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MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
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MAP機能で世渡りを

「さて、思わぬところから思いがけない貴重な情報を得たところで、話を戻すぞ地図師よ」


 金貨を想像以上に渡されて、まだおっかなびっくりしているスズちゃんの肩を抱き寄せて落ち着かせながら、オスロの話を聞く。スズちゃんは僕の顔を見て、クタンと力が抜けたようになってしまっていた。もっとも、先ほどの話から続く言葉なんて限られているだろうけれど。


「話が早くて助かるな。そうだ、お前に依頼したいのは新大陸までの海図の作成、および新大陸の地形調査だ」


 新大陸の地形調査は予想通りとはいえ、海図……海図かぁ。知識として知ってはいるが、地図とは作成方法が少し異なるのだ。試す機会もなかった為、MAPが対応しているのかもわからない。船旅というのがどれぐらいかかるかもわからないので、どう返したものか。


「いや、そもそも僕を頼らずとも国に適した人……その地図を作ったっていう技師は居るでしょう?なんで僕の元に訪れるのさ」


「無論技師も同行する。が、出遅れている分少しでも差を詰めたいのだ。その為に優れた者を複数を連れて精度を高めたい」


 オスロが言うにはこういうことだった。複数連れていく技師だが、各々の感覚で作成するのでどうしてもムラが出きるらしい。なので作成された物を重ね合わせて見て、平均化した物を本図とするのだそうだ。僕にもその技師の一員として参加してほしいとのことであった。


「先程見た地図を見て私としては是非とも参加してほしいと感じた。が、海上は陸と違ってなにがあるかわからんからな。嫌なら断られても仕方がないと思っている」


 断っても良いと向こうから提案してくるのは意外であった。ちょっと考えさせてほしいと言うと、向こうも元より即断するとは考えていないと返してくる。


「僕は他国の、エルフでもない人間だけどその辺はいいの?」


 なんて出来心で尋ねてみると、オスロ一瞬は面食らったような顔になる。


「私とお前は戦いこそしたが、別に私はお前のことを嫌っていないぞ?むしろ気に入っている部類だ。エルフの国といってもエルフだけが国民というわけでもなし。他国のドンパチメインでやり合っている軍属であるならまだしも、ただの1国民なだけのお前に変な事をする奴がいるのであるならば私も黙っていない」


 もっとも今後戦場で敵として出逢ったのであればその時はその時であるがな、と続けられた。


 正直、敵だと思っていた人物にここまで買ってもらっているなんて思ってもみなかっただけに戸惑いと嬉しさが入り混じった、不思議な気分になっている。できるだけ前向きに考えたいと思ってしまうのであった。


「後数日は厄介になるつもりだが構わんか?その後は国に帰るつもりだ。ああ、居る内に返事が貰えればありがたいがそうポンポンと決めれんだろう?もし同行してくれると決心がついたのならば、これを使ってくれ」


 そう言ってオスロは僕に不思議な形のブローチを手渡してきた。「これは?」と尋ねると、一回のみ3分だけどんだけ離れていても会話ができる魔具だと説明を受ける。こんな便利な道具があるのかと思うが、ノーラ原産の希少な素材で作るので非常に高価でそうそういくつも作れないと言われる。


「お前はアムストル周辺なら一瞬で来れるのであろう?それで知らせてくれれば私が迎えに行こう。ああそうそう、私が帰ってから造船等も始まるのでな、出航までは早くても2年……いや、3年はかかるか」


 それを聞いて内心ホッとする自分がいた。トワの事、グリムの事と心配事はいくらでもあるのだ。3年もあれば今想定している不安事もある程度落ち着くくらいにはできるだろう。


 そのぐらいまで話を進めているとようやく女性陣も落ち着いたのであろう、静かな落ち着いた空気が屋敷に流れていた……隣では沈んでしまったクロムに気がついて、モーリーさんが励ましている。


