第百十一話・博学多才、耳学問じゃ無理(金庫番は、手強かった……)
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雪の進軍氷を踏ふんで〜
何處が河やら 道さへ知しれず〜
馬は斃れる 捨すてゝもおけず‼︎
此處は何處ぞ皆みな敵の國〜♪
儘よ大膽、一服やれば〜
頼み少なすや 煙草が二本〜
俺と祐太郎、そして忍冬師範の三人は、冬の大雪山系・旭岳にやって参りました。
目的地は登山道の途中にある金庫岩、そこが二つ目の退魔法具の封印されてある場所らしいのです。
「……それにしても、浩介はなんだって、そんな古い歌を知っているんだ?」
「ガルパンの挿入歌?」
「なんで疑問系なんだかよくわからんが、祐太郎、そのガルパンってのはどんなアニメなんだ?」
「女子高生が戦車で戦う『戦車道』っていうのがあってですね、高校選抜のように戦う競技戦車戦って覚えておくと良いですよ」
「あとは聖地・大洗。一度でいいから行ってみたいよなぁ」
昔から、北海道から大洗なんてフェリー一発で行けたけどさ、今の俺は魔法の箒ですすいっと飛んでいけるんだよなぁ。
「ふぅむ。今のアニメはよくわからんなぁ。それよりも、浩介たちの魔法の箒こそ、レースとかで使えたら面白くなるとは思わないか?」
「俺しか作れないのに? それこそ魔族で錬金術が使える人を探し出して企業誘致した方がいいと思うけど?」
「折角、妖魔と人間の共存が始まったのに、その辺りにテコ入れしないでなんで俺の魔法ばっかりに目を向けるのかよくわからん」
そうは言ったものの、まだまだ人間と妖魔の垣根って越えずらいそうなんだよなぁ。
でもさ、普通に人間として生活している魔族だっているんだから、要は信頼度の問題だと思うのよ。
そんなこんなで、登山道を魔法の箒でのんびりと飛んでいく。
俺は忍冬師範を乗せる必要があるので、急遽『魔法の絨毯』を作って2人乗り、祐太郎はソロで箒で飛んでいく。
まあ、冬山登山とは言うものの、実質は空飛んで移動しているのでそんなに時間がかかるものではなく、昼前には雪化粧されて真っ白な金庫岩に到着しました。
「……これが、二つ目の退魔法具の封印場所か」
「らしいね。まあ、情報通りだとここだけど、場所の情報しかなかったから何が封印されているのか知らないんだけどね」
「こ、浩介、瀬川さんの深淵の書庫で調べてないのか?」
「忍冬師匠、それは無理っすよ。先輩の深淵の書庫でも、ここまで長距離な調査は無理です。何よりも、接点がありませんから」
先輩がここを調べる場合は、直接この場で深淵の書庫を発動しないと無理。
俺たちはルーンブレスレットがあるので、状況を念話で飛ばしてサポートして貰えるけどね。
「そんじゃ、調べますか‼︎」
忍冬師範が居るのでいつものGogglesゴーの掛け声なしで換装。
隣の祐太郎もGogglesと魔導闘を換装して装備し周辺警戒を始めると、忍冬師範もそれに倣って周囲を警戒する。
『ピッピッ……金庫岩、内部に転送術式が存在します。岩肌に偽装した結界術式あり。接触して魔力を注ぐことで偽装は解除され、内部に侵入することが可能』
ん〜。
鑑定の性能上がってないかな?
