第百二十七話・群軽折軸、でも切磋琢磨しないとなぁ(強くなったの忘れてた)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
もしも、俺たちの体験したことが、異世界転移な世界だったとしたら。
魔族に攫われたエルフの魔術師を救出し、死にかかっていたところを癒し、そして彼女の故郷である国に送り届けてハッピーエンド。
国境はあっても、それを越えたからといって強く咎められたり、国家レベル?で犯罪者扱いされることはない。
まあ、そういうラノベもあるけど、押し並べて異世界は転移者には優しい。
昨今流行りの『ざまぁ系』『追放系』ならば、逆に主人公が追い込まれたところからの反撃スタートとなるけれど、俺たちがいる世界は現実世界。
法と秩序に守られた国にいる限り、世界は、チート能力者には厳しいわけで。
つまり、一言で言い表すと。
「やり過ぎは、良くない」
この一言に尽きる。
いや、エルフのね、フリューゲルさんの命に関わっていたんだよ。
それを救って帰ってきただけでさ、なんで犯罪者扱いされないとならないわけ?
そんな話をしていたら、とりあえず今後は、やばそうなアクションを起こす時には、予め先輩か忍冬師範、もしくは要先生に相談ということで話がまとまったわけで。
本日は週末の日曜日。
昨日の話し合いはなんのその、キャンプ千歳に魔導具を納めに参ります。
………
……
…
「ようこそキャンプ千歳へ。我々アメリゴは、君たちを歓迎します‼︎」
今日の新山さんと祐太郎は、忍冬師範の元にお礼を伝えに向かいました。
それで、なぜか暇をしていた瀬川先輩と俺の二人が、キャンプ千歳にやってきたわけ。
場所は陸上自衛隊・東千歳駐屯地。
そこに隣接しているのが、キャンプ千歳。
元々は、この東千歳駐屯地がキャンプ千歳だったのだけど、千歳第三地区、つまり東千歳駐屯地北側区画を再びアメリゴが借り入れた形になっているらしい。
「は、はい、はじめまして、乙葉浩介です。この度はお世話になりました」
「瀬川雅です。本日は彼の随伴としてやってきました」
「二人とも、丁寧な英語が使えるんだね。私はクロム・クロム・マンスフィールド。このキャンプ千歳の司令官であり、アメリゴ海兵隊『特殊戦略部隊』司令官でもある」
「海兵隊の特戦部隊司令でしたか」
ヘキサグラムに並ぶ、アメリゴの対妖魔戦力。
それが海兵隊特殊戦略部隊、通称『ブラックナイフ』。
隊員の所有している黒いナイフが、対妖魔用ナイフであることから付けられた名前らしい。
「まあ、緊張することはない。早速だけど、ここまで来るのは大変だったろう」
「はい。東千歳駐屯地に入るのも難しいのに、まさか『千歳にあるアメリゴ』に入るなんて、思っていませんでしたから」
「急いでパスポートを探しましたわ」
「ん、結構。では、こちらへどうぞ」
そのまま敷地内を案内されるけど、建物のほとんどが妖魔研究セクションだったり、対妖魔兵装のメンテナンスセクションだったり。
さらには、ヘキサグラムの施設もここにあるらしく、北海道にいる機械化兵士のメンテナンスもここで行っている。
でも、そこまで説明していいの?
そんなことを考えていると、目的の施設に到着。
「ここが、退魔法具の解析セクションだよ。つい最近も、ここで『ある退魔法具』を解析していたんだけど、何故か研究員の目の前で消滅してね」
「あ〜、それって、俺の高校から勝手に持っていったやつですよね?」
別に隠す気はないし、ここで牽制しておくのも手だからね。
だけど、俺がそう問いかけると、クロム司令官の頬がヒクヒクと引き攣っている。
「さあ? 私はそのような報告は受けていなくてね。札幌近郊で、結界発生型退魔法具を発見したとしか聞いていなくてね」
「まあ、間違って持っていったんでしょうね。俺が作った魔導具は、全て『俺の手元に』戻ってくるように調整してありますから」
長い通路を、お互いに牽制しつつ目的の部屋に到着。
まあ、応接間なんだけどね。
そこで席に座り、早速クロム司令官の目の前で空間収納から『結界発生装置』を二つ取り出すと、テーブルの上に置く。
──コトン
いきなり、何もない空間から魔導具を取り出したので、クロム司令官は目を白黒させているし、後ろで待機している兵士も、どうして良いか反応に困っている。
「い、いま、これをどこから出したのかな?」
「我々の世界とは違う、位相空間ですね。これも俺の魔法のようなものですから。では、こちらの二つは正式にアメリゴ海兵隊に譲渡します。但し、一つは、ここのヘキサグラムに渡してください」
トーマスさんから、そう頼まれているんだよ。
ちなみに結界発生装置を渡したところで、解析できるかどうかなんてわからない。
「分かった。ここのヘキサグラムの所長に渡しておくとしよう」
すぐさま研究員がやってきて、二つの魔導具を金属製のケースに収めて持っていく。
これで、俺たちの用事は終わり、あとへのんびりと帰るだけ。
「それでは、これで失礼します。本日は、ありがとうございました」
「それでは」
「まあ、待ちたまえ。そう急ぐものではない」
一礼して立ち上がると、クロム司令官は俺たちを引き止めにかかったよ。
ここまでは、先輩の予想通り、俺たちをみすみすと帰す気はないだろうからね。
「他にも何か?」
「これは個人的な頼みなのだが、君の魔法を見せてほしいのだが」
「魔法? どのような魔法が見たいのですか?」
「我々は軍人でね。見たいのは、対妖魔用の攻撃魔法だよ。当然、射撃訓練施設を使ってもらうけど」
え?
