それでは、屋敷に帰ろうか
契約の話を詰めつつ、詳しくは後日改めてと今日の所はとミカさん達と別れ、ハウスへの帰路に着く。途中、子供組がちゃんとやれているか気になったのであろうヨッカさんがツムジさん達の方にも寄っていきたいと言ったのでそれに頷いて寄り道してみる。
「まとまって移動しているから、もう買い物は終えたみたいだね」
「大丈夫かな、クロムさんに強く当たられたりしていないかしら。モーリーさんにいびられてたりしてないかしら」
ヨッカさんは子供好きということもあってか過保護であった。その心配の仕方だとお姉さんというよりもお母さんのように思えてしまう。だがそれはちょっとうちの使用人に失礼なのではないだろうか。
「使用人としての心得の教えを受けたツムジさんの膝元なんだし、流石にお兄ちゃんでも最初から飛ばしたりしないですって!」
果たしてスズちゃんのそれはフォローなのだろうか?いつもの事ではあるが僕の妻は実兄に対して厳しいのである。
ヨッカさんの不安をよそに、合流した彼らは実に和気藹々とした様子であった。クロムが何かを言うとそれにハドソン君が反応し、つられて他の子達も返してそれを見ながらモーリーさんが微笑む。インベルちゃんがはしゃいでいるハドソン君に対してジト目で何かを言うと、それを嗜めるようにクロムが間に入って注意をする。……うん、心配していたけれどどうやら思った以上に仲良くやれそうだ。
「おーいクロムー。お疲れ様」
声を掛けるとモーリーさん以外は一斉に一礼してくる。統率もバッチリのようであった。
「キルヴィ様。こちらはつつがなく終わりましたが、そちらの首尾はどうでしたか?」
「うん、上手くいったよ。詳しくはまた後日詰めるけどメンバーに入ってくれるってさ。……それはそれとして祝いの品とか、また用意しないとなあ」
僕の言葉にクロムは首を傾げ、ヨッカさんは「あれに加えて!?」と驚愕してみせる。事情を知らないクロムは余計に首を傾げさせたのだった。
話すとクロムも僕の考え自体には同調してくれたが、少し悩んでから祝いの品はまだ贈るのを控えた方がいいだろうと促してきた。それに対してモーリーさんも頷く。
「まだ発覚したばかりだと言うのなら、余計な期待をして心労をかけてしまうと下りてしまうかもしれませんからね」
子供ってそういうものなの?とスズちゃんやラタン姉に振るも、2人ともなんとも言えない表情で頷き返す。自身にそういった経験がないので、僕に言おうか迷ったようだった。
「あー、キルヴィ様が喜んでいるというのはミカちゃ……こほん、ミカさんも十分にわかってる筈ですので、あんまり特別扱いなさらない方がいいですわよ?」
ヨッカさんからも困ったように言われてしまう。そういうつもりじゃないんだけどな、と反論しようかとも思ったが飲み込んでおいた。契約を固めている時に僕の感性は世間からズレているということを自覚したので、これは一般的にはそう思われても仕方ない事なのだろう。
ともあれ、後はこの荷物をハウスまで届けたならば今日スフェンでやるべき事は済んだだろう。そしたら屋敷に飛んで、皆の紹介と歓迎会をやって、終わり。直近には取り急ぎやらねばならない事もないので、明日には少しのんびりできるだろう。
……先日の喧嘩の事もあり、クロムには続け様に迷惑かけるかもしれないが、新婚夫婦らしくイチャイチャさせて欲しいのだ。ミカさんとロイさんの仲睦まじさを見て、2人との時間をもっと大事にしたいと思ってしまったのだ。
「……あのー、キルヴィ様?先程から突然黙り込んで1人で頷いてますけれどどうされました?」
「ああ気にしなくて良いのですヨッカ。あれはただ思考の世界に飛んでるだけなのですよ」
「差し詰めお姉さん達を見て夫婦らしくイチャイチャしたいー、とかですかねー」
