バケモノ
今回注意にございます
〜敵対反応者視点〜
あいつらを放り出してから1時間たっただろうか?一向にあのガキが来る気配はない。よくよく考えりゃあいつ町中に住んでる訳じゃないんだっけか?こちらがどうなってるか知ることもなく悠々と暮らしているのかと思うとまた腹が立ってきた。
しかし、ガトの奴も馬鹿な事をしたもんだ。さっき外を見た時に姿はなかったが、今頃はもう死んだだろうか?今更真っ当に生きられる訳なんて無いだろうによ。ガキにも何度か歯向かったんだし、素直に仲間になっときゃ死ぬことも無かったろうに。
「おい女!あのガキがいつ金持ってくるか聞いてなかったのか!?」
隣にいた奴が縛っている女の顔を殴る。この女、名前はヨッカだったか?名前なんかどうだっていいがあのガキと1番仲良くやっていた筈だ。あんなガキ、どう考えたって女を知らないんだから、どうせその身体を使って籠絡したに違いない。とんだ売女だ。
女は口内を切ったのか、口から血をプッ、と吐き出して此方を睨みつける。その目つきはまだ諦めていないようで、生意気にみえた。
「おいおい。そんなアバズレでもせっかくの女なんだ、どうせ殺すなら楽しんでからにしねえか?」
「お前女ならなんでもいけるタチかよ、どうせあのガキのお古だぜ?」
「馬鹿野郎、それが奪ってやった感じがして唆るんじゃねえか」
やれやれ、とんだ物好きもいたもんだと仲間同士で笑う。その様子に女は睨みつけていた顔から一転、笑い始める。
「あー?こいつやる前から恐怖で壊れちまったか?」
「はー、笑いましたわ。ついこの間まで周りが紳士的な人ばかりだったから忘れていましたが、世の中の男とは頭ではなく下半身に脳みそがついてるのかしら?」
その言葉に激昂した隣の奴が、女の背中を蹴飛ばす。女は痛みからくぐもった声で一度うめいたが、すぐにまた笑い始める。
「勘違いを一つ訂正するなら、キルヴィ様と寝てなんかいませんわ。私、これでも殿方と一夜を共にした事ない清らかな身体ですのよ」
「あー?……ハッハッハ、こいつはたまげたぜ!たったそんなことが気に食わなくて反抗したのか!」
「ええ、私とキルヴィ様の名誉の為にも大事な事ですもの。それに、まだ気づいてなくて?」
意味深な事を言う。気づくも何も、なんら状況は変わっていないのだ。気がそがれたのか、せいぜいこの女を犯そうと考えてた奴が黙っただけである。それならそれで好都合だ、また五月蝿くなる前にさっさとこのイカレ女を殺してしまおう。ナイフを取り出し、女へと振り下ろす。
「そうかそうか、つまり君はそういう奴なんだな」
振り下ろしたナイフはしかし、女に突き刺さる事はなかった。いつの間にか現れたあのガキ、キルヴィの奴が一本の指だけでその刃先を正面から止めていたのだ。ただの指一本くらい切り落とせても良い筈なのに、まるで岩に当たったかの如く返ってくる感覚は固く、重い。
「ヨッカさんも無茶をする。煽り返すなんてして、僕が間に合わなかったらどうするつもりだったんですか?」
「あら、最後には間に合うと信じておりましたもの」
こちらの事など、まるで気にしていないかの様に無視をして女に語りかけるガキ。もう事が済んだとばかりに振る舞いやがる。
「おい、すかしてんじゃねぇぞクソガキが!」
「少し、黙れ」
仲間が威嚇すると奴が指でナイフを払い落としながらそう告げる。たったそれだけで、背筋が凍り付くように冷たくなったのを感じた。手も、足も。それどころか口さえ凍えて動かなくなってしまう。
「スズちゃん、ヨッカさんは怪我をしてしまっているから治療してあげて」
「かしこまりましたキルヴィ様」
何処にいたのであろうか?奴の言葉に使用人の女が現れて治療を始める。怪我はあっという間に回復させてしまった。そしてそのまま連れ立って去っていく。俺達は目の前で起きていることに、ただ眺めていることしか許されなかった。
「さて」
奴の言葉と共に、身体の硬直が緩む。今のは間違いなく奴の力だということだ。……今更ながらこいつはガキの姿をしたとんでもない化物なんじゃないかという考えが持ち上がる。
「だ、だから俺はこの件止めようと思ったんだ」
同じ考えに先に辿り着いたのか、仲間の1人が奴の足元へと頭を擦り付けようと駆け出した。
「てめっ、裏切るのか!」
「うるせぇ!どのみち失敗して「誰が動いていいと、口を開いていいと言った?」」
擦り寄ろうとした奴、そいつへ糾弾をしようとした奴の両方の腕がありえない方向へと歪に曲がり弾け飛んだ。血飛沫が飛んできて俺の顔へとかかる。
「うーん、これでは掃除が面倒だ……ああそうか、こう弄ればいいのかな」
その様子に何か気に入らなかったのか、奴は悲鳴や苦悶の声を一切気にせずに何かを呟いていた。
こ、こいつ俺達の事なんてなんとも思ってねぇ!
