第百三話・博聞強記は孟母の教え(修行ですか?)
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妖魔に襲われて崖からバスが転落した。
俺と祐太郎、新山さんの活躍で何事もなく無事に戻ってくることもできましたし、1日だけだけど羽を伸ばすこともできて万々歳だったよ。
もっとも、上級生である瀬川先輩は受験を控えているため、スキー学習は希望者のみの参加だったらしく、3年生全体でもバス一台だけ。
そのおかげで、治療した怪我人を運ぶスペースが確保できたので、結果オーライと言うところです。
……
…
「それでですね、先輩がフルバーストで受験勉強をしているのは何故でしょうか?」
いつもの部活時間。
俺たちが部室に着いたら、既に瀬川先輩が深淵の書庫を発動して篭っておられました。
「本当なら、私は高校を卒業したら父の会社に就職する予定だったのだけど。年末に母の体も健康になったので、父の業務の一部を母が受け持つことになったのですよ」
ほほう。
それはいいことです。
「と言う事は、お母さんが会社に就職するのですか?」
「いいえ、元々会社には在籍していたのですよ。父の秘書として働いていたから、そのまま父の跡を継いで代表取締役を務める事になるらしいわ。その結果、私は会社に入らなくて良くなってね」
「それは重畳。という事は、今から大学受験ですか?」
願書締め切りはとっくに終わってるし。
どうするのだろう?
「それで急遽、大学受験に切り替えたのよ。幸いな事に、願書は出してあったのでね」
詳しく聞くと、実は先輩としても大学は受けたかったらしく、昨年の9月にはしっかりと願書は提出してあったらしい。
そしてつい先週が試験だったらしいけど、本命である北海道大学の前期日程試験は2月。
そこをなんとか突破したいらしい。
それで深淵の書庫をフルパワーで使用し、いつの間にか習得した並列思考で頭の中に叩き込んでいるらしい。
これはまた、大変な事になっているようで。
「因みにだけど、今年のうちの高校の倍率は5.2倍ですからね」
「なんだってぇ? 例年なら1.3とか1.5ぐらいなのに、なんで今年はそんなに高いのですか?」
「あ〜、オトヤン、予想だが、俺たちのせいかも知れないな」
え? どう言う事?
「築地君が正解ね。我が北広島西高等学校には、『現代の魔術師』『闘気使い』『治癒師』の三人が揃っているのよ? 一部企業や大学、研究機関では、貴方たちが高校卒業後にどうするのか今から監視しているような状態なのですからね?」
それで、俺たちに近づけば、ひょっとしたら魔法が覚えられるかもって言う輩が集まっているらしい。
「とある大学なんて、新しく『魔法学科』を新設したらどうかって話にもなっているらしいのよ。第六課にもその話は来ててね、魔法を教えられる講師を派遣して欲しいって言う要望まで来てますから」
「うわぁ、めんどくさいわぁ……」
「俺は将来は親父の跡を継ぐから、別にどこにいっても構わないけどな。できれば、オトヤンとは一緒の方がいい」
──ブホッ‼︎
あ、深淵の書庫の中で、瀬川先輩が鼻血吹き出して卒倒した。
先輩、祐太郎の言葉はそういう意味じゃないからね、魔法使いとしての活動関係だからね?
「私は……どうしようかなぁ」
「新山さんは、将来は何かなりたいものはないの?」
「え……ええっと、小説家になりたかったのですけど、どうしようかなぁ」
新山さんも、去年の一学期まではネットの小説投稿サイトに何本かアップしていたらしい。
人気の程については、まあまあだったらしい。
「オトヤンはどうするんだ? 二年になったら進路は考えておいたほうがいいが」
「ん〜。俺の進路かぁ。魔術師を極めたいけど、いつ、この力がなくなるかわからないからなぁ」
「無くなる事前提に考えるのもありだし、無くならないことを前提に魔術師としての仕事を探すのもアリだと思うぞ?」
まあ、それも考えたよ。
乙葉魔導商店とか言う名前で、俺の作った魔導具を売るお店。
海外の通販とかで売っているパチモノじゃない、本物だよ?