「はぁ、よくわかりますね」「嫁なので」というやりとりを視界の端で流しつつ、めくるめく家族計画に想いを馳せていると、突然ラタン姉の方から何かが飛んできてゴツンと顔にぶつかった。魔晶石があったから良かったものの、目に当たるルートだ。一体何が飛んできたのだろうとそれを掴むと、驚く事にトワの、僕にとっては娘にあたる精霊石であった。
「驚きましたのです。やっぱり自分の意思がもうあるのですね」
呆けたような顔をしながらラタン姉がそう言うという事は自力で勝手に飛んできたという事か。家族というなら私もいる事を忘れるなとでも言いたいのかもしれない。というよりもこの状態の娘にすら僕の考えは筒抜けなのか。
「よしよし、忘れてないよ」と小さく呟きつつ魔力を流すとあっという間に残り魔力が吸い取られてしまった。我が娘は結構お冠だったらしい。ごめんよ。
僕が娘とそんな感じで戯れていたらハウスまで戻って来ていた。とりあえずトワをしまい、中に入る。どうやら部屋割も決まったらしく、メンバーは皆思い思いに過ごしていたようであった。憩いのスペースで寛いでいたメンバーがこちらに気がつくとお帰りなさいと声をかけてきてくれたのがなんだかこそばゆい。
クロムに荷物を降ろすように指示をすると、クロムもまた子供組へと指示を飛ばし指揮を取る。ヨッカさんが少しハラハラした様子でそれを見守っていたが、手際的に問題はなさそうであった。それを椅子に腰掛けながら眺めていると、帰ってきた事に気がついたらしいチェルノさんが降りてきて頭を下げる。
「帰ってましたか。私共も部屋割も終え、楽にさせて貰ってました」
「チェルノさんもお疲れ様。悪いんだけど今後の予定をざっくり見積もって話すから、ダイナーさん呼んできてもらえないかな」
「その心配はないぜキルヴィさんよ、今降りる」
声が聞こえていたのだろう、大きな声でそう言ってダイナーさんが駆け降りてきた。ドワーフは挙動が遅い人が多いのに、この人結構身軽だなぁ。勿論良い誤算で、悪い事ではないんだけどね。
「ありがとう。そうだね、今日やる事はこれでおしまいだし、皆も朝から疲れただろうからもう楽にしていいよ。明後日にはまたくるつもりだから明日もゆっくりしていて構わない。それからーー」
と、スカウトが成功した事やハウスの設備管理者をどうするかなども交えながら話を進める。
「ガトは一度屋敷に着いてきてもらおうと思ってる。どんな場所を畑にしたいかとか見てもらわないと、対策が立てられないかもしれないし」
「でしたら私も」
僕の言葉にヨッカさんが飛びつく。屋敷が余程気に入ったのか、はたまたハドソン君から離れたくないのかのどちらかだろう。
だが、そうは問屋が卸さない。ヨッカさんの肩を両側からガシリと掴むものがいた。
「いーやヨッカよ、おめえさんはやる事があるだろうに。なぁチェルノ?」
「後でじっくりと幹部会をするって言ったのにもうお忘れかな?」
目が笑っていない残りの幹部組に掴まれて、ヨッカさんはガクリと首を垂れたのであった。
さてさて。なんやかんやとしていたらもう昼も回ってしばらくになってしまった。そろそろ帰るとしよう。行く事を憩いのスペースにいるメンバーに告げてハウスから出る。
普通に歩いてスフェンから出た後、ラタン姉は悪戯めいた顔をしてみせて、今回屋敷に初めて行くガトや子供組に目を瞑るようにと笑いかけた。
「ふっふっふ、目を開けた時に驚いちゃいけませんよー?さあキルヴィ、行きましょうなのです」
したり顔のラタン姉に促されて転移に移る、のだが。ここで問題が生じた。魔力が全然足りなかったのだ。おかしいな、調整はしていた筈なんだけど。
……あ。あー。そういえばさっきトワに帰り分の魔力も吸われてしまったのだった。すっからかんなのだ。
どうしたのかと目を開けるメンバーに言い訳をしつつ、勿体ないが魔力ポーションを追加で飲んでなんとか事なきを得たのであった。




