ラタン姉達の侵攻①
ラタン姉視点です
閑散とした荒野。目印になるものは特になく、どこまでも同じような景色が続く中を時折現れるアンデットをあしらいながら、ボク達は進んでいた。
「クロム、今どこまで来れましたか?」
先を進むクロムへとそう声をかけると、彼はキルヴィから受け取った、魔法の施された地図を広げて確かめる。
「もう少しで国境ラインに辿り着く辺りです」
空を見上げるとまだ日は天頂に達していない。なかなか良いペースではないだろうか。
「わかりましたのです。各自、索敵を怠らないようにして下さいなのです。ボクらが知ってる通り、その地図で表されるのはキルヴィがさっきの位置から探知できる、生者の反応なのですから」
言っている矢先に、後方の雪溜まりの中から突如として現れる氷漬けのアンデット。すぐ近くにいたモーリーが小さく悲鳴をあげる。
「シッ!」
血の巡りのなくなった青い亡者の手がモーリーの腕を掴もうとしたところで、銀色の煌めきが走り、手の持ち主が細切れに寸断された。ボクはすかさずそれへとランタンから取り出した炎を吹き付ける。やはりアンデットは燃やすに限るのです。
「モーリー!君は、強くなったと言っても実戦経験は皆無なんだ!死にたくなければ一瞬たりとも注意をおこたるんじゃない」
やや厳しめな言葉がクロムから発せられる。会話している中でも目線をあちこちに飛ばし、気を常に張っているのが見て取れた。
「す、すみませんクロム君。ラタンさんもありがとうございます」
先日の活気は何処へやら。思い人から強い口調で叱責を受けたと感じたのかシュンと落ち込んでしまったモーリーへ手招きをして近寄らせる。
「初陣なんてそんなものなのです。下手に気負わず、戦慣れしたボク達の近くにいればまず守れますので、もっと近づいていて下さいなのです」
「そうですよ。最初から上手くいく人なんてそうはおりますまい。自分の身を守ることを第一に、私達に任せてくれれば良いのです」
それぞれの獲物を手でなぜながら放ったボクとセラーノの言葉に、少しだけでも気を取り直せたら良いのだが。
やや悪くなった空気を感じ、ここで一度休憩をしようとヨッカさんや華撃隊の人にも声をかける。やや遠くにいる人達にはモーリー達に伝えてもらうべく、セラーノさんを護衛にして行ってもらった。クロムはまだ先に進めるとやや不満げにしていたが、ボクが窘めると折れた。そのまま近くに座り込むので、隣へと腰掛ける。
「ああ、ラタン姉……どうしよう。つい、モーリーにキツく当たってしまった。嫌われてしまっただろうか?」
ああ、やはり気にはしていたのか。キルヴィ同様、弱気な態度を他人にあまり見せることがない所は果たして誰に似たのやら。仕方がない子だ、と考えながら胸をトン、と叩く。
「貴方が言っていた内容自体は正しいのです。が、もう少し言い方を考えなければいけませんね。心のケアをしっかりしてあげてきて下さいなのです」
「許してもらえるだろうか……」
「それは、貴方の態度次第です。クロムは焦っているようにボクからは見えるのです。落ち着いて対処するのが良いと思いますよ?」
そこまで言って、ボクは立ち上がる。モーリー達が戻ってきたのが見えたからだ。後ろで姿勢を正し、何事もなかったかのように振舞うクロムを強かに感じた後、結界を張れる範囲内へ全員が入ったことを確認し、ゆっくりと結界を張る。アクシデントもなく、無事に張ることができボクはようやく一息をついた。
「はー、キルヴィさんもすごい思うとりましたが……先の戦い方といい、この結界といい、やはり皆さん相当の実力者やんなぁ」
華撃隊の1人、確かサチという名前だったでしょうか?持ち上げられて悪い気分ではありませんが、昨晩は醜態を見せてしまったので少し気まずくはあります。さも自分が実力のないかのような言動ではありますが、彼女の獲物、二刀流のキレは鋭くクロムと同等の実力を持ち合わせているように見えます。指揮を飛ばす姿を見ても、他の華撃隊の人と比べても頭一つ差があるのではないでしょうか?
軽く水を飲み、集合した面々とこの先の打ち合わせをする。このまま真っ直ぐ進めばドゥーチェ側の砦が見えてくるはずの位置だ。この先はいよいよもってキルヴィの能力の管轄外になる。地図は本当に地図でしかなくなり、相手の見極めがより重要になってくるのだ。
「雪遁走術を使おうにも、こうも疎らでは役に立たへんしなぁ。足に自信がある人が先行して様子見してくれるとありがたいんやけど」
「もどかしいですが堅実性を取って行きましょう。不意打ちを食らったら元も子もありませんし」
サチさんの言葉へセラーノさんが応える。ここまでの道中、アンデットもそんなに見かけなかったので窮地には陥ってないですが、被害が大きいと前情報をもらっているドゥーチェに入る以上、この先までそんな保証があるとは言い難い場面であった。
「生きている人であったって、物に目が眩んでこちらに敵意を向けてくる可能性もあります。兵站預かりであるヨッカさんは、出来るだけ後方にいた方がいいかもしれませんね」
クロムの意見にウンウンと頷く華撃隊。飢えた人間が一番強欲で厄介であると語ってくれた。
さて、人心地付いたところで行くとしましょうか。




