グリム
「キルヴィ様、彼らの呼び方はなんとすればいいでしょうか?その、義勇兵とはもう立場が異なるように思いますが適した言葉も浮かばず……」
一通り名前を記し終えた後、静かになった彼らを見てクロムがそう尋ねてきた。
ふむ、確かに現在は義勇兵でもなく、かといって仕事をしてない今は傭兵とも呼べない宙ぶらりんになった状態なのか。だったら呼び方は考えたほうがいいかもしれない。
「どう思いますラドンさん、今の彼らを一括りに呼ぶ名称をつけても良いですか?」
こういうことに詳しそうなラドンさんへと話をふると、彼はにこやかに答えた。
「良い考えかと。受けがよければそのまま部隊名や団名へと転用しても良いですからな」
普通に使えて、その後にも続けれるような名前か……ちょっと考えて見たが良い案が浮かばないな。クロムの方を見るも首を横に振られる。
「なんだ、名前をつけるのに困っているのかい?そういう時は無理に良いものをと考えないことだよ。彼らに何をさせたいのか、どういったものにしたいのかを考えれば、自然と言葉が手繰り寄せられるだろう。キルヴィ君なら彼らに何をさせたい?」
なお悩んでいるとツムジさんからアドバイスが飛んできた。
何をさせたい、か。ずっと思ってきたように彼らにはこの地域のパトロールと、いざという時の僕の兵になってもらいたい。誰にだってできることじゃない。正規の兵でない身で戦争を生き抜いて、辛く苦しいことを知っている彼らにだから任せたいことだ。
戦争によってこの辺りの人がこれ以上涙することのない世にしたい。彼らには戦争による悲劇を止めるものを目指して欲しい。泣くのはこれっきりにし、平和に笑って暮らせる世に変えていくもの。
最後の涙。そんな言葉が浮かんでくる。まんま使うよりもこの地域の古い言葉と訛りで言ってみようか。ウルティ・ラ・グリム。……やや長いな、呼ぶに当たっては最後のグリムだけを呼べばいいか。とりあえず他の人にもおかしくないか尋ねて見る。
「ウルティ・ラ・グリムですか。泣くのはこれっきり……なかなか良い名前だと思いますよ。彼らも気に入ってくれるんじゃないでしょうか」
クロムがそう返し、ラドンさんもツムジさんも笑みを浮かべて頷いてくれる。問題なさそうだ。早速彼らに発表すると、友好反応の人から手が上がる。MAPの鑑定で知っているのでする必要はないのだが、なんとなく一度名簿に目を落とし、その挙手した女性に声をかける。
「はい、ヨッカさんどうぞ」
僕の力を十全に知らない彼女達からしたら、一度で誰がどんな名前だったかを覚えたように映ったはずだ。騙しているようで悪いが、この状況を利用させてもらわない手はない。
「あら、早速名前で呼んでくださるなんて光栄ですわ。ちょっとした質問良いかしら?というよりも、これはお願いになるのかも?」
ヨッカさんは少し驚きの表情を浮かべてからそう投げかけてくる。
「ええと、どういった事でしょうか?内容次第ではお答えできかねますが」
「今回私達にウルティ・ラ・グリムという名前をつけられたわけだけど……人数的にまだ余裕はあるのかちょっと聞いておきたくて」
今回集めた物資を思い浮かべる。54人で分けるには多すぎるほど買い集めてしまったと思う。70人、1人あたりの量を少し切り詰めれば80人位までなら可能だろう。
「ええ、余裕はあるはずですね。でも、どうして?」
「私達の仲間で、トーマスという戦友が居たわ。彼は義勇兵の中でも勇敢で思いやりがあり、いつも私達の中心的存在だったの」
トーマス?……ここに集まっている中にはそんな名前は見当たらなかった。それにヨッカさんの言葉が過去形であることから恐らくはーー
「ええ、お察しの通りですわ。勇敢であったがために、トーマス……トムは仲間をかばって戦死してしまった」
やっぱりそうか。ヨッカさんの言葉にトムはいい奴だったとここに集まる人々が懐かしむように話し合い出した。皆からそう言われるような人物に会えなくて残念に思う。
「お願いっていうのはトムの弟の事ですわ。キルヴィ様よりも幼い子ですの。トムは親も早くに亡くなっているからその子は身寄りがなくなってしまったの。私達は生きているからわずかばかりとはいえ報償金も出たけど、トムは死んでしまっているから支払われていないわ。だからもし良ければだけれど彼もグリムにいれて貰えないかなって」
報償金って遺族には支払われていないのか。正式な雇い主がいないとはいえ、国のために戦ったのにあんまりだと思う。
「キルヴィ様、どうされますか?」
クロムがこちらを少し心配そうに見てくる。クロムとしては自分も戦争で身寄りがなくなったので、他人事とはとても思えないのだろう。そんな心配そうな顔をしなくていいと手で合図する。
「わかりました。その子もグリムのメンバーとして迎えます。名前はなんというのですか?」
その言葉に、ヨッカさんは安心した表情を浮かべる。
「ありがとうございます。その子はハドソンと言う名前ですわ」
「ハドソン君か、覚えておきます。他にも戦争孤児になったような知り合いがいれば、あと10人くらいならばなんとかなると思いますが」
それならば、とグリムのメンバーは話し込み始めた。そのうちに戦場で散っていった友の子や兄弟の名前がいくつかあがる。全部僕よりも年下らしい。
「キルヴィ様、メンバーに加えてもらった上で図々しいけれど、この子達は戦闘経験がないの。だから役に立てないかもしれないわ」
ヨッカさんの申し訳なさそうな言葉、だが僕は内心ほくそ笑んでいた。何も戦闘だけがグリムに任せたい活動ではない。
うまくその子たちとやっていけば、子供だからといって守られるだけの存在ではないと、世間に知らしめる事ができるかもしれないのだ。




