5年後の世界は
死んでゆく世界。僕達の元の時間からたった5年経つまでの間に、いったい何があったというのか。
そんなのは嘘だ、と否定したかった。でも目の前のモニカさんが僕達に嘘をついているようにはどうしても見えなかった。
「……時間が許すなら詳しく聞かせてモニカさん。まずここはどこで、私達が召喚されるまでの約5年の間に何があったのか」
真っ直ぐとモニカさんの目を見つめるスズちゃんの言葉に彼女は苦笑する。
「さっきもですが、お二人とも私の言葉を微塵も疑わないのですね。他人事ながら、ちょっと危機感を覚えてしまうくらいに。さて、どこから話したものやら」
「縁あって呼ばれたんですもの、他人事なんて悲しい事を言わないでほしいかなって。じゃあ質問するね、あなたはどうしてそんな世界になんの目的があって私達2人が呼ばれたのかは知っている?」
召喚を行ったと思われる本人は僕の目の前で跡形もなく崩れ去ってしまった。間に合わなかったと発言をした事から、どういう間柄であれ召喚した人のことをモニカさんは知っている筈だ。
「実のところ、召喚の目的はお二人が来た時点で達成しているのです。召喚者はかつてのお二人と話をしたかった。本来であれば私と2人で召喚を行う予定でした」
モニカさんは辛さからか、質問したスズちゃんの方を見て胸を抑えながら続ける。
「本来、時間超越する召喚は負荷が大きい。それは代償として魂を削る行いなのです。元々多い人数で行う魔法らしく、20人以上の適正人数で数週間の時間をかけて行えば分散されて一人当たりの負荷は多くありません」
しかし、と彼女は続ける。
「少人数、それも明日があるかもわからないとなると短期間で行う必要がありました。協力者も集めれず、2人でやったとて寿命が数年ほどに、1人で行えば確実に死ぬというのは召喚者も私も前もって分かっていました」
目の前で崩れていった人の事を思い出す。あの人は自分が話す権利を捨ててまでモニカさんに負担を負わせないように代償を、自分の全てを投げ打ってでも召喚をしたのだ。並大抵の覚悟ではない。
「そう、なんですね。貴女から見てその、彼女は幸せだった?」
スズちゃんが何を思ったのか突然そんな事を聞く。彼女、と確証を持ったように言ったがそんな情報は入っていただろうか?幸せもなにも、絶望しかない世界に残されていた時点で不幸に違いなかっただろうに。
しかし、そんな僕の考えとは反対にモニカさんは何度も頷いてみせた。それにスズちゃんが目を滲ませる。
「既に幸せを知っている召喚者さんにとって私達と少しでも長く会うことが貴女にとってもの幸せに繋がると思ったのかな」
「そう、なのかもしれません。少なくとも私はあなた方と話せるこの時間を心地よく思ってます」
寂しそうに答えたモニカさん。その後、しばらくの沈黙。やがてスズちゃんはモニカさんへと手を伸ばし、そして涙を流しながら彼女を強く抱きしめた。スズちゃんの背中越しに見えるモニカさんはどうして抱きしめられているのか、そして泣いてしまったのかを戸惑った顔で僕の方を見つめてくる。
「急に抱きついちゃってごめんなさい。貴女の為にもと言いながら、こんな役目を任せて1人残して先に逝ってしまった選択をとったことを代わりに謝りたくて」
「なっ!?」
スズちゃんからでた言葉に明らかに狼狽えたモニカさん。その様子から召喚者にただ感情移入してそんな事を言ったわけではないのを遅ればせながらも理解し、何故スズちゃんが謝るのかと懐かしい眼差しの意味を考え、そして一つの結論に至ってしまう。
「ここのスズちゃんが、君に過去の僕達を見せたかった?」
つい言葉に発してしまう。知り合いどころか5年後のスズちゃんが死ぬとわかっていることを厭わずに僕達を呼び寄せ、彼女に会って欲しかったと願ったのだ。悔しいことに顔が半分以下で視界が歪んでいたとはいえ、僕は誰だか判別できなかったのだ。彼女が愛おしい眼差しで見ていたように思ったのは、僕達を呼び寄せてすぐはまだ命があったのだと思う。
僕は、妻の死に際に気がつけなかったのだ。
僕より後に意識が戻ったスズちゃんはすぐ察したのは何故なのか、そして今も彼女に抱きしめられているモニカさんはどういった存在なのか。
それを訪ねようと思った矢先、今度はモニカさんの緊張がとけたのか、堰を切ったように泣き出してしまった。幼い子をあやすようにスズちゃんが背中をよしよしとたたく。
「はじめは確証なんかありませんでした。でも私の感覚を信じるのであれば、貴女は見た目相応の年齢ではないのでしょう?」
「そんな、なんで、わかってしまうんですかぁ」
外見状は僕達とそう変わらないように見えたモニカさんだったが、僕達は実年齢と見た目が乖離する精霊の存在を知っている。スズちゃんの様子からこの子は本当は幼い子供なのだろう。だが見た目が大人びているという事は、状況を鑑みるにそうならざるを得なかったのか。
まさかとは思うが、と嫌な想像がよぎる。この世界のスズちゃんがこの子に少しでも生きていてほしいと願ったのは親心からなのではないかと。
「モニカ……君はトワなのかい?」
「……ッ!お父さぁん!」
その端正な顔をぐしゃぐしゃにしながら抱きついてくる彼女を両手で受け止める。2人が泣き止むまでの間抱きしめながら冷たく気持ちが沈んでいく。
大事な人が命を捨てなくてはいけなくて、また娘が泣いているにもかかわらず……この世界の僕は一体何をしているのか、と




