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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
3区画目 新婚時代
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不調

 朝、早めに馬房に訪れて馬達に飼葉を与えながら挨拶をする。この子達は旅を始めてからいろんな困難を前にしてもずっと着いてきてくれた大切な仲間だ。僕の縮地や転移にもすぐに適応できた賢い子達でもある。


「次の仕事も頑張ってくれるよね、君たちにとっては刺激が少し足りないかもしれないけど」


 そう語りかけると僕の言葉を理解しているのかいないのか、手元に首を動かして立て髪の部分を撫でてと催促してくる。希望通りにわしゃわしゃと撫でると、嬉しそうに尻尾を揺らしていた。


「キルヴィ様、こちらにいらしたのですね。食事の支度が整いましたよ」


「呼びに来てくれてありがとう、スズちゃん……あれ、顔色悪いけど大丈夫?」


 灯りを向けてスズちゃんの顔色を見やる。薄暗いから見間違いかとも思ったが、やはり血色は良くないように思える。馬の両名も僕達のやりとりが気になったのか、僕の肩に顔を乗せてスズちゃんを眺めだし、6つの眼差しがスズちゃんを射抜く。


「あー、その。大丈夫ですよ?それよりもご飯にしましょう」


「露骨に目と話題を逸らさないで、スズちゃん。僕は心配なだけなんだ、話しにくいことならそれはそれで構わないからさ」


 気圧されたのか、らしくもなくそそくさと背を向けたスズちゃんへとそう声をかけると、彼女は逡巡した後に諦めたように振り返る。


「……あはは、ええまあその。体調が優れないのは確かなんですけど、こればっかりはどうしようもないことですので。心配してもらったのにすみません」


 具体的な事を言わない様子を見るに、あまり詮索してほしくはなさそうだった。


「病気……ってわけではない感じだね。でも、どうしようもないとしても体調が悪いなら安静にしていて欲しいな」


「そう、ですね。でしたら、大丈夫だとは思うのですが今日は万全とは言えなくて。足手纏いになるのは嫌なのでグリムの会合、お付きそいできなくとも良いでしょうか?」


 いつもは取り繕おうとするがバレていることもあるのか、ここまで素直に弱さを見せてくれるスズちゃんは珍しい。


「勿論だよ!なんならキャンセルしてでもつきっきりで看病したいくらいさ」


 その返しに彼女は苦笑いしながら「貴方がリーダーなんですから、冗談でもそれはダメですよ」と嗜めてくる。彼らが大事だというのも本心ではあるが、優先度で言うならば妻2人の方が遥かに大事なのだ。


 二人で寄り添いながら馬房を後にして食堂へ向かう。先に食堂にいながら手をつけずに待っていたラタン姉がその様子にいじけたような顔をを見せかけたが、すぐにスズちゃんの不調に気がついたようで寄ってくる。


「スズ、どうしました?」


「あはは、結局ラタン姉にまで心配かけちゃった。大丈夫、いつものやついつものやつ」


 ラタン姉にはその言葉の符号でわかったらしい。遠慮がちにだが僕の方へ目をむけて退くように促し、代わりにスズちゃんに寄り添う。


「もー、二人とも大袈裟だよー」


 スズちゃんは苦笑いしつつも、ラタン姉へともたれかかりじゃれつきだす。


「スズ、今日は町には行かず家で過ごした方が良いのです。キルヴィもそれで良いですよね?」


「うん、そのつもりだよ。僕も一緒に休もうかと聞いたら断られちゃったけどね」


 そう話に持っていこうかと思ったら、ラタン姉には「当然でしょう」と呆れられた。解せぬ。


「ただ家で帰りを待つっていうのも私的には落ち着かないので。家でできそうな事したりご飯作る位はしても良いですか?」


「無理しない範疇でしたら良いですよ。これは提案なのですが、貴女がやるよりインベル達見習いの女の子組に仕事を振る、というのも1つのコミュニケーションだと思いますです」


「確かに、私もまだちゃんとお話しできていませんから。試しにそうしてみましょうか」


 テキパキと、できる事から今日やる事を再構築していく二人の妻。そんな所にクロムが食堂へと入ってきた。スズちゃんを見て、ぽんと彼女の頭に手をのせて、周りに自分達以外がいない事を確認してから僕に話しかけてきた。


「おはようキルヴィ。ガトの事なんだけど仕上がりが間に合わなかったから今回は泣く泣く見送るって伝言頼まれてね。実力不足が悔しいのと、いざキルヴィを前にしたら不様に頼み込みをしそうだからって見送りはできないってさ」


 昨晩クロムがガトと何かしているのまでは確認している。後からカシスさんも合流していたが、稽古指南でもしていたのだろうか。


「クロム的に見込みはどう?」


「案外飲み込みは悪くないから、すぐに力をつけるだろうね。今は新しいスタイルの模索をしているよ」


 つまり見込みありって事か。焦らず頑張ってほしい所だが……あ、スズちゃんがようやくクロムの手を払い除けた。


「お兄ちゃん、今日は私体調悪いから残る事にしたの。見習いの女の子達借りてもいい?」


「ああ、賢明だね。もちろん構わないとも」


 スズちゃんが多くを語らずとも不調を察知し、その気持ちも肯定できるのは、やはり肉親ならではといったところか。流石である。


「となると、今日行くのは僕とラタン姉、トトさんだけになるのかな」


「帰りは2人かもですねー」


 トトさんが向こうについた後荷物だけ置いて今日は帰るのかどうするのかはわからないが、昨日の様子からするに恐らくは残っていく心算だろう。ラタン姉と2人になる可能性は高かった。


「キルヴィ様、立ち寄りたい所もあるって言ってたし私のことは心配しないでゆっくり帰ってきていいからね」


「あー、その事なんだけど……この際言ってしまうとスズちゃんが生まれた村に行こうかと思っていたんだ、結婚したのに挨拶できてなかったからね」


 スズちゃん達の両親が生きていたのならば直ぐにでも行動した(そもそも式に呼ぶ)のだろうが、ついつい後回しになってしまっていた。彼女自身は気にしていなかったようで、僕が何を言っているのかわからないと一瞬キョトンとした顔になり、すぐに「ああ」と納得してみせた。


「もー、内緒にして着いてから驚かせようとしていたんですか?でも、ありがとうございます。私とは日を改めて、そのうち一緒に行きましょうね」


 そう言って彼女は、わずかに火照った頬を僕に見せるまいと手で覆ってみせたのであった。

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