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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第二部・歪んだ日常編、もしくは、魔族との共存って、なかなかシビア。

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第百十九話・喜色満面、艱難汝を玉にしたぞ(卒業)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 予想外。


 私たちの計算では、転移門ゲートは開放され、妖魔たちが世界に溢れるはずだった。

 多くの人々が妖魔に襲われ、かなりの被害が及ぶ予定であった。


 そのタイミングで与党を弾圧し、且つ、私たちが盟約により従えている妖魔により、日本国を妖魔の魔の手から救い出すことができるはずだった。

 そうすることで、妖魔は人間と共に生きることを証明し、無能な与党に退陣して頂くはずだったのだが。


 人魔・小澤の策では、少なくとも日本は妖魔の魔の手から逃れることができ、最悪でも我々は妖魔と上手く付き合うことができたはず。

 北海道の転移門ゲートも、あの忌々しい対物理障壁によって妖魔たちは外に出ることはできず、大氾濫が起きたとしても、その被害は北海道の妖魔特区内で抑えられるはずだった。


「計算が狂いましたが、このあとはどうするのですか?」


 東京都・永田町にある議員会館。

 その一室では、国憲民主党の妖魔派閥のメンバーが集まっている。

 

「それで、燐訪リンポウくんは、なにか策があるのかな?」

 

 国憲民主党の政調会長である、荻野議員が私に問いかけてくる。

 この場には、小澤議員はいない。

 今日は別件で、外に出ているらしい。


「まずは、自由国民党を与党から引き摺り落としますわ。どんな小さなスキャンダルでも構いません、それをうまく情報操作して、とにかく自由国民党のイメージダウンをするのですわ」

「それはまた、なかなか難しいんじゃないか? 妖魔特措法の成立以降、与党の勢いは増すばかりじゃないか」

「そうそう、しかもだよ、あの乙葉浩介が転移門ゲートを封印した時の映像が、全国に流れたじゃないか。乙葉浩介は、あの築地晋太郎議員の派閥と懇意にしているっていう噂も流れていたのだよ?」


 その程度の情報は、とっくにわかっています。

 その結果、自由国民党は、対妖魔戦力として乙葉浩介らを使うことができるっていうイメージが定着したのですから。


「そうですわね」

「しかもだよ、彼の仲間達は、これまた強力な魔法使いが揃っていると聞いているよ? 魔闘家の築地、聖女・新山、賢者・瀬川。この三人のうち、一人ぐらいは、我々の派閥に引き込めないのかね?」

「そのための策は、今、準備をしています。対妖魔戦エキスパートの築地、彼は築地議員の息子ですから無理でしょうけれど」


 あとの二人、最低でもどちらか一人は、手駒として欲しいところね。

 人魔・陣内の力を借りられたら、どちらか一人ぐらいは簡単に手に入るはずなのに、なぜ、川端政務官は協力してくれないのかしら?


「では、急ぎたまえ。これ以上、与党の好き勝手を許すわけにはいかないのだよ?」

「ええ。必ずや、政権を私たちの手に取り戻しましょう」


 その言葉で、全員が席を立つ。

 そして、結界に包まれた部屋から、一人、また一人と立ち去っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 卒業。

 瀬川先輩は、明日、北広島西高等学校を卒業する。

 新設校として初めて、三年生を送り出す日を迎える為に、父兄会やPTAの役員の皆さんは、とにかく走り回った。

 無事に卒業生を送るため、できる限りの知恵を絞り、最高の卒業式を準備した。

 北海道は、卒業式や入学式には桜は咲かない。

 桜が咲くのはゴールデンウィーク、だから関東以南の、桜吹雪が舞う卒業式には憧れを感じていた。


 そして、より感動的な卒業式を迎えるため……という名目で、俺は駆り出されたわけだよ。

 

