そして決戦へ
リリーさんから離れて十何度か飛び、ようやくMAP圏内に入れる事ができたラタン姉達は、数人の、恐らくは襲撃からの生き残りであろう人たちを連れて少しずつ西に向かっている最中であった。だが動きがややおかしい。というより、これは……
ペースを上げすぐさま近くまで駆け寄る。思った通り、まさに襲撃を受けている最中であった。モーリーさんが飛びかかってきたアンデットに対しその鍛えられた健脚で蹴り飛ばしているのが目に入る。……いや、強くなりすぎでしょう。
とりあえず目についた敵を除去しつつも走り抜ける。そうしてようやく目的の人物を見つけ、今まさに飛びかからんとする死者を逆に吹き飛ばし、僕はその愛しい人の前に立つ。彼女は構えていた盾をさげ、少しほうけたような顔をしてこちらを見つめた。
「ああ、幻覚でしょうか?キルヴィがこんな所にいる気がします」
「幻じゃないよ、ラタン姉達を迎えにきたんだ」
「ああ、ああ!本当に本物のキルヴィなのですね!?」
再開できた喜びに本当は抱き合いたいが、今は周りを片付けるのが先だ。頷き合って背中合わせになる。いつからだろうか、追いかけてきたはずの背中がこんなにも小さく感じるようになったのは。
「こんな所に来るなんて、だいぶ予定とは違いませんか?」
「こっちの情報は筒抜けみたいだったからね。奇襲ができない以上、合流するのが戦力を確保する上で必要と判断したんだよ。それに、ラタン姉達が心配で」
会話をしながらラタン姉が上空に炎を打ち出す。それは大きく円を描くと膨れ上がり、弾けて方々へと飛び散って周囲にいたアンデットだけを焼いてみせる。僕と違って味方の位置を見分ける能力があるわけでもないのに、相変わらず器用な芸当をやってのける。
「辿ったルートでの生存者はこれだけでした。襲撃は当たり前のように毎日起き、それに、なにやら恐ろしい攻撃がされた痕跡も見つかりましたのです」
ラタン姉の攻撃で倒しきれなかった分に目測で狙いを定め、足元から光の柱が出るように魔法陣を設置をし打ち上げる。これでしばらくの安全は確保できたであろうか。
「体が何かで溶けてしまうような?」
「よく分かりましたね……知っているという事は」
「実際に体感したからね」
「大丈夫だったのですか!?」
「なんとか。端的に言ってしまうと死を呼ぶ黒い水だ。こちらのルートはそれのせいでほぼほぼ全滅してしまっていたし、それを行って見せた相手はどこかからこちらを一方的に見ているようであった」
「それを行う敵がこっちのルートにいるかと思ってだいぶ警戒していたのですが、そうですか。……脅威度は想定よりもっと上だって事ですか」
周りを見渡すもそれぞれが戦闘を終え後処理を始めたのを見て、警戒態勢を解く。ふむ、こちらも一人も欠ける事なくやってこれていたみたいで一安心だ。後ろへと振り返り、ようやくラタン姉を抱きしめた。
「ともかく、無事で何よりだよラタン姉」
「ふふっ、キルヴィこそ。それで、姿が見えませんがスズはどこですか?先にリリーさん達と合流でもしましたか?」
抱きしめ返してくれたと同時になされた質問に、僕は言葉が詰まる。こちらは無事とは言い切れない。処理を終えて横に来ていたクロムにもこれまでのことを話し、スズちゃんが吸い込まれた本を見せる。確かにスズの筆跡だとクロムは呟き、皆が黙り込む。
「こうなったのは僕のせいだ。多分どこかで相手のことを、イブキさんの事を見誤ってしまった。甘えがあった!」
「不測の事態が多いこの状況下です、貴方だけでも無事で良かったのです」
「ああ、ラタン姉の言う通りだ。それにスズだっていつかは戻ってこれるって言っているだろう?心配するな」
項垂れる僕に対し、ラタン姉もクロムも責めてくることはなかった。そんな中、モーリーさんは本を手に取り裏表とひっくり返しながら眺める。
「……この装丁、ここの傷。以前アムストルの古市で見かけたものにそっくりです。というよりそのもの?」
その言葉にクロムもハッとなってその本を掴む。
「やっぱりだ、これはあの時イブキさんがやっと見つけたと言って買った本じゃないか!となると、これが蘇生に使っていた本だというのか?」
「2人ともよく覚えてますね……モーリーなんか、私達と出会う前の事でしょうに」
以前死者蘇生の話をした時には消えたと言っていた本がこうして手元にあるということは、あれからもこれを使用したと見ていいだろう。何か手がかりになればいいが……
「行きましょう、キルヴィ。いち早くスズが帰ってこれるようにも立ち止まっている時間はありません」
ラタン姉に促され、僕は決戦地となるウルの城へと向かうのであった。




