村へ
「くしゅん!あー、まだ風邪気味かな」
縮地と案内とを交えながら移動をしていると、途中くしゃみが止まらなくなってしまった。病みあがりだし無理はしないようにと2人から休憩を挟むべきだと言われるくらいの心配をされてしまう。
「大丈夫です大丈夫です、もう駄目だーってなったらここに仮拠点建てるか屋敷まで転移しますから」
「ははぁ、何度聞いても反則的ですね。私の旅している時にも側にいてもらえたならさぞかし気の楽な旅となったでしょうな」
セラーノさんがそう笑う。縮地も転移も最近できるようになったものであるが、仮拠点の作成に関しては初めてあった時から羨ましがられていた。野宿しないといけない時、馬車だけでなく壁も屋根もあるような場所で眠れるのは雨風も凌げてそれだけで気の休まる空間となるそうだ。
もっとも僕にとってはそれが当たり前のことだったので、説明された所でいまいちピンとこないが。
「さて、くしゃみも止まりましたしそろそろ行きますか。そろそろ森を抜けます。近くの村はそこからわりとすぐですよ」
「確か草原地帯だったね?ならば方角さえ覚えれば迷う心配もないか。それじゃあ頼むよ」
頷いて2人と手を繋ぐ。縮地による連続移動で景色が一気に後ろへと流れ去っていくのを感じた頃には、村はすぐ目の前にあった。冬に備え慌ただしく動いている村の人達が見える。
「ふむ、ここがそうなんだね?村の様子もちゃんと覚えておこう」
「見た感じ普段はのどかな所なんだろうねー?近くの環境も豊かみたいだし冬越えも問題なさそうな村かな」
トトさんの話で改めて思ったが、確かにこの村はあまり貧しさを感じない。冬越えの実績だってツムジさんが何年も経由位置としていることからも確かなものである。
「小さい時から変わりないですし大丈夫だと思います。ここはクロムやスズちゃんの生まれ故郷ですしなくならないと嬉しいですね」
「ふむ、キルヴィ君が不在の時になんか困ったことがあったらここを訪ねるよ。よそ者だから心配でもあるが、ツムジさん達と何度か通えばまあなんとでもなるだろう」
到着してから思い出す。そういえばここはイブキさんが子供をさらって行った村だ。イブキさんの記憶が人々から忘れ去られた今、果たしてそれがどのように影響をしているのだろうか?
そんなことを考えながら村の中を歩いて回るとこの村では大きな方の家の前で、ぼうっとした様子で空を眺めている、そこそこ身なりのいいおじさんが目に止まった。
「ん?どうしたんだい急に立ち止まって。あの人が気になるのかい?」
僕が足を止めたのでセラーノさんに顔を覗き込まれる。
「ええ、ちょっとだけ。少し話をしてきたいと思いますのでお2人は待っててもらえますか?」
「ならこの辺をそれぞれで見てるよー。キルヴィ君にはどこにいてもわかるだろうしねー?」
それ以上は何も聞かず、2人は歩いていった。2人が離れてくれた後でふぅ、と一呼吸し意を決してそのおじさんへと話しかけてみた。
おじさんは最初、僕がこの村の人間でないことに警戒をしていた様子だったが、ツムジさんに以前もらった商会の紋章を見せるといつもの行商人の人の関係者か、ということでそこそこ信用を得たようだった。どうやらソヨカゼ商会のお得意様のようである。
心ここに在らずといった様子でしたが、何かあったのですか?と心配した様子で尋ねてみると、いいやとおじさんは首を振った。
「多分、何も起きていない筈なんだ。ただ、なんというかね」
そういって再び空を仰ぐ。家、私財、家族。そのいずれもを失っていないと確認したはずなのだが、何か大切なものをなくした気がするのだ、とそのおじさんは言う。
「自分で言うのもなんだが、この村では私は順風満帆な生き方をしてきた筈なんだ。何不自由ない生き方。それなのに最近こう、ぽっかりと何かを失ってしまったという感覚が強くてね」
つまりはこの人が自分の子が誘拐されたと言う事実を隠された人なのだろう。イブキさんのことと共に子を失ったことを忘れることができた様子だが、忘れすらも救いにもならないとは。
イブキさんの記憶についてのことが解決したとしても。この人に戻ってくるのは子を失ったという事実だけ。その子本人は戻ってこないのだ。
それは、なんと救いのない話だろうか。
なんともいえない気持ちになったので話を終える方向へと切り替えて進める。最後に商会の紋章を出した手前、何か要り用でしたらと尋ねてみたが、おじさんの家はとうに冬越えの支度も済ませてあるということだった。また春先にでもお願いするよと言われたので、今度ツムジさんに会う時に忘れないように伝えないと。
「ありがとう。誰かにこうやって話をしたことで少しだけ心のモヤモヤも晴れた気がするよ」
最後におじさんはそういって家の中へと戻っていった。この先に待ち受ける展開がどうであれ、心を強く持って欲しい。
こちらの用事が終わったので2人を迎えに行く。そろそろお昼にしてもいい時間だった。おそらく屋敷ではクロムかスズちゃんが料理を作って待ってくれていることだろう。なんとなく、今は皆に早く会いたい気分になったので帰りは転移で一瞬で帰ろう。
戻った先では寝ていたアンちゃん以外の皆がなんだか燃え尽きていたが、いったい何があったか知ることになるのはクロムの復活した少し後の話だった。




