表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAP機能で世渡りを  作者: 偽りの仮面士
2区画目 少年時代
241/303

意外な関係

「よう、邪魔しているぞ」


 その声が聞こえたと同時にパタンと扉を閉める。よし、きっと見間違いだ。MAPの表示が友好色だといつも見落としがちになるのは本当に困り物なので、ちゃんと意識して直さないといけないな、うん。


「どうかしたのですかキルヴィ、後がつかえてますよ?」


 一向に入る気がない僕に見かねてラタン姉が尋ねてくるが、正直それどころではない。とりあえずすぐには襲ってこないだろうということから、こちらの面子のことを考える。


「ラタン姉は僕の後ろ、クロムの前に来て。モーリーさん、セラーノさんはクロムを両脇から抑えておいてほしい」


「わ、わかったのです?」


 僕の急な指示、それも謎の隊列変更している間に、痺れを切らしたのか内側から扉が開かれた。そこに現れた顔にクロムの顔が一気に険しいものへと変化し、今にも飛びかからんとするのを全員で抑える。


「おいおい閉めるこたないだろう?ここはお前達の家なんだから」


「そう思うのなら、どうぞお帰りはこちらです招かれざるクソお客様。さっさと目の前から消えて無様に死んでくださいませ」


 クロムの尋常じゃない様子にこちらの面子は戸惑いが隠せないようであった。だがその相手はクロムの事など眼中にないのか、あっけらかんとしてその罵倒の言葉を受け流す。


「久しぶりだな地図師。息災であったか?」


「地図師、ってそれは僕の事?記憶が正しければ貴方にそんなことを言われる間柄ではなかった筈だけど、オスロ・ダブリン」


 なんだ、つれない奴だなと笑い飛ばされる。この旅でも散々こいつに……正確には僕の思考から読み取った、イブキさんが作り出した影に苦戦させられた。どうしてここに居るのかはわからないが、今回は本物に違いないだろう。


 いや、そもそもアムストルで無駄に死傷者が増えたのはこいつやドゥーチェ軍のせいであって、こんな大ごとにした原因の一つであるとも言えるのではないか?


 悶々とそんな事を考えていると後ろからひょっこりとカシスさんが気まずそうな顔を覗かせた。さらにその後ろには留守番組も僕達の帰りを出迎えてくれている。よかった、とりあえずは皆MAP表示の通りに無事のようだ。


「で、どうしてこんな所にノーラの騎士長なんかが国をほっぽってまで居るのさ?国境ラインは大変な事になってたんだけど?」


「ああ?今私は休暇中だ、国のことは国が対処するさ。まあ何があったかは聞かせてもらうがね」


 そう言うと目を瞑るオスロ。心聞を使っているのであろう。しかしその顔は次第に険しいものへと変わっていった。


「アンデットの大群に村も砦も落とされていただと!?何だこれは!」


 ほら、やっぱり一大事なんじゃないかとツッコミを入れそうになる。しかしーー


「なんという体たらく!砦には騎士もいながら、周りの村すら守れず落ちるとは、軍属として弛んどる!」


「そっちなの!?」


「当たり前だろう、国境配備は国の要!そこに配置される騎士とはエリート!戦場におけるエリートぞ!?それがアンデットに遅れをとるとはエリートの風上にもおけぬ!」


 そうだった、こいつはこういう奴だった。やはり記憶の中にある僕のイメージは所々マイルドに改編されていたようで、影ですらなかなかに辛辣に言っていた筈が、本物はそのさらに上をいっている。


「いや、まあそれはいい。帰ったら叩き直してやればいい事だからな。そんな事よりも、だ」


 国の大事と言いながらもそう話を切り上げ、彼はギロリと目を向く。その視線の先は僕でも、そしてクロムでもなかった。クロムの隣、そこに居たのはーー


「ベルモンド家のセラーノとは、お前のことか?」


「ええっ!?は、はぁ確かに私ですけれど……」


「そうか」


 訪ねるだけ訪ねて、オスロはまた目を瞑る。いったいどういう状況なのか、帰還組が考えあぐねていると僕の隣にグミさんがやってきた。


「おかえりなさいキルヴィさん、ご無事そうで何よりです」


「ただいまグミさん、留守番ありがとうございました。あの、結局なんでここにオスロが居るんですか?」


「そうですよね、気になりますよね」


 グミさんは相変わらず困った顔をしながらオスロとセラーノさんを交互に見ているカシスさんの顔を見て、ため息をついた。


「私から言ってもいいんですが、事の発端である当人が居ますしそちらから説明してもらったほうが良いかなと」


 ふむ?グミさんのこの様子からしてどうやらカシスさんが関係しているらしい。そこまで聞けば察したのか、ラタン姉がカシスさんに今一度鑑定を飛ばし、そして納得した表情になる。何がわかったのか訪ねてみるも、


「彼もまた、子を持つ親だと言う事ですよ」


 と返される。ならばとカシスさんに訪ねに行こうとしたが、その前にオスロがカッと目を見開いた。


「エルフでないのが心底不服ではあるが、此奴が決めた男が貴様であるというのならばやむを得ぬ!娘の婿に相応しいか、手合わせ願おうか!」


「ちょ、それはやめてって言ったでしょパパ!」


 カシスさんがパパといった事でセラーノさんが盛大に咳き込んだ。ってパパ?今オスロに向かってパパって言ったのかカシスさん!?