前よりもいい仕事するし、このままだと大賢者とかに進化しないかなぁ。
まあ、金庫岩に近寄って、対象の偽装部分をコンコンと軽く叩いてみる。
「祐太郎、ここの部分が術式結界になってるわ。開けたら、内部に転送術式があるがどうする?」
「浩介、それは本当か?」
「オトヤン、ゴーだ‼︎」
「応」
師範は確認のために問いかけたけど、祐太郎は俺の言葉を信じている。
師範、その差が、一手損になる事もあるんだよ。
すぐさま魔力を注いで結界術式を解除すると、丁度岩に十文字の亀裂が走っていてね、そのあたりに真っ暗な空間がぽっかりと開いた。
「なーるほど、魔力反応型?」
「そうらしいよ。そこの転移術式で移動するみたいだけど、いくか?」
「待て待て、いきなり結界は開放するわ、中に入る算段は始めるわ、もっと慎重にならなくて良いのか?」
「……俺たちの場合は、これでもかなり慎重なんですよ? 本当に危険ならオトヤンが先に対処しますから」
「そ、そうなのか?」
「この程度でビビっていたら、白桃姫なんかとまともに話なんてできませんって……それじゃあレッツゴー」
なんとか忍冬師範を説得して、真っ暗な空間によじ登って突入。
中はまるで空洞のようになっていたけど、実はこれ、空間結界の内部なんだよね。
魔力に反応して出入り口ができるって、かなり高度な術式なんだよ、鑑定してメモ取っておこうっと。
そして暗闇の中に巨大魔法陣。
直径5mほどの魔法陣がこんなところにある時点で、空間が違うことは理解できる。
祐太郎もそれを察知して周囲を闘気感知しているみたいだけど、何もなくて今はウルトラリラックス。
にっちもさっちもどっちもこっちも混乱しているのが忍冬師範。
「……俺が今まで第六課で見聞きしたもの全てが否定されている感じだな。いくら対妖魔実戦経験ありとはいえ、ここまでの遺跡調査などはしてこなかったからな」
「そういうのは陰陽府の仕事なのですよね? それを潰して自分たちで遺跡からの発掘品の利権を貪っている輩がいたんでしょ?」
これは予測。
でも、恐らくは真実。
まあ、俺たちはアーカム所属のエージェントじゃないから、遺跡に納められている魔導具や遺跡の秘密になんて興味はないけどさ。
まてまて、アーカム?
これって魔導神アーカムと関係している?
それともあれか? ミスカトニック大学の所在地もアーカムだよな?
何か因縁でもあるのかも知れないなぁ。
「浩介の言う事もあり得るな。第六課は調査機関としてももう少し活動の幅を広げた方がいいのかもしれないか」
「そっちはお任せしますよ。さてと、鑑定……」
まずは魔法陣の解析。
ここからどこに移動するのか、それが知りたい。
『ピッピッ……積層空間移動術式、これにより、知識の間と外界を行き来することができる』
ほう。
そうきましたか。
「ユータロ、ここから次の部屋に移動できるが、どうする?」
「起動条件は?」
「ちょい待ち……あ、俺が起動用魔力を注いだら、魔法陣の上の人は全て移動するみたいだな」
「そんじゃ、行きますか」
「待て待て、移動先の安全は確保できているのか?」
さあ?
少なくとも、俺たちは魔導装備を装着しているし、忍冬師範だって俺の作ったレザーアーマー付けているよね?
「移動先のことなんて分かりませんよ。多分、誰も行った事ないんじゃないですか?」
「そんな所にいきなり行くのか? ここは魔法陣の解析を行なって、安全かどうかを調べるのか先決じゃ無いのか?」
「そんな悠長な事していられませんよ。俺たちは、ここにハイキングに来たんじゃないですからね」
「ユータロの言う通り。そんじゃ起動‼︎」
「待てぇぇぇ‼︎」
──ブゥン
ほら、一瞬だ。
一瞬の浮遊感の直後、先程の部屋と全く同じ部屋に出た。
「浩介‼︎」
「あ〜、忍冬師範、これが俺たちのやり方なんですよ。慎重に行くときは行きますが、さっきの部屋なんて、誰が解析できますか? それにかかる時間は? 新山さんの命の保証は?」
「……分かった。だが、やるなら一言告げてからにしてくれ」
俺の言い分が分かってもらえたようで。
いや、忍冬師範の言い分も理解しているさ、でもそれは状況によって変化するよね。
その変化のタイミングが今なんだよ?
ほら、祐太郎がファイティングポーズを取っているでしょ?
部屋の奥からとんでもない妖気を感じるんだよ。
「……人間か。随分と久しく見かけなかったな。貴様らも、ここに封じられている五芒星結界宝珠を求めてきたのか?」
「そうだ。それを寄越してほしい」
「んんん? 人間にしては珍しいな。いきなり攻撃したりせず、話し合いをしようとするか。まあ、我も戦闘よりも話し合いの方が好きじゃからな」
暗闇の奥から聞こえる声。
それがのっしのっしと歩いてきた。
身長は3mほど?