それってマジで?
ずっと考えていたんだよ、俺の攻撃魔法の威力の算出方法。
空き地で空き缶狙って発動したとしても、なにか漠然とし過ぎてわからないだろうし、そもそも空き地でやるものじゃない。
最悪は、どこかの自衛隊に魔導具持っていって、それと交換で施設を借りようかまで考えたんだよ。
「先輩、どうしますか?」
「そうね。受けても構わないと思うわ。それでクロム司令官、乙葉くんの魔法が見たいのは貴方だけですか? それとも研究員を伴って、もしくはこっそりと解析するのでは?」
ニコニコと笑いながら話している先輩。
そしてクロム司令官も、ニコニコと笑っている。
「いや、私だけだ」
「そうですか。それでは、彼が魔法を使うときは、私の能力も使わせてもらいます。そうですね……この施設内の監視カメラ全てをジャミングさせて貰いますが、よろしいですか?」
「……訂正する。可能なら、魔法を使うところを記録したいのだが、それは可能かな?」
「素早い対応、ありがとうございます。あらかじめ、そう伝えていただけるのでしたら、こちらとしても無下にお断りすることはありませんので」
怖い、先輩が怖い‼︎
なんで海兵隊の司令官相手に、まともに交渉できてるの?
さすがは俺たちのブレイン、半端ねえっす。
そんなこんなで、俺たちは射撃訓練施設へと場所を移すことになった。
………
……
…
移動した先は、屋内射撃訓練施設。
コンクリート作りの建物の中に移動すると、すでに報告を受けていたらしい研究員たちや、休憩中の海兵隊員が野次馬のように集まっている。
「許されるなら、乙葉くんにセンサーをつけたいのだけど」
「それはパスでお願いします。映像なら構いませんし、スーパースローでもなんでもご自由に。それで、俺は誰を狙えば良いのですか?」
──ガチャッ
すると、距離にして13m、25m、50m、100mの位置にターゲットが出たよ。
人型のアレね、急所の部分には小さな丸が付いているやつね。
「あのターゲットでお願いしたい。近距離から頼む」
「はぁ……使う魔法はなんでもいいのですよね?」
「得意なやつで構わないよ」
よし、言質とった。
「それじゃあ……氷の弾」
──シュンッ
一瞬で、俺の目の前に小さな氷柱が浮かび上がると、高速で13mのターゲットの心臓部分を貫いた。
「に、2150MV?」
「馬鹿な、計測ミスではないのか?」
「い、いえ、銃身がないので、氷柱が空いているところを薬室とした計算ですが……」
うん、何いっているか、分からんわぁ。
俺はミリオタじゃないのでね。
「乙葉くん、もう一度お願いしたいのだが」
「構いませんよ、ほいっと」
──シュンッ
今度は頭ね。
なにも付与しない、普通の氷の弾ね。
でも、野次馬の海兵隊は沈黙したし、研究員たちは呆然とモニターを見ている。
「では、次のを頼む……」
「はい。そんじゃ、次の的に……」
そんな感じで、全ての的に氷柱をぶっ刺したよ。
それで分かったんだけどさ、俺が普通に発動していた氷の弾なんだけど、色々と計測したデータを教えてもらった結果。
簡単に、人が殺せます。
氷柱の初速がね、7.62mm×39だかよりも早くて、威力がその倍だってさ。
試しに力の矢を使ったら、速度こそ遅いもののターゲットが砕け散ったし、さらに別の魔法、光弾を使ったときは、速度が計測不可だったらしい。
音もなく、それでいて魔力が続く限り打ち出せる魔法の威力に、最後の方ではクロム司令官も顔色が真っ青だったよ。
………
……
…
「では、俺たちはこれで失礼します」
「このような機会、そうそうありませんから、貴重な体験をありがとうございます」
最初に案内された基地司令塔にある応接間で俺と先輩はお礼を告げたよ。
丁寧に頭を下げると、クロム司令官も改めて頭を下げてくれたので、これからも良好な関係を築けるといいよね。
「ちなみにだが、乙葉浩介くん。君は、我々アメリゴと敵対するようなことはあるか?」
「俺たちの平穏を邪魔する存在は敵です」
「了解した。では、我々キャンプ千歳に滞在する海兵隊は、君たちに敵対しないことを誓おう」
そう告げてから、俺と先輩に小さなカードを手渡した。
「これは?」
「キャンプ千歳での、君たちの身分証明書だ。それがあれば、いつでもここに来ることができる。必要ないかな?」
「いえ、ありがたく受け取っておきます」
「今後も、良き理解者でありますように」
これで、俺と先輩のキャンプ千歳での不思議な体験は終わり。
最後は魔法の箒で基地内を飛んで、ゲートまで移動したんだけどさ、歩哨が俺たちを見て動揺していたよ。
「まあ、これでキャンプ千歳の海兵隊さんも、私たちには手出しできないでしょうね」
「そうなのですか?」
「ええ。現代の魔術師の、それも攻撃魔法を目の当たりにしたのですからね。特に光弾と力の矢、あの二つについては、今のアメリゴの防御兵装では止められるものじゃないわよ?」
マジか?
