幸せの中で
メンバーを無事迎え入れる事ができた翌日。屋敷の外に位置する塔の部屋で目を覚ます。少し身体を起こそうとするも腕には幸せな重みが加わっていて動けそうにない。今僕の腕の中には甘えたままの姿で寝息を立てているスズちゃんとラタン姉の姿があった。
その姿が余りに可愛らしいのでずっと眺めていたいくらいだ。暫くジーッと眺めていると、二人の肩が堪えきれないといったように小刻みに揺れだす。結婚して隣で寝るようになった今、こんな粗が多くて可愛い狸寝入りを見破れないと思うてか。
「二人ともおはよう。起きてるのはわかっているからもう楽にしていいよ」
途端、我慢する必要がなくなった二人は噴き出した。そもそもの話、朝の支度をする為に僕よりいつも早起きであるスズちゃんや元々眠りの浅い筈のラタン姉がここまで密着しておいて、僕の身じろぎで起きない筈がないのである。
「あーあ、バレちゃったねラタン姉。おはようございますキルヴィ様」
「おはようなのですキルヴィ。スズが寝たままだっていうのはやっぱり無理がありましたねぇ」
モゾモゾと身体を起こし、手櫛で乱れた髪と服を整えてから改めて寄り添ってくる二人を抱きとめる。朝から幸せな気持ちに包まれていると、突然スズちゃんの顔が少し強ばる。
「ごめんねトワちゃん。トワちゃんも二人とくっつきたいよね」
ああ、何事かと思えばトワが魔力を吸い取ったのか。昨夜はスズちゃんが抱えて眠ったらしく、グンと魔力を吸われたらしい。
「トワー?貴方が育つのは親として喜ばしい事なのですが、ちょっと加減を知って欲しいのですよ。キルヴィもスズも魔力が多いからいいものの、明らかに吸いすぎなのです」
「あーいいよいいよラタン姉。トワちゃんを怒らないであげてよ」
朝から顔を強ばらせるほどの消費は流石にやりすぎだと感じたラタン姉の苦言に、スズちゃんが大丈夫だからとトワを庇う。
「スズ、安易に甘やかしては駄目なのですよ。まだ一月も経ってないのにそんなに食らうようでは、今後命を脅かすくらい吸われるかもしれないんですよ」
「まだ一月経ってないんだったら尚更今日くらいは大目に見てあげてよ。二人を感じられなかったから寂しいんだよ、きっと」
ラタン姉の心配ももっともだったがスズちゃんの言葉もわかる。ごめんよと言いながらスズちゃんの手に乗ったトワへと手を重ねる。それを見て渋々といった様子でラタン姉も手を重ねると、身体に少し魔力が戻ったように感じた。
「ね?悪い事をしたっていうのはトワちゃんにだってちゃんとわかっているんだよ。どうにか私達の気を引きたいだけなんだよねトワちゃん?」
その言葉に頷きたいのか、トワちゃんの精霊石が優しく明滅した。
「むぅ、何だかボクよりもスズの方が母親してますです」
「そんな事ないよ、ラタン姉だってトワちゃんのことを思って怒ろうとしたんだから」
そんな風にお互いがそっちの方が母親らしい振る舞いだと譲り合う姿が微笑ましい。そういえば僕達夫婦は皆、親というものの認識が少し曖昧なんだよなぁ。ラタン姉は自然発生した精霊だし、スズちゃんも物心ついてからはほとんどクロムとの思い出しかないだろう。僕もどうすれば父親らしいのか、少し不安になる。
「あ、トワからオロオロした様子が伝わってくるのです。私のせいでお父さん達を困らせたのかなぁ、なんて……貴女はやっぱり、聡い子ですね」
しみじみとした様子で言ったラタン姉だったが、驚いた様子で再度トワの方を見る。今の言葉はもしかして?
「キ、キキキキルヴィとスズ!今明確なトワの思考が頭に直接流れて来ましたのです!貴女、そんな凄い事できるのですか!?」
「えっ、ホント!?トワちゃんトワちゃん!私にも話しかけて欲しいなーっ」
そう言って顔を寄せ二人でトワに語りかけまくる妻達。興奮した様子の母二人に突然もみくちゃにされて怖かったのだろうか、トワはピューンと僕の方へと飛んできた。言葉こそ浮かんで来なかったが、心なしか震えているように感じた。
「二人とも、少し落ち着いて。トワが怯えているよ。まだまだ時間はあるんだからさ」
これではいけないと僕が注意すると、流石に焦りすぎたかと二人ともしゅんとなって反省する。
「そうですね、ごめんなさいトワ。でも、ボク達とても嬉しかったのです」
「驚かせてごめんね……ゆっくりで良いので、いつか私とも話しましょうねトワちゃんっ」
あ、ホッとした気持ちになった。意思が理解できるようになった途端にこれまでよりも一個人なんだなぁと思える。
「ところで精霊石の状態で意思疎通できるのって、そんなに凄い事なの?」
甘えている様子のトワを構いつつ、興味が湧いたので質問してみると、ラタン姉が言うには精霊の知識としても、またこれまで聞いた事もないらしい。
「精霊石しか保てないのは普通、魂が深く休眠してるか、死んでいる状態ですからね。もっとも、産まれた精霊石自体が残っている前例が少ないのでそこは分かりませんけども」
精霊にとって1番楽な姿、と言う認識でいいのだろうか。
「この子、もしかすると少し成長が早いかもしれませんのです。普通なら親二人から魔力もらって6ヶ月ですけれど、ボク達は三人。それも全員魔力オバケですからね」
そう言いながら僕からトワを受け取って、ニニさんがルルちゃんにやるようにあやし始めるラタン姉。それは意味はあるのだろうか?……あるのだろう、楽しいと言う気持ちが流れてきた。
成長が早いのなら、人の姿をとれるのも近いかもしれない。人間ならば子は親に似るらしいが、この子はどんな姿をとるのだろうか?夫婦揃って想像が弾む。スズちゃんではないけれど、僕も早くトワと遊んであげたい。
ついつい、いつまでも微睡みと幸せ溢れるこの場に居たいと思ってしまう。でも少なくとも今の僕にはやるべき事がある。名残惜しいがベッドから身を起こし、夫婦揃って着替える。
さあ、今日もまた1日が始まる。