二足歩行の、着物を身に纏った侍スタイルのアマガエルが、俺たちの前にやって来た。
「お、オトヤン……どうする?」
「話し相手になろうじゃないか。俺たちは、さっきの話に出て来た退魔法具が欲しい。どうすればそれをもらえる?」
威風堂々と、腹を割って話をしようじゃないか。
「それじゃあ、ちょっと待ってろ」
そう告げて、カエル侍は暗闇に戻っていく。
そして俺たちの後ろでは、忍冬師範が真面目な顔で身構えている。
「祐太郎、浩介、あの蛙の言葉を信用するのか?」
「寧ろ、信用しないと言う意味が分かりませんが。妖魔との共存だって前にも話していたでしょ?」
「そ、そうだな……興味よりも恐怖心が前に出てしまったか」
スッと構えを解くと、忍冬師範は改めて周りを見渡し始めた。
俺はと言うと、またもや足元の魔法陣の解析とメモ。どこで何が出るかわからないからね。
その間も、祐太郎は暗闇の向こうに向かって警戒を続けている。
──のっしのっし
やがてカエル侍さんは、一枚の石板を持って来た。
「はい、これは宿題な。これを全て解答してこい、そうすれば再びこの地にやってくることができるし、ここの奥に封じてある退魔法具から好きなものを一つ持っていってよし」
「え? ここって五芒星結界宝珠以外にもあるの?」
「ここは金庫だ。大切な退魔法具を保管するためにある。わしは、ここの金庫番でしかないからな」
「……あの、お名前は『森川君2号』とか言いませんよね?」
「誰だそれは?」
うん、緊張感を解そうとしただけだから。
俺が悪かったよ。
「ま、まあ、これに解答できればいいのですよね? それって今すぐ?」
「宿題と話したはずだが? ここにずっといられても迷惑だ、一度持って帰るが良い」
「だってさ師匠。俺たちはこれでかえるけど、まだ師匠はここに用事がありますか?」
「彼が金庫番で、大量の退魔法具を保管しているのなら、俺にも退魔法具を手に入れるためのチャンスがほしい」
そう忍冬師範が告げると、カエル侍は一度奥に戻り、また石板を持ってきた。
「石板一枚につき一つ。これはお前の問題だ、お前が考えて解答するがいい。そちらはお前たち用だ、友と頭を付き合わせて答えても構わぬが、与えられる退魔法具は一つだ。では、さらば‼︎」
──グニヤァァォァ
あ、空間が歪む。
これはあれだ、転移術式による強制転移だね。
そして歪んだ空間が元に戻ったとき、俺たち三人は金庫岩の正面に立っていた。
俺が開けた空間も閉じて岩肌に戻っている。
「……思わぬ事態だなぁ、オトヤン、一度帰るか」
「そうだな。忍冬師範もそれで良いですよね?」
「ああ.…」
狐につままれたような表情で、忍冬師範は頷いていた。まあ、そうなるよね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日、日曜日。
俺は昼から祐太郎の家へ。
午前中は魔術研究会一同で新山さんのお見舞いをしてから、祐太郎の家で石板の解析を行うことにしたんだよ。
因みにだけど、忍冬師範は石板の文字が読めずに苦労しているようですが、そこは俺は知らん。
正確には、チラッと師範の石板を見たとき、権利者以外の解析を禁ずるって注意書きがあったんだよ。
「それでこれが問題の石板ですか」
「いえーす。俺たちには普通に読めるよね? だから今日はこの宿題をクリアしようと思います」
「問題は……これか」
…………
●その一
長くたなびく明けの明星、魔力溢れて辰星は歳星と交わる
●そのニ
右の腕に魔術、左の腕に闘気を合わせるべし
●その三
全ての丘を合わせ、辰星に向かいで広げよ。
さすれば望むものが与えられん
…………
「え? これだけ?」
石板に記された文字は、恐らくは日本語。
但し、とんでも無く古い文字らしく、言語学者でなくてはこれを解読することはできないだろう。
って言うか、神代文字だよこれ、ヲシテ文字だよ。
今でこそ解析されているけど、一昔前はかなり頭を悩ませていたからなぁ。
しかも、ヲシテ文字三つで意味不明の単語を形成して、それが一つの言葉の意味を表すなんて分かるかぁぁぁ。