「ええっと、校舎敷地内の雪の消去は完了……と」

「次は、ここから真っ直ぐに桜を植えて、そして一気に成長させてください」


 生徒会長の沢渡愛菜さわたりあいなが、図面を片手に指示を飛ばしてきた。

 去年の十月の生徒会役員選挙で当選した、新しい生徒会長。

 その一番大切な仕事の一つが、卒業式の取りまとめである。


 今年は、俺がいるから無茶ができると言うことで、かなりの予算を獲得したらしい。


「それでですね、桜の植林はできますが、大きくするのは無理ですよ?」

「え? 魔法使いですよね? プラントコントロールとかで、大きくできるのではないのですか?」

「それは漫画やアニメの世界ですよ」


 実は、プラントコントロールはないけど、植物を大きくすることはできます。

 うちの庭も、それで植えておいた『シャラの樹』を大きくして、目隠しにしたからね。


「そ、そうなの? そこはなんとかできないの?」

「まあ、魔導具を作ればできますが、材料は高いですよ?」

「どれぐらいかしら? 一応、予算はあるから、出すことはできますけど」


 では、カナン魔導商会オープン。

 メニューの魔法薬のページを開いて、以前も購入した『植物成長ポーション』を検索。


『ピッ……『プラントグルース・ポーション』。植物の成長を促進する……一瓶五万五千クルーラ』


 あったあった。

 お気に入りしておけば良かったかな。

 でもさ、こんなギリギリに話をしてくるのも、どうかと思うよね?

 もっと前もって話をしてくれれば、あらかじめこっちでも準備できたよ?

 そう問い詰めたいところだけどさ、実は、何度も何度も祐太郎や新山さんには相談したらしいんだよ、俺が死んでいる時に。

 それで、俺の意識が戻れば、手伝えないこともないが、乙葉君次第だよって話をしてくれてたらしい。

 そりゃあ、俺の耳に届いてから、まだ三日だからね。生き返って三日後に、この大きなイベントですよ。


 間に合って良かったぁ。


「どうかしら? なんとか出来ないの?」

「ちょいと試してみますか……」


 すぐさまプラントグルースポーションを購入。

 空間収納チェストから取り出して、園芸部備品のジョウロで、まだ苗木の桜の木に撒いてみる。


──ジョロロロロロロ……キラキラキラキラッ

 うん、光ってる。

 そして、ゆっくりと大きくなり始めた。

 ここまでは、自宅で実験した時と同じだから、驚くことはない。


「そ、その水って、植物が大きくなるの?」

「まあ、俺が錬金術で作った薬ですから。原材料費で六万円ほど掛かっていますけど、どうしますか?」


 ちなみに、ポーション一本で苗木三本分。

 指定の場所に植えてある桜の苗木は、全部で二十本。あと六本は必要だよね、トータルで四十二万円の計算だけど、どうするの?


「う……ううう……ちょっと待ってて、役員と相談してきますから」

「そうしてくださいな。流石に原材料が掛かるので、無料奉仕はできませんよ」

「わかっているわよ、ちょっと待ってて」


 そのまま生徒会長は、生徒会室までダッシュ‼︎

 俺の元に戻ってきたのは、それから十分後だったよ。


──ダダダダダダッ。

 勢いよく走ってきた生徒会長が、俺の手前で急ブレーキ。

 こっちは寒空の下で作業しているんだよ? まあ耐冷装備と百均カイロであったかいんだけどさ。


「誠にすまない、残念ながら植林にかなりの予算を使ってしまって、乙葉君に支払えるだけの報酬がないのだよ」


 そう説明してから、封筒を一つ、手渡してくる。

 中にはしっかりと六万円、さっきのポーション分の代金だね。


「あ、そうですか、それじゃあ、あと二本分を撒いておしまいにしますけど、正門横の左右に撒いておきますか?」

「そうだね、せめて正門が桜で飾られていたら、さぞかし華やかでいいだろうからね」

「明日咲くかどうかは、桜次第ですけどね……」


 そう説明してから、残り二本分のポーションを撒いておく。

 大体十分程度で、桜の苗木は立派な桜の木に成長したよ。

 ただ、蕾はついたけどさ、寒いのでここが限界。

 このあと雪でも降ってきたら、どうなるかわからない。


「……なぁ、乙葉君……」

「すいませんが、いくら現代の魔術師でも、天候操作系の魔法はありませんからね。俺は諸葛孔明じゃないし、そもそも、そんな儀式があったら三日三晩、祭壇で祈りを捧げないとなりませんからね」


