さんに話してみたのよ。そうしたら、挙動不審になってね、お母さんがお父さんを問い詰めたんだけど……」
ふむ。
これは、あのパターンかな?
「お父さん、家族に内緒で高額な骨董品を集めていたの……それでお母さんがキレちゃってね、夫婦喧嘩が勃発……飛んできた茶碗を避け損ねて怪我したのよ」
「なんとも、巻き込まれたパターンなのね。腕、見せて」
──シュゥゥゥゥ
早速、新山さんが治療中。
しかし、相手が妖魔となると、我々の仕事なんだよね?
「だよね、ユータロ」
「すまんが、登校していきなり言われてもわからん。最初から説明よろしく」
「おう、じつは、ウマウマシカシカなんだよ」
「……その、封印してある巻物はどうなったんだ?」
「今朝、お母さんが近所の骨董屋さんに持っていったわよ。でも、市松人形は何か怒った感じで訴えているのよ」
「ふぅむ。ユータロ、出番だわ。相手は封印されている妖魔の伴侶、強さは未定。バトルになる可能性はかなりある、というか、確実にバトルになる」
そもそもさ、封印されていたんだろ?
そんなの人間に害なす妖魔に決まっているわ。
そうじゃなかったら、市松人形は警戒しない。
「オッケー。それじゃあ、帰りに俺も参加するか。新山さんは?」
「怪我人が出る可能性もあるから、参加します」
「よし、いつものメンバーだな。織田はどうする?」
敢えて聞こう‼︎
「すまん、俺は今日の放課後は腹痛の予定だ」
「大丈夫だ、それぐらいなら新山さんが治せる、行くか?」
「すまん、俺が悪かった。邪魔はしないから、頑張れ」
おや?
流石に昨日、一人で逃げたのを反省しているのか。それならそれで、織田を問い詰める気もない。
「了解だ、それじゃあ放課後に‼︎」
「お願い。早く平穏な時間を取り戻してね」
そりゃあ、頼まれたならやるさ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
放課後。
俺と祐太郎、新山さん、そして綾町さんの四人は、部活を休んで綾町さんの家までやってきた。
ただ、玄関先に着地したのはいいのだが、昨日とは全く雰囲気が違っていた。
「え? 玄関が……ない。なんで?」
「吹き飛ばされてますなぁ。オトヤン、どんな感じだ?」
どんな感じと問われたら、ご存知ゴーグルの出番。
「待て待て、ゴーグルゴー。戦え大戦隊‼︎」
『ピッ……妖魔反応一、怪異反応一、人間の反応一』
「よし、妖魔がいるわ、あと人間の反応もある」
「まさか‼︎」
新山さんの絨毯から飛び降りて、玄関に向かって走り出す綾町。
だけど、すぐに祐太郎が箒に跨ったまま、玄関と綾町さんの間に滑り込んだ。
「はい、ここからはプロの仕事。綾町さんは、新山さんの絨毯の上で待っていて」
「でも、多分、妹が……」
「だ〜か〜ら、俺たちに任せろって‼︎ いくぞユータロ‼︎」
「応‼︎」
そのまま玄関に突入。
あ、土足は禁止なのでスリッパに履き替えたよ。
「オトヤン、反応は不味いのか?」
「奥の間……仏間なんだけどさ、そこから反応があるんだわ」
走る、とにかく走る。
まあ、廊下をまっすぐ走って曲がった先なんだけどさ、到着した時には襖は破壊されていて、部屋の奥で満身創痍のフルアーマー市松人形が妹さんを守っていたんだよ。
そして、俺たちの反応に気がついた妖魔が、頭だけをクルリとこっちに向けた。
『ケケケ。コッチノフタリノホウガ、ウマソウジャナイカ』
そう叫びながら、蜘蛛の体に人間の手足を生やした妖魔が飛びかかってきたわ。
『ピッ……中級妖魔・白泉蜘蛛餓鬼。黒曜蜘蛛餓鬼と対であり、人間を蜘蛛の糸によって繭玉に閉じ込め、体液を直接糧とする妖魔』
「ユータロ、やれ‼︎」
「ブライガァァァァア‼︎」
──キィィィィィン
両手にブライガーの籠手、全身を魔導闘衣に包んだ祐太郎が、飛びかかってきた妖魔目掛けて右手をグイッと後ろに引いた。
「機甲拳、四の型、広範囲拡散拳っ‼︎」
──ドドドドドドトダダドドドッ
飛びかかった妖魔の全身に、拳が次々と埋まっていく。乱打というか乱撃というか、人間であれば食らいたくないものだ。
全身がボコボコになった妖魔は、その場にゴトッと落ちると手足を丸めて動かなくなる。
「やった『それ死亡フラグだから‼︎』すまんオトヤン」
あぶねぇ。
動かなくなったけど、ゴーグル・ゴー。
『ピッ……擬態中。死んだふりによる防御力上昇』
「よし、俺が止めさすわ」
取り出しましたる、ウォルトコ経由のアメジストのネックレス。
大粒で高いんだけどさ、まあ、しゃーない。
「我、汝に命ずる……現世より離れ、隠世へと至れ、此処は其処……」
『待て待て、なんで貴様が封印術式を使えるんだよ‼︎』
ガバッと飛び起きて、俺に向かって四肢を広げて飛び込んでくる妖魔。
だけど、それは祐太郎ががっちりとキャッチ‼︎