今度、クラスのミリオタにも聞いてみるか。
お土産にって、映してもらった動画も貰ってきたからね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「これが、現代の魔術師の魔法ですか……」
キャンプ千歳の研究施設では、先ほどまで滞在していた乙葉浩介の魔法の解析を行っていた。
クロムの予測では、魔法の威力といってもそれほど大きなものではない、もしくは妖魔に特化したものであり、対物理威力はそれほどではないと考えていた。
だが、彼の魔法を目の当たりにして、大きく舵を取り直す必要が出た。
「タイプ・アイスボルトですが、7.62mmフルメタルジャケットと同等。タイプ・フォースはパイファー ツェリスカと同等かそれ以上。タイプ・レーザーに至っては、測定不能です」
「氷の弾なら、AK47のフルメタルジャケットか。まだどうとでもなる。問題は、それよりも早くてパンチ力のある力の矢だ。なんだあの威力は、貫通力がないといっていたが、あの威力の前では、そんなものは必要ないだろう?」
世界最強のハンドガン、パイファー ツェリスカ。
ハンドガンとしての実用性は皆無であり、全長約55センチ、重さは約6キロ。
本来なら携帯性が求められるハンドガンでありながら、隠す気は全くないデザインである。
しかも、その威力たるや、象を一撃で仕留められるレベルを遥かに超えている。
その衝撃力が、まともに叩きつけられるのである。
せめて貫通してくれれば、まだ生き残る可能性が……それも無理だろう。
とにかく、普段から乙葉浩介が愛用している、『貫通力のない衝撃だけの魔法』は、対人戦相手には使ってはいけない代物である。
なお、昨年の春、乙葉浩介が不良相手に使ったときは、まだ魔力制御も満足にできていなかったため、せいぜいがプロボクサーのボディブローレベルであった。
魔力が格段に上がり、なおかつ、魔力制御を覚えた現在は、人間相手に使ってはいけないと、瀬川雅にその場で咎められたレベルである。
「……問題は、この光弾か」
「はい。これは、我々でもどうして良いかわかりません」
100mのターゲットを、一瞬で貫通した威力。
その場で光弾を使うのを止めてもらったのだが、ターゲットを貫通した威力は弱まることなく、建物の壁を貫いていた。
もしも射線上に人がいたら、確実に死者が出ていたレベルだった。
「……本国に、報告は?」
「……考えさせてくれ。今日は、もう何も考えたくない」
アメリゴ海兵隊特殊戦略部隊司令官は、改めて魔術師の力を目の当たりにし、驚愕するしかなかった。
………
……
…
「ということでね、乙葉くんは、しばらくは魔法を抑える訓練ね。今日の関連施設のを見て分かったわ、貴方の魔力では、何も強化しなくても人が殺せます」
「……マジ?」
「ええ。そうなった理由ですけどね、恐らくは『神威』を身につけたからでしょうね。ですから、乙葉くんは、神威を制御できるように訓練ですね」
あ〜。
確かに俺も思ったよ。
昔、不良に使った力の矢と、さっきターゲットに使ったときでは、威力が全く違うんだよ。
さっきのやつを普通に人間に打ったら、最悪は即死だよ。
「あ……」
やべぇ、セドナのエアポート・メサでは州警察相手に普通に撃ってたよ。
でも、普段と同じ感じだったんだけど、これって自動的に威力の調節ができているっていうことなのか?
『ピッ……対人用、対妖魔用、対物理と、状況に応じて威力調整ができています』
「なんと‼︎ 天啓眼サンキュー。先輩、どうやら相手によって、自動的に調整しているようです」
「だからといって油断は禁物ね。ちゃんと訓練するように」
「うっす。明日から頑張ります」
そんな感じで、明日からは魔法の修行が始まるよ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