自動翻訳のアビリティが無かったら分からんわ。
俺の自動翻訳アビリティをコピーしてルーンブレスレットに組み込んであるけどさ、コピーは劣化版として扱われているのか先輩と祐太郎には理解できなかったよ。
だから、俺が一つずつ解析して紙に書き直したよ。
「先輩、これって分かりますか?」
「どうでしょう? 試しに深淵の書庫で解析……え?」
先輩が深淵の書庫を起動したけど、立体魔法陣全てが真っ赤に点滅した。
「嘘……深淵の書庫が解析を拒否しているなんて……」
「う〜ん。神代文字の解読の問題? いや、これって神様が残した何かなんじゃ?」
「オトヤンの話が正解だと仮定すると、自力でこれを解析しろって言うのか……俺たちは三人よれば文殊の知恵だけど、師匠は地獄だろうなぁ」
そりゃそうだよ、忍冬師範は普通の人なんだから。
「このまま頭を突き合わせても、何も解答が出てこないようだし。インターネットで単語なり何なり調べてみますか」
祐太郎がパソコンを起動して調べるらしいから、俺はスマホで調査開始。
先輩の深淵の書庫は、単語とかなら普通にネットに接続して調べられるみたいであるから、そのまま調査を続行することにした。
石板を直接じゃなかったら問題ないようだけど、それってさ、石板自体にも意味があるんじゃないかなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
頭が痛くなる。
先日、祐太郎と浩介の護衛として大雪山系に行って来たのだが、あいつらはいつもあんな事をしていたのか?
俺たち第六課の退魔官は、様々な伝承や妖魔について学んできた。
にも関わらず、先日の体験は俺の想像を絶するものであった。
休日を使い、個人での護衛ということで報告義務はないのだが、これは第六課だけでも情報を共有した方が良いのではないか?
「それにしても……なんだこれは?」
あの金庫番から受け取った石板。
ここに記されている文字自体は秀真文字、ここまでは良い。
それを日本語に直すと、言葉になっていない。
ミカサフミ、ホツマツタヱ、フトマニ、全て学んできたにも関わらず、全くわからない。
これは祝詞なのか?
これを唱えたら何か起こるのか?
宿題の意味とは?
そもそも、なんでカエルが金庫番?
考えてみたら、何もかもおかしい。
いや、妖魔の存在が表に現れ、その共存のために活動するのが第六課。
そこに所属する退魔官の俺が、こんなところでつまづくわけにはいかない。
誰か、せめて何が書いているのか教えてくれ。
クイズでもパズルでもない、そもそもその領域にさえ辿り着いていないんだぞ?
「よし、パトロールに出るか」
頭が疲れたら、気分を変えるに限る。
明日には、きっと何かヒントがあるに違いない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
少しだけ時間は戻る。
大雪山系・金庫岩前。
乙葉浩介たちが金庫の番人から石板を受け取り、札幌へと飛んで行った30分後。
──シュゥゥゥゥ
金庫岩の上空から、ゆっくりと魔法の箒が降りてくる。
「乙葉にスパイをつけておいて正解だったわ。まさか、こんなところに魔導遺物品が集められていたとはなぁ」
周囲を飛んでいる小さな鳩型妖魔・飛泉凰牙は主人であるジェラールの元に舞い降りると、再び空高く飛び上がった。
そしてジェラールも、岩にある十字の亀裂に手を当てると、結魔界を解除して内部へと侵入していく。
その20分後、一枚の石板を携えてジェラールは金庫岩の前に転移してくると、魔法の箒に跨って札幌へと帰還することにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・本文頭に記載されている『雪の進軍』については、著作者である永井建子さんの権利についてはJASRACでも著作権は消失しております。
この場を借りて、永井建子さんに感謝の意を捧げます。
・今回のわかりづらいネタ
頑張れ森●君2号
ガール○&パンツァー




