束のマの再会
「やあ、元気そうで何よりだよ僕の義弟、キルヴィ」
事が済み、少し気が緩んだのだろうか。気がつけば何もない白い空間にいて、目の前にはついこの間討伐した筈の男が微笑みながら佇んでいた。
「……ウル、どうして」
「倒した筈だろうって?ああそうだね、本体は跡形もなく滅んだよ」
君達もその目で見ていただろう?と戯けた態度を取る。そうだ、こいつは最後、スズちゃんが張った結界を乗っ取って自壊した筈だ。それなのにどうして目の前にこうしているのか。
「それよりも僕からの贈り物、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
贈り物?そういえば別れの間際、ウルは僕の魔結晶を撫で、全身に悪寒を覚えたっけ。でもあの後ラタン姉に鑑定してもらったが異常は見つからなかった筈だ。
「いったい、何のことだ?」
「おや?自分の変化に気づいてないのか。酷いなぁ、そんなに活用してくれているのに」
大仰にそう言うウル。活用か、それならばこれしかないだろう。
「空間支配か」
「以前よりも格段に使いやすくなったろう?人体にだって作用できるように制御回路の効率化を図ったんだ、少しは感謝してくれてもいいんだよ?」
「感謝よりも、何を企んでるのかという方が勝るね。ここはいったいなんなんだ?あなたはどうして生きている?」
こちらからの疑問に、望んでいた反応だとばかりにぬるりと奴は近寄ってくる。
「死んださ。倒された事に思う所がないわけじゃないが、今君に対して何かをするつもりなんて、毛程にしかない」
普通そこは毛程もないじゃないのか。この男はやはり油断ならないな。
「おいおい義弟、そこは突っ込む所だぜ?まあいい。それで、僕がいる理由だけどそれこそわかったものじゃないね……これは君の力なんじゃないのか?」
「なに?」
「小細工を仕組んだ事には間違いないが、別件だ。こうなる様に仕組んだ訳じゃない。僕はあの時消えてそれでおしまいの筈だった。なのにどうしてか、再び意識が覚醒したかと思うとこんな空間に放り出された」
彼自身、フリとかではなく本心からわかっていない様子であった。それよりも別件で小細工をしたと言われるとものすごく不安になる。
「なぜ、どうしては分からないが、これは空間系のものだと言うのはわかる。君の愛しの彼女……ああいや、結婚したんだったね。ともかくあの子、スズちゃんが何かしたのかとも考えたけれど。空間支配の範疇を超えてるから違うだろうね」
別空間の存在は僕も理解している。イレーナ始祖のリゲルさん然り、スズちゃんから聞いたアミスさん然りだ。ダンジョンも別空間に属しているとするならグラウンさんもそうだ。となると、この空間は僕が作り出した物なのか?でもどうやって作ったのか、自分では理解できていない。
少し気になった事がある。結婚した事を知っていたり空間支配の力を得たのを知っているというここまでの流れを汲むに、ウルは僕と記憶の共有ができてる?
