仲間と配下
今まで、セラーノさんと僕との関係はあやふやなところがあった。下に見ているという訳ではなく対等の相手として接してきていたつもりだったし、年は少し離れているが友人みたいな関係性で良いと思っていた。グミさんはグリムのメンバーとして名乗りを上げてくれたが、セラーノさんはメンバーとしての立ち位置だと明言してもいなかった。
しかし、そんな関係性をセラーノさんはやめようと持ちかけてきたのだ。僕の事を見守るだけならばこれまで通りの関係性でだって構わない筈なのに、僕の下につくと。
「理由を聞かせて頂いても?今のままだって友人であり仲間という関係だった筈で、セラーノさんにとって利点なんかないと思うけど」
「本当はもっと早くにでもつけたかった、一種のけじめみたいなものですよキルヴィさん。私はあなたに助けられ、こうやって生活の場も与えられているのに何も返せていない。貴方は優しいから気にしていなかったのでしょうが、私はずっと心苦しかったんです」
それに、立場をはっきりさせなければできないこともあると彼は続けた。例えば今回のように貴族から指名での呼び付けがあった時。妻であるラタン姉やスズちゃん、それから使用人であるクロムを連れて行くのは問題ないだろうが、ただの友人や仲間を連れ込めるケースは少ないという。対して配下の立ち位置ならば、従えて参上しても大丈夫の場合が多いらしい。
仲間と配下、それを証明できるものがなくとも言葉の差を相手はとても気にするのだと。
「グミさんやカシスさんはセラーノさんの決定に対して何か思うことはないの?」
僕の問いかけに対し、彼女達の反応は静かなものであった。
「私が信じているセラーノの決めた事です。貴方の下につくのが正しいと思ったのならばそれが最善なのでしょう」
「変化に怯える必要なんてないんだ地図師殿。君が気にしないのであればこれまでどおり接すれば良い。配下といっても、使い捨てのような下働きから対等に付き合う相談役まで様々なのだから」
少なくとも配下に対して君は酷い扱いをするような人間ではないということは知っているのだから、なんの心配もしていないよというのが2人の認識であった。この2人だけでなく、場にいる誰からも反対がない以上、受けざるをえないだろう。
「なんだか思ってもいない所で迎える形になっちゃったけど……セラーノさん。改めてこれからもよろしくお願いします」
手を差し出すと、力強く握り返される。
「こちらこそ、キルヴィ様。それとクロム殿、これからは同じ主に支える者として身を置かせていただきますね」
「私としてもセラーノさんの様に安心して背中を任せられる人と肩を並べられるのは嬉しいです。よろしくお願いします」
セラーノさんとクロムでも握手が行われる。2人の様子と言動から同等の相手に接する態度を感じたので、ここに上下関係はないものとして見て良さそうだった。
「さてさてひと段落ついた様な雰囲気ですが、問題は解決してないですよ。キルヴィさん、決断の時こそ先かもしれませんが今のうちにどうしたらどうなる、というのは考えておいて損はないですよ」
グミさんが手を叩いて気持ちを切り替えさせる。あらかじめ想定した方が対処はしやすいというのはその通りなので僕達は意見を出し合いながら対策を練る事にした。
一つ目、相手の誘いに乗ってみた場合。僕はスズちゃんとラタン姉との夫婦関係を解消し、顔も知らぬイレーナ本家の娘と結婚する事となる。さらにいうならば僕は軍属になるだろうことからグリムは良くて国の部隊としての取り込みとなり、悪くて解散の憂き目にあう。
「現実主義と言えば聞こえはいいが、要は権力の犬に成り下がった想定だな。使えるだけこき使われ、捨てられるのが関の山か」
二つ目、相手の誘いを無視した場合。恐らく一度目に関しては次の手を打ってくるまでの時間は稼ぐ事ができるだろう。だが、二度、三度と続けると強硬手段に出られる可能性が高まる。相手にも時間を与えた場合、総合力で考えるなら圧倒的にこちらが不利だ。
「一つ目と比べると楽観主義と言えるのかな。ただ、時間をかければ突破可能な策があるならばこれは選択肢にあげてもいいと思う」
三つ目、グリムも動かし実力行使で正面から立ち向かう場合。これはフネイの後ろに国が控えているとなると、完全に敵対し内乱を引き起こす覚悟が必要になってくる。今まで通りのやり方ではあるが、国を落とすか僕が死ぬまで終わらない戦いとなるだろう。
「正直言うといいところまではいくとは思うよ。でも、仲間を多く犠牲にした上で勝つところまではいけないだろうね。主義も何もない、魔物同然の振る舞いかな」
四つ目、相手と向き合わずに逃げる場合。察知されるのを避ける為、すぐにでもここにいるメンバーだけで何処か別の国にでも向かうやり方。スフェンに居るメンバーやツムジさん家を見捨てる形になり、頼る当てもない上に国と敵対関係になる。
「限りなく悪手に思えるけれど、この選択もある事は頭の片隅に覚えておいて下さい」
実際にはこの中のどれか1つから選ぶ、という極端な選択をとるふうにはならないだろう。使える所を手探りで見繕い、この期間に仕上げるのだ。
ふと気がつけば日はとうに暮れ、夜も深まり春先特有の冷えた空気が開けた窓から家の中に流れ込んできていた。思考も煮詰まってきた事から今日はここで解散となり、各々の寝室へと足を向けたのであった。




