スズちゃんとの侵攻③
キルヴィ視点です
さて、2日目だ。昨晩はアンデット達による襲撃自体はあったものの、予想していたよりも少なく、そこまで大きな規模ではなかった。飛んでいるタイプが時々上からやってくる以外は安全な位置で対処できたということもあり、交代でスズちゃんと仮眠をとることもできたので疲れもほとんど残っていない万全の状態と言えるだろう。
夜が明けるまでの番を僕がやっていたので、朝日が照らし始める中隣で寝ているスズちゃんの顔を眺める。いつもせわしなく身の回りの世話をするために働いてくれているスズちゃんの寝顔をマジマジと見た事はコレが初めてかもしれない。
眉間に皺が寄っている。怖い夢でも見ているのだろうか?無理に起こさない程度に頭をゆっくり撫で、見守る。すると、彼女は寝ぼけたまま撫でていた手をキュッと掴んで、自分の胸元へと抱え込んでいってしまった。腕が彼女の持つ膨らみに触れているのは不可抗力だろう。
このままの姿勢だと辛いので自分も横になる。顔が近くなり、少しドキドキし、同時に悪戯心が持ち上がってくる。
「バレないかな……?」
僕は彼女の顔にゆっくりと己の顔を近づけて、そっと頬に口づけをしてみせる。
「……頬だけで、いいんですか?」
目を閉じたままのスズちゃんがそんな事を言ってくるものだから僕は大変驚いた。どうやら起きていたようだ。帰って僕自身が恥ずかしさを覚えている中、「よいしょ」と身を起こすスズちゃん。
「おはようございます、キルヴィ様。夜番ありがとうございました」
「ああ、うん。おはようスズちゃん」
「……なんで仕掛けた方が恥ずかしがっているんですか。キルヴィ様は私の主人であり、恋人でもあるんですから堂々とやって頂いてもいいと思いますよ?」
むしろコレまでが控えめすぎるので、もっと愛を表現してください!なんて言われてしまい、思わず苦笑してしまう。ここのところ僕の恋人達はグイグイくるようになってきた。
すぐに朝の支度をしますね、と調理を始めた彼女を横目に僕は今日の侵攻ルートを再確認する。その近辺の集落や隠れ里があるとグミさんに言われた所にMAPで焦点を当ててみるが、いずれも生体反応は示さなかったと言う事はそう言う事なのだろう。
砦は持ちこたえているものもちらほらと見受けられるが、援軍らしいものが来ている様子もなく、ジリ貧であるように思えた。恐らくは申請自体はしているのだろうが、そのいずれもが志半ばで果てていると考えられる。拠点を完全に手放しにすることもできず、半ば絶望しながら昨日の砦のように籠城しているのかもしれない。
既にアンデットの被害はなかなかに大きなものであると思うと、出遅れた感が強くなる。
「お待たせしました……難しい顔していますね、あまり良くない感じですか?」
「ありがとう、スズちゃん。うん、そんな感じ。今日も頑張ろうね」
「キルヴィ様と一緒なら、どこまでも」
作ってもらった食事をいただく。クロムと比べるとすごく安心する味だ。僕の好きな味をよく分かっている。美味しい、というと彼女は嬉しそうに微笑む。
「……ッ!?」
悪寒。どこからかじっとりとした目線で見られているような、そんな感じ。スズちゃんも感じ取ったみたいで、身構えながらも体を寄せてくる。
こちらが悟ったのに勘付いたのか、それとも興味がなくなったのか。やがて不快感は薄れていった。一方的に覗かれるっていうのはこういう気分なのか。
「……早く、この場を離れよう」
何者かがこちらの様子を探っている。それだけで急ぐのには十分な理由であった。そもそもここは戦場なのだ。少し浮かれていた自分を恥じ、食事をかきこむ。先程とは打って変わり少し悲しげな表情を見せるスズちゃんに申し訳なさを覚えた。
片付けもそこそこに、縮地で移動を開始する。だいたい10回程縮地をした頃であろうか?離れつつある拠点の上部に大きな影が現れたのが見えた。影の持ち主を探し、視線をあげると見るだけで鳥肌が立つ様な、禍々しさの塊が現れていた。直感でわかる。あれは、ヤバい。
一緒に見上げたスズちゃんは恐れからか顔を青くし、ストンと座り込んでしまった。どうにか立ち上がろうとするものの、腰が抜けてしまったらしくうまく立ち上がれない。胸元に力尽くで抱きかかえて縮地を連続で行う。
抱きかかえられた事で僕の後方を見ていたスズちゃんによると、それは高度を落とし始めたようであった。ゆっくりと、しかし次第に早く。拠点にぶつかったか、といったところで衝撃により大きく地面が揺れた。少し遅れて、水が弾けた様な音。
「スズちゃん、どうなった!?」
「キルヴィ様、もっと!もっと遠くまで!黒い波が押し寄せてきます!」
波!?縮地のスパンタイムにちらっと後ろを振り返るとどす黒く濁った水の様なものが確かに押し寄せてきていた。
「液体ならば!」
壁を設置し、勢いを削げるだろうか。設置魔法で急いで防壁を展開する。これで防げない様ならば、転移で出発点まで戻る事も視野に入れなければならない。
幸いにも、効果はあった様だった。壁にぶつかったことにより速度がやや落ちる黒い水。それならば、と防壁を乱立させつつ縮地である程度距離を取り、一旦スズちゃんを降ろし、地図を使った地形作成で足元を昨日の拠点の様に盛り上げる。
「これで大丈夫か?……よし、耐えれてる。大丈夫みたいだ」
押し寄せる水位以上になったところでかえしをつけ、跳ねっ返りがかからない様にしたところで長く止めていた息を吐き出す。思い出した様に汗がブワッと噴き出す。スズちゃんが荷物からいそいそとタオルを広げて、僕の汗を拭ってくれた。
そんな感じで、2日目の朝から出鼻を挫かれた感じになったのだった。