そう考えても見たけれど、今はまずやらなきゃならんことがあるので、それを優先したいところではある。
「いや、今はそこまで考えられないわ。妖魔特区の件もあるし、何より転移門をなんとかしないとならない」
「それをどうにかするのは、本当なら特戦自衛隊や第六課なんだろうけど、そこに任せて良いかと考えると、腕を組んで考えてしまうな」
祐太郎も俺と同じ意見。
そして、要先生が渋い顔をしているのに気がつく。
「私たちとしても、どうにかしたいという気持ちはあるのよ? けれど、陰陽府の解体以降は、術師育成のための予算も何もかも消滅したのですから」
「要先生を責める気はありませんよ。寧ろ、野党政権時代に、陰陽府を解体した奴らに頭を下げろって言いたいところです」
「そこな。今は陰陽府は政府組織として認められているのですか?」
「いえ。民間の非営利団体扱いよ。そのために国からの補助も何もないわ」
うわぁ、最悪だわ。
いくら妖魔退治と魔術師育成可能な機関であっても、予算がなければ何もできはしない。
そこがわかっているからなのか、野党は陰陽府の内閣府再登録を認めないらしい。
そこでも利権争いしたいのかよ。
「……それで結局は、俺たち民間の、それも子供に頼るのはどうかと思いますけど」
「そこなのよ。井川巡査部長の元に集まった魔術師候補生はいますけど、魔力回路がそもそも開かないのです。私に行ったように、新山さんの魔力を流して貰ったら、あるいは可能性があるのではないかしら?」
そうだなぁ……あれ?
思わず俺と祐太郎、新山さんはお互いの顔を見て真っ青になったぞ?
バス事故の時、隣のクラスの生徒全員が、新山さんの魔力を受け取っているんだよ。
新山さんは、診断、軽治療、中治療強治療、状態回復、肉体再生……数えるだけでもかなりの魔法を行使している。
恐らくだけど、何人かは魔力回路が開いているんじゃないか?
そしてそれがバレると、自ずと新山さんから魔力を受け取った人たちが覚醒を始めたってバレるじゃないか。
「やっべ、暫くは魔力感知球は使用不可にしておこう。この件は、ここだけの話にしてください」
「はぁ……立場上なら、将来も見据えた形で、第六課で魔術訓練を受けてもらいたいところなんですけど」
「そうなると、新山さんに負荷が集まるでしょ? 何卒よろしく」
俺と祐太郎!新山さんが頭を下げると、要先生はため息をついて一言。
「はぁ……分かりました。この件の話はここだけのこととしておきます。けど、いつまでも隠し切れないことだけは理解してくださいね」
「「「「 はいっ‼︎ 」」」」
この件の話はここでおしまい。
俺や新山さんの進路のことなど、全て忘れて話をしていたからなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
痣が少し残ってる。
鏡で後ろ姿を確認しただけだけれど、この前のバス事故の時に付いたらしい打ち身の跡が残っちゃった。
ステータスの確認をしてみたけれど、魔障中毒の反応もないし、ただの打ち身って言う表示が出ているから、もう少し様子を見る事にしましょう。
「痕が残らなければ良いんだけれど……」
別に、人に見せるわけでもないし、人に見せられる場所でもないから。
うん、数日様子を見てから、もしも残っていたら瀬川先輩に相談する事にしましょう。
先輩の深淵の書庫なら、鑑定スキルよりも強力な解析ができると思うから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「それで、退魔法具の回収にはいつ向かうのだ?」
いつものように、喫茶・九曜裏にあるマスター羅睺の道場で。
これまたいつものように祐太郎と俺は訓練に励んでいたのだが。
今日は、マスター羅睺の雰囲気が違う。
いつものような厳しさと優しさの相乗効果ではなく、淡々と俺を諭すかのように話をしている。
「近いうちに行きたいと思います。流石に羅刹相手に正面から向かうのは無謀なので、今は耐性コントロールを身につけているところです」
──シュンッ
全身に魔力を纏い、相手の魔力を中和するフィールドを形成する。
指輪による耐性ではなく、巫術書に記されていた『耐性変化術式』によるものである。
「ふん。そこそこに出来るようにはなったが、自分なりの答えは出たのか?」
「ジャンケンに勝つのではなく、あいこで勝負をかけます」
「あいこで勝負? あいこなら引き分けじゃないかな?」
そう告げる羅睺に向けて、静かに両拳を握って構える。
体には『魔力中和術式』を纏い、マスター羅睺相手に静かに構えている。
その俺の動きに気がついたのか、羅睺が右手に炎を生み出して俺に向かって打ち出してくる。
──シュン……
だが、炎は俺の体に直撃する直前、静かに消滅した。
魔力中和術式により、羅睺の生み出した炎が消滅しただけである。
「魔力には魔力か。では、闘気に対しては?」
──ダン‼︎
後ろで訓練していた祐太郎とチャンドラが、拳に闘気を集めて殴ってくる。
それなら、今度は両腕の魔力を闘気に術式変換して『闘気中和術式』を展開し、左右それぞれの腕で二人の攻撃を受け流した。
──ゴウッ‼︎
すると、二人が纏っていた闘気は消滅し、腕にかかる打撃ダメージは『打撃耐性』により軽減される。それでも慣性までは止めることができないので、後方に吹き飛ばされる形になる。
「マジか。今の闘気は、チャンドラ師匠でも引くレベルだぞ?」
「初戦時の俺の闘気功と同じ練度を、一瞬で消滅させるとはな…」
「でしょでしょ? 発動ポイントを腕を含む四肢に限定することで体の反作用も軽減できたし、それぞれの術式の強度を高めることもできたんだ」
「「 まじか 」」
うむ。
伊達にマスター羅睺から学んではいないのだよ?