 生徒会長が、何を言いたいのかわかっている。

 天候を操作して、桜を咲かせてくれないか? だろうなぁ。

 その証拠に、生徒会長がガックリと肩を落としている。


「ああ、そうだよな。いくら魔法使いでも、自然をどうこうできるだけの力はないよなぁ、ありがとう」

「いえいえ、それじゃあこれで失礼しますね」


 力なく項垂れている生徒会長をよそに、俺は部室へと戻ることにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「第五百八十六回、明日の先輩の卒業式を、どうやって盛り上げるか会議〜」

「部室に戻った方かと思ったら、いきなり会議かよ」

「え? 乙葉君、何かいいアイデアがあるの?」

「その会議は、送り出される私がいても、問題はないのかな?」


 おおっと、急いで部室に戻ってきたら、しっかりと先輩もいるじゃないですか。

 いや、ロキのようにサプラァ〜イズを狙うつもりはないよ、けど、う〜ん、どうしよう。


「それじゃあ、先輩は聞かなかったことに?」

「どうして最後が、疑問系なのかわからないわね。まあ、部長の引き継ぎは終わったから、今日はそろそろ帰ろうと思っていたから構わないわよ」


 なるほど、納得。

 ちなみに、来年度の魔法研究会の部長は、無事に新山さんで決定しました。

 本来なら、三年になる高遠先輩か美馬先輩が妥当なんだろうけど、ほとんど幽霊部員なので、残ったメンバーで一番の常識人枠、新山さんに自動的に決定しました。


「魔法研究会の部長は、乙葉くんか、築地くんの方がいいと思うんですけど……」

「本能で動く乙葉君くんと築地くんに、部長が務まると思うかしら?」

「「ひどいわ‼︎」」


 思わず祐太郎と叫んだよ、けど、今の一言で新山さんも納得したので仕方ない。

 あとは簡単な挨拶をして、先輩は帰宅。

 ここからが、俺の本気である。


………

……


「それで、どうするの?」

「生徒会の『桜満開作戦』を決行する。プラントグルースポーションは、俺が全部用意するから、新山さんとユータロは、手分けして苗木に注いで欲しい」

「それで、オトヤンはどうするんだ?」

「生活魔法の『火創造』と、力の盾・範囲拡大で温室を作り出す。あとは、桜の蕾が開くように、桜の木に魔力を注いでやるさ」


 正直に言うとだね、俺は今晩は徹夜確定。

 つきっきりで温度管理をして、明日の卒業式が終わって先輩たちが正門から出るタイミングで、桜を満開にしなくてはならない。


「乙葉くん、あまり無理しない方がいいと思うんだけど」

「そう話して、素直に引き下がるオトヤンじゃないよな。何か協力できることはないか?」

「実はある。俺は温度管理で精神集中しているから、ユータロと新山さんは、桜の木を鑑定して、花が咲きそうかどうかを定期的に教えて欲しいんだよ」

「じゃあ、夕方と明日の早朝は新山さんに頼むわ、俺はオトヤンと徹夜するから」

「はい、わかりました」


 まさか、女子に徹夜を強いるようなことはしないさ。俺たちは紳士だからね。

 『テンガロンハットを被った紳士』じゃないからね。


………

……


 魔法研究部顧問の先生の許可は貰った。

 今晩は、俺と祐太郎は徹夜で校舎敷地内に張り込む。

 夜七時までは、新山さんも一緒にいたけれど、ここから先は男の時間だ。


──ブゥゥゥゥゥン

「顕現せよ、力の盾。我が言葉に従い、その姿を変えたまえっ‼︎」


 俺の詠唱の直後、校舎敷地内を、板状に展開した力の盾フォースシールドが覆い始める。

 つまり、力の盾・可変・範囲拡大で四角く壁を形成して覆ったのだよ。

 結界術式が使えたらいいのだけれど、残念ながら、温室を作り出すような結界を作る術式は、まだ作り出していない。

 そして、力の壁フォースウォールという手もあったけどさ、こっちは物理障壁になるので、人が歩くとぶつかるのだよ。

 その点では、力の盾フォースシールドは、物理抵抗をゼロに指定して、熱量だけを確かめることができるから、実に便利である。


「さてと、持続開始……」


 魔導書片手に、正門の中で胡座をかいて座る。

 あとは、簡易温室化した敷地の維持に努めるだけ。

 