「ああ、共有できてる。と言うよりも今この時も繋がっている感じだね。恐らくはこの空間を作り出したのも、僕がここにいるのも君の力だと推測できるがどうかな?」
繋がっていると言われても、僕の方にはウルからの情報なんて流れてはこない。では心聞なのかとも思ったが、ウルはその力を得てないと答え、それも違うらしい。とても一方的な繋がりのようで、気分の良い物ではなかった。
しかし、これが僕の力だって?だが、これ程の力ならばレベルアップしただとか、能力取得の天の声が聞こえてくると思うのだが。
「そう、そこが僕には腑に落ちないのだ。そもそも成長するスキルがある方が驚きなんだ」
「何言ってるのさ。成長ならば一般スキルだってするじゃないか」
僕の持っている一般スキルを例に考えるなら、棍棒スキルは初級から中級、高級、超級と成長していく。すると彼はわかっていないなと首を横に振る。
「言わんとする事はわかる。けど、それは違うとはっきり言わせてもらうよ。あれは成長に似ているけど異なる性質、上位互換への置き換えにすぎないと」
突っ込みを入れたかったが、余計な茶々を入れて脱線しても困るので黙って続きを促す。ウルは首を捻り、言葉を選んでいるようであった。なかなか律儀である。
「なんと説明すればいいのかな。熟練度、と言って理解してくれると楽なんだけど。スキルを使い続けてそれがある程度の域を超えると次の段階の物へと置き換えられていく」
僕にはやはり差がない様に思えるのだが。そう考えているのがわかっている様で、ウルは次第にイライラしてきていた。思っている事をなかなか理解してくれない時の歯痒さだろう。
「あーもう!とにかく成長と置き換えは根本が違うんだよ!それでその君の持つMAP機能はユニークの中でも殊更異質な物だと認識して欲しい、というよりしろ!」
「そんなキレなくても……」
「うるさい!聞くに、隠蔽でもないのに勝手にこいつだけ鑑定を弾くそうじゃないか?怪しさ満点のこのスキルについて、なんで君はそんなにも興味が薄いのか僕にはとても理解できないね!」
めっちゃキレてくる。こいつこんな探究心強い奴だっけ?と言うほどには交流してないのだから、ただただ困惑するだけである。
「……ふう。いや、すまない。熱くなってしまった。ともかくだ、そのスキルは曲者で、恐らく何かギミックを隠している。もう少し疑ってかかった方がいい」
「ギミック?」
少し落ち着いた様子のウルに言われ、僕はMAP機能に意識をやる。いつもの項目をいじってみても特に変化はなく、ただただ白地図を示すだけでおかしな様子は見られなかった。
いや、こいつが怪しいという以上は前提を変えよう。このスキルは地図だとか移動するためのスキルだという先入観を捨てろ。何か、とっかかりになる事があるかも知れない。
「ん?」
「何か気が付いたのかい?」
ウルには見えない以上、言っても分からないだろうがMAPのMの字だけ、他の字よりも光って見えるのだ。そう頭に浮かべると奴は考え込む仕草をする。
「その一文字だけか。いや待てよ?このMAPというのは地図を指すマップで本当に合ってるのか?」
考えてこなかった事だ。もしかしてこれ、それぞれ単独で機能したりもするのだろうか?Mにだけ焦点を当ててみる。ボンヤリと何かの言葉を形成しようとしたのが見えたが、すぐに散ってしまう。ここまで来るとウルの言う通り、このスキルはどうも何か隠しているのではと思えた。
「んっ……なるほどね」
僕が分かってないのに対し、ウルは急に身悶えしたかと思うと何かを掴んだ様であった。
「悪戯か気まぐれか意図してやったのか、それはわからないけど。どうやら君は神に選ばれて、それもよほど愛されているらしい」
「どういう意味だ?」
「さてね。いずれ嫌でもわかるさ。残りの字も大方意味のある物なんだろうからね」
意地の悪そうな笑みを浮かべるウル。教えてくれる気はなさそうだった。そして次第にその姿が、この世界が薄れていく。
「おや、時間のようだね?随分と意地の悪い神だことで」
「意味ありげな事だけ言うだけ言って……ねえ、また会えるのか?」
「いや、どうだろうね。思っている通りなら僕の細工が奇跡を起こさない限り、多分もう会えないと思うけれど」
「寂しいのかい?」と軽い調子で尋ねられて「そんなわけないだろ」と返す。この気持ちはきっとさっきの嫌な事があったから、ウルは許せない敵であった筈なのに、何故だか打ち解けれた気がしてしまっただけなのだ。
「さあ目を覚ますといい。ここでの出来事なんてきっと一瞬にも満たない時間だ。ただの一瞬の間にそんかふの抜けた顔をしていると、君の妻に笑われてしまうよ?」
お節介なのか馬鹿にしたいだけなのか、そんな奴の言葉を受けながら僕の意識はこの白い空間から現実の惨状へとシフトしていったのだった。