「ああそうだオスロ、春に合同結婚式やるんだけど」


「私はいかんぞ?」


 結婚式の話を振るとオスロは寒いのか手を擦りながら短くそう答える。


「出席してやりたい気持ちは私とてある。が、うちうちでやるならまだしもそこそこ発展している都市でやるのだろう?顔が割れてると面倒なのだ。私自身も忙しいだろうしな」


「そっか。仕方がないのかな」


「諦めろ、私も諦めた」


 そう言ったオスロの背中は少し寂しく揺れたように見えた。


「さっき言っていたみたいに、アムストル跡地周辺まで来てくれればすぐにでもこっちに来れるけど……それか滞在期間伸ばしてくれても良いし」


「その申し出はありがたいが、やはりやめておこう。この滞在期間の挨拶で我慢しておく」


 これでも久しぶりの長期休暇だったのだ、また仕事が溜まっているだろうからなとオスロは目を細めた。


「しかし、まさかお前も結婚するのか」と唐突にオスロが笑い出す。今、心をまた読んだのか。


「結婚も、子供ができるのも、大変ではあるが良いものだぞ?……まぁ、育児は自分の思ったようには子が進んでくれんのだがな」


 そう言って、まだ幸せの余韻に浸っているであろう顔のカシスさんの方を眺める。想像するしかないが、親として彼も相当に大変だったのだろう。


「つまらない質問かもしれないけど、夫婦生活ってどんな物なのかな?」


 ついついそんな質問をしてしまった。我ながら気を許し過ぎな気がする。オスロもやや呆れた顔で僕の方を見た。


「始まる前から不安がってるようじゃ良くならんぞ?しかしそうだな……笑うんじゃないぞ?」


 彼はそう言いながら夫婦のあれこれを語ってくれた。意外であったのは実は彼は入り婿だった事だ。カシスさんのお母さんには今でも頭が上がらないらしい。


「当時私は騎士ではなくただの従士でな、実力こそあれどなかなか認めてもらえなんだ。が、当時の首長の親戚筋に当たる妻に見染められてな。側仕え、晴れて騎士へと昇進したのよ」


 そんな感じで過去の話に耳を傾けていると、ようやく自分が一杯食わされたと把握したのであろうセラーノさんがオスロへと頭を下げにやってきた。


「ま、心配せんでもなるようになるさ。先の話も無理強いするつもりはない。家族は大事だからな」


 彼はそういうと、改めて話し合おうと言いながら酒を片手にセラーノさんと共に奥へと場所を移したのであった。


 新大陸、か。オスロが離れたので少し落ち着いて考えることができる。正直、話に惹かれていない訳ではない。新しい事、新しい地。僕にできると思ったからこそ、オスロが話を振ってくれた事。実力を知っている上で誰かに認められるというのが、ここまで嬉しいとは。


 だけど、だ。春からは夫婦になる。トワの事は数年世話こそできるだろうけど、数年といえば僕もスズちゃんも年齢的に大人になっている。スズちゃんだけではない、ラタン姉にはただでさえ待ってもらっている状態なのだ。実子が欲しい、そう思った時に僕が不在なのではまた待たせてしまう。


「……様?キルヴィ様、聞いてますか?」


 いけない、また思考に没頭しすぎていた。我に帰ったらしいスズちゃんに何度も呼ばれていたことにようやく気がつき、謝罪をする。ラタン姉もその様子を見ていたようで、近くにやってきた。


「どうしたのですかキルヴィ、スズ。さっきの……オスロでしたっけ?あの人に何か言われたのですか?」


 そうだったら許せない、とやや殺気を滲ませながらラタン姉が尋ねてくるが、オスロは悪くないよと言うとその気配を消して僕の方をまじまじと見てくる。


「キルヴィ、やりたい事があるのならボク達に遠慮なんてしないでいいのですよ?もうすぐふ、夫婦になるんですし?」


 話をちゃんと聞いていなかったであろうラタン姉にそう言われてしまうとは、僕はどれだけ顔に出やすいんだろうか。そうこうしている内にスズちゃんからラタン姉へと先程の話が共有される。話を聞き終えた時、ラタン姉は自分の事のように嬉しそうな顔になった。


「よかったじゃないですかキルヴィ、あなたの実力を認めてくれる人が増えて。それにしても新大陸ですか……ボク達もついていけるんでしょうか?」


 そういえば同行者がいてもいいかは確認していなかったな。同行可能であるならばそれこそ負い目をそこまで感じなくてもいい、のかな?


「戦う事以外で手に職を持ってお金を稼げるのなら、ボクはそうした方がいいと思いますよ?新大陸であるならば、これまで枷になっていた内部情報の漏洩について気にしなくてもよくなるんでしょう?」


「でも!でも僕が今更そんな、普通の幸せを求めていいのかな……」


「何言ってるんですかキルヴィ様、あなたはウルティ・ラ・グリムの長でもあるんですから。泣くのはこれっきりだって、戦い以外にも道はあるんだって他に示すいい機会でもあるんじゃないですか?」


 僕の事を一番知ってくれている恋人2人に、僕は僕のやりたい事をやっていいよと背中を押されている。


 MAP機能……どうして僕に宿ったか分からないがこの力を活かす事ができ、人に貢献できるのであるのならば、僕はこの力を使い世渡りをしたい。


「ねえねえ、そのこアンにもみせてー?」


 僕のそんな決意を他所に目敏くトワの気配を感じ取ったのであろう、アンちゃんがラタン姉にトワを見せて欲しいとねだる。ラタン姉が良いですよとそっと手渡すと、目を輝かせて眺めた後頬擦りをしながらギュッと抱きしめる。


 そういえば母さんからの最後の手紙に、ラタン姉の子を抱いてみたかったなんて言葉があったな。アンちゃんの中の母さんの意図なのか、はたまた偶然かはわからないが、これはその夢が叶った光景なのか。


 母さん、子ができるのと結婚との順番が前後してしまった感は否めないけれどこの春に僕はラタン姉とスズちゃんと結婚して夫婦になるよ。まだ大人というには少し早いかもしれないけれど、良いよね?


 僕はちゃんと、僕の道を見つけたよ。

これにて少年期本編終了です。

閑話を数話挟んで次章に続きます。

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