 カシスさんからのとりなしに、オスロはむぐぐと口惜しそうな唸り声をあげる。すごい、僕もクロムも苦戦を強いられたあのオスロにこんな事をさせている。いや、それよりもだ。


「じゃあオスロはカシスさんがいたのにも関わらず、アムストルに攻め込んだって言うの?」


「それを言うなぁ地図師ィ!そこな馬鹿娘は放蕩娘でな、その上何をどうしとるのか分からんがどこに行ったか私の耳にもなかなか届いてこんのだ!一応友達の家に行くとは言伝があったが、よもやアムストルに滞在しとったなど、知っておれば開戦時期についていくらでも上告したわ!」


 わー。なんかそれを聞いただけで、オスロに少なからず同情の念が湧いて来てしまった。もしトワがカシスさんに似たら嫌だなぁ。グミさんが「それでも開戦はするんですね」って小さく呟いていたが、少なくともあの日時が足りないが故の混乱は避けられたであろう。


「遅かれ早かれアムストルが戦場になる事くらいは予見できたであろう元代表殿?自治を認め法で守られてるなんぞ、隣接国の総意であっという間に裸にされてしまうと我が友、お主の父にも散々言って来た事だが?」


 ぼやきを拾われ、何倍にもされて返された事でグミさんがぐっと言葉に詰まる。それでもやはり納得はいかないようで口を開くが、言葉にする前に心聞で拾われたのであろう、オスロが鼻を鳴らす。


「友人であるならまず開戦するな、とは笑止!仕事として命じられ国を背負っている以上、友人であろうがその娘であろうが関係ないぞ?……流石に多少は手心を加えなくもないが、それは戦が終わった後の話だしな」


「あ、あのパパその辺で……」


 見ればグミさんはコテンパンに言い負かされて目に涙を蓄えていた。それを見てカシスさんはオロオロしている。


 先程心境を少し理解してしまったのが影響しているのか、今の部分に関していうならば、オスロの言っていることは間違った事を言っていないように僕は感じてしまった。


 寧ろ、あの時点で軍を率いるような要人の娘だと分かっているのならばそれを盾にしてみせる強かさを見せれば、僕達は一度に二つの敵に当たる必要がなかったのだ。カシスさんがオスロの娘だという説明は、あの時聞かせて欲しかった情報だ。


 オスロがこっちを見て不敵に笑う。またしても心を読んでみせたのだろう。腹は立つものの戦場に立った年季でいえばずっと上なのだ、僕の考えに理解を示したという事だろう。


「まぁ過ぎた事だ。あの時こうしていれば……など、いくら考えようと果てのないものだ。娘もまあ、傷物にされたようであるが生きているのだ、ただそれだけで十分ではないか?」


 戦を仕掛けて来た側が勝手な事を、と言いたげな顔でグミさんがオスロを睨みつける。だが、それ以上に彼を睨みつけている人がいた。


「そちらの言い分はわかりました。が、戦が終わったというのであれば謝罪をして頂けませんかね?ここに身を寄せているのは多かれ少なかれアムストルでただ生活を営んでいた罪なき市民だ。突如としてあなた方にその権利を奪い取られたのだ!それを守ろうと動いたグミを、カシスを乏しめることは許さない!」


「ほう、そこで貴様が立つかベルモンドの!」


 わかっていて焚き付けたのだろう、そう言いたかったが黙っておく。言いながらオスロが楽しそうな獰猛な顔を見せたから、というのは関係ないが僕にしては今の流れはでき過ぎているように感じたのだ。


 果たしてオスロが家に来てからいったい何日たっているのだろう?


 グミさんだけが憤りを覚えた、なんて事はないはずだ。同じくアムストルに住んでいたトトさんニニさんが沈黙を貫いて、それどころかセラーノさんに加勢しようとしているクロムやモーリーさんを邪魔にならないようこっそりと止めているのだから。


 最初から仕組まれていたやりとりであるならば、結果も見えている。とはいえ、頭に血が上り視野が狭くなった今のセラーノさんが気付くのは難しい事であろう。思いの丈をオスロへと迫りながらどんどんぶつけていく。


 その後ろ姿にまさか嬉しそうに目を輝かせている2人がいるなんて、想定だにしていないのだろう。


「だから私は!この2人と!添い遂げる覚悟を持って今、死地から帰ってきたんですよ!」


 気迫に押されたように後退していったオスロの背中が壁に到達したと同時に、セラーノさんは皆の前で堂々と告白したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