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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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託された記憶

「そういえば、お父さん達の世界では私の名前は誰が決めてくれたの?」


「モニカちゃんと関わりがあったかわからないけど、リリーさんですよ」


「リリーさん。私自身はあまり関わりはなかったですが、ラタンさんを見つけたと連絡をくれたのはその方でした」


 既に分岐点は越えてしまっているが、僕が知らない情報を聞いて損はないだろう。3人で話を続ける。


 ラタン姉はモニカを僕達へ託して失踪……彼女なりに僕達と娘の幸せを望んでしたことなのだろうが、相談なく独りよがりの考えになってしまっていた為に裏目であった。こちらの僕とてMAP機能も使っただろうに僕達から隠れ切ったのはイブキさんのように彼女自身にとっても苦渋の決断であり心も擦り切れていたのだろうな。


 リリーさんといえば、そういえば敵対派閥として先に始末をしたと言っていたから彼女はフネイ達とは別勢力なのだろう。フネイと戦うのであれば頼るのも一つの手だろうか?ただ、見つけた連絡をくれたのは元から知っていたのか、善意からなのかがわからない。敵の敵とはいえ、味方であるかは別なので期待はあまりしない方が良いかもしれない。


「娘のあなたにに聞くのもどうかと思うけど、私とキルヴィ様が離婚した時の様子を聞かせてくれないかな」


 離婚のことがどうしても気になったのかスズちゃんがそう尋ねる。僕自身も負けた際どういう経緯となるかは気になるところだ。


「特に子どもとか授からなかったかを詳しく」


「ええと。2人は結婚こそしてましたが、まだ子どもだからとまわりに子作りは反対されていましたし私やラタンさんの対応に追われていたので、その、そういう行為はしなかったとお母さんが言っていました」


 思っていたのとは違った。いや違わないのか?行為自体なかったというのはスズちゃんにとってはすごく重要な事だったらしく、お腹の辺りをさすりながら辛そうな顔をしていた。不調なのだから、あまり無理はしないで欲しい。


「お父さんがフネイに膝を折ってからしばらくの間、私達元家族はお父さんとの接近を許されずスフェンの町でグリムのメンバーと共に日々の仕事をこなす事になりました。少し経つとシラーさんからスズお母さん宛に手紙が送られてきて、謝罪とせめてもの面会の機会を私が同席という条件で設けますと伝えられました」


 謝罪という事はシラーというのは僕と結婚する事となったフネイの娘か。先入観から嫌な人物像を作っていたが、果たしてどうなのか聞いてみる。


「あの人自身は悪い人ではなかったですよ。スズお母さんや私の事を気にかけてくださって。ただ生まれもって身体が弱く、お父さんとの子どもを産んだ後、肥立が悪く亡くなってしまいましたが」


「キルヴィ様?」


 他に子どもと聞いてスズちゃんにジトりと睨まれるが、僕であって僕でないのだから責任はないと思うんだ、服従させられていたから自分の意思ではないんだろうし。


 しかし、結婚し子を成したとしても出産後に亡くなってしまうとは……身体が弱いとわかっていたなら妊娠を避けた方が良かっただろうにそこまでの覚悟をして子を成したいものなのだろうか。


「彼女自身、可哀想な経歴でしたから。イレーナ家での長女ではありましたが家中での彼女の立ち位置は弱く、家の復興の為の後継ぎを早く成せと罵られてきたと面会した時にお腹をさすりながらこぼしていました」


 家の為の後継ぎ、貴族のしきたり、か。フネイの事は嫌いだが、命をかけてでも家の為に尽くしたというシラーさんには一度しっかりと会ってみたくなった。スズちゃんやラタン姉がいるなら命の灯火と解呪との合わせ技で体調改善も可能かもしれないし。


「待ってください、シラーさんが亡くなったという事はその子どもはどうなったんですか?」


 ハッとした顔でスズちゃんが聞くと、モニカは首を静かに振った。


「産まれたのが男であったため、フネイが後継者として育てると言ってすぐに取り上げられてしまいました。恐らくお父さんが暴走した時にフネイもろとも……」


 何度目かわからないが言葉が出ない。実の娘の安否よりも男子を取ることも、自分が暴走して子を手をかけてしまったことも。こんなにも救われない話があるだろうか。


「……名前の支配の魔法は誰の手によるものでしたか?」


 唐突にそれまでの話を遮って、スズちゃんがモニカへと訪ねる。モニカは少し考えて、頭が窪んだ、しわがれた老人の姿をしていたと回答をした。


「ではキルヴィ様、今回の対決の勝利目標の一つとしてシラーさんをイレーナ家から攫うことにしましょうか」


 さも当然のようにそう決められた。モニカが「お母さん、それでいいの?いい人とはいえ、お父さんを奪った人なんだよ?」と心配そうに聞くが、こういう時のスズちゃんは大抵頑固だ。わかったと返事をする。


「もっとも、本人が望まないなら攫わないからね」


「ええ、それで構いません。きっと手を取ってくれると信じていますが」


 話は次に移る。名前の支配の魔法の使い手は老人だったということだが、ラタン姉が防ぎ方を考えなければ同じ事になりかねない。それに、魔力糸による支配をしている人物と同一視して大丈夫なのかという点もある。そこでふと疑問が浮かんだ。


「モニカが偽装名やミドルネームを使うようになったタイミングっていつから?」


「本名を貰った時からですよ。お父さんがそう言い出したんです」


 何かがおかしい。支配されてしまったラタン姉に会っているならまだしも、その時点では名前による支配は知り得ない筈なのだ。他に何か言っていなかったか掘り下げる。


「うーん、恥ずかしながら名前をもらえる事に浮かれてしまって……記憶を託すとか言っていた気もしますが別に何かされた訳じゃなくて」


 記憶を託す。恐らくだが、それはモニカではなく観測者、僕を認識しての発言じゃないだろうか。かつて夢とも現実ともいえない白い空間でウルと話した僕のユニークスキルであるMAP機能の隠された秘密を、ここの僕はより深く知っていたのではないだろうか?記憶、恐らくはこれにヒントがあるのだろう。


 そんなことを考えていると、スズちゃんは他の人がどうなったかを名前をあげながら聞いていた。


 クロムはグリムの実行部隊として指揮をとり、僕の手が届かない戦後処理などを行っていたそうだ。ただ、件数があまりにも多く、かつそれぞれの距離が大きく離れていた為にセラーノさん達とも手分けしていたそうだ。僕と纏まって行動していたなら敵意などに敏感だったであろうが、僕は次から次へと行ってしまうため、その後に起きた民間人の憎しみによる敵意を認識できなかったらしい。メンバーの弱いものからゲリラ的な攻撃に遭って死んでいったという。そうならないようにと付けた、泣くのはこれっきりという意味の名はついぞ守られなかった。


「各国の抵抗は?オスロやそれに近い猛者がいたなら苦戦した筈だよね?」


「お父さんがしたのは超電撃戦だったから、各国は連携のとりようがなかった。それと、オスロさんはノーラ首長国に戻れなかったそうです」


 オスロが国に戻れなかったってどういう事だ?


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