『ぐぬぅぁぁぁ、は、な、せ』
「知るか。オトヤン、やっちまえ‼︎」
「始まりから那由多へ……封印っっ‼︎」
──シュゥゥゥゥ
左手のアメジストに、妖魔が吸収されていく。
『な、なんでまた封印されないとならないんだぁぁぁぁ、ぐふっ‼︎』
霧状に吸い込まれた妖魔。
最後は封印呪符を作り出して、ペタッと張り付けておしまい。
「う、う、うぇぇぇん‼︎」
感極まったのか、奥でフルアーマー市松人形に守られていた妹さんが、祐太郎に抱きついて泣いている。
そっちは任せた、俺はいちまっちゃんの方に行くんだけどさ。
『ピシッ……間に合っ……た……のう……』
全身ヒビだらけ、槍も折れて盾も半ばで砕けている。
ヘルメットもとっくに砕けたのか、綺麗だった顔にもヒビが無数に入っていた。
「間に合ったよ。綾町さんの親父さんは、妖魔の封印されている巻物は誤魔化したのか」
『ええ……天井裏に……隠してある……奥さんの持っていったのは……万が一用の……』
「そうかそうか。そのあたり追求してもらうか、プロの方々に」
──ファンファンファンファン
ほら、遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン。
新山さんが、要先生に連絡してくれたんだよな。
やっぱり妖魔関係の時間だから、ここからはプロに任せて自我処理を頼むとしますか。
「ユータロ、妹さんは……」
「眠ったよ。よほど怖かったんだろうなぁ」
あらら。
妹さんは、祐太郎の腕に抱かれて眠っております。
ファンクラブの子たちが見たら絶叫レベルだよ。
そんなこんなで家の外に出ると、要先生がすでに待機していた。
「……あのねぇ乙葉くん。妖魔絡みの事件だったら、先に連絡をくれないと困るんですけど?」
「はいはい。詳細は綾町さんから聞き取って。親父さんが天井裏に、妖魔の封印されている巻物隠してあるから。それを取り返すために、伴侶の妖魔が暴走しただけなんでね」
「了解。その傍の妖魔は?」
──ジャラッ
封印呪符の貼り付けられたネックレスを見せる。
「封印完了。これも、俺の空間収納に保存しておくわ。買い取るならネックレス代六万五千円と封印手数料、俺と祐太郎、新山さんの出張費でよろしく哀愁」
「はぁ……空間収納に保存しておいて。アルバイト代は日当一万円を振り込んでおきますから」
よし、仕事完了。
妹さんは新山さんの絨毯の上で、綾町さんに抱きしめられているのでよし。
「ユータロ、新山さん、そんじゃ帰りますか……それと綾町さん、この市松人形は預かるから」
「え、は、はい、ありがとうございます‼︎」
これで、一連の悪霊退治は終わり。
その後は綾町さんの家での悪霊騒動もなく、平和な日々がやってきたそうだ。
なお、親父さんの隠し美術品は全て売却され、家族旅行の予算に変わったそうで、めでたしめでたし。
………
……
…
翌、部室にて。
「それで、この市松人形……はどうするんだ?」
綾町さんのご先祖さまが宿っていた市松人形。
俺がカナン魔導商会で修繕用の材料を入手して、さらに『ゴーレムの術式』を施し、完全稼働型市松人形として蘇った。
「フルアーマー市松人形から、リアルグレード・市松人形になったのか」
「こっちが背中に背負うウェポンラックで、それ自体も可変して全身鎧に変化するんだわ。しかも、鎧武者だからな? ギリシアの鎧きた戦士じゃねーからな?」
「鎧武者というよりも、侍戦士だったか……」
ふむ、そういうのもあり。
『……しかし、お主は何者じゃ? お役目を終えて天に昇るはずじゃったのに、なぜ!新しい依代を用意してくれたのじゃ?』
はい、魂入りました‼︎
おかえりなさいご先祖さま。
「綾町さんからの追加依頼でね。俺って、錬金術も使えるからさ、人形のゴーレム化……修繕もお茶の子さいさい」
『まあ……よいわ』
「ちなみにだけど、発声機関も組み込んだから、普通に喋っているからな?」
『なんじゃと?』
慌てて周りを見る侍市松人形。
すでに、その場には綾町さんも来ているんだよ。
「ご先祖さま。おかえりなさい。妹を守ってくれて、ありがとうございます」
『う、うむ。では、帰るとしようか』
「はい。乙葉くん、みなさん、ありがとうございました」
「私は何もしていないから、気にしないでね」
「このまえ、お礼の言葉はきいたからいいぜ」
「そういうこと。妹さんが待っているんだろ?」
「はい‼︎」
そう元気な返事をしてから、綾町さんは部室から出ていった。
これで本当におしまいだけどさ、第六課では、妖魔関連事件で手に負えない場合は、特戦自衛隊ではなく俺たちのところに連絡したほうがいいっていう風潮ができ始めたとか。
面倒くさいから、こ、と、わ、る。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