「よし、火創造……ブフォッ、二つの魔法の同時制御なんて初めてやるわ」


 目の前、三メートルには、巨大な焚き火を形成。

 しっかりと消火器も用意してあるし、宿直室では、魔法研究部顧問も、緊急時対応のために宿直している。


「オトヤン、右から三本目が、成長が遅いぞ」

「ポーションを半分だけ、掛けておいてくれ」

「了解……」


 そのあたりに熱量を上げるのか。

 温まった空気を、『風制御』で移動させてから、その場で対流させる。

 うん、これは死にそうになる。

 ステータスを確認するとさ、ガリガリとMPが削られていくんだよ。


「オトヤン、正門右のやつが、少し成長が遅くなったぞ、風を頼む」

「オーケィ。ポーションを半分よろしく!」


 次々と、祐太郎の指示通りに風を送り、火力を上げ下げする。

 やがて朝日が登るころ、新山さんが登校してきたので祐太郎は新山さんにバトンタッチ。


「はい、これ、お弁当作ってきたから食べてね」

「ありがたい。正直いって、魔力回復ポーションや魔力飴じゃ、お腹が満足しないんだよ」

「俺はおにぎり一つ貰うわ。ありがとうな」

「うん。あとは任せて」


 もぐもぐとおにぎりを食べつつ、祐太郎は校舎へ。

 そして俺は、最後の調整を開始してから、同じく部室で仮眠を取ることにした。


………

……


──ユッサユッサ

 ん? もう朝ですか?


──ユッサユッサ

 あと五分、お願いだから寝かせてくれ。


──ユッサユッサ

「乙葉君、もう卒業式が始まるよ?」

「フォァッ‼︎ もうそんな時間かよ、俺、何時間寝てた?」

「二時間ちょっとかな? 築地くんは先に教室に向かったよ?」


 なるほど。

 それじゃあ、俺も行きますか。


「よし、教室行く前に、清潔化クリーン……」


──シュゥゥゥゥ

 俺と新山さんに清潔化クリーンを施して、あとは教室に移動、やがて体育館に移動して、卒業式は始まった。

 

………

……


 うん、卒業式については、特筆することはなかったよ。

 せいぜい、HTN放送が中継に来ていてだね、卒業式の模様を夕方のニュースに流してくれるらしい。

 それならと、式が終わってすぐに、俺は走ったさ。

 最後の仕上げのために。


 やがて、卒業生が最後のホームルームを終えて、帰宅する。

 タイミングは、ここ。

 正門外では、テレビ局の中継車も待機していた。


「乙葉君、そろそろ、うちで特番を組んであげるか?」

「お、こ、と、わ、り、しますよ。それじゃあ、いきます‼︎」


 魔導書を展開して、両手で印を組み韻を紡ぐ。


「風よ、炎よ、我に力を。奇跡よおきろ、花よ綻べ」


──ヒュゥゥゥゥ

 熱風が、桜の木を撫でるように流れていく。

 暑すぎない、暖かい風。

 そして卒業生が校舎から出てくる時、桜の花が、一斉に開花した‼︎


 俺の起こした風がたなびき、桜の花が舞い始める。

 校舎から正門までの道、そこに、綺麗に咲き誇った桜並木が生まれたのである。


「うわぁ……」


 それ以上の言葉はないよ。

 これで、先輩を無事に見送ることができたからさ。

 

 三年生の皆さん。

 卒業、おめでとうございます。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


・今回の、わかりづらいネタ

 げんしけん

 三国志

 わたしの記憶が確かなら、一つあるはず。

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― 新着の感想 ―
[一言] 単に熱源を用意するだけなら魔法使わなくてもおっきな焚き火を用意すればいいような。こっそりやるために焚き火の許可を取れなかったなら仕方ないか。
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