「よしよし、多分大丈夫。あー、でなんだっけ?そこの転がってる君、今止めようとしてたとか言った?」
解答してよ、と心底面倒くさい表情で質問が飛んできた。だがそいつは先の怪我で心が折れてしまったのか、「腕が……俺の」とうわ言を吐くだけである。
「うん、そういうの良いから」
何をしたのかわからない。わからないが奴の言葉と共にそいつは正気に戻されたのだけは確かであった。
「同じ事を何度も聞き返すの嫌なんだけど?で、どうなのさ」
「あ、ああ!俺は止めようとしたんだ!なのに」
「あのさ、すぐバレる嘘ついて何がしたいわけ?それで本当に騙されると思ってるの?この期に及んでまだ舐められるのか僕は」
ぐしゃり、と何かが潰れる音が聞こえた。動いたらどうなるかわかったものではないので、目だけでそちらを見ると、そこにいた筈の裏切野郎の姿はなく、見慣れぬ赤黒い箱が転がっていた。
「これで2人……何か申開きのある者は?」
2人?言っている意味がわからねぇ。そう思って反対側に視線をやると、いつの間にかそこにも箱が転がっていた。その位置に居たのは、そう。あの女を犯そうとしていた奴の筈だ。静かになったと思ったら、何処に行って……
「あれ、誰か探してる?もしかして仲間の姿が変わったから困惑してるのかな?」
そこに居るじゃない、とガキ……いやキルヴィは嗤う。だがそこにあるのは箱だけ。こちらが理解できていないとみるや、キルヴィは「やれやれ」と言いながら箱の一つを小突いた。その衝撃だけでいとも簡単に箱は開かれーー
「なんだよ、なんだってんだよそれ!」
中からは完全にバラバラになった男の体が現れた。
「ああ、まだ生きてるよこれ。こんだけバラバラになったからには戻すのは大変だろうけどね」
戻す気もないけど、とキルヴィは呟く。
「いつかは立ち上がれると思った時点で僕は間違えたんだね。君達はいつまでも弱者という立場に胡座をかく愚か者だった」
「ぐ、グリムとやらは弱者救済の為の組織じゃなかったのかよ!?」
「そうだったとも。だが救済する立場の者が弱者では成り立たないのだろう?考えを改めさせてくれた事には感謝しているよ?やる気のない、他人の事を餌としか見ない奴を生かして甘やかした結果を知る事ができたんだからね」
コツリ。キルヴィは靴を鳴らし歩みを進めてくる。
「た、助けてくれ」
「旗色が悪いからってそんな都合のいい事。もう遅いんじゃないかな?」
コツリ。箱が一つ増えた。
「これからはちゃんとやるから」
コツリ。箱が一つ増えた。
「どうすれば助けて貰えるんだ?」
コツリ。箱が増える。
「金も要らねえから」
コツリ。箱が増える。
「どうせ皆殺すつもりなんだろ」
コツリ。気がつけば俺以外誰も残っていない。
「何か、言い残す事は?」
「くたばれ、偽善者野郎が。人間ごっこしている化物め」
精一杯の嫌味だったが、顔を顰めもせずにただ無表情で「そうか」と言われ、視界が暗転する。
全身が焼けるような痛みを感じる中、「謝る声は1つもなかったな」なんて声が最期に聞こえた気がした。