「俺の経絡は魔力回路だから闘気は流せないけど、術式変換で局部に闘気を発生させることができたからね。けど、全身に纏うとなると上手くコントロールできなかったから、こう言う方向でゴールは見えたんだけどさ」
──シュゥゥゥゥゥ
右腕には『魔力中和術式』、左腕には『闘気中和術式』を発動する。
これで状況に応じて受け止める腕を変えれば良い。
「ほほう……大したものじゃな。そこまで人間は強くなれるのか。それで、妖力は?」
「無い。妖力で攻撃する相手と戦えてないから、サンプルが無い。つまり研究するにも開発するにも何をどうして良いかわからないんだよ」
肝心なところはここ。
そしてもう一つ、こっちは致命的な欠陥。
「それは問題があるなぁ」
「あと、俺の作った『対妖魔結界』や『魔除けのネックレス』は、それをつけている限りは俺も相手に対して何もできなくなるんだよ。しかも、俺が魔力を練り上げるとさ、二つとも魔導具としての効果が一時的に消滅してしまってさぁ」
ここ、これが問題点。
対妖魔結界、魔除けのネックレス共に、所有者が外に向かって魔力・闘気を放出すると効果が消滅する。
そして一度消滅すると、再起動には半日ほど掛かるし、上級妖魔相手だと効果は半減どころが一撃を防げたら御の字というデータが出た。
トドメは俺自身の魔力量。
俺が魔力を放出すると、二つの魔導具は停止する。
これは瀬川先輩に協力して貰って、俺の作った魔導具の性能限界を調査した結果なので、うちのメンバー全員には通達してある。
対策としては、魔導具にもスイッチのようなものを追加設定したので、当面はこれで様子見をするしかない。
特に、新山さんは神聖魔法を使う時は、ネックレスを止めないとならないらしい。
そこを狙われると危険なんだけどなぁ。
「魔導具を開発できる浩介でも、まだまだ勉強不足と言うところか」
「そうなんですよ。それで、俺はこのまま魔導具開発を生業にしてみようかとも思ったんですけど、この力がいつ失われるか心配でして……」
「ほう。わしの知る限りでは、魔術師の力の消失とはそうそう起こるものでは無い。魔力回路が完全に破壊されたとしても、それは長い時間はかかるが再生されるからな」
え? そうなの?
でも、漫画やラノベじゃよくあるよね?
主人公が敵の力で魔術が使えなくなったり、錬金術が使えなくなるやつ。
「それは魔力封じのことだろ? 羅睺、試しに浩介に魔力封じを仕掛けてやれ。それで理解できるはずだ」
「そうじゃなぁ。どれ、ちょいとやってやろうか」
「待って、冗談だよね? いきなりそんなぁぉお」
──ドシュッ
マスター羅睺が一歩踏み出し、俺の腹部に掌底を浴びせてくる。
その瞬間に、俺の体内の魔力回路が乱れた感じがする。
「これが魔力封じじゃが、どれぐらい封じられた?」
「ちょっと待ってください、今確認します」
確認すると、『魔力1820』が『魔力910』に、『MP24000』が『MP12000』に変化していた。
しかも、この効果は2時間は持続するらしい。
「大体半分って所ですね。今の俺の魔力値が910ですから」
「それでも上級魔族の5倍程度はあるか。浩介相手には、魔力封じは効果がないのと同じじゃな」
呆れたような声で呟くマスター羅睺。
兎にも角にも、俺相手には魔力封じはあまり良い手では無いらしいし、俺自身の魔力が自然消失する可能性も、人間の寿命程度なら完全に消滅することはないらしい。
よし、これで将来設計ができるようになったぞ‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




